「こんにちは、こちらで二匹までお預かり出来ますがいかがいたしますか?」
にこ、と笑ったトゲキッスにじゃあとトレーナーの男がボールを一つ取り出した。
テーブルにボールを置こうとした時に庭からの賑やかな声に男は顔を上げる。
「え、凄い賑やかですね…」
「はい!楽しく遊んで強く鍛えられる育て上手な担当者が居ますので!」
「へぇー!前来た時はじいちゃんとばあちゃんの二人だったのに」
「もう引退されたいとのことでしたので後を引き継がせてもらったんです。ご贔屓にお願いしますね」
「勿論、ここの育て屋なくなると遠出しなきゃだから助かるよ!あ、オレのメリープ、暫くよろしくお願いしまーす」
「はい、お預かりします!」
また来ますーと手を振った男は店を出て行く、ぺこりとお辞儀をして見送ったトゲキッスはメリープのボールを手に庭へと向かう。
「カズキくん、メリープお預かりしました…よ…?」
カズキにポケモンを渡して自分は受付けに戻るつもりだったトゲキッスは予想外の光景に固まった。
キッスさん…!と慌てるカズキを見てトゲキッスはぱちくりと瞬きを繰り返す。
「大変なんだ…っ!ヤマトさんのユキメノコがぁああ!」
「え、あ、はい…。人の姿になったんですね」
「わたしもお手伝いしたくて…」
にこ、と笑ったユキメノコにトゲキッスが笑顔を返す。そうなんだ~、助かるよ~と笑うトゲキッスに対してカズキはプチパニック。
今までポケモンとして接してたユキメノコが可愛らしい色白美人になったのだから無理もない。
「えぇぇぇ!?ヤマトさんになんて説明すれば良いの!?」
「え?別に何も言わないと思いますよ?」
「えー!?でも、こんな美人になったユキメノコ見たらびっくりするだろ!オレはびっくりしてるもん!」
美人、と言われてユキメノコがぽっと頬を赤らめた。
メスだって知ってるんだから大丈夫ですよ~とトゲキッスはクスクスと笑う。そんなトゲキッスを見て、そうだコイツもポケモンだったとカズキは頭を押さえた。
「カズキさん…、わたし、迷惑でした…?」
しょんぼりしながらそう聞くユキメノコにそういうわけじゃないけどとカズキは眉を寄せる。
人の姿の時、なんて呼ぼうか?とすでに人の姿になったことなんて気にもしていないトゲキッスが笑う。
「カズキさん!カズキさん決めてください!」
「ヤマトさんに決めてもらったほうが良くない!?」
「別に良いんじゃないですかね?」
「えー…」
決めてほしいです!とキラキラと目を輝かせて見てくるユキメノコを見てカズキはうーんと考える。
ユキメノコ。
ユキ、ユキメ、メノコ…。
「んー、オレん家はカナコ、ノリコで最後がコだから。ユキコで良いんじゃない?分かりやすいし」
「じゃあ、わたしはユキコです!」
「よろしくね、ユキコちゃん」
「馴染むの早ぇな!さすがポケモン!」
にこにこ笑うトゲキッスとユキメノコを見てカズキは溜息を吐く。
「あ、カズキくん。新しくメリープ預かったからよろしくお願いします」
「ん?ああ!了解!」
カズキにボールを渡したトゲキッスは後はお願いしますと店番へと戻る。
ボールからメリープを出したカズキがメリープの毛並みを撫でる。
「よーし、お前もちゃんと鍛えてやるからなー」
「メー!」
電撃来たら痛いからゴム手袋付けなきゃとカズキが後ろに居たユキメノコを呼ぶ。
「ユキコー、ゴム手袋とってくれるかー?」
「はい!」
棚からゴム手袋をとりカズキに手渡したユキメノコはカズキの隣に座った。
「さんきゅ。人手増えるとけっこう助かるな!」
「ほんとですか…!」
「うん、会話も出来るし。ユキコも言いたいことあったら遠慮なく言ってくれ」
「良いんですか…!」
「良いよー」
今のゴム手袋とってー、みたいに言ってくれたら仕事捗るし。と思いつつカズキは頷いた。
ゴム手袋を付けて、さて仕事するかと視線をあげたカズキの腕をユキメノコが掴む。
「カズキさん!」
「ん?」
「わたし、ユキコをお嫁さんにしてください!」
「……」
遠慮なく何言ってんだコイツ。と固まるカズキの前でユキメノコは頬を赤く染めて笑った。
