一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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「カズキくんが一緒なんですね!」

「うん、オレでなんかごめんな。キッスさん」

「そんなことないですよ!カズキくんで頼もしいです!」

 

よろしくお願いします、と頭を下げたトゲキッスにカズキがこちらこそ!と頭を下げた。

育て屋のじじ様とばば様の所に連れてきたら、どちらも知った顔だったこともあって笑顔で頷いてくれた。

 

「キッスくんとカズくんなら大丈夫じゃな」

「ええ、今いる子達も安心して任せられますものねぇ」

「これでのんびり出来るわい」

「えぇ!?暫く居てよ!?不安じゃん!」

「ホウエン地方に旅行に行くんじゃ」

「ええ!?」

 

驚くカズキの横でシンヤが「フエン?」と首を傾げた。それにばば様が頷く。

 

「そうよ~、温泉に入ってのんびりしようと思ってねぇ」

「お土産買って来るからの」

 

別に要らん、と言うシンヤの隣でカズキが怒る。

 

「いきなり任せるとか!」

「のんびりして来て下さいね。育て屋は俺とカズキくんでなんとか頑張ります!」

「キッスさぁんっ!」

「大丈夫ですよ、頑張りましょう!」

「マジか!」

 

ポジティブ!さすがポケモン!とわけの分からないことを叫んだカズキ。

じじ様とばば様は温泉旅行か、良いな。温泉。私もその内のんびり出掛けたい。

 

「のんちゃんはコンテストの調子どうなんじゃ?観に来ちゃいかんと言われとるが」

「まあ、自信がつけば招待してくれるだろ」

「そーかそーか、楽しみじゃな」

 

長生きしないといけませんね、と笑うばば様にじじ様が頷いた。

育て屋のポケモンを見ていたヤマトが顔にひっかき傷を付けて戻って来たのは…、何か嫌がるようなことをしたんだろうな…。

 

「……」

「……何も聞かないからな」

「……うん」

 

*

 

旅行の準備じゃ!と買い物に出掛けたじじ様とばば様。

後を任されたカズキが溜息を吐く。

 

「育て屋は預けるのしかしたことねぇよ~」

「店番は俺がしますよ、何度か経験がありますから。カズキくんはポケモンのお世話お願いします」

「え、そうなの?ポケモンの世話だけなら楽勝!任せて!」

 

ぐっと親指を立てたカズキにトゲキッスが笑顔を返す。

シンヤは無言でヤマトの頬に絆創膏を貼った。貼り終わって、はい終わりとべしんと頬を叩く。

 

「痛い!」

「怪我をするなら自分で舐めて治療出来る範囲にしろ」

「凄い無茶言うね…」

 

頬を撫でながら「ありがとう」とお礼を言ったヤマトにシンヤが頷く。

育て屋は二人に任せて私は帰るか、とシンヤが椅子から立ち上がった時。ヤマトのポーチからポケモンが飛び出して来た。

ユキワラシから進化した色違いのユキメノコだ。

 

「ユキィ!」

「わっ!どうしたの?」

「ユキユキー」

 

両手を合わせて首を傾げたユキメノコ。

ポケモンの言葉がさっぱり分からないヤマトが同じように首を傾げた。

 

「え?なに?」

「ユキー!」

「育て屋の手伝いを自分もしたいそうだ」

「え!?ユキメノコもお手伝いしたいの!?」

「ユキユキー!」

 

コクコクと頷いたユキメノコ。

 

「僕、任務に行くから暫く迎えに来てあげられないけど良いの?」

「ユキ!」

 

大きく頷いたユキメノコを見てヤマトが眉を下げる。

 

「僕一人で任務行くんだ…!」

「ユ、ユキィ…」

「嘘嘘、大丈夫だよ!野生のポケモンに協力してもらうし!」

「ユキ…」

 

その協力を求めるのがレンジャーのくせに下手だから不安なんだけどな、とシンヤは思った。

自分の主人のキャプチャ下手を知ってるユキメノコも不安げに口元を手で押さえた。やっぱり一緒に行くべきか、と。

 

