そろそろ閉めようかな、というマスターの言葉にトゲキッス達は片付けを始める。
マスターの腕の怪我が良くなるまでは店も休みがちになってしまうのだろうか、今日は都合が合わなかったけど、せっかくの機会だからサマヨールさんにもお店に出てもらって修行を兼ねても良いんじゃないだろうか。
そんなことを考えながらトゲキッスがテーブルを綺麗に拭き終わった。
「まいどですー」
その声と共に店に入って来た男は帽子を脱いでペコリとお辞儀をした。
「ご苦労様ー、注文してた奴かな?」
「ポケモンショップからですよ~」
「おお!来たかー!」
待ってたよー!とマスターがハンコを片手に男へと近付いていく。
どちら様ですか?とチルタリスがピジョットへと聞けばピジョットは「郵便屋さんですよ」とニコリと笑う。
反転世界に住まう主の所には絶対に来ない人間なので新鮮だとチルタリスはふむふむと頷いた。
「ありゃ!マスター、腕どないしはったんです?」
「昨日の夕方に階段から転げ落ちて折れちゃったんだ~、ポッキリとね~」
「あらま~そら災難やわぁ…、あ、ハンコここで」
「色々と不便で困っちゃうよ~、はい、ハンコっと!」
「利き手ならそらそうですわな~、おおきにです~」
はい、と郵便屋が荷物をマスターに手渡す。
小さい荷物を受け取ったマスターはニコリと笑った。
「それにしても、いつも果実店とかからの重たいもんが多かったのに、今日は軽いもんでびっくりしましたわぁ」
「ふふーん、実は俺もポケモンをゲットしようかなぁと思ってさ~。買っちゃったんだ、ゴージャスボール!」
「マスター、ポケモン持ってなかったんですね…」
「うん、初挑戦!」
「はぁ~、ゴージャスボール何個買うたんですか?なかなかお高いでしょあれ」
「一個だけど?」
「「「…え!」」」
郵便屋とトゲキッスとピジョットの声が重なった。チルタリスはこてんと首を傾げる。
「い、一個て!マスター!一発勝負とか賭けにですぎですわそれ!」
「え?ど、どういうこと?ボール投げて捕まえるんでしょ?俺、ポケモン一匹で良いんだけど!」
「いや、投げて捕まらん場合もあるし…。その場合ボールはパアになるもんなんですけど…」
「捕まらない場合もあるの…!?」
「うわぁ、知らん人とか居るんやぁ…」
郵便屋の言葉にマスターは「えぇー」と悲しげに声を漏らした。
「そもそもポケモン持ってへんから弱らせることも出来ひんやないですか、難易度高っ!」
「そうなの!?」
どうしよう!と荷物を抱き締めたマスターに「はい!」とトゲキッスが手をあげる。
「俺、協力しますよ!捕まえられなかった場合も大丈夫です!シンヤがゴージャスボール持ってますから!貰ってくれば大丈夫です!」
「キッスくん…っ!」
「そもそも、ボール買わなくてもシンヤに言えば沢山持ってますよ!シンヤ、ポケモンゲットしないんでいっぱい家にあります!」
「え、じゃあ、注文しなくてもシンヤさんの所から買えば良かった…!わざわざ送料払ったのに…!」
くそぅ、とマスターが悔しげに顔を歪めた。
いや、シンヤはお金取らないと思いますけど…とトゲキッスが苦笑いを浮かべる。
そんな二人を交互に見てから郵便屋がおそるおそる声を掛けた。
「そのシンヤさん、って…今、ポケモンドクターやってはる言うシンヤさん…?」
「そうだよー」
「じゅ、住所教えてもらえますか!?荷物届けたいって連絡はたくさん来るんやけど住所知らんもんやから局で対応に困っとるんですわぁ。シンヤ様宛!ってだけで荷物が名無しで送って来てるのなんかどうしたもんか!
