一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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公園の草むしりをしている途中、ポケモンの姿でとことこと歩くツキさんとポチちゃんを見かけた。

悪タイプ同士で仲良しだなぁと二人を見送って草むしりを再開する。

 

「キッス!大変だ!ばあちゃんが腰痛いって!」

「ええぇー!?」

 

*

 

腰痛を訴える人が続出したけど草むしりはなんとか終わった。

ごくごくと一気にジュースを飲み干したミロさんが「あ」と声を漏らす。

 

「ツキだ」

 

ミロさんがオーイとツキさんに声を掛けるとツキさんが走ってこちらへとやって来る。

その勢いのまま一瞬で人の姿になって俺に飛びついてきた。それくらいの衝撃じゃ倒れません。

 

「半分!いや、一口!」

「全部、あげますよ」

「キッス優しい…!」

 

俺が持っていたジュースをそのままツキさんにあげると喉が渇いていたのかツキさんはゴクゴクと一気にジュースを飲み干した。

お腹壊しちゃいますよ?

 

「ツキさん、ポチちゃんと一緒じゃなかったんですか?」

「え?ああ、一緒だったよ。モモちゃんのとこまで一緒に行っただけだからさ」

 

送ってあげたの、と笑うツキさんにそうですかと頷いて返す。

女性を送り届けてあげるなんてツキさんはやっぱり優しいなぁ。

 

「なあ、タモツのトレーナー知ってるか?」

「ん?あの男だろ」

 

あの男、と言われても俺はピンと来なかったけれどミロさんには思い当たる人物が居たらしい。

リンっていうんだけどさー、とツキさんが話を続ける。

 

「モモちゃんと結婚するってよ」

「「……え!?」」

「びっくりだろ!あの二人はくっつくな、と思ってたけどまさかの結婚!」

 

幸せな方達が増えて良かったですね、と俺が言えばツキさんは苦笑いを浮かべた。

 

「そこまで親しくないけど、知ってる人間が結婚するってなるとなぁ…なんかなぁ。シンヤの周りで結婚したって人間、意外と居なかったし」

「結婚式は俺大好きですよ。祝福に包まれて心地いいです」

「そりゃお前はな…」

 

結婚式とかオレには無縁だー、とベンチに座ったツキさんが呟いた。

 

「結婚式かー、俺様もしたいなー」

 

きらきらと目を輝かせたミロさん。

ツキさんが苦笑いを浮かべながら「お前なら似合うよ」と言えばミロさんは嬉しそうに笑った。

 

「シンヤに言ってみれば?正装してさ、写真撮るくらいやってくれるだろ」

「ホント!?」

「俺様、生きてる今のうちにシンヤに一番綺麗な姿見てもらいたい!って言って来い。イケる!」

「ホントォ!?」

 

覚えきれないからもう一回言って、とミロさんに真面目に言われてツキさんがゆっくりともう一度復唱した。

よっしゃ言ってくるー!とミロさんが気合を入れて走って行ってしまった。元気だなぁ。

 

「ミロちゃんのドレス姿、綺麗だろうなー」

「ですねぇ」

「フィーにも着てもらおっかなぁ」

 

絶対に似合うよな、と笑ったツキさんに頷いて返す。

 

「フィーさんも似合うでしょうね」

「なー」

「ツキさんも似合うと思いますよ?」

「黒でビシッと決めたら、そりゃオレは男前さ!」

 

グレーも捨て難い。と笑ったツキさん。

 

「スーツの方ですか?俺はドレスの方で言ったんですけど…」

「…オレがぁ?」

「だって、ああいうのフィーさんも好きですけどツキさんも好きでしょう?」

「いや、まあ、好きっちゃ好きだけど…」

 

あとサナさんもヒラヒラしたの好きだよなぁと思いつつツキさんを見るとなんだか不満気だった。

 

「オレ、そんな女顔じゃないから似合わねぇよ」

「…」

「だろ?」

「そうですかねぇ。でも、ツキさんはそう思ってるから…"いつも"フィーさんに着せるんですね。可愛い服着ろよーってよく言ってますもんね」

「…いや、フィーが似合うから着せたいだけで…」

「?」

 

何故か黙り込んでしまったツキさん。

俺、何か変なこと言いました?