*

 

そんなヤマトとユキメノコのやり取りを見ていたカズキがピーンと来た。

ユキメノコをひょいと抱き上げたカズキがヤマトと視線を合わせる。

 

「ヤマトさん、ユキメノコはオレが面倒みとくからさ」

「うん、お願いするよ」

「ツキさん誘って任務行けば良いんじゃない?フィーさんがノリコに付きっきりでツキさん暇してるみたいだったし!」

「……、へ!?」

「な、兄ちゃん!ヤマトさんが一人で任務行くなんて不安だから、ここはツキさんに一緒に行ってもらって、ユキメノコの代わりにフォローしてもらうべきだよな!」

「そうだな。ブラッキーが行きたいと言うなら何処へなりとも連れて行ってやれ」

「ちょ、二人共…そっくりな悪い顔して…っ!」

「「♪」」

 

アイツは家に居るぞ、とシンヤが笑って言えばヤマトは顔を歪ませた。

 

「い、意地悪…!そんなに言うならシンヤがツキくんに言ってくれれば良いのに…!」

「なんで私が」

「そうだよ、一人で寂しいから付いて来て下さいって自分でお願いしてこないと」

「うわああああん!」

 

バン、と勢いよく扉を開けて出て行ったヤマト。

見送ったシンヤとカズキがニヤニヤと笑った。そんな様子を見ていたトゲキッスは首を傾げた。

 

「あ、ユキメノコのボール!ボール置いてってもらうの忘れた!ユキメノコ、戻せないじゃん!」

「ユキ…」

 

カズキに抱えられたユキメノコがもそもそとカズキの腕の中で動く。

 

「私は家に帰ってブラッキーのボールを渡すから、その時にユキメノコのボールを預かっておこう。店を閉めたら取りに来てくれ」

「おー、忘れずに貰っといてね!」

「ああ」

 

カズキに頷き返したシンヤは何気なくユキメノコへと視線をやった。

振袖のような手を口元にやったユキメノコは自身を抱えるカズキを見つめている。

 

「…?」

「どうかした?」

「いや……、じゃあ、後は任せたぞ」

「はい!」

「おう!」

 

トゲキッスとカズキの返事を聞いてからシンヤは育て屋を出る。

 

「………」

 

まあ、良いか。そう思いながらシンヤは反転世界へ戻る為に歩き出した。

 

*

 

「ただいま」

 

家へ帰って来たシンヤがリビングへと入ってそう言えば「おかえり!」と元気な声で出迎えられた。

 

「なんかヤマト、来てからずっと黙ってんだー」

「…」

 

ミロカロスが眉を寄せながら言った言葉にシンヤも眉を寄せる。

アイツは本当に…と、シンヤが溜息を吐く。

 

俯いて黙りこくるヤマト。

一応、呼び止められたらしく、話を聞く体制で待つブラッキーが眉間に皺を寄せてヤマトを睨んでいた。

 

「ヤマト、お前、いい加減にしろ…!」

「うわ!?シンヤ…!だ、だって…!言い出し難くて…!」

 

シンヤに怒られたヤマトが肩を竦める。

言い出し難い話ってなんだよ…、とブラッキーが呟いた。

 

「ほら!ブラッキーのボールだ!持って行け!」

「わわわっ!?」

「そしてユキメノコのボールを置いて行け!カズキが帰りに取りに来るから!」

「あ、はい!置きます!置きました!」

 

テーブルにユキメノコのボールを置いたヤマト。

投げ渡されたブラッキーのボールを手にシンヤを見つめて固まるヤマトは蛇に睨まれた蛙状態である。

 

「オレのボールどうすんの?」

「え!?」

「……」

 

え!?何も言ってくれないの!?とシンヤを見たヤマト。シンヤはフンとそっぽを向いた。

 

