一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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「ああ、ツキ!結婚式はどうでした?」

 

画面の向こうに居るブラッキーに笑顔を向けるエーフィ、画面の向こうのブラッキーは「結婚式は良かったんだけどねぇ」と苦笑いを浮かべた。

 

「何かあったんですか?」

<「いやぁ、実はさー」>

 

うちのご主人に急患が入ってね、それもアルセウスの依頼でレジギガスを診に行ってるわけなんだけど。それと同時にカフェのマスターが怪我して人手が足りないってんで手伝いに行かなきゃいけなくなったんだよ。

 

「……はぁ、それで?」

<「オレとミロとサナとジョーイさんが結婚式に出席、チルとキッスがカフェに手伝いに行って、ミミローとヨルがジョーイさん不在のポケモンセンターを任された。で、シンヤは急患を診に外出しました」>

「………手・持・ち・はっ!!!手持ちはどうしたんですか!シンヤさん一人じゃないですか!何かあったらどうするんです!!」

<「ギラティナと、ツーの奴がウキウキでついて行った…」>

「ウキウキの方がもの凄く不安要素です…っ!!ああっ、シンヤさん…!私が、私がこんな場所に連れて来られていなければ…!」

<「一応、フィーに伝えとかないと怒るかなぁと思って報告したけど…あれだな、もっと早く言えよオーラ凄いね、ごめん…。結婚式は楽しかったデス」>

 

画面の向こうで申し訳なさそうにするブラッキーを見てエーフィは深く溜息を吐いた。

ギラティナが一緒なら万が一の事があっても大丈夫だとは思うが、自分の主人の役にも立てずこの場に居る自分が情けない。

ガクリと落ち込むエーフィの肩をぽんと叩いたのはノリコだった。

 

「フィーさん、決勝終わっちゃったけど観なくてよかったの?」

「誰かさんが初戦敗退するから…」

「ぅぐっ…!だ、だって…」

<「初戦敗退したのかよ…っ!」>

 

ムウマージの初陣だったんじゃないの?と画面の向こうから声を掛けてくるブラッキーにノリコはしょんぼりと返事をする。

 

「盛大に失敗してしまいました…、ムウマージも緊張してたので」

<「ま、しょうがねぇな。次は頑張れ!」>

「ツキさん…!はい!頑張ります!」

 

えへへ、と笑うノリコを睨み付けたエーフィ。その視線にノリコはビクリと肩を揺らした。

 

「しょうがなくない!」

「ひぃっ!」

「下手過ぎるんですよっ!あの無駄な時間の為だけに連れて来られたと思うと…!あああああああ!」

「ひぃぃいい!ごめんなさいぃいい!」

<「フィー!大丈夫!ノリコはやれば出来る子!遅咲きなだけ!シンヤの妹なんだから!磨けば輝く!」>

 

それ、褒められてるんだよね…?とノリコがしょんぼりと画面の向こうのブラッキーを見つめた。

 

「まあ…練習ではそれなりだったんですけどね…」

「そうなの!のんは本番に弱いタイプなの!」

「……辞めちまえ…(ボソッ」

「ぅう…っ」

 

怒ってんなぁ、と画面の向こうのブラッキーは苦笑いを浮かべた。

モモとリンの結婚式が間近に迫っていた頃、ノリコがムウマージをとうとうコンテストに出すと報告に来た。そのコンテストの開催日が見事に結婚式の日。

不安だからギリギリまで練習を見て欲しい、ついて来て欲しいと当初は兄であるシンヤを誘っていたのだがシンヤは結婚式に出席しなければならないので当然行けない。

じゃあ、フィーさん!と白羽の矢が立ったのがエーフィだ。コンテストで良い活躍を見せてあわよくば見直してもらおうという気持ちがノリコにはあった。

しかし、エーフィは首を縦に振らない。

ノリコに付き合うくらいならば自身の主人と共に結婚式に行きたい。モモ達と面識があるエーフィは尚更、結婚式に出席したかった。サナと共に結婚式の準備も手伝いたい。

シンヤもその理由を知っているのでノリコには今回は諦めて一人で行くように伝えてくれたのだ、エーフィは安心しきっていた。

ノリコが実の父であるイツキを連れて来るまでは…。

 

