一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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ノリコが反転世界へ来てしまった日から数日が経った。

サーナイト達の勉強に付き合い、ブラッキーとエーフィが雑誌片手に仲良く買い物に行く姿を見送った。あとトゲキッスの知り合いにカフェで働く奴が居るとかでチルタリスとサマヨールが修行に行った。美味しいコーヒーを淹れてくれるらしい。

サーナイトとミミロップがポケモンセンターに行って、ブラッキーとエーフィが出掛けていて、トゲキッスとチルタリスとサマヨールがカフェに修行に行っていると……。

 

「……うーん、」

 

ずきずき、と頭が痛む。読みかけの本を閉じて顔を上げた。疲れているのだろうか。

せっかくこんなに静かなんだから本をすべて読んでしまいたかったのに。

そういえばミロカロスの奴も居ない、出掛けたのか、と思った時にリビングの扉がバンと大きな音を立てて開いた。

 

「シンヤ!ギラティナがドンパチしてくるって!」

「意味が分からん」

「帰って来たらギラティナが外に出て行った」

「アイツが外出なんて珍しいな」

「ドンパチしに行った」

 

ドンパチってなんだ。

何処に行ってたんだ、と聞けばミロカロスはエコバックをテーブルの上に置いた。

 

「チルに頼まれた買い物、夕方には帰るって言ってたよ」

「そうか、ご苦労様」

 

これ冷蔵庫入れてくるね~とミロカロスがエコバック片手にキッチンへ行った。

ずきずき…、鈍い痛みに額を抑える。

 

『―――、』

「ん?ミロカロスー、今なにか言ったかー?」

「えー?何ー?コーヒー淹れるのー?」

 

あれ、と首を傾げる。

キッチンから顔を覗かせたミロカロスがどうする?と聞いてきたので「じゃあ要る」と返事を返す。

何か聞こえた気がしたが気のせいだろうか…。

 

「はーい、お待たせ。インスタントです」

「コーヒーメーカーの使い方覚えろ」

「えへへ」

 

良いけどな、とコーヒーを飲もうとしたら熱湯で飲めなかった。

 

「あっつ!」

「あ、ごめん」

 

*

 

「えー、全然上手じゃんキミ達ー!」

「あ、ありがとうございます!」

 

トゲキッスの知り合いが働くカフェへとやって来ていたチルタリスとサマヨールはカフェのマスターから美味しいコーヒーの淹れ方を教わっていた。

 

「いや…主に飲んでもらうには、まだまだ…」

「キミ達、どんだけご主人好きなのよ」

 

アハハ!と笑うマスターを見てトゲキッスがくすくすと笑った。

 

「キッスくん、紅茶でもいかがです?」

「ありがとうございます!」

 

はい、どうぞとトゲキッスに紅茶を手渡した男がトゲキッスの向かいの席に座った。

長い足を組んで座った男は今この店内で一番年上、目元に少しの皺をつくってトゲキッスに微笑んだ。

 

「いえいえ、それにしてもご主人の為に美味しいコーヒーを、なんて言って教わりに来るポケモンが居るとは思いもしませんでしたよ」

「みんな、色んな所で役に立とうって頑張ってるところなんです!ジョットさんがこのお店を紹介してくれて助かりました!」

「ここのコーヒーは美味しいですからご主人も気に入って下さいますよ。私、マスターの腕だけは認めてるんです」

「ちょっとー?腕、だけってなんだい?だけってー」

 

そのままの意味です、と返したジョットと呼ばれた男はマスターににこりと微笑んでみせる。

 

「生意気なピジョットくんだよ全く」

「マスターさん!後でケーキの作り方も教えて下さい!」

「チルくん天使ー!この子可愛いー!同じ飛行タイプなのにこの差はなんだろうねー!可愛いなー!」

 

チルタリスの頭を撫でて、黙々とコーヒーを淹れるサマヨールの頭も撫でたマスターはにこりと笑う。

 

「よーし、ちょっと休憩しよっか!」

「はい」

「…はい」

 

トゲキッスの知り合いであるジョットは小さいながらも美味しいお茶とお菓子を出すカフェのマスターに弟子入りした元野生のピジョットである。

美味しいコーヒーの淹れ方を勉強したいポケモンが居る、とトゲキッスから聞いたピジョットがマスターを紹介する形になり今に至った。

トゲキッス、サマヨール、チルタリスの三人は現在、豊かな自然に囲まれた町…ミチーナのカフェにやって来ていた。

ぱく、とチルタリスがケーキを頬張った時、どぉんと響き渡る音。

その音に眉を寄せたジョットが窓の外へと視線をやった。

 

