遠路はるばるやって来たツバキは切り抜き記事をどんとテーブルに置かれて溜息を吐いた。
「そりゃもうこっ酷く叱られたけれど僕は諦めてないからな!」
「プラターヌうざ!ウザターヌ!」
「シンヤさんに会いたかったのにぃいい!」
わあん!とテーブルに突っ伏したプラターヌを見るイロは結構カッコイイ人だ!と目を輝かせた。
「シンヤさんの話じゃなくて珍しい進化の話じゃなかったんですか、プラターヌ博士」
「あー…、なんか語る元気が出ないから後で書類見てくれる…?」
「……分かりました、クソターヌ博士」
「ツバキの所の助手、口悪いよ!」
「出来た子なので」
「何処で引き抜いてくるの!こういう子!?」
いや、なんか自分で来たけど。と頬杖を付きつつ言ったツバキにプラターヌは顔を歪ませる。
「え…、博士志望で学校出た子なんだよね?」
「違うよ~、エンペラーはなんか興味持ったので働かせてくださいってうちに自分から売り込みに来た子。全く知識無かったから勉強はうちに入ってからしてた」
「ツバキ、相変わらず雑だね。仕事が」
「ばかやろう、うちのエンペラーは口は悪いし態度も悪いけど頭の出来はとても良いスーパー助手なんだぞ!」
「……」
「っていうか、うち雇ってもなんかみんな違うとこ行っちゃうんだよねぇ、不思議」
「仕事が雑だからでしょ…」
「うるせぇ!」
こんなもの!とテーブルに置いてあった新聞記事の切り抜きを投げ捨てるツバキ。プラターヌが悲鳴をあげた。
「せっかく集めたのに!」
「この顔は見飽きてるんですぅー」
「なんて羨ましい!」
「どいつもコイツもシンヤさんシンヤさん…。あ、ちなみにシンヤさんと写ってるその子ね。ミュウツーだよ」
「えぇ!?」
「は~、なんか美味しい物食べて帰るか~」
「ちょ、詳しく説明していって…!」
「うるせぇ!」
ギャーギャーと喧嘩するツバキとプラターヌ。
そこにプラターヌの助手がエンペラーに声を掛けた。
「シンオウ地方からツバキ博士にお電話が」
「ああ、じゃあ僕が出るよ」
はい、もしもし?と博士二人を放置して電話に出る助手。それで良いのかとプラターヌの助手は苦笑いを浮かべた。
<「あ、エンペラー。ツバキ今出れないの?」>
「今、喧嘩してる」
<「…めんどくせぇ~。じゃあ、用件言うから伝えといてくれる?」>
「良いよ」
<「オレ、ユキメノコと結婚する」>
「へえ、おめでとう」
<「サンキュー!式とかまだ決めてないからそれだけ伝えとこうと思ってさ!じゃ、よろしくな!」>
「うん、伝えておくよ」
電話を切ってツバキの頭を掴んだエンペラーは握力の限りツバキの頭蓋骨をギリギリと掴む。
「いててててて!」
「カズキくんから連絡」
「……なに…?っていうか、絶対に頭蓋骨変形した…」
「ユキメノコと結婚するんだって」
「……」
「……え?ポケモンのかい!?」
ガタッと立ち上がったプラターヌに多分ねと頷くエンペラー。
「……」
「ツバキ!ユキメノコと結婚するってどういうことだ!?」
「ここここここ、こっちだって聞きたいわぁあああああ!!!!」
ギャーギャーと更に喧嘩をしだしたツバキとプラターヌ。
はあ、と溜息を吐いたエンペラーが二人を力尽くで引き離す。
「うるさいから喧嘩しないで」
「いやいやいや!なんでエンペラーはそんな冷静!?あ、あたしの幼馴染がポケモンと結婚するなんて…!そんな!そんなのって…!美味しすぎるぅううう!!!グッジョブ、カズくんんんん!!!!」
「良かったね」
「人間とポケモンの種族を超えた愛!子供とかどうなる!?え?ちょっと、プラターヌ、一緒に予想しようぜ!」