ジョーイさんから噂は聞くんやけど、誰も住所知らん言うし…各地方の別荘なんかなぁ…、その場所聞いて行っても野生ポケモンいっぱい居るだけで…」
「うーん、個人情報だから住所は教えられないけど、シンヤさんには伝えてみるよ。もしかしたら荷物引き取りに行ってくれるかもしれないし」
「ホンマですか!来てくれるんやったら一番手っ取り早いですけど、めっちゃ多いんで!声掛けてくれたら総動員で荷物運ばせてもらいますから!よろしくお伝えください!」
やったー!と両手をあげた郵便屋。マスターが苦笑いを零す後ろでトゲキッスとチルタリスが顔を見合わせた。
「あの…、多分、それシンヤは受け取らない荷物だと思います…」
「「へ!?」」
「シンヤへの本当に必要な荷物はツバキ博士経由になってるんでその郵便局にある物は全部受け取らないと思います。ジュンサーさんに連絡してもらえれば対応してくれると思いますよ」
ちなみに大体のポケモンセンターに来た荷物は即廃棄です。とトゲキッスが困ったように笑って言った。
「ジョーイさんが知った名前だったり届けたい荷物ならシンヤに他のジョーイさんを経由するなりして連絡が来ると思うんですけど。そういうのじゃないのは一切バツです」
「うわぁ、シンヤさん大変なんだねぇ…」
「え、じゃあ、あの荷物処分しても良えってことですよね?それはそれで!受け取る側の本人さんの了承頂ければ!こっちでバンバン処分させてもらいますよ!ほんま多いんで!」
本人の了承が必要なんですね、とトゲキッスがふむと考える。
「まだ帰ってない、かな?」
「どうでしょう?お家に一度電話して確認致しましょうか?ミロさん達はもうご帰宅されてると思いますし…」
トゲキッスの言葉にチルタリスが返事をする。
電話掛けて確認してみますね、と笑ったトゲキッスに郵便屋はコクコクと頷いた。
「マスターさん、お電話お借りします!」
「うん、どうぞ!…っていうか電話番号!俺にも教えて!昨日、連絡するのに困ってどうしようかと思ったんだからね!まあ、ジョットくんが川に叫んで来いって言うから叫んでみたら繋がったんだけど!」
「あ、あとで連絡先お渡し致します…!」
「(川に叫ぶて…どういうことやねん…)」
郵便屋が店の椅子に座りながら心の中でツッコミを入れる。
川に叫ぶマスターを思い浮かべて、シュールやわぁと一人ニヤりと笑った。
もう閉店にしますよ、とピジョットが外へと出て扉の看板を「OPEN」から「CLOSED」に変えた。
「お兄さーん!ただいまー!」
「ああ、おかえりなさい」
「仕事終わりの一杯を貰おうか…!」
「ふふ、ミックスジュースですか?」
「フルーツ多めで!」
ピジョットのご主人である男がネクタイを緩めながら店へと入る。それに気付いたマスターが「お疲れさまー」と明るく声を掛ける。
「あー、この前、リザードンから派手に落っこちてた人やないですかー。まいどですー」
「げ!郵便屋さん…よりにもよって何故、アナタが…!」
「ボクは連絡待ちで、待機中ですわぁ」
なんの連絡?と思いつつ男はピジョットが用意してくれたミックスジュースを受け取ってズズズと啜る。
「いつリザードンから落ちたんですか…」
「え…!?いやぁ、この前、ちょっと空を飛ぶ練習をねぇ~、まあ、全く問題は無かったんだけど~」
言ったら怒られるからあんまり言いたくないなぁと誤魔化す自分の主にピジョットは眉を寄せた。
