一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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<「もしもし、シンヤさん!?やっと出た!!」>

 

エンペラー!やっと出たよ!と手を振るツバキが電話画面の向こうに居る。

ワールドカップ観たんだけど!と怒るツバキにうるさい!とシンヤが怒鳴って返す。

 

<「会わせてよー!エンテイ、ライコウ、スイクン!」>

「また今度な」

<「今度っていつよ!?」>

 

いつか、と適当に返事をしたシンヤにツバキが頬を膨らませた。

そんなツバキを画面の向こうで押しどけてエンペラーが「やあ」と画面内へとおさまった。

 

<「長くなりそうだから本題言うね」>

「そうしてくれ」

<「ツバキの兄弟子になるのかな、カロス地方のプラターヌ博士から連絡があって、ツバキにカロス地方まで来ないかって話が来たんだ。それでシンヤさんも一緒にどう?って本題」>

「お断りします」

<「ほらね、シンヤさん断ったでしょ?」>

<「シンヤさぁぁあん!お願いぃいい!だってね!だって…!『珍しい進化見たくない?見たいでしょ?見たいならシンヤさん連れて来てね!』なんて言ってあたしを釣ろうとするプラターヌのクソが!プラターヌのクソがぁあああ!」>

「行かない」

<「シンヤさんこのやろぉおお!!!珍しい進化見に行こうよぉおおお!!!」>

「行かない」

<「パターン入ったからもう諦めなよツバキ。このパターンはもう無理な奴だから」>

 

画面の向こうで頭を抱えて唸っているツバキ。

誰がカロス地方まで行くか、遠い、めんどくさい、悪目立ちする。お断りです。とブチと電話を切ってやればすぐにまた掛かって来た。

 

「はい」

<「切るなぁああ!!!」>

「ツバキ、ハッキリ言ってやろう。珍しい進化に興味が無い。気を付けていってらっしゃい。お土産は要りません。カロス地方で私の名前出したら泣かす。以上」

<「ちょ…」>

 

ブチと電話を切ってからシンヤは少し考える。

ツバキの兄弟子…、ということは…?

神話好きのめんどくさい女を一人思い浮かべて、アイツもそうだっけ…。とシンヤは自分の手帳を開いて番号を探す。

目当ての番号にすぐに電話を掛けたシンヤは画面に映った人物にペコと頭を下げる。

 

「どうも、お久しぶりです」

<「おお、シンヤか。久しぶりと思わんほど最近よく見るぞ」>

「不本意です。おそらくワールドカップでのことが影響だと思うんですが」

<「ふむ」>

「プラターヌ博士がツバキの前に餌をチラつかせて私をカロス地方に呼ぼうとしてます。全力で叱って下さい。迷惑です」

<「シンヤ…お前は本当に素直な男だな…」>

「ツバキがしつこく電話してくるので先手を打ってやろうと思いまして。勿論、タダでとは言いません」

<「ほお?なんだ?」>

「うちに料理上手が居るので気の済むまで甘い物をご用意出来ます。それもすぐ送れます。うちのチルタリスは優秀ですよ…」

<「………うむ、しっかり言っておこう」>

「早急に、よろしくお願いします」

 

画面に向かって頭を下げたシンヤ。

通話が切れればシンヤ宅の電話が再び鳴り始める。

 

「はい」

<「ちょっとぉおおお!シンヤさぁぁぁん!!!」>

「少し電話を掛けて来るのをやめろ。そうだな、三十分後に私の方から掛けるから」

<「え?なんか電話使うの?分かった、絶対に掛けて来てね!」>

「ああ、絶対に掛ける」

 

ツバキとの電話を切ったシンヤは時計を確認してから機嫌良くキッチンへと向かった。

キッチンに居たチルタリスがシンヤを見て首を傾げる。

 

