一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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「ツキくん…、ここ…こわいよ…!」

「……なんで付いて来たの?」

「ツキくんを一人で行かせるのは危ないと思って…!」

「……」

 

ひぃいい!と悲鳴をあげるヤマトに少しキュンとしたかもなんて思いつつブラッキーはビビリまくるヤマトの手を引いて森の奥へと進む。

何故こんな森の奥へ行くことになったのか、それはサマヨールからのお願いが理由だった。

昨晩、カフェでの仕事を終えたサマヨールがブラッキーに声を掛けた。

 

「ツキ…、相談したい事があるのだが聞いてもらえないだろうか…」

「ん?良いよ、何?」

「自分もまだまだの身ではあるが、後々の事を考えると早い方が良いと思ってな……」

「?カフェの話?」

「ああ…、カフェを永劫続けて行くとなると後継者が要るだろう?」

「あー…」

「見込みのありそうなのをツキに引き抜いて来て欲しい…、自分は店を長時間空けられそうにない…」

「まあ、オレ、暇してるからな…。良いよ、行って来る」

「……勘違いしてくれるな、ツキ。時間の空いてる奴だから頼むわけじゃない…」

「良いってそういうの~」

 

ブツブツと文句を言うサマヨールを言いくるめてブラッキーは笑う。

そして、次の日。

昼頃だというのに薄暗い森へと足を踏み入れたわけだが…。

 

「あああああああ!!!!あ、ゴースだ。可愛い…」

「ヤマト、うるせぇ」

「ごめんね、びっくりしちゃ…ぎゃああああああ!!!!…あ、ジュペッタだ。可愛い…」

「騒ぐから集まって来ただろ!お口チャック!」

「ううううう!」

 

悲鳴をあげるヤマトが面白くて驚かしに来るゴーストタイプを追い払いながらブラッキーはずんずんと森の奥へと進んだ。

 

「なんか、迷いなく進んでいくけど大丈夫なの…?」

「うん。目当ての奴を回収しに来ただけだし」

「知り合いの子が居るの?」

「うん。コーヒーメーカーに転職させてやろうと思って。あ、シンヤ専用の」

「…その知り合いの子にも選択の余地はあげるべきだと思うよ…」

「シンヤ専用なんて好条件飲まないわけねぇじゃん。むしろ、断る奴、頭おかしい」

「シンヤ中心のみんなの思考が結構ずれてると僕は思うんだ…!」

「いや、この世界、シンヤ中心で出来てるし…」

「…そ、そうだった……!」

 

*

 

選択の余地など無い。

シンヤの為なら身を粉にしてまで尽くせ。な思考のブラッキーは問答無用で目当てのポケモンを回収してきた。

ヤマト、唖然である。

 

「へい、お待ち~。永遠に使えそうなコーヒーメーカー(予定)だぜ!」

「「「………」」」

 

ポカンとテーブルに置かれたものを見たマスター。

サマヨールも無言でそれを見つめ、ピジョットは顔を歪めた。

 

「あの…この子、多分、ここに居るってまだ状況理解出来てないと思うんだけど…」

「まあ、良いじゃん?」

「良くないよ!」

「え?これが、ヨルくんが言ってた…お店を継いで行ってくれるゴーストポケモン?…こ、これ?」

 

ごとん、とテーブルに置かれた石にマスターは目を丸くする。

 

「かなめ石か……、悪くないな」

「え!?」

「こちらの方に店をやりくり出来る力があるのか、いささか不安ですけど…良いんですか?」

「え!?こちらの方ってどんな方!?」

 

石じゃん!と叫ぶマスターにヤマトは苦笑いを浮かべる。

 

「昔、悪さをして石に封印されたポケモンだと言われてるミカルゲっていうポケモンなんです」

「あー…そういうポケモンも居るんだ。どう見てもただの石だけどねぇ」

 

カッチカチ。とマスターが石をコンコンと叩けば石の割れ目からどんよりと煙のように出てきたソイツにマスターが悲鳴をあげる。

 

「うわっ!」

「おんみょ~ん」

「鳴き声ウケる!!!!」

 

ぶはっと吹き出したマスターがお腹を抱えて笑う。

ここのマスターさん色々とすごい、とヤマトは関心した。

とりあえず、人の姿になれ。とブラッキーに脅されて人の姿になったミカルゲ。

強制的であれど長生きしただけあって人の姿も自由自在らしい。

 