店の奥に電話を掛けに行っていたチルタリスが戻って来た。どうだった?とマスターが聞くとチルタリスは首を横に振る。
「まだ帰って来てないそうです、こちらから電話を掛けさせて頂きたいので郵便局の電話番号を教えて頂けますか?」
「じゃあ、…あ、でもあれやな、局に直接やとボクが事務の子みんなに言うとかなアカンのか…。ボクの携帯でも良えですかね?ボクが対応して上に直接言うときますんで」
「はい、都合の宜しいご連絡先で大丈夫です!ご主…じゃなくて、シンヤ様から直接お電話があると思いますので宜しくお願い致します」
「…アカン!今、考えたら!ボク、シンヤさんと直接話すの緊張してまうやん!めっちゃ噛み噛みになって失礼なこと言うてもうたらどないしよ!マスター!」
ぎゃぁ!と悲鳴をあげた郵便屋の肩をマスターがポンと叩く。
「大丈夫!シンヤさん、そんなことを気にする小さい男じゃないから!」
「他人事やのにその自信!相当やないですか…!」
知り合いやからって!自慢げにー!と怒る郵便屋にマスターはドヤ顔である。
あの…連絡先教えて下さい…、とチルタリスにしょんぼりと言われて郵便屋は慌てて紙に自分の連絡先を書いて手渡した。
「では、伝えておきます」
「はい、お願いしますー」
ペコリと頭を下げたチルタリスに郵便屋もペコリとお辞儀をして返す。
電話鳴ったら絶対に出らな、と郵便屋は心の中で固く決心をした。
「え、あの子、だれ?」
「手伝いに来てくれてるチルくん、奥にキッスくんって子も居るよー。あとヨルくんって子も最近お手伝いに来てくれるようになったんだ」
「俺が知らない間に…!」
「ジョットくんの知り合い」
「お兄さんの!?俺、聞いてない!」
うわぁん、酷いよ!除け者にしてぇ!とピジョットに抱きつく男を無視して郵便屋は「ほな、仕事に戻ります!お邪魔しましたー!」と頭を下げて店から出て行った。
「ご苦労様ー」
「お兄さんの知り合いってぇぇ…」
「うん、噂のシンヤさんの所のポケモンくん達なんだけどね」
「………お兄さんの知り合いすげぇえええええ!!!」
なにそれ!なんで教えてくれなかったの!酷いよ!と怒る自分の主に困ったように笑みを返すピジョット。
俺の分もサイン貰って来て下さい(はーと)、と可愛くおねだりする主にピジョットは笑顔で返事をする。
「ダメです」
「うえぇぇぇ…!」
電話を終えて戻って来たトゲキッスが泣き崩れる男を見て大慌てするがピジョットはずっと笑顔だった。
「(リザードンくんと密かに飛行練習したの根に持ってるなアレは…)」
「うえぇぇえん!」
「だ、大丈夫ですか?どうしたんですか!?」
「キッスくん、大丈夫なので放って置いてあげて下さい」
「え!な、なんで笑ってるんですか…!」
「わ!誰か泣いてらっしゃいます!チル、タオル持って来ますね…!」
男の嫉妬はこわいね~、とマスターは左手で折れた右腕をさすった。
*
「電話、誰だったー?」
ミロカロスの言葉にブラッキーが「チルとキッス」と返事をする。
「え、チルくんとキッスくんだったの?カフェで何かあった?」
「いや、カフェに来た郵便屋から郵便局にシンヤ宛の荷物が溜まってるって聞いたらしくってさー。
ほら、ポケモンセンターとかならジョーイさん強ぇから受け取らねぇし捨てられるしで大丈夫だけど、郵便局はそんなの知らないから一方的に溜まっていって困ってるんだって」