「と、父さん…!?どうしたんだ?」

「ノリコに頼まれてフィーくん説得しに来た」

 

わはは、と笑う父は可愛い娘の味方だった。

大きな父の背に隠れてチラチラとエーフィを見るノリコ、エーフィはブチ切れる寸前だったが敬愛する主人に名を呼ばれてしまっては仕方がない。

 

「エーフィ…、すまん。頼んだ」

「シンヤさんがそう仰るのでしたら致し方ありません」

「やったぁ!」

「父さんは母さんとノリコに勝てなかった…、フィーくん、すまん!」

「「……」」

 

ノリコを頼んだぞ!と言われたエーフィは頷くしかない。

渋々、否、嫌々…ノリコと共にヨスガのコンテスト会場へ付き合うはめになったのだった。

コンテストまで練習に付き合って、これなら…!と思っていたのに…本番になった途端に緊張して固まったノリコとムウマージにエーフィは客席でガクリと肩を落とした。

ムウマージが緊張してしまうのは分かる、初めてのコンテスト、初めての沢山の人の目。それをフォローしてこそのコーディネーターでしょうが…!とエーフィは心底ガッカリしたのだった。

 

<「フィー、失敗したんなら仕方ねぇよ。次を失敗しないように先輩のお前がきっちり教えてやれ!シンヤにもお父さんにも頼まれてんだろ!」>

「分かり、ました…」

<「(うわぁ、すっごい渋々~…)」>

 

シンヤ、帰って来たらまた連絡するからと電話を切ったブラッキー。真っ黒になった画面を見てエーフィは溜息を吐いた。

 

「フィーさん、あの、本当にごめんなさい。せっかく教えてくれたのに全然上手く出来なくて…」

「…八割はアナタのせいですが二割は私の力不足が原因です。アナタに自信を持たせ舞台に立たせることが出来なかったんですから」

「…フィーさん…」

「シンヤさんとお父様に頼むと言われたのですから!アナタを一人前にさせてみせます!私は厳しいですからね!ノリコ!」

「は、はい!お願いします!」

 

びし、と敬礼したノリコを見てエーフィはまた溜息を吐いた。

先行きは不安である。

 

「それで、決勝はどちらが勝ったんですか…?」

「優勝したのは色違いのキングドラでした!優勝した時、トレーナーさんが思いっきりハグしてちゅっちゅっしてましたよ!」

「そんな所を覚えてないで見たバトルを記憶しなさい、バトルを!」

「バトルはー、えっと、キングドラがカッコよかったなーって思った、かな?」

「……」

「すみません…」

 

だからアナタはダメなんですよ、と目で言われてノリコは縮こまる。

 

「決勝は見てませんが、その前のバトルではキングドラは自分の色違いを上手く魅せていました。なんと言っても彼の技一つ一つに自信を感じました。技の完成度こそはまだまだでしたが、豪快な水技がまるで海に引き込まれたかのように錯覚させる…、見ていて気持ちの良い戦いでしたよ」

「ほぉ~」

「ほぉーじゃありません!あのキングドラがあそこまで自信を持って技を豪快に放つことが出来るのはそれだけトレーナーを信用しているからです!ポケモンがいかに輝けるか!それはトレーナーであるアナタがどれだけポケモンと信頼関係を築けるかが問題なんです!

ポケモンが一番、自分が美しく輝く姿を魅せたいのは観客じゃありません。トレーナーです。自分を信じてくれるトレーナーに答えたいから頑張れるんです。分かりますか?トップコーディネーターになって世界に認められたいから、兄を越えたいからなんて理由では私達はアナタに答えられない」

「……っ」

「魅せる素晴らしい演技を私達にさせたいのなら、アナタも魅せて下さい。私達に。ノリコという人間が自分の全て以上の力を出すほどに価値のある人間なんだと」

「……」

 

黙り込み俯いてしまったノリコにエーフィは小さく溜息を零す。

 

「ノリコ、アナタはシンヤさんをどう思いますか?」

「お兄ちゃん…?お兄ちゃんの事は凄いと思ってるよ?なんでも自分で出来ちゃうし、自分が言った事は曲げないし、しっかりしてて頼りになる、凄すぎて悔しいけど…、自慢のお兄ちゃんだよ!」

