一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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ズイのポケモンセンターで急に言われた。

 

「シンヤさん、ミミローくん貸してください」

 

にこりとジョーイに微笑まれて顔を顰めてしまったのは仕方ないことだろう。

 

「なんでだ」

「看護師の免許、取らせてあげようと思って」

「免許?ポケモンだぞアイツは」

「でも、人の姿で居る時に持ってた方が何かと便利でしょう?」

 

ズイのジョーイの言葉に私はううんと口篭る。

持ってて損は無いかもしれないが…。

ポケモンのミミロップが取得出来るのはジョーイ認定看護師の免許ってところだろう。

 

「お前が良いようにミミローを使いたいから免許を取らせようとしてるんだろ」

「その通りですが何か!」

 

開き直られた!

まあ、ジョーイの傍で本格的にポケモンの治療に携わるとなると免許は必要になってくるだろう。ラッキーも持ってるしな。

だがしかし…!

 

「うちのミミローはやらん!」

「優秀な人材を一人占めなんて許さないわ!」

「本音!本音しまえ!」

「良いじゃない!ここ最近、ズイにずっと居るみたいだし!」

「この辺をたまたまウロウロしてるだけだろ。ここは知り合いも多いしな」

「え、ご実家に居るんじゃないの?」

「ご実家ではない何処かに居る」

「あーらー?私に家を教えてくれないなんてシンヤさん、あらあらー?」

「近い近い近い!」

「その左目、抉るわよ」

「ハサミはやめろ」

 

ハサミ片手に笑顔のジョーイ。

コイツ、本当に数多のジョーイの中でもダントツにキチガイだ。おそろしい!

 

「シンヤさん、少し前から可笑しい。私に隠し事をしているでしょう!?」

「お前に逐一報告することなんてない」

「ひーだーりーめー、あーかーいー!」

「きーこーえーなーいー」

 

なんで言わないの!お前に言いたくない!と激しい口論になり怒ったラッキーに止められた。

 

「怒られたじゃないか」

「シンヤさんが悪いんですー」

「私は悪くない」

「仲良しな私に何も教えてくれないなんてシンヤさんの薄情者…!」

「仲、良し…?」

「なんですかその顔はー!」

 

もう、と本当に怒ってるらしいジョーイがそっぽを向いた。

これはさすがに本当に心配してくれていたらしい。長い付き合いで、これからも疎遠になることがないであろうジョーイにはちゃんと説明するべきだろうか。

嫌でも歳を取らない私を見て気付くことになるだろうが…。

 

「サナー」

 

どうしようかと、考え込んでいるとサーナイトがやって来た。名前を呼ばれたので振り返ればポケモンの姿のサーナイトがファイルを数冊抱えていた。

 

「サナサーナ」

「ああ」

 

ミミローさんに頼まれたのを持って来ましたわ、と笑うサーナイト。

ありがとう、とお礼を言った所でジョーイに腕を掴まれた。

 

「シンヤさんの所のサーナイトは人の姿にならないの?」

「いや、なるぞ?」

「私、見たことないですよ?」

「そうなのか?」

 

サーナイトの方を見ればサーナイトは口元を押さえてそのまま私から視線を逸らした。

人の姿で出歩くわりにジョーイには言ってなかったのか?

 

「サーナイトはミミロップと一緒に来るだろ?」

「来ますよ。でも、人の姿になってる所は見たことないです」

 

ミミローくんは話しかけてくれる時とか人の姿になってますけど、とジョーイの言葉に頷く。

 

「なんでだ?」

「サ、サナサナ~」

 

わざわざ教えることでもないですもの~と言って苦笑いを浮かべるサーナイト。

何か知られると不都合なことでもあるのだろうか…、まあ本人が知られたくないと思って行動しているならそれはそれで構わないが。

 

「サーナイトも人の姿になれるなら、看護師の免許を取っても良いんじゃないですか?ね!シンヤさん!」

「人手増やすな」

「優秀な人材が多すぎて悪いことなんて何も無い…!」

 

サーナイト、看護師の免許取らない?とジョーイに手を握られたサーナイトが困ったように私を見た。

 

「そこはもう自由にして良いぞ。嫌なら嫌で全く構わない」

「サナー…」

 

ううん、と悩み出したサーナイト。

何気なくポケモンセンターの出入り口に視線をやった私は中に入ってくるトゲキッスの姿を見つけた。

私に気付いたトゲキッスがひらひらと手を振る。

 

