ノリコの事を思い出して慌てて家に帰ればノリコが目を輝かせて私を見つめて来た。
え、なんだ、こわい。
「お兄ちゃん…!何でも出来るって思ってたけど本当になんっでも!出来るんだね!」
さすがだね!カズくんに言って良い!?と興奮するノリコをとりあえず椅子に座らせる。
落ち着け、妹よ。
「しかもさっきのヤクザっぽいお兄さんギラティナって本当なの!?ポケモンが人の姿になってるって時点でのん的には夢のよう!素敵!」
「ノリコ、落ち着け…」
「のんのポケモン達も人の姿になれたりしないのかなぁ!そしたらコンテストだって一緒に相談しながら出来るのに!あ、お兄ちゃんの強さの秘密ってやっぱこれ!?お兄ちゃんのポケモン達って人の姿になるの!?」
「ノリコ、あのな」
「ツバキはこの事とか知ってるの!?あーもー!なんでのんにもすぐ教えてくれないかなぁ!あ、でもカズくんは知らないからのんの方が先だよね!やった!」
「ノリ、」
「アラモスタウンで見た、ディアルガとパルキアも本当に知り合いなんでしょ!?これ聞いたらツバキ、すっごいびっくりするよ!自慢したーい!」
黙れ、とエーフィがノリコの頭を掴んだ。
「ひぃぃぃい!すすすすすすすみませんんん!」
ぷるぷると震えながらエーフィを見上げるノリコを見て溜息を吐く。
そうか、お前そういう反応か…。お兄ちゃんには一言も説明させてくれない勢いで大興奮だな。
「ノリコ、この事については前にも言った通り家族が揃った時にツバキ達も混じえて説明しようと思ってたんだ」
「ああ、目が赤いことの話でしょ?」
「その目について説明するとなると芋づる式にだな、根本的な事の説明からしないといけなくて…」
「お兄ちゃんがギラティナ達と友達で反転世界に住んでる、っていうのと他に?」
「そう」
「まだお兄ちゃんに秘密があると」
「そう」
「今度会わせてくれるって言ってた恋人のミロさんが男の人だってこと以外に」
「そう…、ってなんでもうバレてるんだ!」
「俺様、言っちゃったぁ…」
ごめんね、とミロカロスがしょんぼりした。
ああ、いや、別に…バレると思ってたからそれは別に…、なんか怒鳴ってごめんな…。
「ここまで美人なら男の人でものんは仕方ないと思う。孫はのんが産むから任せて!」
「頼もしい言葉をありがとう、妹よ…」
「愛があれば性別なんて関係無いよ!のんはお兄ちゃんの味方だからね!」
「ありがとう、ついでに言ってしまうとミロはオスでポケモンだから種族も違ってたりする」
「………、お兄ちゃんのミロカロスかぁああああああ!」
「やっほー」
そりゃ美人なわけだあああああ!と大混乱のノリコが叫んだ。
…、本当にすまん。
*
「ま、まあ、びっくりしたけど、人の姿になれるんだから恋愛したってね。のんは良いと思うよ!」
「他にも言うべきことはまだあるんだけどな」
「まだあるの!?」
もう脳みそが限界だよ!とノリコが頭を抱えた。
「気持ちは凄く分かるよ…」
「ヤマトさん何処まで知ってるの!?」
「え、僕は一応、全部聞いたかな?」
「ああ、お前には全部言ってるな」
「ツバキは!?」
「ツバキは私とミロの関係は知ってる、ポケモンが人の姿になるのも知ってる。あとズイのジョーイも知ってる」
「あー、人の姿になることは専門の人が知ってるのね。ジョーイさんも知ってるのかー…、お兄ちゃん本当にジョーイさんと仲良いよね」
「仲良くない」
泣くほど笑われたからまだ悔しい。
うーん、と考え込んだノリコは腕を組んで眉間に皺を寄せた。
「他の秘密は、ヤマトさんしか知らないんだ」
「そうだな」
「じゃあ、のんもみんなと一緒に聞こうかな…聞いちゃいたいけど、お兄ちゃんまた今度ちゃんと話してくれるって言ってたし」
「ノリコ…」
「うん、また今度で良い!でも一個だけ確認して良い?」
「なんだ?」
「ミロさんがミロカロスなら、もしかして…キッスさんとかフィーさんとかさ…」
「ああ、私の手持ちだ」
「フィーさんって…フィーさんって…!名前から察するに…」
「私のエーフィだな」