「…ちょっと何言ってるか分からない」
「?わたし、カズキさんのこと大好きなんです」
「ヤマトさんのとこのユキメノコだろ!何言い出すんだよ!」
「カズキさんがヤマトに言った通りにわたしも率直にカズキさんに言ってみました!」
「ほんとだ!ドストレートだ!」
ヤマトさんヘタレてる分、手持ちのユキメノコすげぇ積極的。
どうしよう、と頭を抱えたカズキの腕をツンツンとユキメノコがつつく。
「……なに?」
「わたし、カズキさんの子供産んでも良いですか?」
「ちょ…っ、待って…、ストレート過ぎてオレの動揺ハンパない。待って、兄ちゃんに…相談して良い…?」
「はいっ」
ポケモン達見てて、とユキメノコに庭のポケモン達を任せてカズキは電話にしがみついた。
受付に居たトゲキッスがキョトンとした表情でカズキを見つめるもののカズキは兄に電話を掛ける。
電話に出たシンヤは次はカズキかと本を片手に首を傾げた。
<「どうした?」>
「ユキメノコが人の姿になったんだけど!」
<「ふーん」>
「そのユキメノコがオレのお嫁さんになりたいって言って、オレの子供産んでも良いかって聞かれたんだけど、どうしたら良い!?」
<「…ちょっと何を言ってるのか分からない」>
「わぁい!オレと同じ反応だ!やっぱりオレ達、兄弟だね✩なんて喜んでる場合じゃないだよぉおお!」
<「ポケモンって人間の子供産めるのか…?
どっちが産まれるんだ…ユキワラシが出てくるのか…、それともタマゴが…。いや、そもそも遺伝子的に…」>
「兄ちゃん!しっかりしてくれ!」
初めてのことにさすがに動揺した。と言ってシンヤは眉間に皺を寄せる。
さすがの兄ちゃんでもそうだよな…とカズキは小さく頷いて返した。
<「今も動揺してるが…お産の時は私が助産師として対応して良いかっ!?勉強しておくから!」>
「さすが兄ちゃんだったああああ!!」
動揺してる所が違うわ!もうそこか!オレ、嫁に貰うとも言ってねぇのに!
<「タマゴが出て来ても焦らないようにイメージトレーニングしておかないと」>
兄の真剣な顔にカズキは思わず笑ってしまう。
「兄ちゃん、マジ天然な…!」
<「…今、真面目に話してたのに…」>
眉間に皺を寄せて怒るシンヤを見てカズキは笑う。
腹痛い!と笑っていたがハッ!?と我に変える。
「笑ってる場合じゃねぇ!」
<「仕事中だもんな」>
「違う!いや、違わないけど!違う!」
何を言ってるんだ、とシンヤは眉を寄せる。
「オレ、ユキメノコと結婚すんの!?」
<「可愛いならすれば良いんじゃないか?」>
「えー…、じゃあ、するわ」
<「清々しいなお前は」>
どうせ結婚するなら可愛い子が良いもんな、と頷いた弟にシンヤは頷いて返した。
<「助産師の資格取って来るから安心しろ」>
オレの兄ちゃん、マジ頼もしい。
*
「キッスさん、オレ、結婚するわ」
「誰とですか!」
「ユキコ」
「ええー!?おめでとうございます!」
祝福された。
さっき人の姿になったばっかりなのに!とかツッコミくれないキッスさん、なんかスゲェとカズキはどうもと頭を下げる。
とりあえず、ユキメノコに返事をせねばと庭へと戻るカズキを見送ってトゲキッスはお祝いだなぁとのほほんと考えた。
お赤飯は炊くべきかな、とトゲキッスが考えていると育て屋に客が入ってくる。
「ちわー」
「あ、こんにちは!…っ!?」
「ん?おおっ!キッスじゃーん!なんだなんだ!?カフェの次は育て屋のお手伝いか!」
良い子ちゃんだなぁ!とテーブルの所までやって来た男。カフェで出会ったマスターいわく"いつも予約してくる面倒な客"である。
トゲキッスにとってもなんだか困った、ちょっと怖いお客さんだった。
「じいさんとばあさんどうした?死んだ?」
「し!?な、亡くなってません!お元気に旅行に行ってます!」
「ふーん。旅行中の代理でお手伝い?」
「いえ…、お二人はご引退されるとのことなので後を継ぎました」
「継いだ!?マジで!?私、ここの常連よ?」
えぇぇー…。
さすがのトゲキッスの表情も歪む。凄く嫌です、と顔に出してしまったトゲキッスを見て男が好い顔するなぁと笑った。