「なんでしょう…?」

「遺跡の方から聞こえた気がしたけどねー」

 

そういえば、ここ神殿跡とかいう遺跡があったな…とサマヨールはぼんやりと思った。

グォオオオオオ!と響く音にマスターだけが首を傾げる。

 

「何の音だろう」

「この"声"って…!」

「ギラティナ様では!?」

「外出など…、珍しいこともあるものだ…」

「知り合いなんですか?随分とご機嫌斜めな雄叫びですが…」

 

ですねぇ、とトゲキッスとチルタリスが眉を下げた。

 

「え、今の声なの?」

「人間は分からなくて当然ですよ」

 

疎外感…!とショックを受けるマスターを無視してピジョットが紅茶を啜った。

 

「俺達、ちょっと見てきますね!」

「あ、うん。気をつけてね」

「いってらっしゃい」

 

*

 

トゲキッス達がギラティナの声の元へ走る頃、同時刻にミチーナにやって来ていたサトシ達の前にディアルガとギラティナの姿があった。

雄叫びをあげるギラティナ、そのギラティナを睨みつけるディアルガ…。

ポケモンと心を見せ合う能力を持つ遺跡の守り人であるシーナがギラティナの心への接触を試みるも怒りで頭に血が上っているギラティナには届かない。

そんなギラティナにサトシが大きな声で呼び掛ける。

 

「ギラティナ!気付いてくれ!」

「ピカァ!」

 

視界に入ったサトシ達を見下ろしてギラティナはディアルガからサトシの方へと視線をやる。

 

「ギラティナさーん!」

「!」

 

おーい、と手を振ってこちらへ駆け寄って来たトゲキッス達を見てギラティナが顔をあげた。

 

「今なら…!超克せよ、時空の宿命よ!」

 

シーナが再びギラティナと心を通わせようと試みる。

 

『ギラティナ…、貴方はディアルガを誤解しています。戦わないで下さい』

『……』

 

シーナを見下ろしたギラティナ。

傍に立つディアルガの方へと向きなおり、ギロリとディアルガを睨みつける。

 

「ギラァ!」

「……」

 

ギラティナの言葉に小さく頷いて返したディアルガ。それを見てギラティナが反転世界へと戻って行く。

良かった、と胸をなでおろしたサトシ達を他所にトゲキッス達の顔色は曇る。

 

― シンヤは大丈夫なんだろうな!

 

そう言ったギラティナの言葉に一抹の不安が過ぎってしまうのは仕方のないことだった。

 

*

 

遺跡の守り人と名乗ったシーナとケビン。

深く関わったことは無いものの、見覚えのある人物の登場にサトシ達は目を丸くして首を傾げた。

 

「確か、シンヤさんの知り合いの…」

「俺はキッスです。こっちがチルで、こっちがヨルさんです」

 

ちゃんと話すのは初めてですね、と強面だった顔を綻ばせて笑うトゲキッスにつられサトシの顔にも笑みが浮かんだ。

サトシ達の自己紹介をすませた所で、サマヨールがディアルガへと視線をやる。

 

「ディアルガ…一体、何が起こっているのだ…。神であるお前達がこちらへ赴くということは、よほどの事だとは想像出来るが…」

「グルル…」

 

面倒な奴が起きる…、その言葉にチルタリスは首を傾げる。

その瞬間、上空に大きな歪みが現れる。

歪みはディアルガを攻撃するかのように出現した。サトシ達が息を飲んだ時、空間を裂きパルキアが現れる。

 

「クォオオオ!」

「わあ!パルキアが!」

「ディアルガを助けたんだ!」

 

パルキアの攻撃が巻き起こる渦を消し、歪みに飲み込まれそうだったディアルガを救う。

 

「クォオオ!」

「グォオオ!」

 

最悪な状況じゃねぇか畜生!と声をあげるパルキアにディアルガが黙れアホ!と言葉を返す。

人間がポケモンの言葉を理解出来なくて良かった、威厳の欠片もない…とサマヨールは密かに思った。

 

「超克せよ、時空の宿命よ」

「ちょうこく、って?」

「確か、乗り越えるってことさ」

「今、シーナと二体のポケモンはお互いの心を見てる」

「通じ合ってるのね!」

 

ディアルガとパルキアの心を見たシーナは微笑み二体にお礼の言葉を返す。

 