「ひぃいいいいいい!昔から散々、追い掛け回していたエーフィぃいい!?やばい!どおりでのんに対して当たりキツイわけだ!完全に嫌われてる!」
エーフィの方を振り返ったノリコ。
そのノリコと目が合ったのかエーフィはにっこりと笑った。
「ご察しの通り、虫唾が走ります」
「超笑顔で言われたぁああああああ!うわぁぁああん!まだ諦めてないからぁあああ!」
一緒にコンテストに出たいよぉぉぉ、と泣くノリコの背をヤマトが撫でた。
「お兄ちゃん、エーフィ頂戴…!」
「頑張って口説き落とせ」
「フィーさん!のんと一緒に頂点目指しましょう!」
「黙れ、底辺」
「うわああああ!素敵笑顔だぁあああああ!」
お待たせ致しましたー、お茶ですーとチルタリスがのほほんとテーブルにお茶を置いた。
エーフィの足元で泣き崩れる私の妹は大丈夫だろうか…、兄は心配だ。色んな意味で。
「なんでも、なんでもしますから…!」
「へえ、なんでも…」
「あ、やっぱ無し。今の無しで」
「往生際が悪いですね」
「ある程度しますからー!」
「うざい」
「まあ、こっちは無事解決ってことで」
ね、とブラッキーに同意を求められたので小さく頷いて返す。
「で、ツーとギラティナは外に置いて来たまま?大丈夫なわけ?」
「ツーには拳骨をくれてやった。ギラティナはもう特に怒ってない」
「あははっ!やっぱシンヤが叱るのが一番だよなー。スッキリするもん!」
そういうものだろうか。
ずずず、とお茶をすすれば向かいに座っていたノリコがまじまじとブラッキーを見つめている。
「ん?なぁーに?」
「ツキさんもポケモン?」
「そうだよー、なんだと思うー?当ててみてー」
「えーっと、えーっと、お兄ちゃんのポケモンでツキって付く名前のポケモン居たっけ…!」
「ヒントは黒いよ!」
「黒…、あ、ブラッキー!」
「ピーンポーン!当たりー、チョコレートあげちゃう!」
「やったぁ!」
もぐもぐとチョコレートを食べたノリコとブラッキーがにこにこと微笑み合う。
本当にお前は女の子の扱いが上手だな。ブラッキー…。
「キッスさんがトゲキッスでしょ、それでチルさんがチルタリスだね!ヨルさんがサマヨール!ね!」
「そうそう、当たりー」
「わー、こうして聞いたらなんか特徴があって何となく分かるかもー。不思議ー」
のんもレントラーとお喋りとかしてみたいなぁと笑うノリコを見てブラッキーがくすくすと目を細めて笑った。
「ヤマトさんのユキワラシも人の姿になる?」
「んーん、ならないよ」
「どういう理由でなるのかな…」
「さあねぇ…。あ、そうだ、僕のユキワラシが女の子だって知ってた?」
「え?うん、知ってるけど?」
「そ、そっか…」
知ってた…!と自分の顔を両手で隠したヤマトを見てミロカロスがケラケラと笑う。
知らなかったのお前くらいだろ。むしろ、お前が知らなかった事実をこっちが知らなかった。
「ミロさん、お兄ちゃんの何処が好きー?」
「全部!」
「顔?」
「も!」
「うーん、なつき度マックスのポケモンって感じの反応…」
ケラケラとミロカロスとブラッキーが笑った。
意外と仲良くやってるなぁ、エーフィ以外…と思いつつちらりとエーフィに視線をやる。ミロカロスとブラッキーと共に会話を弾ませるノリコを不満げな顔で見ていた。すぐ顔に出るな。
「ただいまー」
「シンヤ、ノリコちゃん大丈夫でしたの?」
ポケモンセンターから帰ってきたミミロップとサーナイト。
ジョーイさんにすげぇしつこく聞かれた。とミミロップから報告があったのでそれでどうした?と聞けばシンヤに全部聞いてと私に押し付ける形で帰って来たらしい。めんどくさい。
「反転世界の事とかギラティナの許可無しでべらべら喋りたくねぇもん」
「お前は賢いな」
「ギラティナ、ブチ切れるって分かってるしー」
ミュウツーはブチ切れさせたけどな…。
「ギラティナさんもっと怒ると思ってましたけど、ツーさんと仲良く外でお喋りしてましたわ~」
「ああ、それ、シンヤがツーに拳骨したからだぜー」
超切れてたよ、とブラッキーの言葉にやっぱりなとミミロップが返事を返した。
「シンヤが一番効果バツグンですものね!さすがですわ!」
なにが?