「あの、ですね…」

「うん」

「ユキメノコが育て屋の手伝いをしたいらしくて、それで僕、一人で任務に行こうと思ってたんだけど…。その、」

「……」

「ツキくんが、もし良かったら、一緒に行ってくれないかなぁって……」

「……」

「…い、嫌だったらいいからね!僕一人で行くし!」

「別に嫌じゃないけど」

「え!?」

「暇だから良いよ、行く」

 

もう行くの?と首を傾げたブラッキーにヤマトが小さく頷く。

 

「ジョウト地方まで行くから」

「ジョウト!?コガネシティ行く!?遊びに行きたい!」

「え、あ、うん、コガネシティも寄るよ」

「よっしゃー!出掛ける用意しよーっと!」

 

リビングを飛び出してニ階へと上がって行くブラッキー。

呆然としていたヤマトがシンヤの方へ視線をやった。

 

「結構、あっさり…!」

「そんなもんだろ」

「だってさ、シンヤのお願いでもないし!僕なんかの仕事に付き合ってくれるなんて…!」

「…?なんでお前の頼みは聞いてくれない前提の考えなんだ」

「いや、なんかみんなとは違う枠に居ると思うから…」

「は?」

「ツキくんの信用する大好きなみんなの枠にね、入ってない僕がずけずけ言うのはどうかなぁって…」

「なんだその卑屈な考えは…。信用もしてない嫌いな相手がここに居るわけないだろ」

「………」

「お前もっと自信持て、大丈夫だから」

「……!」

 

シンヤの言葉にヤマトが目に涙を溜める。

そんなヤマトを見ていたミロカロスが「俺様、別に好きじゃな…」と言いかけてシンヤに口を手で塞がれた。

 

「僕、頑張る…!」

「うちの子に何かあったら総動員でボコボコにするからな」

「!?!?」

「大事にな」

「は、はい…」

 

総動員はヤバイ。とヤマトは深々と頭を下げたのだった。

 

*

 

ジョウト地方まで遠出するヤマト達は飛行タイプをキャプチャしつつ、ポケモンセンターを経由して移動するらしい。

ギラティナはシンオウ以外は繋いでくれないから仕方ない。と言ったブラッキーがヤマトと一緒に家を出たが…。

言ったら繋いでくれると思うけどなぁ…。とシンヤは首を傾げたのだった。シンヤ限定であることを本人は知らない。

 

「なあなあ、シンヤ」

「ん?」

「結局、ヤマトは育て屋やらないんだ?」

「ああ、聞いてみたらレンジャーを定年まで続けたいんだと」

「ふーん」

「育て屋でのんびりしてる方が向いてそうなんだけどな…」

「えー…そう?」

 

ヤマト、ポケモンの世話下手じゃん。と口を尖らせて言ったミロカロスにシンヤは苦笑いを浮かべる。

育てるのは、確かに向いてないかもしれない。それでもポケモンレンジャーよりはマシだろうとシンヤは思っていた。

一番向いてるのはポケモンを観察していた頃の、もう混ざり消えてしまった世界の研究員のヤマトだったんじゃないかと……。

 

「……」

「シンヤ?」

「…ん?なんだ?」

「なんか考えてた!」

「私はいつだって考えてる」

「いや、なんか難しい顔してた!」

「こんな顔なんだ」

「えー!」

 

喚くミロカロスを適当にあしらってシンヤは小さく息を吐いた。

シンヤー?と自分の名前を呼んでくるミロカロスに「コーヒー」と呟けば、ミロカロスは口を尖らせながらも返事をしてキッチンへと向かう。

 

大好きなポケモンと協力して大好きなポケモン達を助ける仕事をする。その為に全寮制のレンジャースクールへと入り教育を受けた。

トレーナーのシンヤがジム制覇していた頃だ。

好きな事をやっているのだから、構わないのだけど……。アイツは本当に大丈夫なのかと不安になる。

 

人柄の良さを持ち真面目、自分のことよりポケモンのこと。ポケモンが関わると大胆な行動に出るくせに自分のことになると気弱で消極的。

以前、会ったことがあるヤマトの同僚のポケモンレンジャーに密かに教えられた。

 