「ミミローさんがサナに持たせるの忘れたー!ってこの紙袋」

「ああ、本だな」

「公園に行くついでに持って来ました」

 

良い子良い子と頭を撫でてやればトゲキッスが笑った。可愛い。

紙袋をジョーイに渡せば、資料用の本ね。とジョーイが頷く。

 

「キッスくん、デートにでも行くのかしら~?」

「デート?俺は今日、草むしりするって聞いたから手伝いに行こうと思って」

「まあ、良い子…」

 

よしよしとジョーイにまで頭を撫でられてトゲキッスは少し恥ずかしそうにお礼を言っていた。

うちの子、凄く良い子だ…。

 

「たまに美人さん連れてるから今日もデートだと思ったのに、違ったのね」

「美人さんって誰だ」

 

私の言葉にジョーイがフフンと笑った。

 

「緑色の髪の美人さん!」

「ああ、サーナイトだろ」

「…」

「…」

「…え、サーナイトなの?」

 

ポカンと口を開けたジョーイ。

トゲキッスがサーナイトと一緒にいるのなんてよくあることだろう。

 

「だって、」

「サナー!」

 

サーナイトが走ってポケモンセンターを出て行った。

え、どうした?と私とトゲキッスがサーナイトの背を見送る。

 

「シンヤさんの所、女の子居ましたっけ?」

「いや、オスばっかりだ」

「サーナイトは?」

「オスだが?」

「…まあ」

 

ああ、普通だったらそういう反応があるのか。

知ってる人間がヤマトとかツバキにエンペラーだったりで…、微塵もサーナイトの性別を気にしてなかったから

 

「なるほど…」

「?」

 

*

 

「別に嫌なら嫌で構わないんだぞ」

「それはさっき聞きましたわ…」

 

家に一旦戻ってみれば何故か書庫に引き篭っていたサーナイト。

やはり他人の目というのが気になるのだろう…。

 

「ジョーイは気にしてないぞ」

「…嘘ですわ。だってジョーイさんワタクシのことを見て凄くびっくりしてましたもの…」

「びっくりしただけで、気にしてない」

「それって違うんですの…?」

 

全然違うだろ。

 

「むしろ、なんでお前がそんなに気にするんだ」

「ワタクシはいつだって気にしてますもの…。女の子に見えて他人の目を欺けるならそれで良いと思ってますわ…」

「じゃあ、良いじゃないか」

「でも、ジョーイさんはワタクシのことを知ってるんですもの!ラルトスの頃から!ワタクシの性別がオスだって!」

 

進化した後、人の姿になって会えなかったんですものー!タイミングがぁああ!と頭を抱えて喚くサーナイト。

 

「オスの癖に気持ち悪い!って思われたくなかった…!」

「…」

「もうポケモンセンターに行けませんわ…」

「いや、もう一回行ってみろ」

「嫌!」

「ジョーイなら大丈夫だから、それもズイのジョーイだぞ。アレだぞ?お前はジョーイがそんな一般的な思考を持ってると思ってるのか」

「…ジョーイさんに酷いですわね」

「アレだからな。大丈夫だ、扱き使われるくらいだから」

 

ほら、行くぞ。とサーナイトの手を引いてもサーナイトは口を尖らせて動こうとしない。

こいつめんどくさいな。

 

「嫌ですわ…」

「じゃあどうしたら良いんだ」

「シンヤは、ジョーイさんに言えますの?」

「何を」

「オスのミロカロスと恋人同士だって」

「…」

「ほらぁ!知られたくないでしょう!?」

「多分、お前が想像するジョーイの反応と私が想像してるジョーイの反応は違うと思うぞ」

「どう違うって言うんですの?男同士なんて気持ち悪い!って思われるか、よりにもよってミロカロスだなんて…ってドン引きされるかですわよ!」

「腹抱えて笑われると思う」

「………」

「泣くほど」

「……」

 

*

 

じゃあ、言ってみて。隠れて見てるから。それで本当にジョーイさんが気持ち悪いとかドン引きしなかったなら…、

ワタクシもジョーイさんと向き合いますわ。

と、言われて再びポケモンセンターへと戻ってきた私。

私を見つけたジョーイが駆け寄って来た。

 

「看護師の免許取るって言ってました!?」

「その前に聞いてほしいことがある」

「…はあ、なんですか?」

「私、ミロカロスと付き合ってるんだ」

 

ポカンと固まったジョーイが「え」と小さく声を漏らした。

 

