アルセウスが暴れている影響で音が聞こえなくなった。おまけに若干、透けている自分。
傍でぼろぼろと泣いているミロカロスが泣き喚いてるようだが何も聞こえない。
「本、読もう」
「――!」
集中するとアルセウス視点で戦うギラティナ達の様子が見えるが痛々しいので見るのをやめた。
読みかけの本を開けばミロカロスが私の腕を掴んで何か言っているようだが聞こえない。
「ギラティナ達に任せておけ、私は何もすることがないから本を読む」
アルセウスに世界を滅ぼされるなんて悲しいなぁ、と思いつつ本に視線を落とした。
*
シンヤが、透けたまま本読んでる…!
うわああああと泣き叫ぶミロカロスが大パニックなのに対してシンヤの落ち着きよう…。
トゲキッスはとりあえず!とミロカロスの背を撫でながら落ち着くようにと声を掛ける。
「ミロさん、落ち着いて!ギラティナさん達が何とかしてくれますから!」
「でもっ、でも透けてる…!」
「透けているな…それなのに主のこの冷静な態度、さすがだ…」
関心してて良いのですか…?と涙目のチルタリスがサマヨールに視線をやる。
チルタリスと目が合ったサマヨールは少し考えてから無言でリビングを出て行った、そしてすぐ戻ってきた。
手にはノートとペンを持って。
「こちらからの対応としては…筆記で会話をするしかないと思う…」
「貸して!」
はい、とミロカロスにノートとペンを渡したサマヨール。それを受け取ったミロカロスはノートに歪な文字を書く。
相変わらず字がまだまだ下手だ…とサマヨールはぼんやりと思った。
「はい、シンヤ!見て!」
「…」
「見てってば!」
「主には聞こえてないぞ…、肩を叩け肩を…」
苦笑いを浮かべたトゲキッスがぽんぽんとシンヤの肩を叩いた。
本から視線を上げたシンヤがトゲキッスの方へ視線をやる。にこりと笑ったトゲキッスはミロカロスの広げるノートを指さした。
『シンヤ、あたまいたくないの?だいじょうぶ?』
「…ああ、今は別に痛くない。大丈夫だろ」
頷きながら返事をしたシンヤにミロカロスの表情が明るくなる。
『きえないでね!』
「分からん。というか、私が消える時はお前たちも消えるぞ」
「あ、そっかー、じゃあ良いや~」
シンヤと一緒なら良いや、と笑ったミロカロスに聞こえてないシンヤは首を傾げる。
「良くないですよね!?」
「そ、そうだね、良くはないね…」
「自分だけ主と共に眠るのなら別に構わないがな…、世界中を巻き込むのは考えものだ…」
はわわ、と慌てるチルタリスの頭を撫でたトゲキッスは困ったように笑う。
「そういえば…、他の連中が帰って来ないな…」
「そうですね…、フィーさんが帰って来るって言ってた時間は過ぎてます、ね…」
チラリと時計を見たトゲキッス。それにつられてチルタリスも時計を見上げた。
「チル、晩ご飯のご用意します…!」
「そうだな…、それが良い。ギラティナも疲れて帰って来るだろうからな…」
シンヤは消えない。絶対に大丈夫。
そう信じて、ただ待つことしか出来ない自分達を歯痒く思いながらトゲキッスはシンヤへと視線をやった。
『おちゃのむ?』
「飲む」
あと、お前の字は相変わらず汚い。と言ってシンヤが眉間に皺を寄せたのを見てトゲキッスはクスリと笑った。
「俺、一度向こうに行って来ようかな…」
「行くか…?」
「はい、ジョットさん達も心配ですし…」
「確かにそうだな…、近辺が巻き込まれてる可能性もある…」
行くか、と歩き出したサマヨール。
「チル、俺達は向こうの様子を見て来るね。お留守番お願い」
「分かりました!」
チルタリスに声を掛けてトゲキッスはサマヨールの後を追った。
家を出て少し歩いた所で、サマヨールが首を傾げて立ち止まっている。
「ヨルさん?」
「ここ、道が無くなってる…」
「あれ…?本当だ…」
ポケモンセンターへの出入り口が無い…?と思った所でサマヨールとトゲキッスは顔を見合わせた。
「で、出入り口が全部無いです…!」
「主への影響を遮断する為に外界から離したのかもしれないな…」
「フィーさん達、帰って来れなかったんですね…」
「だろうな…」
どうしよう、家に一旦戻るべきかな、とトゲキッスが考えた時にサマヨールがハッと気付いたように歩き出した。