「へー」
「そんで、本人から処分しても良いって許可を貰えれば郵便局で勝手に処分してくれるらしいから、許可貰おうと思って電話掛けて来たみたい」
「そっか~、そのシンヤはまだ帰って来てないもんねぇ」
「郵便屋の連絡先聞いたからシンヤが帰って来たら、電話掛けてもらわなきゃな」
郵便局も大変だね、とヤマトが苦笑いを浮かべる。
じゃ、冷蔵庫に連絡先貼っとくから~と言いつつブラッキーが冷蔵庫にメモ用紙をマグネットで貼り付けた。それに分かったーとミロカロスが返事をする。
「あー!もう!遅い!」
バン、とテーブルを叩いたのはミミロップだ。
ポケモンセンターの留守番を無事に終え、戻って来たジョーイと交代してサナとヨルと共に帰宅してみれば、まだ主人は不在であった。
「カフェの方もすでに閉店してる時間だからな…片付けを終えたら二人は帰って来るだろう…」
「シンヤ、遅いですわね~」
「フィーに帰って来たら連絡するって言ったのに、こうも遅いんじゃ心配してるだろうなぁ…」
「何やってんだよっ!レジギガスそんな重病だったのか!?つーか、それならそれでギラティナの奴なんか連絡してこいよあの野郎~!」
やっぱ、シンヤに携帯持たせるべきだ。とミミロップが頬を膨らませる。
「持たせても鳴り続けてうるさいからって電源切ってカバンに突っ込まれるのが目に見えるからやめとこう、って言ったのミミローだろ…」
「ワタシ達しか番号知らないようにすれば良い気がしてきた…」
「いや、オレらだけでもめっちゃ鳴らすと思うけど」
「そうだよ!鳴らしまくるよ!うるせぇチクショー!」
心配なんだよぉお!とクッションを抱きしめて床を転がるミミロップを見てサーナイトが胸をときめかせた。
「(ミミローさん!可愛いですわ…っ!)」
「あははっ、ミミローくんは可愛いなぁ!」
「ヤマトォ!ぶっ殺すぞテメェ!!喧嘩売ってんのかぁああ!」
「えええぇぇええ!?!?」
「苛々するのは分かるが…ヤマトに当たるんじゃない…」
「むーかーつーくー!」
*
カフェの手伝いに行っていたトゲキッスとチルタリスが帰って来た。
しかし、主であるシンヤはまだ帰って来ない。
シンヤ不在のまま夕食を済ませ、時計を確認してみれば時間はもう20時になる頃だ。
痺れを切らせたらしいエーフィから家に電話があったが、ブラッキーは「まだ帰って来てないんだ」と答えるしかない。
エーフィと共に画面を覗き込んでいたノリコは「みんな過保護だねぇ」と笑ってエーフィに頬を抓られた。
エーフィから電話があって一時間後、21時頃にやっとシンヤは帰って来た。
診察に行くため着ていったシンヤの白衣はまさかの血塗れ、出迎えてくれた自分の手持ち達の悲鳴にシンヤはびっくりして仰け反り後ろに居たミュウツーと頭をぶつけた。
「痛っ!な、なんで叫ぶんだ、お前達…!」
「痛い…」
「あぁ、悪いミュウツー…大丈夫か?」
こく、と小さくミュウツーが頷く。
その後ろから大きなホエルオーのぬいぐるみを担いだギラティナがミュウツーを押し退けてリビングに入り床に寝そべった。
「あー!疲れた!」
「ギラティナ!寝転がるな!先に風呂に入って来い!ミュウツー、お前もだ!」
「走り回って汗かいたもんなぁ…」
「ギラティナと入ると狭いから嫌だな…」