「ツバキ、キミのそういう所すごく尊敬するよ…」
「産まれるのはポケモンか人間か!やっぱり人間になれるポケモンが生まれてくるのかな!はたまたポケモンになれる人間?いや、ポケモンの技を使える人間か…!」
わくわくしてきたー!とハシャぐツバキに釣られたのかプラターヌもふむと考えを巡らせる。
「やっぱりポケモンが産むってなるとタマゴで出てくるって可能性もあるんじゃないかい?」
「タマゴだったとして中から出て来るのはポケモン?人間?」
「うーん…」
「ポケモンのタマゴの理論から考えるとほら、メスの種族が反映されてるでしょ?それを考えるとポケモンの可能性が高い気がするんだよね~」
「それを言うとオスの能力を引き継ぐんだから人間としての能力も引き継ぐ可能性もある。そこを踏まえるとやっぱり人の姿になれるポケモンが産まれてくる…のか?」
「あー…」
そもそもタマゴを産んでる所をみたことない!という話からまた振り出しに戻り、タマゴが何処からやってくるのか、という話にまで遡りだした博士二人。
そんな二人に呆れながらエンペラーが言った。
「人の姿で性交する時点で人型が産まれるんじゃないの?体の構造的に考えて」
「…それって種族的にどっちだい?」
「…ポケモン?人間?」
「ハーフで良いんじゃない?上手く産まれるかは知らないけどさ」
「ツバキの所の助手、冷静だね」
「熱くならず冷静に分析出来る子なのよ、冷めすぎてる気もするけど」
三人の様子を黙って見ていたイロがハイ!と手をあげた。
「あ、あの!ポケモンのメスが人間の子供を産めるかっていうの私でも全然試してくれて良いですよ!エンペラーさん!」
「え、やだよ。僕、自分の子供は優秀な人間の女に産んでもらうんだから」
「ツバキの所の助手、なんか凄いね」
「色んな意味でね」
「で、でも!私、色違いですし!」
「は?ユキメノコってどうせヤマトさんの所のユキメノコでしょ?あの子、色違いだから間に合ってる」
がくり、と肩を落としたイロ。
人間の色違いってどんなんだろう…!と目を輝かせたツバキが想像を膨らませる。
「イロはそろそろ僕のこと諦めてくれる?僕の予定が狂うから」
「……、予定ってなんですか…?」
「僕、ツバキに子供産んで欲しいんだよね。性格はともかく優秀な人材だし、僕の子供産んでもらうならこの女かなと思ってわざわざ助手にまでなったんだから。
僕のこの冷静な性格とツバキの優秀な知能を持った子供を作る予定が当初から僕にはあるんだから、僕のことは諦めてよね」
「ツバキの所の助手、怖いよ!?」
「ひぃいいい!!!うちの助手こええええ!!!!」
「他の男と結婚しても良いけど子供は産んでほしい」
「シンヤさぁあああんん!!!うちの!うちの助手がああああああ!!!!」
シンヤの苦悩は更に続く。
*
実家に帰って来ていたノリコは母親から聞かされた言葉に大きく口を開けた。
「カズくんが結婚するぅ!?」
「ユキメノコってヤマトの所のですよね…」
「カズキが言うには凄く可愛い子らしいのよ~、お母さん楽しみ♪」
「いや、うん、ユキメノコは可愛いけど…」
え、そんな恋愛してるみたいなの聞いてなかった…とノリコは顔を歪ませる。
「いつからお付き合いしてたんでしょうね、初耳でびっくりしました」
「のんの予想だと絶対に付き合ってる段階とか無いですよ…!もう可愛いから良いか!みたいなノリで結婚したに違いありません!」
「……そんなまさか…」
「カズくんならありえる…」
「いや、まさか、さすがそこまでは…」
「お兄ちゃんも絶対に、"へー、可愛いなら良いんじゃないか?"みたいなことを絶対に言う…」
「……」