「私、いつも通りで預かって欲しいんだけど大丈夫かぁ?」
「いつも通りですか?」
「私はここ来た時は手持ち全部預けてんの」
「そ、そうなんですか!?すみません、ちゃんと引き継いで聞いてなかったもので…」
「いーよ、預かってくれれば」
「ではお預かりします…けど、手持ち居なくて大丈夫なんですか?」
はい、とベルトごとテーブルに置いた男。
ベルトごと受け取ったものの大丈夫なのかとトゲキッスは不安げな表情で男を見つめる。
「一日、ポケモンセンターでのんびりしてるだけだからなぁ」
「え?一日じゃポケモン達はそんなに育てられませんよ?」
「良いんだよ。たまには自由にしてやらないと駄目だってじいさんが怒るからこうやって来てるだけだし。もともと強く育てるつもりでもねぇし」
「???」
どういう意味なのか分からずトゲキッスは首を傾げる。
じゃあ、また明日~と手を振って帰る男をトゲキッスは見送った。とりあえず、ポケモン達は庭に連れていかないととベルトごと持ったトゲキッスは庭へと向かう。
庭ではカズキとユキメノコが預けられたポケモンの面倒を見ていた。
「あ、キッスさん!聞いてください!わたし、結婚するんです!」
「うん、聞いたよ!おめでとうユキコちゃん」
ありがとうございます!と喜ぶユキコを見て苦笑いを浮かべるカズキ。
「カズキくん、預けられた子達お願いします。常連さんらしくていつも手持ち全部預けてるそうなんでベルトごとです」
「え゙、手持ち全部預けてくとかすげぇな…」
そういうことちゃんと言ってから旅行に行ってほしいよなぁとぶつぶつ言いながらもボールからポケモンを出すカズキ。
出て来たポケモン達は庭の様子を見て何故かほっと安心した様子を見せた。
「?」
「バクフーン、グラエナ、サザンドラ…バンギラス…」
いかつい顔したのばっかなーとポケモンを出して行くカズキ。最後のポケモン、と出てきたのがムウマで「可愛いのも居た」と見ればギロリとムウマに睨まれてカズキはビクリと肩を揺らした。
「(このムウマ、目がこえぇ…!)」
「どうしたの?カズキくんはこわくないですよ?」
「ムゥ?」
「あ、カズキくん、この子はこういう子でした!ごめんね、ご機嫌ななめなのかと思っちゃったんだ」
「ムウー」
良いよ、いつもの事だし。と言って首を横に振るムウマ。カズキはそんなムウマを見て目付き悪すぎだろ…と顔を引き攣らせた。
オレの知ってるムウマ、もっと目がキラキラしてる…。
「主人が手持ち無しで出歩いてるのって不安だと思うけど、キミ達のご主人はポケモンセンターで一日のんびりするんだって。明日迎えに来てくれるらしいから安心してね」
トゲキッスが笑顔でそう言えばムウマはしょんぼりと落ち込む様子を見せた。
バクフーン達もまた喜ぶ様子もなく各々で座ったり横になったり…。あれ?と首を傾げたトゲキッスにムウマが言う。
アイツは嫌いだ、いつもおれを虐める、酷いこと言うし、痛いことする。おれは逃げたい。
ムゥムゥと鳴いているムウマを見てカズキは首を傾げ、ユキメノコは自分の口元を手で押さえて顔を蒼くした。
―「良いんだよ。たまには自由にしてやらないと駄目だってじいさんが怒るからこうやって来てるだけだし。もともと強く育てるつもりでもねぇし」―
男の言っていた言葉を思い出してトゲキッスは眉間に皺を寄せた。
「カズキくん、ユキコちゃん、ちょっと俺、行って来ます!」
「え!?」
柵を飛び越えて走って行ってしまったトゲキッスを見送ってカズキはポカンと口を開けた。
「キッスさん、怒ってた…?」
「…怒ってた、かも?」
*
ポケモンセンターで愛想の悪い男か女か曖昧な受付に「一泊」と同じように素っ気なく返した男は鍵を受け取り部屋へと向かおうとした。
「待って下さい!」
声に振り返れば育て屋で別れたはずのトゲキッスが居て男は首を傾げる。
「え、私?」
「そうです!」
眉を寄せて男を睨むように見るトゲキッス。
たまたま受付をしていたミミロップがトゲキッスの様子に混乱する。あのトゲキッスが声を荒らげて人を睨んでいるだと!?