「ま、人の姿でも足元が重くって困っちゃうんですけどねぇー!」

「このミカルゲ、オレが見つけた中で一番明るい奴」

「へー、よろしくね!ミカルゲ」

「よろしくはしねぇ!おれは人間はお嫌いなので!」

「えー…」

「仲良くしろって。ぶん殴るぞ」

「仲良くしようぜ!人間!」

 

ぐっと親指を立てたミカルゲ。

基本的にブラッキーが怖いらしい。

 

「ツキくん、ミカルゲになにしたの…?」

「森で遭遇した時に喧嘩売られたから長期戦でボッコボコにした」

「おーぅ…」

 

それでここは何処ですかっ!と辺りを見渡すミカルゲ。

そんなミカルゲにブラッキーが店のことシンヤのことを説明する。

 

「あー、ようするに、そのシンヤの為にコーヒーが飲めるお店をおれがずっと続けていけばいーの?」

「そういうことだけど…。お前がシンヤを呼び捨てにすんな」

「…はい。すみませんです…」

「(いや、別に良いと思うけどな…)」

「でも、おれそのシンヤ様しらねーし!コーヒーってのもしらないんですけどー」

「まあ、それは後々知っていくって事で。とりあえず未来永劫、己の身体が消滅するその時までシンヤに忠誠を誓いひたすらに美味しいコーヒーを淹れる為だけの存在になると誓い契約書にサインしろ」

「(ガクガクブルブル…!)」

「ツキくーん!?」

「お前がこの話を断った場合…、お前の身体は今ここで消滅します」

「(ガクガクブルブル…!)」

「脅すのはやめてあげない!?」

 

物凄く震えるミカルゲをヤマトが慌てて抱きしめる。

 

「おいこら、抱きつくな!離れろ!」

「痛いっ!!」

 

バキッと殴られたミカルゲが涙目になりながら頬を押さえた。

 

「なんでミカルゲの方を殴ったの!?」

「ヤマトは人間だから殴ったらダメージでかくなるじゃん?あと早く離れないともう一発行くから」

「離れる!離れるけど!なんで怒るの!?」

「はぁ!?ヤキモチ焼いてますけど何かぁ!?」

「え、えぇぇぇー…」

 

オレの前で他の男を抱きしめるとかどういうつもりだコラ。とヤマトがブラッキーに怒られているのを見てサマヨールはうんうんと頷いた。

 

「ツキも素直になってきて良いことだ…」

「ミカルゲに少し同情しました…」

「だ、大丈夫?ミカルゲ…?」

「だいじょばない…!おれ、森に帰りたい…!」

「えぇ!?な、泣かないで!あ!そうだ!コーヒー!コーヒー飲む?飲んだことないんだもんね?飲んでみて!落ち着くから!」

 

ね?とマスターに促されてミカルゲは小さく頷いた。

それを見てマスターはニコリと笑って片手で器用にコーヒーを淹れる。

 

「マスター…、腕は大丈夫なのですか…?」

「うん、一人分ならゆっくり片手で淹れられるよ~」

 

早く骨がくっつくと良いな。と笑うマスターをじー…とミカルゲは見つめる。

ふんわりと良い香りがしてきて、ミカルゲの前にコーヒーが出された。

真っ黒な液体のそれを覗き込んでミカルゲは首を傾げる。

 

「コーヒー?」

「そうだよ。苦くて飲めなかったら甘くしてあげるよ~」

 

おそるおそる、カップに口を付けて啜ったミカルゲは眉を寄せた。

 

「苦い…」

「うん、じゃあ、お砂糖とミルクを少しずつ淹れるね」

 

黒色のコーヒーがマスターの手でまだら模様を作り色が淡く変化する。それを見てミカルゲは「おお」と目を輝かせた。

 

「はい、甘めになったよ」

 

ミルクで少し冷めたコーヒーをミカルゲはこくりと飲み込んだ。

ほんのり苦いけれど、さっきよりずっとまろやかで優しくてお腹がほんわかとあったかい。

 

「ふわぁ~」

 

思わず出たミカルゲの声にマスターは笑った。

 

「ね?落ち着くでしょ?」

「うん!」

「今飲んだコーヒーの他にもいっぱい種類があってね、それぞれ違う美味しさが味わえるんだよ」

「ほんとか!?他のも飲みたい!」

 