「ミロカロスって…シンヤさんの手持ちの?ミロちゃん?」

「そう」

「付き合ってるって、恋人同士ですよね。え、男同士で」

「そう」

 

大きく口を開けたジョーイがそのままふらりと倒れたかと思うと、床に蹲った。

 

「ぶっ、ふふ、く、…ぷふっ…」

「…」

「ッ、ふふふ、いや、うん、お幸せに…ぶほぉッ!!アハハハハハハハ!!」

 

お腹痛い、お腹痛いと泣きながら笑うジョーイ。

やっぱりなぁ、と思いながら隠れて見ているサーナイトの方を振り返る。

 

「ほらな!絶対にこうなると思ってたんだ!」

「ステキですよ~。とっても、お・に・あ・い…。アハハハハハハ!」

 

なんて告白したの?ねえ、いつから?とニヤニヤして聞いてくるズイのジョーイを睨み付ける。

うるさい…。

 

「その反応も逆に失礼ですわ…」

「失礼な女なんだから仕方ないだろ、コレだぞ?」

 

コレと指差してもジョーイはケラケラと笑っていた。

俯きながら私とジョーイの前に出て来たサーナイト、その姿は人の姿だ。

 

「ジョーイさん…」

「あ、サーナイトね。なぁに?今、ちょっとお腹痛くて…ふふふっ」

「ワタクシ、看護師の免許取りたいですわ!」

「…え!本当!?」

 

やったぁ!と思わず声に出たらしいジョーイがサーナイトの手を握った。

 

「こんなワタクシでも平気…?」

「あそこの医者より全然平気よ!むしろアレが医者になれてるんだから!看護師なんて余裕よ余裕!」

 

あそこの医者とかアレとか言われてるのは…私か…。くそぅ。

 

「ジョーイさん大好きですわー!これからも色んなこと教えてくださいましー!」

「ビシバシ鍛えてあげるわ!任せてー!」

 

抱きしめあったサーナイトとジョーイ。

笑い者にされて、貶された私の意味ってなんだ。

 

「私、帰るからな!」

「シンヤ、ありがとうござますわ!」

「結婚式には呼んでね、ぷふふっ」

 

ジョーイめ…!

 

*

 

「主、おかえり…」

「シンヤ、どうした?」

 

家に帰るとサマヨールとミミロップとミュウツーが居た。

カバンを床に置いてソファに座る。

 

「ジョーイにからかわれて悔しい…!」

「珍しく負けて帰って来たの?」

「今度は何で喧嘩した」

 

ニヤニヤと笑うミュウツーにクッションを投げ付ける。

可哀想にとサマヨールだけは私を慰めてくれた。

 

「ああ、言っておかないと」

「何?」

「サーナイトが看護師の免許を取るそうだ」

「へー」

「ミミロップも取らないかってジョーイが言ってたが、どうする?」

「え、取ってもジョーイさんに扱き使われるだけでしょ。シンヤの手伝いすんのに後々必要になるかもって言うんだったら取るけど」

 

鬱陶しいしなぁ、と呟いたミミロップはジョーイの性格がサーナイトよりよく分かってるな。

 

「私は取りたい」

「「え」」

「何か条件でもあるのか」

「いや、人の姿にさえなれれば問題ないと思うが…」

 

ミュウツーの場合は特に、

むしろジョーイが両手をあげて更に大喜びするだろう。

じゃあ、私もポケモンセンターに行って来るとミュウツーが部屋を出て行く。

 

「ツーは、勉強熱心だな…」

「なんか敗北感…!ワタシもポケモンセンター行って来る!」

 

ミュウツーに続いてミミロップが部屋を飛び出して行った。ジョーイの思うツボかお前たちは。

あ、でもミュウツーに医師免許取らせて私は隠居暮らしっていう手もあるな。

すでに静かに暮らしてはいるけど。

 

「なあ、サマヨール」

「…?」

「やっぱりいい…」

 

首を傾げたサマヨールにニコリと笑みだけ返す。

隠居暮らし、なんて夢見ても…、

両親より先に隠居するわけにはいかないしなぁ…。

歳も取らなくなったうえに、ポケモンのオスと付き合ってて、親に孫の顔を見せてやることが叶わなくなってることを…、

なんて説明しよう。

ジョーイの腹を抱えて笑う姿は想像出来ても、両親の反応は想像出来ない。

 

「……」

「コーヒーを淹れて来ようか…?」

「頼む」

 

*

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