「え、ミミローさんもポケモン…!?」
ガタンと立ち上がったノリコを見てミミロップがチラリと私の方を見た。
こく、と頷いてやればミミロップはノリコの方を見て「そうだよ」と無愛想に返事をする。
「ええええええ!だって、ジョーイさんとお仕事…、あ!ミミロップか!ミミローップ!」
「ワタクシ、サーナイトですわよ~」
「サーナイト!やっぱり超綺麗!」
「ノリコちゃん、素直で好きですわ!」
サーナイトがノリコの頭を撫でる。
うるせーうるせー、とミミロップが耳を押さえながら怒っている。
「ノリコちゃんそろそろ帰らないとお母さんに言ってないから心配するんじゃない?」
「あ、ホントだ!公園で特訓してくるって言ったっきりだ!」
えらいこっちゃ、と慌ててカバンを持って立ち上がったノリコを見てブラッキーが立ち上がる。
「オレ、家まで送ってくよ。もう暗くなりかけてるし」
「え」
「あ、しまった。僕、こういうことさらっと出来ないからモテないってあれだけ言われたのに…!」
「おバカさーん」
「うう、おバカさんですぅぅ…」
やーい、とブラッキーにからかわれてヤマトが半泣きになっている。お前達の関係が私は今もよく分からない。
「えーっと、大丈夫ですって言いたいけど帰り方が分からないからお願いしたいです」
「だよね、行こっか」
玄関に行こうとしたブラッキーをエーフィが引き止める。
ここは兄である私が送ってやるところだろうか。というか、一人で帰れるだろう、と本気で思っていたのだが。
「ツキ、ここは私が」
「え!?」
「今回の事は私の責任でもありますし」
「やったぁ!フィーさん!のんと一緒に来てくれる気になったんですね!」
「シンヤさんのご実家に捨てて来ます、アレ」
「不法投棄は良くねぇよ…フィー…」
「そこじゃなくない!?アレ扱いだけど、血の繋がった妹だよ!?お兄ちゃんに泣きつくよ!?」
「じゃ、行って来ますね。シンヤさん」
「あ、ああ…」
「無視された!」
お兄ちゃぁぁん…、またねぇぇぇ…と情けない声を出しながらノリコが部屋を出て行った。
「マジで捨てて来ないと良いけど…」
「冗談だろう?」
「だと良いけどさ…」
「不安になること言うな…」
「「………」」
エーフィは言ったらやりそうな気がする。
兄として色々と不安だ。
*
きょろきょろと反転世界の様子を見ながらノリコはエーフィの背を追いかける。
家が逆さまだ、と思った時に前を歩いていたエーフィが声を発した。
「ギラティナ、シンヤさんのご実家へ繋げて下さい」
「おー、帰るのか」
「ギラティナさん、お邪魔しました!また遊びに来させて下さい!」
「…んー、まあ、シンヤの妹だからな。良いよ」
「結局、良いんじゃないか…」
じと、とミュウツーに見られてギラティナがぷいとそっぽを向いた。
前に家に来た真っ白な人、この人もポケモンなんだろうとミュウツーを見つめるノリコ。
「…なんだ」
「えっと、何のポケモンなのかなぁって…」
「私はミュウツーだ」
「ミュッ…!?」
ギラティナとミュウツーが並んで座ってる!なにこれ凄い貴重!とノリコはその場で口元を押さえてエーフィの方へと視線をやった。
「大物が…!」
「シンヤさんの方が大物ですよ」
「ここでもそういう反応なんですね!お兄ちゃん大好きなんですね!」
「ええ、大好きです」
ぽ、と少し頬を染めて照れくさそうに言ったエーフィを見てノリコは苦笑いを浮かべる。
「オレもー大好きー♪」
「私もっ好き~♪」
