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「…」
「…」
「…」
「…」
グラスに入れられた真っ赤な飲み物を前に固まるミロカロスをシンヤ、カナコ、イツキが見つめる。
目の前に毒々しい赤、決して嫌いな色ではない、むしろ大好きな色なのだが、如何せん、ニオイがキツイ…。
真剣な目でグラスの中身を見つめるミロカロスが何も言わないものだから、シンヤ達もどうしたものかと固まった。
シンヤへ、ジラルダンから荷物が届いた。
カフェでそれを受け取り中身を確認すれば、これがなかなか上等な赤ワイン。
マスターへお裾分けしてからシンヤはミロカロスを連れて実家へと出向き、両親にワインを振る舞ったわけだが…。
「ミロ、無理に飲まなくても良いんだぞ…?」
「そ、そうよ?お酒が苦手な子なんていっぱい居るもの」
「なんならお父さんが代わりに飲んでやるぞ?ん?」
「…飲むもん…」
「「「……」」」
三人でわりと楽しく飲んでいたらミロカロスが拗ねた。
じゃあ、どうぞ?と注いでやったらそのニオイに顔を歪めてからというもの、ミロカロスが動かなくなった。
そして気を利かせて声を掛けてやるも本人は意地になっていて、飲むと一点張り。
見てるこっちがドキドキソワソワするから飲むなら早く飲んで欲しい。
三人の気持ちは同じだった。
ミロカロスがグラスを掴んで持ち上げる。お、と小さくイツキが声を漏らした。
ぷるぷると震えながらワイングラスに口を付けたミロカロスはそのまま目をぎゅっと瞑ってグラスを傾ける。
こくん、とミロカロスの喉が動く。
そのまま眉間に皺を寄せたミロカロスがグラスを口から離して…。
「うえええええええ…!」
「きゃああああ!」
「……」
「ははははははっ!」
ミロカロスの口から真っ赤なワインが零れ落ちる。
それに悲鳴をあげたカナコが「ティッシュ!ティッシュ!」と慌てて立ち上がり、隣に座っていたシンヤは眉を寄せて自分のワインを飲み干し、イツキは涙が出るほど笑った。
「不味い、不味いよぉ…っ」
「ミロちゃん!ほら、お口拭いて!」
結果、ミロカロスは酒が飲めず。
チーズを齧り、ワインを飲むシンヤを見てミロカロスは何が美味しいのかと顔を歪め口を尖らせたのだった。
*
「っていうことがあった!」
「だからなんだよ」
家に帰宅後、仲間達を集めて経緯を説明したミロカロスはシンヤに貰って来たワインをドンと床に置く。
話を突然聞かされたミミロップは本から視線をあげてミロカロスを見やる。普段見ない真剣な顔に「こいつやっぱりアホだな」と内心思った。
「ポケモンだから!俺様はワインが飲めないんじゃないかと思ったんだ!だからミミロー達も飲んでみて!美味しいかどうか!」
「えー…それでわざわざシンヤからワイン貰って来たのソレ?良いワインなんだろ?シンヤに飲ませてやれよ…」
「いや、みんなにも飲ませたいって言ったら良いぞってくれた」
「…良いワインなのに…!」
ワタシ達の為に分けてくれたのか…!と感激したミミロップは本を閉じてワインに手を伸ばした。
シンヤがそう言ってくれたなら飲まないわけにはいかないだろう、ここはとっても美味しかった!ありがとうシンヤ!とお礼と感想を主人に伝えねばならない。そんな決意を抱いたミミロップがグラスにワインを注いだ。
それを見て、エーフィが手を伸ばす。
「ちょ!本当に飲むつもりですか!?」
「飲むよそりゃ。シンヤがくれたんだから、お前、シンヤからの酒が飲めないわけ?」
「ぅ、そ、それは…」
ここにシンヤが居たのなら「無理に飲めとは言わないぞ…」と呆れるところだがそのシンヤは居ない。
シンヤを物事の中心に考えるシンヤの事が大好きなポケモン達しか居ないのだ。
「オレ…前にカクテル飲んで、チルに襲いかかった挙句、キッスにチューしちゃったことあるんだけど…」
「ああ…自分がシメ落とした時だな…」
「その節は大変申し訳ございません…。って、オレは飲みたくない!次の日、頭痛くなったし…!」
「チルはお酒飲めるでしょうか…?」
「どうだろうね、俺も飲んだことないから分からないけど、シンヤからって事なら一口だけ貰っておこうか?」
「…そうですね!一口だけ頂きます!」
「マジで!?みんな飲むの!?…えー、じゃあ、オレもちょっと飲む…」
「ワタクシ、ワイン美味しく飲めますわよ?ジョーイさんも軽く飲む人でご一緒させて頂きましたの」
美味しく飲めるだと!?と驚いたミロカロスがサーナイトを凝視する。
「何処が美味しいんだよ!変なニオイで変な味だったのに!」
「え~、良い香りですわよ?口の中でふわんと香りが広がるのがまたなんとも言えませんわ~」
「うげぇ…」
はい、はい、はい、と人数分ワインを注いだミミロップがグラスを配る。
回って来たグラスを手に「え」とミュウツーが固まった。
「酒は成人してないと飲んではダメだと本で読んだ」
「お前、生まれて何年だよ…」
「20年は経ってないと思う」
よく分からない。と首を傾げたミュウツー。
その隣で寝転がっていたギラティナがグラスを傾け、中身を飲み干した。
「酒を美味いと思ったことはねぇ、けど、酒に負けたこともねぇ」
なんかカッコイイ…!