「ええ、私も同じです」

 

ニコリと笑ったエーフィにノリコはぽかんと口を開けた。

 

「ノリコ、アナタがそんな凄いシンヤさんのポケモンならどう思いますか?コンテストという会場に連れて来られて、そんなシンヤさんに"魅せてみろ、お前なら出来る"と言われたならアナタはどう思うでしょう?」

「……嬉しい、凄い嬉しいかも!絶対に成功させてっ、さすがだな!ってもっと認められたい!」

 

そう言い切ったノリコは「あ」と小さく声を零して俯いた。

 

「…ムウマージともう一度、練習しましょうか」

「…はい」

 

エーフィと目を合わせたノリコは小さく頷いた。

 

「フィーさん、のんは口だけの女だったけど!これからはしっかり魅せていけるように頑張る!」

「…それも口だけにならないと良いですけどね」

「口だけじゃなかったって、フィーさんがのんを認めてくれたら…!その時は…!」

 

―― のんと一緒に舞台に立って下さい!

 

真っ直ぐな目に見つめられたエーフィは困ったように眉を寄せて「考えておきます」と小さく言葉を返した。

さて、帰って練習だ!と鼻息荒く歩き出したノリコがドンッと人とぶつかった。

呆れたようにエーフィが背後で溜息を吐く。

 

「す、すみません…!」

「い、いえ、こちらこそすみませんでした」

 

花を抱えエプロンを身に付けた男にノリコはぺこぺこと頭を下げる。それに返すように男もぺこぺこと頭を下げた。

 

「何ずっとぺこぺこしてんだよ!花、届けるんだろ!」

「あ、ああ!そうだった!早くしないとモモアンさんへのお花渡しそびれる!」

「おい、アンタ、うちのがぶつかって悪かったな」

「いえ!私も悪かったので!」

「あー、すみませーん!モモアンさん宛のお花を届けに来ましたー、フラワーショップの者ですがー!」

 

会場関係者と思われる人を見付けて慌てて走って行った男をノリコは目で追いかけた。

エプロンを付けた男が花屋さんなのは分かるけど、一緒について歩くあの青年はバイト?それにしてはやけに偉そうだったな。とノリコは小さく首を傾げる。

 

「前をしっかり確認して歩いて下さいよね」

「あ、はい、すみません」

「行きますよ」

 

歩き出したノリコの後ろをエーフィも歩き出す、チラリと背後を振り返れば相手もまたチラリとこちらを見ていた。

どうも、と小さく会釈をすれば向こうも小さく会釈をして返す。

近しい種ゆえに思う…「随分とツンケンした奴だ」とお互いが思っている事など知る由もなかった。

 

*

 

電話を終えたブラッキーがリビングに戻ればミロカロスがコポコポとカップにお湯を注いでいる姿があった。

そしてカップにティーパックを入れたのを見て、思わず「えー」と声が漏れる。

 

「なんだよー」

「茶葉あるのに…」

「淹れたら不味くなるから俺様はこれで良いの!」

「もー。良いけどさー」

 

チルタリス達はまだ帰って来てないからお茶を淹れてくれる奴が居ない。自分で淹れれば良いんだけど、三人分わざわざ淹れてくれたミロカロスに悪いしなぁとブラッキーはティーパックの入ったカップを手に取った。

 

「はい、これヤマトの!」

「うん、ミロちゃんありがとう」

 

ガサガサと包装された物を開けているヤマトに「それ何?」とミロカロスが聞いた。

 

「これリンくんがくれたんだよー、中身は何かなぁと思って」

 

四角い箱、パカとヤマトが蓋を開ければ中にはキラリと眩い石が鎮座していた。

 

「これ、"めざめいし"だ…」

「めざめいし?」

「ユキワラシがメスだからじゃねぇの?良かったじゃん」

「リンくんもユキワラシが女の子だって気付いてたのかぁ~」

 

あー、と悲しげに声を漏らしたヤマトにミロカロスはじとりと視線を向ける。

シンヤが帰って来たら進化させてあげよ。とヤマトがいそいそと石を箱に戻すのを見てからブラッキーは時計へと視線をやった。

サーナイトはジョーイと共に後片付けの手伝いをするからと残った。

モモとリンは身内達と積もる話もあるだろうと声だけ掛けて帰って来たのだが時間が出来るとどうにも不安になる。

 