「ムウマから聞きました!貴方から酷い暴力と暴言を受けていると!」
「……は?」
責められているというより、何故ポケモンの言葉が分かるのかという方が男には興味深いことだった。
ムウムウ鳴くだけのムウマからどうやって聞いたのか、むしろ聞きたいと男は思った。
「どうしてそんなことするんですか!自分の主人である人間から逃げたいとまで言わせるなんて…!」
アレが逃げるのなんてよくある事だし、何故するかと言われると、そうした方がムウマが可愛く見えるからであって…。
というか、私は何故こんなに怒られているのかと男が眉を寄せると、トゲキッスは男を睨みながらポロポロと目から涙を流した。
「はあ!?」
「自分がやられて嫌な事は!人にやっちゃ駄目です!ちゃんと謝って仲直りしてください!ムウマが可哀想です!」
泣きながら訴えてくるトゲキッスを見て男は驚き固まった。
怒ってると思ったら急に泣いて、その怒り方がまたなんかズレてる…。
「ぁあ、うん、ごめん…」
「…分かってくれたんですね…!」
「え?ああ…うん」
「じゃあ、すぐ仲直りしに行きましょう!自分の主人のことを本気で嫌いになれるポケモンなんて居ません!ムウマも本当は貴方のこと大好きに決まってます!」
ぎゅ、と男の手を掴んで笑うトゲキッス。
強面でいかつめの顔であるトゲキッスが目を瞑り満面の笑みを浮かべたことに男が固まった。
「これが…っ、ギャップ萌えって奴か!?」
「俺、ギャロップじゃないですけど」
「いや、ギャロップじゃなくて、ギャップ…」
「さ!早く行きましょう!仲直りは早い方が良いですから!」
ぐいぐいと男の手を引いてポケモンセンターを出て行くトゲキッス。引っ張られるまま連れて行かれる男。
それを見送ったミミロップはポカンと口を開けたまま固まった。
「え…、何事…?」
*
ポケモンセンターから男の手を引いて戻って来たトゲキッスを見てユキメノコが驚き固まった。
誰それ。とカズキが聞くとトゲキッスはムウマ達のトレーナーさんですと笑顔で返す。
自身のトレーナーを連れて来られたムウマがブルブルと震え、カズキの背に隠れた。
「ムウマ、ご主人と仲直りしましょう!」
「ムウ!?」
「本当はご主人のこと大好きなはずです!ご主人もムウマのこと大好きですから!もう痛いことだってしませんよ!」
ね!とトゲキッスに返答を求められて男はニコリと笑顔で頷いた。
それが余計に怖いムウマは更に体を震わせ怯える。
「お前らのことは大好きだぜ?ごめんな、私の愛情表現の仕方を嫌がってるとは思わなかったんだ、だってほら、私達って言葉通じないから」
「ムウゥ…」
「仲直りしようぜ」
「ムウ~…」
マジこえぇええ、笑顔こえぇぇぇ!とムウマが更に体をブルブルと震わせた。傍にいたバクフーン達もまた固まり主人の言葉に怯える。
バンギラスはそんな事を言い出すなんてどうしたのかと主人の様子を密かに心配した。
「キッス!ほら、仲直りした!な?ムウマ?」
男に同意を求められてムウマはコクコクと頷いた。ただただ不気味で怖い。
「ほらぁ!」
「はい!仲直り出来て良かったです!」
「ありがとな、キッス。お前が居なきゃ私とムウマはずっと仲直り出来ないままだった…、お礼に今晩、飯奢るから飯行こうぜ」
「お礼なんて良いですよ!お役に立てただけで十分です!」
「…………。私、今日一人で寂しいからさ~…。キッスが一緒に飯食ってくれると嬉しいんだけどなぁ…」