ミロカロスが目を輝かせてギラティナを見つめた。
「じゃあ、全員!シンヤからの酒だ有り難く飲め!カンパーイ!」
もう飲んじまったよ、とギラティナが呟く。
カンパーイと同じように言ってグラスを傾けた連中をミロカロスはじっと見つめた。
*
「…ん、なかなか…」
「まあ!このワイン美味しいですわ~!」
「意外と…、美味しいですね…!」
「俺はあんまり好きな味じゃないですけど…、チル平気?」
「はい、平気です!なんだか大人の味がします!」
うん、と頷いたサマヨールに続いてサーナイトが笑顔を浮かべ、乗り気じゃなかったエーフィは「これは、いける!」と目を輝かせた。
美味しくない、とグラスを置いたトゲキッスの横でチルタリスがニコニコと笑う。意外といける口らしい。
「味はなー、まあ、好きなんだけど…。これで飲み過ぎたら痛い思いするの知ってるからなぁ」
ブラッキーが眉を寄せてグラスを置いた。飲み過ぎのトラウマである。
「美味い…!」
「ツー、お前結局飲んだのか」
香りが良い!とご機嫌なミュウツー。おそらく、未成年。それを見てギラティナが苦笑いを浮かべた。ちなみにどう考えても最年長。
そして、率先してワインを飲んだミミロップは自分の口を手で押さえて苦い顔。
「………」
「な?不味いだろ?な?」
ミロカロスの言葉にコクコクと頷いた。
シンヤからの酒とはいえ…飲めたもんじゃねぇ…!と一人、トイレに駆け込んだのだった。
*
ご機嫌取りにジョーイにワインを差し入れに行っていたシンヤが家に帰るとリビングではチルタリスが用意したのかツマミ系の料理をもぐもぐと食べるギラティナが出迎えた。
「おかえりー」
「た、ただいま…。どうしたんだ、これは…」
ギラティナの背中にしがみついているミュウツー。
ソファに並んでサーナイトとエーフィがケラケラと笑っているし、その二人の向かいのソファではブラッキーが真っ赤な顔で仰向けに眠っている。そして、ミミロップが床にうつ伏せで倒れている…。
「あ、シンヤおかえりなさい!すぐに片付けますから!」
リビングへと扉を開けて入って来たトゲキッスは、慌ててテーブルに並ぶ空になった皿を重ねはじめる。
何事だ?とギラティナに視線をやればギラティナは困ったように笑った。
「ワインをな、みんなで飲んだんだよ」
「ああ、ワインな。それは良いんだが…」
「あそこでご機嫌な二人は今もう何言っても笑うし、ミミローは一口飲んだだけで気持ち悪くなったらしくてゲロゲロ。チルがほろ酔いで気持ち良くなってツマミをいっぱい作ってくれたんだけど、途中で寝た」
「俺がニ階に運びました…」
あはは、と苦笑いを浮かべたトゲキッス。ちなみに俺は一口しか飲んでないですと付け足した。
「で、ツキは飲みたくないって言ってたんだけどご機嫌な二人に捕まって無理やり飲まされ潰された」
「(可哀想に…)」
「サナとフィーと同じくらい結構飲んでたヨルが強くてさ、二日酔いするであろう連中の為にミロ連れて薬買いに行った」
ああ、うちにはそういう薬は無いからな、とシンヤが頷く。
「そんでコイツもわりと飲んだんだけど、酔うとガキみてぇになるのかくっついて離れない」
これ、と自分の背中を指差したギラティナ。
起きてはいるらしいミュウツーがべったりとギラティナの背にくっついて野菜スティックのにんじんを齧っていた。
「めっちゃ背中温い」
「ギラティナは飲んでないのか」
「酒好きじゃないし、ま、飲んでも酔わねぇけど」
ギラティナの言葉に頷いたシンヤがトゲキッスの手伝いをするべくテーブルの上のゴミをまとめる。
全く仕方ないな、と小さく溜息を吐けばシンヤの存在に気付いたのかギラティナの背にくっついていたミュウツーが静かにシンヤへ近づいた。
「…」
「…なんだ」
「……」
ぴと、とシンヤの腕にしがみつくミュウツー。
それを無言で見つめたシンヤはギラティナへと視線をやる。
「コイツ…、なかなか酔い方が可愛いな…!」
「だろ~!」
面白い!とシンヤとギラティナが笑った。
可愛いけど邪魔だ、とミュウツーを引き離そうとしているシンヤに気付いたサーナイトが手に持っていたグラスを高々と上げた。
「シンヤ~!おかえりなさいまし~!」
「シンヤさん!こっち!こっち来て下さい!」
きゃっきゃっとハシャぎ手招きするサーナイトとエーフィ。
第二の犠牲者は決まったとギラティナがシンヤから視線を逸らした。
離れないミュウツーをくっつけたままブラッキーを横にずらしてシンヤは二人の向かいのソファに座った。
ぐったりとするブラッキーの様子を見てからシンヤは向かいに座る二人を見る、なかなかに酒が回って二人共顔が赤い。
「シンヤ!どうぞですわ!はい!どうぞ!」
「ああ、ありがとう…」
グラスにワインを注がれてシンヤは渋々受け取る。人数が居るから、と思って三本もミロカロスに持たせるんじゃなかった…。シンヤは心の中で溜息を吐く。
まさか、全部飲むなんて…。
「シンヤ、聞いて下さいまし~!」
「…」
「ジョーイさんが、最近ちょっと酷いんですのよ!」
アイツはいつも酷い、と思いつつシンヤは相槌を打つ。
ワタクシに重たい荷物を持たせますの!ジョーイさんが持つくらいならそりゃ持ちますけど!やっぱり、男の子ねぇ~なんて言われるのは心にグサッときますの!