「シンヤ、大丈夫かな…」

「ギラティナとツーくん一緒に行ったんでしょ?大丈夫だよ」

「俺様、一緒に行きたかったなぁ…」

「はぁ~、ギラティナ連絡して来てくれないかなぁ…」

「ほんと、過保護だねぇ…。シンヤは子供じゃないし、一人でも平気だよ」

 

っていうか、シンヤだから大丈夫だろうって僕は思うよ。とヤマトは笑う。

その言葉にミロカロスは口を尖らせた。

 

「…大丈夫じゃなくて良いんだ。みんな居るうちは大丈夫じゃなくて良い…」

「ミロちゃん…」

 

よしよし、とミロカロスの頭を撫でたヤマトの手をミロカロスはぺしんと叩き落とした。

 

「……、みんなが自分達に何でも負担してくれて良い、自分達が居る間は何でもしてあげるからって思ってるのは分かるよ?でもね、シンヤは"もう大丈夫"なんだと思う。いや、もう大丈夫なんだ。

だからみんなを頼って色々と任せるんだよ」

「……シンヤ、」

「ミロちゃん、シンヤに私の分も結婚式見て来てくれって頼まれたって言ってなかった?」

「言ったけど…」

「じゃ、シンヤが帰って来たら見て来た分をシンヤに教えてあげて。これは今のミロちゃんに出来るシンヤの一番喜ぶことだよ」

 

今の自分に出来ること。

わかった、と頷いたミロカロスの頭をヤマトが撫でる。その手はまたぺしんと叩き落とされていた。

立ち上がったミロカロスがキッチンへと向かう。

 

「紅茶淹れたし、クッキー食べよ!」

「オレのも取って来てー」

 

オッケーとキッチンから声だけ返って来る。

なんで叩き落とすの…と、しょんぼりしているヤマトを見てブラッキーは苦笑いを浮かべた。

 

「(今のオレに出来ること、今のオレしか出来ないこと…)」

「嫌われてるのかなぁ、僕」

「ミロはシンヤ以外に触られるの嫌いだから気にすんな」

「そっか…」

「…オレは撫でてくれて良いよ?」

「え!ほんと?じゃあ、ポケモンの姿に…!」

「…………やっぱ、嫌」

「なんで!?」

「なんかイラッとしたから」

「ええ!?モフモフ…っ」

 

がっくりと落ち込んだヤマト。

ブラッキーが啜った紅茶は火傷しそうな程熱くて、やっぱり大して美味くなかった。

 

*

 

「凄い険しい…!帰りたい!」

「大丈夫かー?」

 

大丈夫じゃない!と先を歩くギラティナに心の中で返事をするシンヤ。

レジギガスの居る場所までの道が狭いうえに獣道過ぎてシンヤは深く溜息を吐いた。顔を覗かせた野生ポケモン達が大丈夫?大丈夫?と声を掛けてくれるのに片手をあげて答えるだけ。

もう喋るのもしんどいらしい。

 

「ギラティナ、喋るのも苦痛なくらい疲れているようだ」

「シンヤ、荷物持ってやるからこっち寄越せ!」

「うおっ、こ、こける…!」

 

シンヤの腕を掴み荷物を肩に掛けたギラティナが先を歩くミュウツーを振り返る。

 

「やっぱ飛んで行った方が良いだろー」

「ダメだ、ここは上からだと木が多すぎて分からなくなる」

「人間にはなかなかにハードな道だぞ…」

「シンヤなら大丈夫だ」

「いや、すでに疲れてるだろ」

「私は大丈夫だ…、それより、まだ着かないのか?結構、歩いたぞ…」

「ああ、迷ってるからな」

「「……え」」

「迷ってる」

 

お前、場所が分かるかのように先頭を歩いてたじゃないか…!オレはお前が分かるんだと思ってついて行ってたのに…!と二人が呆然とする中、ミュウツーは「道を元々知らないし」とケロリと言った。

 

「レジギガスの所までの道を知ってる奴ー!助けてくれー!」

 

シンヤがそう声を張り上げればその辺に居た野生ポケモン達が我先にと先導してくれた。

 