「キッス、来い…」
「え?え?なんです?」
サマヨールに腕を掴まれて歩き出したトゲキッスは首を傾げた。
場所を移動し、目当てのふよふよと浮かぶ球体を一つ覗き込んだサマヨールは居た居たと声を漏らす。
「外界の様子、そういえばここで見れましたね」
「ポケモンセンターに集まってるみたいだ…」
サマヨールが指差した球体にはミミロップ達の姿が映っていた。
声を掛けても届かないし、触って壊してしまえば向こうに被害が出るし…と球体を覗き込んで考えるトゲキッスを他所にサマヨールは目当ての球体を探す。
「居た、ギラティナ達だ…」
「え!」
アルセウスからの攻撃を受けるギラティナを見てトゲキッスが顔を青くした。
アルセウスの強力な技に倒れるギラティナ。
「あああ、ギラティナさん…!」
「アルセウスを狙って突くぞ…」
「へ!?」
「他の所に当てないようにな…、足止めくらい出来る…」
「勝手に触ったらギラティナさん、怒りませんかね!?」
「ギラティナを助ける為だ」
球体に映るアルセウスをサマヨールがつんと指で弾けば球体はパチンと割れた。
割れた…、割れちゃった…。とサマヨールとトゲキッスが顔を見合わせた頃。
ミチーナで戦闘中のギラティナの目の前でアルセウスが空間に弾き飛ばされた。
「…っ!?」
「チャーンスッ!」
パルキアがアルセウスを空間に閉じ込める。その空間から出ようとアルセウスがもがく。少しの間とはいえこれで時間を稼げる…!
「今のギラティナかァ?ナイスー!」
「いや、オレじゃねぇ。ちょっと抜ける!」
「はぁ!?おい!」
パルキアが呼び止めるもギラティナは反転世界へと戻って行ってしまった。
おいおい、オレだけとか無理なんですけど。と不満気なパルキアはディアルガの方へと視線をやる。
「まだぁ!?」
「まだだ!」
ああ、もう体中痛ぇよ。
*
反転世界へと戻ったギラティナはサマヨールとトゲキッスの姿を見つけて人の姿へと変わる。
「お前ら!」
「帰って来た…」
「ギラティナさん!ご、ごめんなさい…!」
「いや、ナイス!それ名案!お前らこっちから攻撃しまくれ!シンヤの影響が心配だけど繋げるから!技どんどん食らわせろ!」
「なら、ポケモンセンターから他の奴も呼び戻してくれ…」
あれ、とサマヨールが球体を指差した先には集まって鏡の前に立つ面々。
「オッケー。シンヤに痛い思いさせるあのボケジジイをボッコボコにしてやろうぜ!」
「全力を尽くす…」
「(アルセウス様なのに…、良いのかな…)」
ポケモンセンターの鏡の前に立っていたミュウツーの肩を誰か掴んだ。背後を振り返れば鏡から出て来ている手。
「うわっ、きもっ!」
「ギラティナ?」
横で喚くミミロップを無視してミュウツーがギラティナの腕を掴む。
「お前ら、集合しろ」
「何かあったんですか?」
「アルセウスの足止めに協力してくれ、時間を稼ぎたい」
「アルセウスって…」
どういう状況だよ、と眉を寄せたブラッキー。
「ここで時間稼がないとシンヤがヤベェぞ」
「「「それを先に言え!」」」
早く入れ早く!とミュウツーの背を押してミミロップ達は反転世界へと慌てて戻る。
「あら、繋がったの?」
「ジョーイさん!また後で説明しに来ますわね!」
「分かったわ」
鏡を見つめてジョーイが苦笑いを浮かべた。
早く説明してくれないと、私だけ仲間外れで寂しいじゃない。シンヤさんのバカとジョーイは一人、頬を膨らませた。
そして反転世界へと戻ったミミロップ達はミチーナの様子を見て悲鳴をあげた。
「このクソがぁあああ!何暴れてんだボケェエエ!」
「おいいいい!シンヤにどんだけ影響出るんだこれぇええええ!」
「早くぶっ殺しましょう。この方、やってしまいましょう」
「お三方、落ち着いて下さいまし…!」
怒鳴るミミロップに混乱するブラッキー、そして冷静に怒るエーフィ。それを宥めるサーナイト。
「お前ら、こっち側から援護射撃してアルセウスの足止めしてくれ」
「足止めで良いのか。戦闘不能にした方が良いんじゃないのか」
「それは後々がマズイ。結局、解決にならねぇからな」
「ならどうするんだ」
「ディアルガが時間を遡って根本的な解決をしようとしてる。オレ達はとにかく時間を稼ぐ、今はそれが最善だ」