どう思います!?とサーナイトに返答を求められてもシンヤは「いや、男だしな…」と思うだけだった。
「ジョーイさんの中でワタクシ、男として認識されつつありますわ…っ!いやー!そういえば最近、可愛い~って言ってくれなくなりましたわ!頼もしいわ~ってよく言われてる気がしますの…!」
どう思います!?とバンバンとテーブルを叩くサーナイト。お前、さっきから私の返事を聞く気がないじゃないか。まだ一言も発してない。と思いつつシンヤはワインを飲む。
わんわんと嘆くサーナイトの横に座っていたエーフィが「シンヤさん!」と声を張り上げる。
「聞いて下さい!」
お前もか。
「ノリコなんですけどね!そもそもセンスが無いんですよ!」
技の演出を考えさせても!無理難題をポケモン達に言いますし!ノリコの頭の中のイメージを聞けばキラキラーってなってそのあとバーン!みたいな!とか抽象的過ぎて!もうね!シンヤさんの妹ですけど!言わせてもらいますが、あの子!頭悪いんですよ!
センスゼロ!あとコンテストドレスのセンスもゼロ!テーマ、宇宙!とか!頭に触覚付けてる時点で、宇宙じゃなくてエイリアンですよ!あれは!
バンバンとテーブルを叩いて怒るエーフィ。
「すまん…」
「シンヤさんから言ってやって下さい!そもそも技演出の構成からドレスまで用意してあげて下さい!私の言うこと聞いてくれないんですよ!これは私のポリシーだから!ここはだけは譲れない!とか言って!教えてくれ!見てくれ!と言っておいて口を出しても言うこと聞かないんですよ!?
あー!もうあの辺りが凄く頑固なシンヤさんの妹って感じです!自分がこう!って思ったら全然譲ってくれないんですもん!私もね!シンヤさんが相手なら良いんですよ!?シンヤさんならね!」
「……」
サーナイトは泣き喚いているし、エーフィはブチ切れているし…。
聞いてますの!?聞いてますか!?と二人に詰め寄られてシンヤはこくこくと頷く。
ブラッキーが何故酔い潰されたのか分かった、これはもう飲むしかない…!今この場で自分の出来ることはひたすらに飲んでやり過ごすことのみ…!
シンヤの腕にくっつくミュウツーはもしゃもしゃと何かに添えられていたらしいレタスを齧っていた。
*
ただいまー、と袋を手に戻って来たミロカロスとサマヨール。
テーブルに並べられていたツマミは大体食べて片付けたらしいギラティナがコップを片手におかえりーと出迎えた。
「薬が色々あってな…、薬剤師と話していたら遅くなってしまった…」
「へー」
「…!?」
サマヨールがギラティナと会話をする横でミロカロスは気付く。
シンヤが酔っ払いに絡まれている!と。
ソファの向かいから何やらずっとベラベラと喋る二人、いつの間にかシンヤにすがりつくように眠るブラッキーに、シンヤにくっついてもそもそと口を動かす目が虚ろなミュウツー。
「あれは…なんだ…、主が…っ」
「そう、あれが酔っ払いハーレムだ。強烈な絡みに捕まれば逃げられなくなると恐ろしい攻撃!」
ははは!と笑ったギラティナにサマヨールが笑い事じゃない!と怒る。
「シンヤー!お前らシンヤから離れろー!」
果敢にもミロカロスが突っ込んで行った。
「お前が帰って来てくれるのを待っていた…!」
「シンヤ!俺様に任せろ!」
助かった、とミュウツーとブラッキーを抱えてシンヤはサーナイトとエーフィから逃げる。
サーナイトとエーフィを前に怒るミロカロスはその後、ポケモンの姿に戻って二人にハイドロポンプをくらわせたのだった。
「うるさーい!サナとフィーの話なんか、どうでもいいしっ!」
*