「なんだ、最初からそうすれば良かったのに」

「道知らねぇなら先にお前が言えよ!先頭歩きやがって!」

「私は行きたい方へ行く」

「おーまーえー!」

「無駄に疲労した……」

 

*

 

やっと辿り着いた目的地、レジロック、レジアイス、レジスチルが居てシンヤはとりあえずレジアイスに抱きついた。

 

「つ、疲れた…」

「お前らぁあ!居るんなら迎えに来いよ!」

 

目なのか口なのかをピカピカと光らせる三体に怒るギラティナ。

とりあえず休憩しようぜ!とギラティナがカバンから水筒を引っ張り出した。

 

「はい、お茶」

「ありがとう…」

「目当てのレジギガスが居ないな…」

 

辺りを見渡すミュウツー。

お茶を片手に座ったシンヤの背をツンとつついたレジアイスが視線を向けたシンヤに「あっち」と指して示す。

ごくごく、とお茶を飲み干したシンヤが立ち上がり大きな木の近くまで行けば体格の良い男が体育座り。異様に落ち込んだ様子にシンヤの口から「えぇ…」と思わず声が出た。

 

「レジギガス…どうしたんだ…?」

「…はっ!?だ、だれ…!」

「シンヤだ。アルセウスからお前の様子を診てくるように言われて来た、医者だが…」

 

お前、見る限り健康だな。とシンヤは眉を寄せる。

 

「アルセウスの…、おれ別に何処も悪くしてないけど…」

「ああ、健康みたいだな。でも何で落ち込んでたんだ?」

 

聞いてくれるのか…!と目を輝かせたレジギガスに「一応」とシンヤが頷く。

なんでも話を聞けば、ここへ月に数回、人間が来るらしい。

何をしに来るのかといえばレジロック、レジアイス、レジスチルの様子を見て、その辺の野生ポケモンを見て、変わった様子が無いか辺りを見て回って帰るらしい。

ポケモンレンジャーだろうか…?とシンヤが首を傾げる。

 

「その人間がなんだよ」

「名前、教えてくれないんだ…!」

「は?」

「声掛けても睨むし…、おれがレジギガスだって分かってるのに、近付いて来てもくれなくて…!名前、聞いても…全然、教えてくれな…ううっ…!」

 

泣いた。とミュウツーが指を差したので慌ててその手を掴んで下ろす。

 

「良いじゃん、人間と関わる必要ねぇんだから」

「でも…っ、おれ、仲良くなりたいんだ…っ!優しい人間なんだよ…、他のポケモン達には…」

「じゃあ、お前あれだ、嫌われてんだ」

「…おれだけ…っ!!」

 

わぁ、と泣き出したので慌ててギラティナの頭をべしんと叩く。

 

「レジギガス、その人間は定期的に来るんだろ?」

「…うん」

「つまり、お前達やこの環境に異常が無いか見に来てる。人の姿になったお前にやたらに近付いて何も聞き出そうとしないのはその人間が珍しいポケモンであるお前に近付くべきではないと思っているからだ」

「良い人間だな」

「おお、良い奴だ」

 

ミュウツーとギラティナが頷いた。

黙り込むレジギガスの頭を撫でたシンヤが続ける。

 

「今度、来た時にでも伝えてみろ。いつも心配して来てくれてありがとう、優しいあなたとお話がしたいです。って」

「…聞いて、くれる…かな…?」

「多分」

「多分…っ!」

 

じわり、と目に涙を溜めたレジギガスにシンヤは困ったと眉を寄せる。

悩んだ末にシンヤはそうだとカバンからメモ用紙とペンを取り出した。

 

「何すんの?」

「私からその人間に手紙を書こうと思って…」

「レジギガスが渡せるか分かんないだろ?」

「いや、この近くに住んでる野生ポケモンに持たせるから大丈夫だと思う」

 

ああ、そっちのが確実だな。とギラティナが頷いた。

ちゃんと連絡先も書いておくから大丈夫だろ。と続けたシンヤがスラスラと手紙を書く。それを覗き込んでいたギラティナは「字、綺麗な…」と小さく呟いた。

 

「ギラティナ、字が書けないのか…?ぷ」

「笑ったな、テメェ…!」

「私は書ける」

「オレも書けるわ!字くらい書ける!」

「汚いのか」

「ちょっと歪なだけですぅー…」

 