凄く言いそう。とエーフィが眉を寄せた。
「うーわー、もうなにそれ!ツバキが大はしゃぎしてそうなその美味しいネタなにそれ!やばい!」
「そもそも人間とポケモンで子供って出来るんですかね…」
「どうなんでしょう…、でもあれってポケモンのメスの種族で生まれてきますよね?確か」
「じゃあ、ポケモンが?」
「のんの甥っ子か姪っ子、ポケモン…?」
マジか。と頭を抱えるノリコ。
「それだと、人間の女がポケモンの子供を産むと人間が生まれてくるってことになりますね」
「ちゃんと生まれてくるのかも怪しいですけど~」
「でも、産むとなると…シンヤさんがまた忙しくなりそうですね…。シンヤさんに負担が掛かるのが気がかりです…」
はあ、と揃って深く溜息を吐いたエーフィとノリコ。
そんな二人を見てカナコが笑った。
「ノリコとフィーくんの結婚はいつかしら?」
「「…は?」」
楽しみね、と笑うカナコを前に二人は顔を青褪めさせた。
「フィーさん!のんは!のんはお兄ちゃんの変わりにお父さんとお母さんに人間の孫を見せてあげるという役目があるのですが…!!」
「私も貴女を嫁に貰う予定などありませんよっ!」
「カズくんがユキメノコと結婚する今、のんには重大な使命なのですぅうう!!」
「予定など無いと言ってるでしょうが!」
*
実家でノリコとエーフィが言い争って居る頃、シンヤはバンギラスの説得に悪戦苦闘していた。
ムウマ達は育て屋で引き取ることになったがバンギラスがエイゴを抱きしめて離さない。
「大丈夫だ!エイゴを捕るわけじゃない!一旦、離してやれ!」
「嫌です!嫌です!エイゴはオレのです!」
「………」
「お前ので良いから!」
「シンヤ、私、小便したい。早く…」
「お前もちゃんと説得しろ!」
こいつらめんどくせぇ!と怒るシンヤにブラッキーが声を掛ける。
「シンヤー、ツバキから電話ー」
「後にしてくれ!」
「でも、なんか助けてくれって泣き喚いてるんだけどさー…」
「はぁ!?」
エイゴ、もうちょっと我慢しろ。と声を掛けてシンヤが電話へと走る。
背後で漏らしたらどうしよう…と不安げなエイゴの声が聞こえたが無視した。
「もしもし!?どうした!?」
<「シンヤさぁぁああん!!うちの助手がぁああ!!キチガイィイイイ!!!」>
「大丈夫だ!お前も似たようなもんだ!」
<「なんだとこの野郎!?」>
ねえ!シンヤさん!?変わってよ!と後ろでうるさいプラターヌをツバキがグーで殴りつける。
<「エンペラーがあたしに子供産ませる気なんだよ!?どう思う!?」>
「え、どう思うか聞かれると心底どうでも良い」
<「シンヤさんのバカ野郎!!」>
「私は忙しいんだ!くだらないことで騒ぐな!」
<「くだらなくない!」>
「嫁の貰い手危ういんだから、子供産ませるついでに嫁に貰ってもらえば良いだろ!」
<「なんだと!?あたしにはジョシューさんという未来の旦那さんがいるのに!」>
「助手という未来の旦那でも良いだろ。大して違わん!」
<「ほんとだ!大して違わなく聞こえる!」>
アホか。と電話を切ったシンヤは再び庭へと走る。
膀胱がヤバイ…と苦しむエイゴを応援するヒロキヨを見てシンヤは深く溜息を吐いた。
「私、過労死するかもしれない…」
そんなシンヤの言葉にブラッキーが笑った。
「世界の終わりじゃん」
「笑い事か…?」
「シャレになんねぇ」
「はあ…」
助けてシンヤー!と悲鳴をあげるエイゴを救出すべくシンヤは重たい足を前に進めた。
「今、オムツ付けてやる…」
「嘘でしょ!?ちょ、待って!バンギラス!私をトイレに連れて行け!!!あの人、目がマジ!!!」
*