「おお、なかなかノリが良くなって来たな、ツー」
「そうだろう、今のはなかなかだっただろう」
仲良しか、とエーフィとノリコは思った。
エーフィが小さく溜息を吐いて呆れたように腰に手を当てて座るギラティナを見下ろした。
「繋げてください」
「はーいはいはい」
「返事は一回で良い」
「シンヤの真似はやめろって~」
「眉間に皺を寄せるのを忘れた」
「ハハハハッ!」
「仲良しもいい加減にしてください!どんどん暗くなるじゃないですか!」
「あぁ…ごめんって」
「コワイヨー」
そのカタコト、何処で覚えて来たんだよ。とぼそりとギラティナが呟きつつ重い腰を上げた。
「はいよ、足元にお気を付けて~」
「帰りも繋げてくださいよ、私は帰って来るんですからね」
「ちゃんと見てるよ」
「じゃあな、シンヤの妹」
ひらひらとミュウツーに手を振られてノリコは笑顔で手を振り返した。
反転世界を出れば外は薄暗くなり始めている。
「あ、家の近くですねここ」
「ええ」
「家のすぐ傍は駄目なんですか?その方がお兄ちゃんも帰って来やすいのに…」
「近すぎるとバレるじゃないですか」
「ああ、それもそうですね」
何処からか急に現れる兄を思い浮かべてノリコはくすと笑った。
「…」
「…」
自分から話を振らないと会話が終了する…。気まずい雰囲気にノリコは口を尖らせた。
無言で少し前を歩くエーフィの姿をちらりと見てから、ノリコはエーフィに声を掛けた。
「フィーさん」
「はい」
「コンテスト、一緒に出ましょう」
「嫌です」
「本気で考えてといてください!絶対に、絶対にお兄ちゃんにも負けないコーディネーターになりますから!」
「私を誘う必要なんて無いですよね、エーフィが欲しいのでしたらイーブイをもう一匹育てれば良いじゃないですか」
「いや、…フィーさんが良いんです」
「経験もあって、一から教え育てなくて良いからですか」
「違います!フィーさんが…、お兄ちゃんのエーフィがコンテスト大好きだって知ってるから!」
「…」
「お兄ちゃんはもうコーディネーターとしてあの舞台に立たないと思う、だから…のんと一緒に…」
「着きましたよ」
は、と顔を上げれば見慣れた家。
ああ、もう着いちゃったかとノリコは小さく溜息を吐いた。
「ありがとうございました…」
「どういたしまして、それでは」
踵を返して歩いていくエーフィ。
その背にノリコは大きな声で呼び掛けた。
「フィーさん!のんは諦めませんよー!」
「…」
*
反転世界に戻ってきたエーフィは深く溜息を吐いた。
出迎えたギラティナが困ったように笑う。
「口説かれてたなぁ」
「しつこいんですよ、昔から」
顔を歪めたエーフィを見てギラティナは何も言わずエーフィの背を見送った。
まあ、不機嫌だわー…。
「コンテストってなんだ」
「魅せる演技とバトルをする大会だよ」
「そんなに面白いものか?」
「好きな奴は好きなんだろ」
ふぅん、と頷いたミュウツー。
「アイツらの行ける世界って広いよなぁ…」
「…は?」
「色んなこと出来るじゃん、オレと違って」
「お前もすれば良い」
「いや、無理だろ」
「そうだろうか?」
「そうだろうよ」
あの小さな球体の中に入って、一緒に外に出たいなぁと思ったことは一度だけあったけど叶わなかったなぁとギラティナはぼんやりと思った。
むしろ、小さな世界に閉じ込めたのはオレ達の方か…。
「コンテスト、一度経験してみたいな」
「やめとけ…、悪目立ちするだけだから」
「そうか」
*