 

「オレ、自分の着たい服をやっぱフィーに着せてたのかな…」

「え?」

「や、別に」

 

よく聞き取れなかった。

別に、と言ってしまってからツキさんは表情を暗くして黙り込んでしまった。やっぱり俺が何か変なことを言ってしまったのだろうか。

 

「なあ、キッス」

「なんですか?」

「オレとフィーって双子に見える?」

「はい、勿論!」

「めちゃくちゃ正反対で全く似てないけど、やっぱ見える!?」

「そんなに似てないってことはないと思いますけど…」

「同じ所なんて一個もねぇじゃん」

「…、俺から見てですけど」

「うん」

「正反対なのに凄く似てます!」

「…は?」

「なんででしょうねぇ、雰囲気?」

「えー…」

「あ、でも細かく言うと綺麗な物が好きな所とか、好きで読んでる雑誌も同じでよく同じ雑誌買って来てますよね」

 

俺、二冊あるのよく見ますよ。と笑えばツキさんは困ったように笑った。

 

「あと言い方は違いますけど何でもズバズバ言っちゃう所とかそっくりです!」

「あははっ、確かに!オレ、馬鹿だからつい言っちゃうんだよな~」

「ツキさんは馬鹿じゃないですよ!人を見て相手を知るのがとっても得意です。だから、お友達がたくさん出来るんですよ。馬鹿だったら心無い言葉で人を傷付けてしまいますし、相手にだって伝わりません!」

「…そ、そうかぁ?」

「ツキさんは優しいです、だからミロさんはいつもツキさんに相談するんじゃないですか」

「…」

 

何でも知ってて情報通ですしねーと俺が言えばツキさんは深く溜息を吐いた。

あれ、褒めたつもりだったのに…!?

 

「オレ、優しくないんだよー!全然優しくない!自分大好き!自分大事!ミロの事とか何回も騙そうとしてっ……」

 

はあ、とツキさんがまた大きく溜息を吐いた。

 

「失敗してんだぁ」

「そ、そうなんですか…?」

「オレ、悪タイプだから悪い奴なんだよ」

「じゃあ、全世界の悪タイプみんな悪い奴になっちゃいますよ」

「そっか、そうだなぁ…。じゃあオレだけ悪い悪タイプってことで」

「そんなに悪い事したんですか?ちゃんとごめんなさい出来たら大丈夫ですよ?」

「ちゃんと、ごめんなさいかぁ…」

「はい!」

「…この前、酔っ払ってチューしてごめんなぁ」

「ふふ、気にしてませんよ」

 

キッス良い奴だなー、さすがシンヤ自慢の子だなーと言ってツキさんに頭を撫でられた。

今日のツキさんは何だか珍しく落ち込んでいたみたいなので俺もツキさんの頭を撫でてあげた。

きっと俺と同じように心がふんわりと温かくなるだろう。

 

「……、」

 

そう思ったけれど、

ツキさんはちょっぴり悲しい顔をした。

俺はやっぱりツキさんみたいに相手の気持ちを上手く察してあげられないなぁ。

 

帰ろっか、と呟いたツキさんに頷いて返す。

また買い物して帰ったらシンヤに買いすぎだって怒られるかな、と笑ったツキさんにそういえばツキさんのおやつ無くなってましたよね、と笑顔で返す。

ツキさんは凄くびっくりした顔をしていた。

 

「誰が食べたの!?」

「さぁー?」

 

オレのおやつ…!と頭を抱えたツキさん。

大袈裟だなぁとそんなツキさんを眺めていたら走るミミローさんを見つけた。ポケモンセンターに駆け込んだミミローさん。

何か大変なことでもあったのかな…。

 

「今の見ました?」

「オレの期間限定…、え?なんか言った?」

「ミミローさんがポケモンセンターに駆け込んだんですけど…」

 