歪みを四方に開けるからそこから攻撃技ばんばん打っていけ!と言い放ってギラティナはミチーナへと戻って行く。
それを見送ってから、サマヨールが球体を覗き込む。
「相手はアルセウスだが…これも全て主の為だ…。良いな?」
「は、はい!シンヤの為、世界の為です…!」
「全力で行くぜ!」
「サイコキネシスで動きを止めますよ」
「はいですわ!」
「私も向こうに行きたい」
「よっしゃー!全員、攻撃態勢に入れぇええ!」
ブラッキーの掛け声でその場に居た面々は一斉にポケモンの姿へと戻る。
そして四方に開けられた空間の歪みへアルセウス目掛けて攻撃を放つ。
*
ミミロー達の声がする。と顔を上げたミロカロスはちらりとソファに座りお茶を飲むシンヤの方へと視線をやった。
のんびりとお茶を飲んでいたシンヤの顔が苦しげに歪む。
「シンヤ…!大丈夫!?」
「…ッ」
ミロカロスの呼び掛けにシンヤは答えない。眉間に皺を寄せ、頭を押さえたシンヤは目を瞑る。
アルセウス視点で見える景色、パルキアとギラティナが見える。そして四方の空間の歪み、そこから自身を襲う様々な攻撃。
忌々しい、苦しい、腹立たしい!とアルセウスが怒っている。
アルセウスへ攻撃が当たる度に腕が足が、体の何処かしらが痛む。
みしみし、と骨が軋む…。
「(痛い…)」
身体中が痛い。
自分の体を抱きしめるようにシンヤはソファに横になった。
世界へのダメージはシンヤに影響される、だが世界の主軸となるアルセウスへのダメージもまたシンヤに影響されていた。
「シンヤ!これ見て!」
『どうしたの?どうしたらいい?』と書かれたノートを見て、シンヤは弱々しい動きで外を指差した。
「あいつら、止めて来てくれ…。痛い…」
「あいつら…」
「攻撃されると、痛い…」
「???」
痛い、と言ってまた目を瞑ってしまったシンヤを見てからミロカロスは外へと飛び出した。
ミミロー達の声がする方へと走ったミロカロスは、ギラティナの創った歪みへと攻撃技を放つミミロー達を見て慌てて止めに入る。
「やめろぉおおお!これ以上、攻撃すんなぁあああ!」
「!?」
「シンヤが痛がってるから!やめろ!」
駄目、と歪みの前に立ち塞がったミロカロス。
首を傾げたミミロップ達はとりあえず攻撃するのをやめた。
「シンヤが痛いって!攻撃されると痛いって言ってた!」
「は?ちょ、ちょっと待て、それってシンヤの感覚とアルセウスの感覚が繋がってるってことか?」
「分かんないけど、シンヤがあいつら止めて来てくれって俺様に言ったから止めに来た」
「マジか…、オレ達、シンヤに攻撃してたってこと?」
ブラッキーの言葉にエーフィが顔を青くさせる。
アルセウスを足止めしていた空間からの攻撃が止んだ、それに油断したギラティナ達がアルセウスからの攻撃で地面に倒れる。
「痛ぇ…畜生…」
「全身、痛ぇ…っ」
「……時の記憶、甦れ…」
アルセウスの強大な攻撃が降り注ごうとした時、その攻撃は止まった。
過去へと遡ったシーナ達が現在へと戻ってきた。そして過去でアルセウスへ命の宝玉を返して来たことで現在のアルセウスの怒りの理由が無くなったのだ。
アルセウスの怒りが消える。
そして過去を変えたことで未来も変わった。アルセウスが世界へ及ぼした被害をも時間は無かったことにしたのだ。
荒れてしまっていた大地も戻り、攻撃を受けてダメージを負っていたギラティナ達の傷も消える。
良かった、とサトシ達が胸を撫で下ろした頃。
反転世界では同じく被害の消えたシンヤが居た。耳も聞こえるようになったし痛みもすっかり消えた。
解決したんだな、と思う反面。目の前で揃って土下座をするうちの連中をどうしたら良いのか…。
「「「申し訳ございませんでしたぁああ!」」」
「いや、お前達は何も悪くないからな?気にしなくて良いんだぞ?」
「シンヤに…痛い思いをさせてしまうなんて…!」
「オレ、泣きたい…」
「私も泣きたいです…」
「ごめんなさいですわああああ!」
「よくよく考えてみたらそうじゃん!ギラティナのダメージも影響あったんだからアルセウスのダメージも当然影響受けるに決まってんじゃん!ワタシのアホボケカス!」