「コーヒーのおかわりですか?」

「おかわりも欲しいな。それと、チルタリス、お前には出張に行ってもらうことになる」

「出張、ですか?」

「ああ、ナナカマド博士は甘い物がお好きでな。是非、お前の作った美味しいお菓子をご馳走してやりたいんだ」

「はいっ!そういうことでしたら、いつでも!チル、頑張って美味しく作ります!」

「博士には話をしてあるからな、頼んだぞ」

「はい!お任せ下さい、ご主人様!」

 

*

 

三十分後、コーヒー片手に電話を掛けたシンヤは画面の向こうに映ったツバキにニコリと笑顔を向けた。

 

「三十分で良い表情になったじゃないか、ツバキ」

<「…ナナカマド博士を味方に付けるなんて、シンヤさんの鬼…っ!」>

 

しっかりと叱られたらしいツバキが泣きながら怒っている。そんなツバキを見てシンヤはハハハとバカにしたように笑った。

 

<「ぶえぇぇ…!あたしだけ、なんでっ、怒られなきゃいけないのよぉぉ…!」>

「いや、プラターヌ博士の名前も出したから向こうにも今頃、雷が落ちてるだろうな」

<「…マジで!やったね!プラターヌ!ざまぁみろぉおおお!!ひゃっほぉおい!」>

 

ハシャぐツバキを見てシンヤはコーヒーを啜りながら思った。

プラターヌ博士と仲悪いのか、コイツ…。と、

 

<「シンヤさんを敵にしてはいけないってことがよく分かったね」>

<「ぐへぇ…、ナナカマド博士をどうやって説得したのシンヤさん…」>

「内緒」

<「ナナカマド博士そんなホイホイ言うこと聞いてくれないよ!?厳しいんだよあの人!?」>

<「人徳の差じゃない?」>

<「……どっちの味方だ、助手コラァ!」>

<「僕、シンヤさんを敵にしたくないから」>

 

裏切り者ー!と叫ぶツバキを見てシンヤは小さく笑みを浮かべた。

シンヤとツバキが通話してる頃、電話画面の向こうに映る人の姿にうろたえるプラターヌが居たとか…。

 

*

 

「ムウマージ!鬼火ー!からのバーン!」

「ムウ!?」

 

バーンってなに!?とノリコの方へと視線をやったムウマージ。ノリコは両手を広げてバーンともう一度言った。

そんなノリコを見てエーフィは深く溜息を吐いた。

 

「こんな感じ!バーン!」

「ムウウウ!!」

「違う!もっとこう!こうバーンって!」

「……ムゥ」

「分かった!絵に描く!待ってね!」

 

バーンとムウマージになりにやってみたが違うようだった。困るムウマージにノリコが絵に描いて見せるからとノートを広げる。

こんな感じ!とノートを見せたもののムウマージは更に悩むことになった。

 

「ムウウウウ!」

「これ鬼火、これも鬼火で、これムウマージ」

「!?」

 

やだー!と首を横に振って飛んで逃げてしまうムウマージにノリコは慌てて手を伸ばすもムウマージは逃走した。

エーフィは深く深く溜息を吐いた。

ムウマージが逃走するのは本日三度目だった。

 

「フィーさぁぁん!ムウマージがまた逃げましたー!」

「もぉおおお!」

「鬼火をこうバーン!ってしたら綺麗だと思うんですけど!駄目ですか!」

「バーン!が分からないんですよ!バーン!が!」

「…ババーン!じゃなくて、こうバーン!って…」

「……」

「こんな絵の感じに…」

「……」

 

ムウマージがそもそもどれかエーフィには分からなかった。大きめに描かれてるのがムウマージとしても鬼火のバーン!というイメージがよく分からない。

 

「とりあえず、ムウマージを回収しに行きますよ…」

「はい…」

 

*

 

ムウマージを回収し、ポケモンセンターでノリコの技のイメージを聞く。バーン!となって、シュババ!って感じの。と身振り手振りで言うノリコ。

なるほど、分からん。とムウマージは固まりノリコを見つめていた。

 