マジで、見に行こうぜとツキさんが走って行ったので俺も慌てて追いかけた。

ポケモンセンターに入ればツーさんとミミローさんがジョーイさんと何かお話をしている様子。

 

「ツー、なにしてんの?」

「ツキか。私は自分自身の能力向上を図ることにした」

「すでにハイスペックなのに?」

 

嫌味かよ。とツキさんは顔を歪める。

ツーさんは本当に勉強熱心だ。毎日、たくさんの本を読んでるし、お医者様の仕事にも興味があるみたいだし。凄いなぁ。

 

「ジョーイさんが看護師の免許取らせてくれるっていうから来たんだよ」

「走って?」

「ツーに出遅れるのが悔しいから走った」

「ミミローちゃん、可愛いなオイ」

「黙れ」

 

ミミローさんがツキさんの胸ぐらを掴み上げた。ツキさんがケラケラ笑ってるから…大丈夫なのかな…。止めなくて平気かな…。

 

「あ、キッスさんにツッキーさん」

「おー、サナじゃーん。お前も免許取るの?」

「ええ!ジョーイさんの立派な助手になりますの!」

「ナース服、着たいから?」

「……それも、まあ…」

 

おほほ、とサナさんが誤魔化すように笑った。

三人ともちゃんとした目標を持って偉いなぁ。俺もシンヤに役に立てるような技術を身に付けたい、とは思うけど…。

俺には何が出来るだろう…。

 

「自分から勉強したい!とか、なんか考えがマゾヒストだよな」

「え!?」

「オレ、無理だわ~。勉強苦手~」

 

キッス、買い物して帰ろうぜ。と腕を引かれたのでそのままツキさんに連れられて歩く。

またシンヤに怒られますわよ~とサナさんが困ったように笑った。

 

「三人とも、頑張ってください」

「頑張りますわ~」

 

片手をあげてくれたツーさんとミミローさんに手を振って俺とツキさんはポケモンセンターを出た。

 

「スーパー行こうぜ!」

「俺、今日はお金持って来てませんよ?」

「えぇー!?持ってると思ったのに!」

「今日は草むしりするだけの予定でしたから…」

「財布、取りに帰るかぁ…」

 

しょんぼりしてしまったツキさんと反転世界へと戻れば、ギラティナさんがおかえりと出迎えてくれた。

 

「ギラティナ、あとでスーパーまで直行する出入り口繋げてくれ!」

「ちょっとくらい歩けよ、めんどくさい!」

「ちょっとくらい歩くのめんどくさい!」

 

け、喧嘩しないで…!

 

「じゃんけんで決めようぜ」

「なんでじゃんけんだよ、良いけどよ」

「さーいしょーは、」

「「グー!」」

 

あいこでしょ、とあいこを続けるギラティナさんとツキさんの目は真剣だ。

ドキドキと結果を見守っているとチルがこちらへと歩いて来るのが見えた。

 

「わー、何をなさってるんですか?」

「うーん…、スーパーまで直行になるかスーパーまで少し歩くかの…じゃんけん?」

「……え?」

 

ポカンと口を開けたチルが固まった。

 

「っしゃー!!!」

 

拳を突き上げたのはツキさんだった。どうやらじゃんけんに勝ったらしい。

 

「勝ったー!」

「ま、負けた…!」

 

悔しいとギラティナさんが頭を抱える。

そんなに…!?とは思ったけれどやっぱり人それぞれだし、凄く悔しいのだろう…。可哀想に…。

 

「チル、ツキさんのお菓子を食べてしまったので同じのを買いなおして来ました」

「え?」

 

やっぱり悪いなぁと思いまして、とチルがスーパーの袋を広げて見せる。

ツキさんはその袋を受け取って中身を確認してからうんうんと頷いた。

 

「スーパー行くのもういいや!お菓子あるし!」

「おおい!今のじゃんけんの意味はっ!?」

「この期間限定、美味かった?」

「美味しかったです!」

「やっぱなー!」

「どれ?オレにも寄越せ」

 