ヤマトはポケモンが関わると手段を選ばない問題児だって上から言われてる。

ストッパーになってくれるシンヤさんが一緒じゃないと上も心配なんだと思うよ。

と、サイン色紙を差し出されながら言われた…。ジュディへ、と書かされたサイン。そういえば、あのレンジャーの名前はなんだったかな…。

 

「…忘れた」

「何がー?コーヒー淹れたよ?」

「ああ、ありがとう」

「うん、何忘れたの?」

「聞いたような聞いてないような、人の名前」

「人の名前か、じゃあ別に良いよ良いよ。思い出さなくて」

「……」

 

シンヤの隣に座ったミロカロスがテレビの電源を入れてチャンネルを変える。

切り替わる画面をシンヤがぼんやりと眺めていると、テレビ画面に自分の姿。ポケモン・バッカーズの時のものでリモコンを持ったままミロカロスはテレビを見つめた。

 

「…」

「…」

 

リモコン片手にテレビを見るミロカロスからリモコンを奪い取りテレビの電源を切ったシンヤは溜息を吐く。

 

「あー…見てたのに…」

「……」

 

シンヤはぽい、とリモコンを自分たちの向かいのソファに投げた。テレビを付けて欲しくないらしい。

その行動の意味は分かるがテレビを見たいミロカロスはむっとしながらシンヤを見る。

 

「テレビ…!」

「嫌だ」

「せっかくシンヤが出てたのに!」

「出てたから嫌なんだ」

 

見たい!見たくない。と少しのやり取りをして不満ながらも諦めたのはミロカロスだった。

このやり取りをしたって無駄なのが分かっているからだ。

ぶー、と頬を膨らませたミロカロスがソファにもたれた。

ミロカロスがチラリとシンヤを見てもシンヤは何か考えているのか真っ黒なテレビ画面を見つめたままコーヒーを飲む。

 

「何考えてるの…」

「色々」

「俺様のこと考えてる?」

「…今はヤマトのことを考えてる」

「……」

 

ぷくー!と更に頬を膨らませたミロカロス。

凄くムカついてます!と顔にも態度にも出すミロカロスを無視してシンヤはカップをテーブルに置いた。

 

「…アイツ、何をやらかすか分からないから、レンジャーなんて辞めて育て屋でもしてのんびり生活すれば良いのに…」

「別にヤマトの好きなようにすれば良いと思うけど…?」

「そうも思う。思うんだけどな…。私はワガママだから」

「…?」

「安全な方で良いんじゃないのかと、押し付けてしまいたくなる」

「…シンヤ、ちょっと寂しい?」

 

コテンとシンヤの肩に頭を置いたミロカロスがシンヤを見つめる。

真っ黒なテレビ画面を見つめていたシンヤがミロカロスの赤い目へと視線を向ける。

 

「少し」

「…」

「家が静かすぎると色々と考えてしまうな」

「大丈夫だよ」

 

大丈夫、と言ってシンヤの手を握ったミロカロスが笑う。

 

「大丈夫だよ、シンヤ」

「ああ」

「ずっと一緒に居るからね」

「ああ」

 

*

 

ミロカロスの手を握り返し、シンヤがミロカロスの額に自分の額を合わせる。

静かに目を瞑ったミロカロスを見てからシンヤも目を閉じた…。

 

―ピリリリリリ!

 

「…」

「…電話?」

 

無視しようかな、とシンヤが眉を寄せるも電話は鳴り止まない。

ミロカロスが電話…ともう一度呟いたのでシンヤは渋々とソファから立ち上がり電話に出た。

 

「誰だ…」

<「僕だけどー、家にフィーくん達が帰って来たらお土産は何が良いか聞いといてくれない?ジョウト地方に着いたらまた連絡するからさ」>

「ジョウト地方に着いてから掛けて来ても良かったんじゃないのか…?」

<「なんで怒ってんの?」>

「……」

<「え?シンヤにもちゃんとお土産買うよ?」>

 

どうしたの?と首を傾げるヤマトを見てシンヤは深く溜息を吐いたのだった。

 

*

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