「うええぇぇ…、だからフィーさんに技の魅せ方おまかせするって言ったじゃないですか~!」

「任せてくれるのは嬉しいですけど、それではノリコは私の代理になるじゃないですか!魅せ方はノリコ自身に考えてもらわないと…」

「だって、伝わらない!のんが技使えたら良いのに!」

「仕方がないですね…シンヤさんに相談してみましょう…」

「ううう」

 

というわけで困ってます。とエーフィから連絡が来たシンヤは画面の向こうで眉を寄せる。

 

<「お前たち、同じ言語で会話してるはずだろ?」>

「そうなんですけど、理解出来ないんです」

<「はあ…、まあ話は聞いてみよう。ノリコの魅せたい技がどんな感じか教えてくれ」>

 

シンヤの言葉にエーフィの隣に居たノリコが頷いて説明する。

 

「あのね!ムウマージに鬼火でこうバーン!ってやってもらって、そうしたらババーン!みたいな!」

<「ふむ、炎技で派手な演出を狙うと…。ようするに鬼火を辺りに散らして美しく広がっているように見せたい、ってことか?ノリコの言ってる感じで考えるとイメージは大輪の赤いひまわり?」>

「ひまわり!うんうん!そんな感じ!ババーン!って!」

「シンヤさん、私、シンヤさんの素晴らしさに涙が出そうです…!」

<「大袈裟だな…。とりあえず、ノリコ。お前の言い方だと伝わり難いから形や物で説明するようにしなさい。

ひまわりみたいな形、噴水のような…という感じでな。ノリコの魅せ方が分かってくればポケモン達も擬音だけでもノリコならこうだろう、って理解してくれるようになる」>

「なるほど!分かった!形で説明出来るように頑張る!ありがとうお兄ちゃん!」

 

さすがシンヤさんです、とエーフィが横で感激する。ハシャぐノリコにシンヤは小さく笑みを浮かべ言った。

 

<「でもな、ムウマージに鬼火で演出させるのはどうかと思うぞ」>

「え!?」

<「ゴーストタイプのムウマージに炎技での演出を求めるのは無しとは言わないが、炎タイプが同じ舞台に立った時に比べられるとどうしても差が出る。

炎技を使う場合は炎タイプには出来ないムウマージなりの技も一緒に組みこまないとムウマージらしさが消えてしまうだろ。ゴーストタイプならではの怪しい美しさを出すか、はたまたマジカルポケモンのムウマージならではのマジカル的な要素を組み込むか。

炎タイプにも出来る魅せ方だと純粋な炎タイプの方が素晴らしい演技をするのは当然なんだから、そこを考えて魅せるように」>

 

という感じのを脳内でコーディネーターが言ってる。とシンヤは付け足して頷いた。

 

「怪しい美しさとかマジカル的な要素って…どうやって出せるの…!?」

<「そこはノリコならではで考えないとな、コーディネーターのシンヤの魅せ方をしたいわけじゃないだろ?」>

「……」

 

いや、リボンゲット出来るならそれでも全然良い気がしてきた。とノリコは心の中で思った。

黙り込むノリコを押し退けてエーフィがシンヤに小さくお辞儀をする。

 

「すみません、シンヤさん、助かりました。あとはこっちで考えてみます」

<「ああ、ノリコを頼んだぞ」>

「了解しました」

 

電話を切って、さてと振り返ったエーフィをノリコは不安げな表情で見上げる。

そんなノリコの表情にエーフィは苦笑いを返す。

 

「考え直しですね」

「はあああああ…怪しい美しさとかマジカルとか…!マジカルってそもそもどんなの!?」

「はいはい、騒いでないでノリコらしさで行きますよ」

「らしさって何さぁああ!」

 

エーフィは頬を膨らますノリコの手を引いてムウマージに手招きをした。

 

「さ、行きますよムウマージ。ノリコの無茶振りに耐える特訓です」

「ム!」

「無茶振り特訓ってなんですか…!」

 