「…え!そ、そうですよね、手持ちみんな預けて一人ですもんね…!分かりました!俺で良かったらご一緒します!」
「おー!サンキュ!これで一人寂しく飯食わずに済むぜ!」
ニヤニヤと笑う男を見てムウマがヤバイ!と慌て出す、バンギラス達もまたあれはマズイ!とユキメノコに視線をやった。
その視線に気づいてユキメノコがトゲキッスを引き留める。
「キッスさん…!でも、お家の方に許可をもらわないと駄目ですし!」
「え?別に外食くらいなら大丈夫だと思うけど…」
「は?外泊だと許可居るの?何処の良いとこの坊ちゃんだよキッスくん。あ、キッス、私一人だと夜は怖くて眠れないから朝まで付き合って欲しいな」
「ええ!?一人で眠れないのにどうして手持ちみんな預けちゃうんですか!?」
「じいさんに言われて…私、仕方なく…!ホントは一時も離れたくないんだけど、仕方なく…っ!」
「あぁ…なるほど…!」
なるほどじゃねぇええ!とカズキがトゲキッスの腕を掴んだ。
男の言葉に流されつつあるトゲキッスをガシと捕まえたカズキは首を横に振った。
「キッスさん!危ねぇよ!」
「そうなんだよ、夜は危ないからさー、怖いじゃん?」
「そんなに危ないですか…、俺、あんまり夜は出歩かないから知りませんでした…」
そうだったのか~、と眉を下げるトゲキッス。
コイツ上手いこと被せてきやがって!とカズキが男を睨み付ければ、男はニタァと綺麗な顔を歪ませて笑った。
あわあわと慌てるユキメノコ、今まさに悪い男に捕まりそうなトゲキッスを必死に止めようとカズキが男とトゲキッスの間に割って入る。
「キッスさんに近付くんじゃねぇ!!!」
「……ぁあ、私って手持ち達からもそうだし、色んな奴らから誤解されるんだ。私は最低の嫌われ者なんだ…本当の私のことを理解してくれる奴なんて居ないんだ……っ」
うう、と口元を手で覆って泣く男。
そんな男の背をトゲキッスが撫でる。
「大丈夫ですよ!俺は貴方がそんな最低の人だなんて思わないです!ちゃんとお礼も言えて謝れる人は良い人ですよ!」
「キッス…!」
「キッスさぁぁあああん!!!」
「ムウウウ!!!」
カズキとムウマが男に怒る。
ソイツ、絶対に正真正銘のクズ!と言ってカズキが男を指差せばトゲキッスは「そんな人間は居ません!」と泣きそうな顔で言う。
「自分の本当の気持ちに気付けば、人間はみんな優しい心を持ってるんです!間違ったことをしていれば教えてあげれば良いだけです!クズだなんてそんな酷い言葉を相手に言ってはいけません!」
「オレ、怒られてる!?」
トゲキッスとカズキが口論を続けている間、ユキメノコはシンヤへと電話を掛けていた。
電話の画面に映る女の姿に「お、ユキメノコか」とシンヤは笑みを返す。
<「子供産むのちょっと待ってくれるか?助産師の資格取るのに少し時間が欲しいんだが…」>
「それどころじゃないんです!キッスさんが悪い男の人に騙されそうです!」
<「…は?」>
その後、過保護な保護者がブチ切れて怒鳴り込んできた。
「うちのキッスをどうするつもりだ!」
「うわっ!?生シンヤ!!」
「シンヤ、俺、今日この方と外食して来ますね!一人でご飯食べるの寂しいそうなので!あと夜に一人で眠るのも怖いそうなので付き添ってあげようかと思ってます!」
「…そうか、じゃあ、うちにでも泊まってもらいなさい」
「良いんですか!良かった!それなら寂しくないですね!」
「えぇ!?何!?どういう関係!?はぁ!?」
「お前、後で詳しく話聞くからな…」
「え゙…!?」
*