普段使わないから良いんですー、読めれば良いんですーと頬を膨らませたギラティナの頬をミュウツーが突いた。

 

「ぶっ!やめろテメェ!」

「ぷぷぷー」

「真顔で笑うなキモイ!」

 

喧嘩するギラティナとミュウツーを無視して手紙を書き終えたシンヤは近くに住んでいるというコリンクニ匹にこの手紙をいつも来る人間にと手渡した。

一匹が手紙をくわえ、もう一匹が分かった!と返事をした。

 

「レジギガス、次にその人間が来た時は仲良くな」

「が、頑張る…!」

 

びくびく、と体を震わせながら頷いたレジギガスを見てシンヤは頷いた。

 

「ついでにその辺のポケモンの健康診断して帰るか、レジ含む野生ポケモン諸君、並べー」

「(雑な呼び掛けだな…)」

「私も後ろに並んでこよう」

「は!?じゃ、じゃあオレも並ぶ!」

 

順番が回って来たミュウツーはデコピンをもらった。当然、ギラティナももらった。

 

*

 

伝説ポケモン保護団体とは。

伝説ポケモンが現れる、もしくは目撃されたと言われる場所を巡り異常が無いか確認し伝説ポケモンの安全を見守り保護する活動を行っているボランティア団体である。

 

その保護団体の一人である男はとある場所で発見したレジロック、レジアイス、レジスチルが住まう生息地に月に数回、異常が無いか確認するべく山奥へと足を踏み入れる。

その生息地にレジギガスがいつの間にか増えていて、男が特に気に掛けている場所でもある。

なんせそのレジギガス、ポケモンなのに人の姿に変わることが出来るのだ。ポケモンが人の姿になるなんて考えもしなかった男には世紀の大発見だが保護団体の一員として伝説ポケモンの身を守るのが第一。

世間に公表するなんて真似はしない、ポケモンが安全に暮らせる場所を守ることが勤め、伝説ポケモンを見付けたとしても興奮してボール片手に追い掛け回すトレーナーとは違うのだ。

最低限接触はしない、それが彼のポリシー。

 

「い、いつも心配して来てくれてっ、あ、ありがとう…!あ、あの…優しいあなたと、お話…したいんですっ」

 

足を踏み入れた途端、待ってましたと目の前に立たれて真っ赤な顔で言われた言葉に脳内で理解が追いつかない。

とりあえず、いつも通り聞かなかったことにしよう。そうしよう、オレのいつも通りのコースを見回りして異常が無かったら帰る。これだけだ。

 

「……」

「……っ」

 

待って、とか何か後ろで聞こえた気がしたけど気のせい。そう気のせいだ。

いつも通りの見回りをしていれば野生のコリングがオレの足にタックルをかまして来た。地味に痛い。

 

「痛ぇ~、なにすんだよ…」

「うー!」

 

何かくわえている。

ピシッとしたビニール袋に入れられた、手紙?

男は首をかしげつつコリンクの口からソレを受け取った。受け取ったのを確認したコリンクは満足げに鳴いて仲間のコリンクと茂みの中に消えて行く。

 

「え、これ、開けて良いの?」

 

でも、オレに渡してきたしな。と思いつつ男は袋を剥がし中の手紙を取り出す。封筒に書かれている文字を読んで男は目を見開いた。

 

『レジギガスが住まうこの場所に月に数回訪れるという人へ』

「完全にオレだ!」

 

思わず叫んだ男は独り言も気にせずに「なんで?なんで知ってるの?こわい!」と震えながら手紙の封を開けた。

 

『はじめまして。野生ポケモンから手紙を上手く受け取ってくれたようで良かった。

私はポケモン専門医です。ポケモンセンターに来れない野生ポケモンの治療を主に行っています。

今回、レジギガスの調子が良くないらしいとレジギガスの知り合いから依頼され、この地へ来ました。

私が診察したところレジギガスの健康状態は良好で何も問題はありません。ただ月に数回この地に訪れるあなたと友好的に接する事が出来ない事から酷く悩んでいるようです。

他の野生ポケモンには友好的なあなたが自分に対してだけ友好的ではない、名前も教えてもらえない、嫌われているのではないかと。

私の予想するところ、あなたはポケモンの保護を目的とする人物とお見受けします。

むやみに野生ポケモンに近付かないことは決して間違いではありません。

 