「うるせぇ!…って、ツー、お前明るいとこで見たらめっちゃ血付いてんな…」
「…?おお、本当だ!」
「うわ!シンヤ、もっと血塗れじゃん!やべぇ!それ!」
「おおー…、これは叫ぶ」
仕方ないだろ!と怒るシンヤに追い払われてギラティナとミュウツーは風呂場へと向かう。
血塗れの白衣を脱いだシンヤは深く溜息を吐いて椅子に座った。
「疲れた…」
「シンヤ、怪我してない…!?」
「ああ、これは治療中に付いた血だから」
「レジギガスそんなやばかったわけ!?」
ミミロップの言葉にシンヤは首を横に振る。
「レジギガスは特に問題無かった。昼食を食べる為に街に寄ったらそこでミュウに会って、おもちゃ屋で寄り道して、さあ帰ろうかと思った時に近くで事故があってな…」
「そんな大きな事故だったんだ?」
「ああ、運搬トラックの運転手が居眠りしてたらしくて、歩道にトラックが突っ込んだんだ。
その歩道を運悪く通行してたトレーナーが居たんだが、そのトレーナーを庇ってアブソルが重傷を負った…。もう悠長にしてる暇なんてない…緊急の大手術で、この時間まで掛かった…」
疲れた…とガクリとテーブルに突っ伏したシンヤにヤマトは「お疲れさま」と声を掛けるしかない。
風呂に入って寝たい、と眉間に皺を寄せて言うシンヤに申し訳なさそうにブラッキーは言った。
「シンヤ~、郵便局にシンヤ宛の荷物が溜まって困ってるらしいよ」
「……処分してもらえ」
「本人からの許可が貰えたら郵便局で処分してくれるそうなので、これ連絡先」
「…うちには素直な良い子ばかりだ…」
嬉しいやら悲しいやら、と立ち上がったシンヤは連絡先の書いた紙を受け取って電話へと向かう。
「…?素直な良い子ばかりだ…ってどういうこと?」
「ああ!」
ポン、とヤマトが古めかしい閃いたのポーズを取った。なにそれ、ダサイとミミロップが小さく呟く。
「携帯の番号だったから、シンヤですけどー、って言って誰でも良いから電話掛けて許可出しちゃえば良かったね!」
「「「……!!」」」
「シンヤ!マジでごめん!オレが掛けるからー!」
「いや、ワタシ!ワタシ掛けとくから休んで!」
「シー!もう良い!すぐ済むから静かにしろ!」
ごめんなさい。ホントすみません。と頭を下げるブラッキーとミミロップに大丈夫とシンヤは片手をあげて示す。
相手の連絡先は携帯らしく画面に顔が映ることはない、疲れきった顔が映らないのは良いことだ。数回のコールの後、相手が電話に出た。
<「はい、まいどー。青空郵便ですー」>
「夜分に失礼します、シンヤと申しますが」
<「ふぉ!?こ、こんばんは!遅くまでお疲れさまでございます!」>
「…こんばんは、連絡が遅くなってしまって申し訳ない。郵便局に私宛の荷物が溜まっていると聞きましたが送り主不明の物など一方的な品は一切受け取らないようにしていまして…」
<「そらそうですわなぁ。最終の配達で行ったポケモンセンターでジョーイさんに確認のために聞いてみたら"そんなもの置いてたらポケモンセンターがゴミ屋敷になっちゃうでしょー!"って凄い剣幕で言われましたわぁ。ズイのジョーイさんやったんですけどねぇ、そらもう怖かった…!」>
「…!よりにもよってズイのジョーイに…!」
<「へ?なんや、お知り合いでしたぁ?」>
「まあ、私はズイ出身で長い付き合いなんだ…残念なことに」