キラキラと目を輝かせたミカルゲを見てピジョットとサマヨールは顔を見合わせた。

 

「ああいう所は流石ですよね」

「本当に…マスターには敵わない…」

 

マスターのコーヒーに惚れ込んだミカルゲはブラッキーの作った契約書に喜んでサインをし。

このマスターの美味しいコーヒーをおれはずっと淹れるぞ!と張り切るミカルゲが弟子入りという名目で、マスターが購入した唯一のゴージャスボールにおさまることになった。

 

「ミカルゲってどんな風に進化するのか楽しみだね!」

「え…、おれ、進化しないけど…?」

「え…、ポケモンってみんな進化するものじゃないの…?」

「「……」」

 

*

 

「ただいまー!シンヤー!聞いて聞いてー!」

「おかえり。どうした?」

「今日、シンヤ用の未来永劫使えるコーヒーメーカー手に入れた!今、マスターの所で美味しいコーヒー淹れられる様に修業中だから楽しみにしといて!」

「(コーヒーメーカーの修行ってどういうことだ…)」

 

うちのコーヒーメーカーも修行したら美味さがレベルアップするのか?とシンヤは一人首を傾げたのだった。

 

*

 

コーヒーメーカーとして修業中のミカルゲは器用にコーヒーを淹れるサマヨールの手元を見ながら問いかける。

 

「なーなー、ヨル先輩」

「なんだ…?」

「シンヤ様ってどんな人よー?」

 

ミカルゲの問いに手を止めたサマヨールは目を細めて笑った。

 

「主は素晴らしいお人だ。元々聡明な方だがとても勤勉でいらっしゃる。どんな時でも一番頼りになる存在で、優しさも厳しさも持ち合わせた愛情深い方だ。そのお姿は凛としていて美しく、主に尽くし生きられることは本当に幸せなことだと思う……。

そうだな、主の素晴らしい所をあえて言うならば……」

 

寡黙かと思っていたサマヨールの口からは止まる事なくシンヤについて語られる。

えー…マジかぁ、そこまで聞いてねぇよ~とミカルゲが思っていてもサマヨールの話は終わらない。

 

「…あと、少々天然な所もまた魅力でな。真面目に人とは違うずれた発言をしてしまった時の主はとても愛おしくなる。

完璧な中にある、ふと見せる茶目っ気がまた人を惹きつけてしまうのだろうな…」

「…ヨル先輩、コーヒー冷め冷めですけどー…」

「ああ…、しまった……」

 

やっと止まった。とミカルゲは小さく息を吐く。

これは後で自分で飲もう、とコーヒーを片付けて。マスターに味を見てもらう為、サマヨールはコーヒーを淹れなおす。

 

「ヨルくーん、コーヒーまだ?」

「マスター…すみません、お喋りに夢中になって失敗してしまいました…。すぐ淹れなおします…」

「あ、そうなの?ヨルくんがお喋りに夢中だなんて珍しいね~」

「申し訳ありません」

「大丈夫だよ、ゆっくり淹れて~」

 

それで何の話をしてたの?とミカルゲの隣に座ったマスターにミカルゲは小さな声で答える。

またサマヨールのスイッチを入れてしまわないように、だ。

 

「シンヤ様のお話…」

「ああ、シンヤさん?そっかー、ミカルゲは会ったことないんだもんね?」

「うん。なんかどんな人なのかヨル先輩の話じゃ、ちょーっと分かんなかった」

「えー?そうだねー、俺の印象だとー。シンヤさんってねー、すっごいカッコイイ人だよ!超カッコイイ!マジ素敵!」

「…へー」

「まず男前!見た目も中身も本当に男前!前にあった事なんだけどね!シンヤさんの手持ちのトゲキッスがー!」

「……」

 

まさかのこっちにもスイッチ…!

ミカルゲは目の前で嬉々としてシンヤを語りだすマスターを見つめる。

こんな所が!とマスターが言えばサマヨールも同意して、またこんな所も!と話はどんどんと盛り上がる。

シンヤを知らないミカルゲはひくりと口元を引き攣らせ、そーっと椅子から腰を浮かせて店をこっそりと出る。

これ以上、聞いてられるか…!