っていうか、手繋いでくれた!と悔しいやら嬉しいやらのノリコは誤魔化すように頬を膨らませてそっぽを向いたのだった。

 

「ノリコ、真っ直ぐ自分で歩いて下さい」

「……はい」

 

エーフィは厳しい。

 

*

 

オリジナルブレンドの研究中であるサマヨールはマスターの前にそっとカップを置いた。

では、いただきます。とカップを手に取ってコーヒーを飲んだマスターはうんと頷く。

 

「うんうん、苦味が強いかな。もっと香りの良いすっきりした豆でも良いかもしれないね。でも、悪くないよ!」

「…香りが薄くほぼ苦味しか感じない、と…。失敗か…。もう一度、豆を厳選し直します…」

「……」

 

しょんぼりしながらカップを持って行ったサマヨールを見てマスターもしょんぼりと眉を下げた。

横で見ていたピジョットはマスターを睨む。

 

「ハッキリ言わないマスターが悪いと思いますけどね」

「だって…!厳しいこと言ったら悲しくなるじゃん!」

「私の時はそこまでオブラートに包んだ言い方してくれてなかったですよね…」

「ヨルくんは可愛い、キミは可愛くない」

「目、潰しますよ?」

 

ひぃ!とマスターが自分の両目を手で隠した。

両手で目を隠したままマスターは小さく溜息を吐く。

 

「でもね、俺は厳しいよ」

「知ってますよ」

「完璧を求めるヨルくんの為に…!」

 

両目を隠していた手を上げて天井に叫ぶマスター。

どうでも良さげにピジョットは紅茶を啜った。

 

「完璧なコーヒーが出てくるまで俺は美味しいとは言わない!」

「鬼ですね」

「ごめんなさい!」

 

再び両手で両目を隠したマスター。

カップ片手に戻って来たサマヨールは小さく笑みを浮かべる。

 

「いえ……、是非そのままでご指導お願いします…」

「ヨルくん…!」

「完璧じゃないと駄目なので…」

 

完璧主義者なヨルくんカッコイイ!とマスターが目を輝かせている横でピジョットは変わった子だと眉を寄せた。

何処まで徹底したいのか、十分に美味しいレベルまで達しているというのに、マスターからの完璧だという評価が欲しいと言う。

 

「どうして、そこまで完璧にこだわるんです?」

 

ピジョットの言葉にサマヨールは笑みを浮かべた。

 

「…自分の店で完璧なコーヒーを出して…、この店でしかコーヒーは飲めないと思ってもらいたい…」

「カッコイイねぇ!」

「本当に、シンヤさん大好きですね。ヨルくんは」

 

笑うマスターとピジョットにサマヨールは笑みを返す。

そう、思ってもらいたい。永遠に…。

 

「自分のコーヒーが完成したら、自分のブレンドを後々も引き継いでくれるゴーストタイプを探すつもりです…」

「ん?ゴーストタイプだけでお店するってこと?」

「はい…、場所はなるべく人通りのない静かな場所を選ぼうかと…」

「まあ、そういうのも良いと思うけど。儲けが無いと経営はキツいんじゃないかな~」

「自分は店が継続出来て、美味しいコーヒーが出せれば十分です…」

「お客さん、シンヤさんだけになっちゃうよ…」

「それで良いんです…」

 

ご主人様の為だけにお店したいのかこの子は、とマスターは苦笑いを浮かべる。

 

「まあ、知る人ぞ知る穴場になりそうで良いじゃないですか」

「まあね。そういうお店見つけた時の嬉しさはハンパないけどね!」

 

あはは、と笑うマスターの前でコーヒーを淹れるサマヨール。

 

「マスター…、お願いします…」

「いただきます!」

 

静かな店で静かにコーヒーを飲み、

静かに生きてゆく主の為に…。

 

 

「うん、悪くないよ!」

「……」

 

 

静かに努力するのみ。

 

*

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