<「それはそれは!シンヤさんがそう言わはるんやったらズイのジョーイさんはよっぽど…!いや…っ、これ以上はこわいから言わんようにしますわ!」>
「ああ、バレると後がこわいからな、まあ何処のジョーイも基本的に恐ろしいが」
<「シンヤさん何処のジョーイさんとも仲良しちゃいますの?ジョーイさんとお喋りしてる時にシンヤさんの名前出て来るもんなら、もう食いつきがちゃいますからねぇ!えー、シンヤさん?何?どこかで見掛けた?見掛けたら連れて来て!って引っ張りだこですやん!」>
「仲良しじゃない…。私は野生ポケモンの専門医なんだぞ!捕まえれば仕事を押し付けられると思ってあのジョーイ共は…っ、私を見掛けても絶対にジョーイに報告しないでくれ!これでも私は忙しいんだ…」
<「あらぁ、お労しいわぁ…!下手なシンヤさん情報は口に出さんようにしときます!でも、シンヤさんやっぱりお忙しいんですねぇ、いつも帰りこんな遅なりますの?」>
「いや、今日は出先で事故現場に居合わせてな…。普段はそんなこと無いぞ」
<「じゃあ今日は普段よりお疲れモードやないですか~!あー、アカン、ボクお喋りやからついつい長話してしまうんですわ!お疲れのシンヤさん付き合わせたら申し訳ない!」>
「いや、なかなか聞いてて楽しい。疲れてたが少し気が紛れたよ、ありがとう」
<「ほんまですか…!いやぁ、シンヤさんにそんな風に言うてもらえるなんて夢のようですわ!ほんで、あ!荷物!荷物の件でしたね!」>
「ああ、私宛の荷物は処分してもらえるか?」
<「はい、勿論!あ、こんな返事してもうたら送り主に申し訳ないですけどねぇ!でも、ほんま、ぎょーさん来るんですわぁ!名無しで住所も書いてへんから送り返すことも出来んのがたっくさん!」>
「まあ、昔からよくあることだからな。食べ物で腐ってる場合もあったから早めに処分してくれ。怪しい物があったらジュンサーさんの方に連絡してくれれば大丈夫だから」
<「了解しました!しっかり上に伝えておきます!」>
電話を掛けて数十分、すぐ終わると言ったのにまだ通話中の主人を見てブラッキーは首を傾げる。
さっぱりしたー、と風呂から上がったギラティナとミュウツーがリビングで各々くつろぎだす。
二人が出たからシンヤも入ってくれば、と声を掛けたいのだが珍しく長話中の主人の姿にどうしたものかと眉を寄せた。
「シンヤ、いつまで話してんの!?何?モメてる?」
「いや、めちゃくちゃ楽しそうに何か喋ってる…」
はあ?と困惑した表情を浮かべたミミロップを見てからブラッキーはちらりとシンヤの姿を見る。
「頼んだら荷物を取りに行ってもらうことって出来るのか?…ああ、いや、荷物送りたいって連絡があったんだが遠くて…。オレンジ諸島らしいんだが…、え、大丈夫なのか!?」
*
晩ご飯の買い物に行く途中だった。
今日の飯、何にする?なんて会話をしていたらお前が急に俺を突き飛ばして、俺は吹っ飛ばされて道に転がった。
いつもの嫌がらせだと思ったのに、凄い音がして、悲鳴がして、振り返ったら真っ白のお前が、真っ赤に、
「ああああああああ!!!!」
アブソル!アブソル!アブソル!
なんでだよ、どうして、いつも、こんなこと、してくれないくせに…!いつも助けてなんかくれないくせに…!
「アブソルッ!しっかりしろ!アブソルッ!!!」
真っ赤になったアブソルにしがみつく、まだあたたかい、生きてる、まだ…!