『ありがとう…ディアルガ、パルキア』

「クオオオ!(協力しなきゃ世界の終わりだから渋々だけどなぁ!)」

「グルルル…(文句を言うな、影響自体は俺達の責任だ…)」

 

うっせーバカ!、お前の方がバカ!と言葉を交わしつつ自分たちの空間へと戻るディアルガとパルキア。

顔を見合わせたトゲキッス達も慌てて反転世界への入口である歪み、湖の中へと飛び込んだ。

サトシ達がぎょっと目を見開いたが、トゲキッス達は水飛沫をあげることなくディアルガとパルキアと同じように出現した空間の中へと消えていった。

勿論、敬愛すべき主の安否を確かめる為に…。

 

*

 

家へと戻ったトゲキッス達はソファに横になるシンヤを見て、慌てて傍へと駆け寄った。

 

「…ん?…、おかえり、早かったな?」

「主、何処も異常は無いか!?」

 

のそりと体を起こしたシンヤが小さく欠伸を噛み殺す。

あ、おかえりーとトゲキッス達の帰りに気づいたミロカロスが笑顔で出迎えの言葉を掛ける。

 

「今の所、大丈夫のはずだ…。俺がここでシンヤを守ってる。よっぽどの事が無い限り影響は出ねぇ」

 

リビングへと入って来たギラティナの言葉にサマヨールは、ほっと息を吐いた。良かった、と。

 

「ねー、何の話?」

「さあ?」

 

ミロカロスの言葉に首を振って返したシンヤ、呑気なもんだぜとギラティナが苦笑いを零す。

どういう状況なんだとサマヨールがギラティナに詰め寄る。

 

「ハッキリ言っちまうと、アルセウスの奴が起きる」

「!」

「元々はそんなずっと寝てるような奴じゃねぇ、ちょっと前に隕石が落ちて来た時に世界を守ろうとしてドジりやがったんだ」

「…は?」

「ドジって怪我して死に掛けた所を人間に助けてもらったらしくてな。その人間の住んでいた土地が隕石の影響で荒れ果てちまって…哀れに思ったアルセウスの奴が自分の力をその人間に貸してやったんだ」

 

人とポケモンが助け合う、素敵な事ですね。とのトゲキッスの言葉にギラティナが笑った。

 

「その貸した力を返す約束の日、アルセウスの奴は人間に騙されて眠りに付かなきゃいけないくらいのダメージを受けた」

「ど、どうしてですか!?」

「強大な力を手放すのが惜しくなった人間側の都合だろ。知らねぇけどさ。騙されて自分の一部を人間に奪われたアルセウスはご立腹…。起きたら確実に暴れるぜ…」

 

暴れるということは世界が大きなダメージを負う可能性がある、世界のダメージ…。

すなわち、シンヤの命の危険…!

 

「暴れさせるのやめろぉおお!シンヤがまた影響受ける!やめさせろ!早く!もう一回、寝かせろ!永遠に!」

 

ガクガクとミロカロスがギラティナの体を揺する。

 

『…ダモス』

「……」

 

分かってるよ!と怒るギラティナを眺めながらシンヤは誰かの名を呼ぶ声をハッキリと聞いた。

ずきずき、頭が痛むのはそのせいか…と。

 

「シンヤ、どうだ?気分悪かったりしないか?」

「ああ、少し頭が痛むくらいだ」

「ちっ、やっぱり影響は受けてるな…。でも大丈夫、俺がちゃんとシンヤを守ってるからな!前みたいな真似は絶対に…」

 

ギラティナの言葉を聞いていたはずなのに、シンヤの聴覚は途中でブツリと音を消した。

 

「あれ…?」

「―――」

 

首を傾げたギラティナが口を動かしている。

聞こえない。

 

「これはマズイ奴かもしれない」

「―――!」

「何も聞こえない」

「―――」

「――!」

「―――!!」

 

血相を変えて慌て出す周りの様子を見てシンヤは自分の耳を押さえる。

 

『――裁きを受けるが良いっ!!!!』

 

誰かの声、耳を押さえ目を瞑ったシンヤの瞼の裏にはディアルガとパルキアの姿が見えた。

 

「暴れるんじゃねぇえええ!」

「落ち着け、アルセウス!」

『お前たち…っ、人間共の味方をするのか…!!』

 

アルセウスが見ている光景が見える。

凄まじい威力の攻撃を受けて吹っ飛ぶディアルガとパルキア。

そして、アルセウスの攻撃の先に…、

 