バリ、とツキさんがお菓子の袋を開ける。

あああ…、また間食しちゃって…。まあ、ツキさんの場合は晩ご飯も全然食べてくれるけど…。シンヤにまた怒られちゃいますよー…。

 

「マスタードマヨ!」

「マヨくっせぇ!」

「マヨ良いじゃん。……あ、ちょいマスタード!美味い!」

「………美味っ、癖になるこれ!」

「チルは先に戻りますー」

「あ、じゃあ俺も帰りますね」

「食わねぇの?」

「晩ご飯食べれなくなっちゃいますもん」

「まだまだ晩飯まで時間あるから消化出来るのに…」

 

おやつ食べろよー、と頬を膨らませるツキさん。ツキさんはおやつ以外も食べてるくせに。

 

「なあ、こっちのチーズ開けて良い?」

「良いよー」

「…っ、チーズくっせぇ!」

「においキツイの大体美味くね?」

「あ、分かる」

 

先戻りますからねー、と一声掛けて俺はチルと家の方へと足を進めた。

 

「ツキさんあんまり間食するとご主人様に怒られるんじゃないですか?」

「うん、そうなんだけど…。今日は見なかったことにしよう」

「分かりましたー」

 

だって、ツキさん元気なさそうだったし。

今はギラティナさんと一緒にお菓子を食べて元気そうだから…。ツキさんの元気の源は誰かと楽しみを共有することなんだろう。

 

「いつも元気でいてほしいからね」

「チルは元気です!」

「ふふ、そうだね」

 

*

 

ブラッキーとトゲキッスが戻る前、ミロカロスは家まで一直線に走る。

その勢いのまま玄関を開け、リビングの扉を開けた。

バーン、と大きな音がした。

 

「…」

「…」

 

サマヨールがシンヤにコーヒーを手渡す。

そのコーヒーを受け取ったシンヤは黙ったままコーヒーを啜った。

 

「シンヤ!聞いて!」

「ん?ちょっと熱いぞこれ」

「…!?や、火傷してしまったか…?」

「んー、そこまでじゃない」

「主に不快な思いをさせてしまった…」

「いや、そこまでじゃない!」

 

なんかごめんな、とシンヤがサマヨールに謝ればサマヨールは首を横に振った。

 

「自分は主の為にバリスタの資格を取ろう…!」

「そこまでか!?そこまで!?」

「二度とこんな失敗は…!」

「ちょっと熱いくらいが美味いから十分だぞ!?」

 

余計なこと言ってごめんな、とシンヤがサマヨールに謝ればサマヨールは首を横に振った。

 

「俺様の話、聞いてぇえええええ!」

「…あ、ああ…なんだ?」

「(バリスタの資格はどうやって取るのだろうか…?)」

 

うーん、と悩みだしたサマヨールを横目に見つつシンヤはミロカロスに返事を返す。

 

「あのな、俺様。結婚式したい!」

「お前、籍が無いから無理だ」

「…!?違うっ、ドレス着たい!」

「ウエディングドレスを?」

「うん、俺様…えっと、生きてる今のうちにシンヤに一番綺麗な姿見てもらいたい!」

「でも、お前ポケモンの時の姿が一番綺麗だぞ?」」

「え、そう?」

「世界一美しいポケモンだろう?」

「うん、まあ、そうだけど」

「いつも一番綺麗だぞ」

「はぁあああああ!!!」

 

幸せっ!とミロカロスが頬を真っ赤にして喜んだ。

その姿を見て、サマヨールがシンヤの肩にそっと手を置いた。

 

「主…、差し出がましいことを言ってしまうが…、そこはめんどくさがってやっては可哀想だと…」

「良い感じに誤魔化せたと思ったのに…」

 

女でも無いのに何でドレス?とシンヤは眉間に皺を寄せる。

 

「手間だが、仕方ないな…。写真くらい撮らせてやるか…」

「主、せっかくなら家族写真にしてみてはどうだろうか…?」

「…家族写真?」

「紹介、するのだろう…?」

 

ああ、とサマヨールの言葉にシンヤは頷いた。

 

「良いなそれ」

「きっと、喜ばれる…」

 

*

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