「助けて…っ、誰か、俺の、…っ!!」
ポケモンセンターに連れて行かなきゃと思っても体が動かない、目の前が霞んでよく見えない、声も上手く出せない、
「退け!」
俺を押し退けて誰かがアブソルに触った。
「まだ息がある!ツー、止血だ!」
「分かった!」
真っ白な服を着た二人がアブソルの体を押さえてる。
白い人、お願い、アブソルを、
助けて下さい、と声に出せなくて、真っ白の背中を掴んだ。
*
おもちゃ屋で買い物もしたし、反転世界に帰ろうかと人混みを抜けようとシンヤ達は歩き出す。
先にホエルオーのぬいぐるみを反転世界に置いて来たのだと笑うギラティナを先頭にして歩いていれば蛇行する運搬トラックがシンヤ達の横を通り過ぎる。
なんだ?と目で追えばトラックは後方の歩道に突っ込んだ。
シンヤ達の目の前で、シンヤ達の後ろを歩いていたトレーナーをアブソルが突き飛ばし庇った。
物凄い音がして、トラックが突っ込んだ衝撃にガラスが辺りに飛び散る。
咄嗟にシンヤの前に出てミュウツーがガラス片からシンヤの身を守り、ギラティナがシンヤの体を抱き竦める。
突然のことに呆然としていたシンヤは叫び声に我に返る。
「アブソルッ!しっかりしろ!アブソルッ!!!」
そのトレーナーの声にシンヤはギラティナの肩からカバンを掴み走った。
「退け!」
血に染まるアブソルを抱きしめて泣くトレーナーを押し退けて、シンヤはすぐにアブソルの呼吸を確認した。
「まだ息がある!ツー、止血だ!」
「分かった!」
カバンからタオルを出してミュウツーとシンヤがアブソルの体から溢れ出る血を止める為に押さえ付ける。
シンヤの背にしがみついていたトレーナーを引き剥がしたギラティナは「あぁ?」と声を漏らす。
「シンヤ、コイツ気絶してる!」
「このアブソルのトレーナーだ!大きな怪我が無いなら担いでポケモンセンターまで連れて行け!で、担架持って戻って来てくれ!」
「わ、分かった!」
トレーナーを担いだギラティナがポケモンセンターまで走る。
「シンヤ…!心肺停止した…!」
「…ッ!ツー、呼吸補助を!」
「呼吸補助器セット」
「行くぞ!1.2.3.4.5…」
ギラティナが担架を持って戻って来る。
すぐにアブソルはポケモンセンターに運ばれ、緊急手術となった。
「ジョーイ、なんでラッキーが一匹しか居ないんだ…!最低二匹だろ!」
「今日は別のポケモンセンターにお手伝いに行ってるんです!応援に急遽他のラッキー達も呼びますけど!ガラス片で傷ついたポケモンが多いんです!アブソルは任せましたよ!」
「ツー!私達でなんとかするしかなくなった!輸血バッグ引っ張り出して来い!」
「分かった」
「ギラティナ、怪我したポケモン運んで来てくれ!」
「行ったり来たり上等だチクショー!」
*
目が覚めたらポケモンセンターのソファの上だった。
怪我をしたポケモンが手当てされて床で眠っている。とても、静か、だ。
「俺の、アブソル…は…っ?」
情けない声と涙が出た。
近くに居たラッキーにアブソルのことを聞くとラッキーは俺の手を引いて案内してくれた。
俺に気付いたジョーイさんが笑った。
「目が覚めたのね、シンヤさんからアナタがトレーナーだって聞いてるわ」
シンヤ、さん…?
「アブソル、アナタのことを庇ったんですってね」
ジョーイさんの言葉に頷く。
いつもは、そんなこと、しないんです、いつも、俺が不幸な目にあっても、笑ってるような、やつで…、
「危険な状態だったけどもう大丈夫」
「だいじょ、ぶ…?」
「ええ、シンヤさんがちゃんと治していってくれたから!大丈夫よ!」
今日はここで二人共ゆっくり休んでね。とジョーイさんに背を押されて部屋に入った。
ベッドが二つ並んだ部屋、片方にはアブソルが寝てる…。
「おやすみなさい」
「…」
ぱたん、と扉が閉まった。
「アブソル…、生きてる、か…?」
「………ァブ…」
「…っ、良かった…!お前、らしくないことすんなよ…!バカヤロー!」
「……」
その日はわんわんと泣いてうるさい俺に、アブソルは何も言わなかった。いつも、怒るくせに、
(予知してた災いが思ったより酷くて、これじゃ死んじゃうと思ったんだ、だから助けた。死なない程度に予知するって約束してたからさ)
そう言ったら、僕を治してくれた医者は「ひねくれてるのは治せない」って笑ってた。
*