しかし、ポケモンの中には人の姿になれる子達が存在します。ポケモンが人の姿になり自分がポケモンであると伝える行為はその相手を信用しての行為でもあります。

あなたに言葉を伝えたい、そう思ったからこそのレジギガスの行動をどうか否定せず受け取ってあげてください。

もし、レジギガスや野生ポケモンについて相談がある場合は連絡を頂ければ対処します。あなたとレジギガスが仲良くなれることを願っています。

ポケモンドクター シンヤより

連絡先.××××-××××× 』

「………は?」

 

手紙を読み終わった男はもう一度手紙を最初から読んだ。二度三度読み返しても最後にはシンヤという名前が書かれている。

は?と間抜けな声が自身の口から出ようとも気にならなかった。

 

「ポケモンドクター、シンヤ…?シンヤって、あのシンヤさん?マ、マジで…?」

 

え、連絡先とか書いてるんだけど…!と震える手で手紙を綺麗に封筒に戻し、男はいつもの見回りコースから踵を返してレジギガスのところへと走った。

 

「レジギガスゥウウ!」

「…え!え!?」

「急にごめんな!ちょっと確認したいんだけど!この手紙のシンヤさんってあのシンヤさん!?お前の知り合いから依頼されて診察に来たってなに!?」

「シンヤは、おれの様子を心配したアルセウスがシンヤに診てくれって頼んだみたいで…」

「アルセウス!?!?」

 

とんでもないポケモンの名前出て来てる!と頭を抱えた男の顔をレジギガスは恐る恐ると覗き込む。

 

「あ、あの…」

「オレはな!オレは、伝説ポケモンの保護を目的として活動してる団体の一人なんだ!お前達みたいな珍しいポケモンが安全に暮らせるように見守ってる!だからその安全な環境を脅かさない為にもオレは伝説のポケモンとの接触はしないように心掛けてるんだ!

決してお前のことが嫌いで避けてるわけじゃない!」

 

そう男が言い切るとレジギガスは目からぽろりと涙を零した。

 

「おおい…っ、デカイ図体して泣くなよ…!なんだよ!」

「嫌われて、なくて、良かった…!」

「(ひぎぃいいい!ギャップやべぇええ!)」

「おれと、友達になってください…っ」

「……え!?…ぁ、えっと………はい…」

 

返事をして頷いた男を見たレジギガスは男を力強く抱き締めた。

ぐあ!力ハンパねぇ!と男が苦しげに声を漏らすも喜びに感極まるレジギガスには聞こえていない。

 

 

男はポケモンが大好きだ。

ポケモンが大好きだからこそ、悪事を企む者から特に狙われやすい伝説ポケモンの住処を守ってやろうと思い保護団体の活動を行っている。

捕まえて有名になろうなどと思っているわけじゃない、平和に幸せにポケモンが生きていけることを願っている。

だから、彼は心に決めていた。

自分は伝説のポケモンを見付けたからといって興奮しボール片手に追い掛け回す真似はしない、伝説のポケモンとは最低限接触はしない。

それが彼のポリシー、だった。

 

「シンヤさんにオレは連絡すべきなのか!レジギガスと友達になりました!って連絡すべきなのか!」

「あ、あのさ…っ」

「やばい、どうしよう!オレとんでもない人から手紙貰った…!やべぇ!字めっちゃ綺麗で感動する!この番号の並びがなんだかもう神がかって見える…!うわあ…、レジギガス!オレどうしよう!」

「……名前、教えてくれよっ!」

「そんなもん今はどうでも良い!レジギガス、お前電話掛けて!頼む!オレ、震えて無理だから!番号押して!これ!………圏外だここ!」

 

男の反応にしょんぼりしたレジギガスは大きな体を縮こませる。

携帯を目一杯振って、ダメだ!と叫んだ男はレジギガスの腕を掴んだ。

 

「レジギガス!頼む!オレと一緒に電波入るとこまで来てくれ!」

「…!!!!お、おれっ…何処にでもついて行くよ…っ!!」

 

彼が伝説のポケモンを連れて各地を巡る日はそう遠くない。

 

*

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