「自分の考えが及ばなかったせいで…主になんということを…っ」
凄い勢いでへこむ面々を見てシンヤはどうしたものかと溜息を吐いた。
「シンヤ、元気になって良かったなー!」
ミロカロスがそう言葉を発した時、ガチャリとリビングの扉が開いた。
おのずと全員の視線が扉へと向かう。
扉を開けて入って来たのは"シンヤ"だった。
「「「!?!?」」」」
「愛しき生命たちよ、私は全てを許す…案ずるな」
にこりと笑ったシンヤ?の言葉にミロカロスはポカンと口を開ける。
そして、ソファに座っていたシンヤは深く溜息を吐いた。
「そして、我が一部であり心臓であるシンヤよ。この神であるアルセウスに抱擁してくれて構わぬぞ?」
「いや…遠慮する…」
アルセウス!?と混乱する自分の手持ち達を見てからシンヤは何度目かの溜息を吐いた。
バタバタと慌ててリビングに駆け込んできたギラティナはその光景を見て「ああ…」と言葉を漏らしてその場でへたりこんだ。
一緒にリビングに入ってきたパルキアとディアルガは顔を見合わせる。
「この場合って影響受けてんのって、アルセウス?」
「だろうな」
「私は世界そのもの、どんなものにも適応する生命…。この姿に変わることもまた自然なこと」
そうだろう、我が子達よ。と笑うアルセウス(シンヤの姿)を見てパルキアとディアルガは苦笑いを返す。
「シンヤは私、私はシンヤ。この世界の生命を愛する者…」
「すげぇ…なんか超ポエマーなシンヤだ…」
ポツリと呟いたブラッキーの言葉にシンヤは眉を寄せた。
自分が凄く気持ち悪い。にこにこ笑って落ち込むギラティナの頭を撫でる自分の姿が気持ち悪すぎる…!
「もう、お前ずっとポケモンの姿で居てくれ…頼むから…」
「せっかく愛でられる手があるのだから、活用しなければ」
なでなで、とシンヤの頭を撫でたアルセウス。自分の姿に頭を撫でられてシンヤは寒気がした。
二人並ぶシンヤの姿にこれはある意味、眼福物?縁起物?とミミローは小声で隣に居たサマヨールに問う。そのミミローにうーんと唸って返したサマヨールはとりあえず、写真でも撮っておくか?とミミローに問うた。
「皆さん!お帰りなさいませ!お食事のご用意が出来てますよ!」
「うむ、では頂こうか」
「え、ご主人様…?え?ご主人様…が?え?」
「夕餉はなんだ?」
「あ、はい、皆さんの好きな物をたくさん…色々ありますよ」
普通に席に座ったアルセウスにどう対処して良いのか分からずに混乱するチルタリスはとりあえずアルセウスにお茶をだした。
「ご主人様…?どちらがチルのご主人様…?」
あいつ半泣きだな、とシンヤは苦笑いを浮かべる。
「チル、そっちのシンヤの姿をした人はアルセウス様なんだって」
「アルセウス様でしたか!」
「ああ、気さくに敬ってくれて構わぬぞ」
それ言葉として可笑しくね?とカメラを構えたミミローが呟いた。
「とりあえず、食べるか…」
「あ、うん、ご飯食べよう!」
皿に野菜をよそえ、とアルセウスがパルキアに指示しているのを見てシンヤはアルセウスの向かいの席に座った。
「あ、この席イヤだ。自分の顔を見ながら食べるなんて…」
「シンヤの席はいつもそこなんですから、ワガママ言わないでくださいまし」
「ミロちゃん!オレ、サラダよそってやるよ!神盛りとか豪華じゃね!?」
「いらね」
「え……、じゃあ、フィーちゃん…」
「テメェの空間に帰りやがれ、です」
フィーかっけぇ!やだ素敵ですわ!と騒ぐブラッキーとサーナイト。手酷く扱われたパルキアがサラダを抱えて落ち込んだ。
え、おい、私…野菜から食べたい…。
「パルキア、私にサラダくれ…」
「シンヤ…!オレが、オレが神盛りにしてやるからな…!」
「ああ」
何盛りでも良いけど…、トマトばっかり乗せるのやめてくれ。レタスも食べたい。
「シンヤに葉っぱをあげるのは俺様だぁあああ!」
「ちょ、ミロちゃんやめて!こぼれる!」
「小さき者よ、私におかわりを」
「は、はい!」
静かにご飯が食べれない。
おまけに私に野菜が回って来ない…。
「誰か、私に野菜くれ…」
「え、オレの食いかけコーンで良い?」
「ツキ、それは野菜として偏りすぎですよ」
「甘くて美味いじゃん」
*