「サトシ達が居る…!ギラティナ!すぐに行け!」

「――!」

「早く行け!」

「―――!!」

 

聞こえはしないが大体予想は付く。

 

「私は大丈夫だ!さっさと行ってアルセウスを止めて来い!」

「――!」

 

リビングを飛び出して行ったギラティナの背を見送ってシンヤは深く溜息を吐いた。

 

「――」

「―――!」

 

泣きながら抱きついて来たミロカロスの肩に手を置いた時に自分の異変に気付く。

自分の手が透けている…。

これは早く何とかしてもらわないと、私、消えるな。

 

*

 

サトシ達を庇う為にアルセウスの攻撃を受けたギラティナが雄叫びをあげる。

 

「アルセウスゥウウ!マジでやめろボケェエエ!」

「これ以上、攻撃させてたまるか!!くたばれジジイィイイ!」

「子孫の娘、お前達が過去に行って未来を変えて来い…!」

 

ガチバトル、これ勝てない!ブチギレやばすぎ!人間ども飛ばすから時間稼げ!

ぎゃーぎゃーと言い争っている三体、サトシ達にはただの鳴き声だが、近くに居たロケット団のニャースは言葉にはしないものの思った。

 

「(めちゃくちゃだニャ…)」

 

*

 

一方、出掛けていたブラッキーとエーフィが反転世界への入口が塞がっている事に首を傾げる。

 

「あれ!?帰れない…!」

「全く!この時間に戻りますと言っておいたというのに!」

「えー、どうする?ポケモンセンターの方まで行く?」

「ミミロー達が居るでしょうしね、そちらなら繋がるかもしれません」

 

バス乗ろうぜー、と駆け出したブラッキーを追いかけながらエーフィは上空を大移動する飛行ポケモンの群れを見た。

 

「…?」

「バスー!ヘイ!バース!乗ります乗りますー!」

 

ざわつく、この胸騒ぎはなんでしょう…?

 

*

 

そして、ポケモンセンターで仕事をしていたミミロップ、サーナイト。読書に勤しむミュウツーの三人。

 

「なんだか、変な感じしません?」

「は?何処が?お前の頭が?」

「違いますわ!こう…ざわざわっと」

 

はあ?と首を傾げたミミロップ。

サーナイトの言葉に本を読んでいたミュウツーが「する」と同意の言葉を返した。

 

「しないけど。全く」

「これだから、ノーマルは」

「ノーマルなめんなゴラァ!」

 

エスパーなんて電波じゃん!電波!と怒るミミロップをサーナイトが宥める。

立ち上がったミュウツーがポケモンセンター内の姿鏡の前に立つ。

 

「…閉じられてる」

「まあ!帰れませんわ!」

「ギラティナ出掛けてんの?」

「出掛けてたとしてもわざわざ閉じて行くなんて嫌がらせするような人じゃありませんわ…」

「ああ、まあなぁ」

 

姿鏡の前に並んだ三人にジョーイが声を掛ける。

 

「三人ともどうしたの?」

「んー、なんか出入り口閉まってて」

 

あら、そうなの?とジョーイが首を傾げる。

シンヤからギラティナの住まう反転世界に住んでるとだけ、とりあえずの説明を受けたジョーイ。

 

「私もいつか会いたいわ、ギラティナと」

「ジョーイさんなら会えますわ~」

「絶対にお家に遊びに行っちゃうんだから~」

「反転世界をワタクシとお散歩しましょ♪」

「ま、素敵♪」

 

きゃっきゃっと会話するサーナイトとジョーイをじと目で睨み付けたミミローは溜息を吐いて腕を組む。

 

「こんにちは、お邪魔しますよ」

「ちーす、ここの出入り口開いてるー?」

 

ポケモンセンターへとやって来たエーフィとブラッキーの姿を見てミュウツーは眉を寄せた。

 

「え、他のとこも閉まってんの?」

「え、てことは、ここも閉まってんの?」

「「えー…」」

 

なんでよ、知らんよ、とミミロップとブラッキーが会話をする。

 

「飛行ポケモンが大移動しているのを見掛けました、凄く…胸騒ぎがするのですが…」

「ギラティナが出入り口を全て閉じる程の異変が世界に起きている、ということか?」

「「「「……」」」」

「?」

 

ミュウツーの言葉に四人は黙り込み、ジョーイは首を傾げた。

 

「…シンヤは、大丈夫なんだよな?」

 

ぽつりと零したブラッキーの言葉に誰も返事を返せなかった。

 

*

 

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