あの二人が静まるまで散歩でもしようと歩き出したミカルゲは夕焼けの空を眺めながら歩き出す。人の姿になっても足元はずっと重い。

歩いては休憩、歩いては休憩。

その場にしゃがみこんで自分の重たい足を見ていれば頭上からの影にミカルゲの足元は黒くなる。

 

「…?」

「どうした?気分でも悪いのか?」

「え…?や、別に~」

 

ミカルゲがしゃがみこんだまま顔をあげれば自分を覗き込む人間の男。

なんでもないです、と立ち上がったミカルゲを見て男は首を傾げた。

 

「お前、こんな所に居るような奴じゃないだろ?どうした?トレーナーとはぐれたか?それとも誰かに無理やり運ばれて来て迷子か?」

「…!」

「?」

 

なんだこの人間?

いや、変わった気配がする。普通の人間とは違う、尊くもあり愛しくも感じるその気配にミカルゲは眉を寄せた。

 

「どうしたんだ?」

「いや…、見抜かれたの初めてだからびっくりした」

「なんだお前、野生か…?」

「違う、けど…」

 

つい、ほんと今日、野生じゃなくなった。と思いつつミカルゲは口を尖らせる。

 

「なら迷子か?トレーナーは?」

「迷子じゃない。おれ、ちょっと散歩してるだけ、だいじょーぶ」

「そうだったのか。それは間違えて悪かったな。暗くなる前にちゃんと帰るんだぞ?トレーナーが心配するからな」

「…うん」

 

ぽん、とミカルゲの頭に手を置いて歩いて行ってしまった男の背をミカルゲは見送った。

笑みを向けられて心があったかくなるなんて、不思議な人間だ。とミカルゲは自分の頭を撫でる。

マスターも良い人間だと思うけど、今の人間も良い人間だ…。

 

「…」

 

おれがミカルゲだって分かってて優しくしてくれる。

人間は嫌いだった。他のポケモンだって嫌いだった。自分を嫌う奴はみんな嫌いだった。

凄く寂しくて寂しくて、構ってほしくて悪さをして、怒られて恨まれて…。

 

「……」

 

ああ、思い出せば思い出すほど、石に戻って眠りたくなる。

そう、眠っていれば…眠っていれば、なにも…。

 

「ミカルゲ」

「…!?」

「やっぱり、気分が悪いんじゃないのか?」

「…ううん。平気」

「まあ、いい…。帰りも足枷が重くて座り込むんじゃないかと思ってな。これを持って行け」

「なにこれ?」

「おやつ」

 

じゃあな。と片手をあげて再び背を向けて歩いて行った男を見送ったミカルゲは貰ったおやつに視線を落とす。

こんな物でおれの気は紛れない。

そうは思いつつも封を開けてカップケーキのようなそれを口に運ぶ。

 

「…………、やっべ、これ超元気でる…!」

 

うまー!これはマスターのコーヒーと一緒に食べたい!

かじったケーキを袋に戻して重たい足を動かす。

そーだ、そーだ!昔のことなんか思い出してる場合じゃない!

おれはコーヒーを淹れなきゃダメなんだ。マスターの美味しいコーヒーをずっと淹れるってツキさんとの約束なんだ。

美味しいコーヒーを淹れられるようになったら美味しいお菓子も作れるようになろう。

 

「これは、眠ってる場合じゃねー!」

 

マスター!ただいまー!

帰る場所も必要としてくれる人もいる、おれはもう寂しくないんだ。

 

*

 

よいしょ、とテーブルにカバンを置いたシンヤにカズキがお礼を言う。

 

「兄ちゃん、まじありがと!」

「ん。気にするな、良い気晴らしになった」

「それ、お菓子ですか?」

「そーそー、兄ちゃんの作ったポケモン用のおやつ。これあるとポケモンの育ちが良くなることに気付いた。超テンション上がるみたいでさー」

「シンヤのおやつは凄く美味しいですからね!」

「みたいだな~。オレが食っても美味いかな?」

「知らん。人間用には作ってないが、食べれない材料ではない」

「え、じゃあ食ってみる」

「「……」」

「…あ。美味い!」

 

ちょっと甘さ控えめ!ともぐもぐと口を動かしながら何個かポケットに突っ込むカズキ。

 

「おいこら」

「んー。オレのおやつにも良いコレ」

「人間には人間用で作ってやるから…」

「マジで!?」

「ここに来る途中に寄り道して木の実をいっぱい採って来たから、今日のデザートにでも何か作ってやる」

「やった!仕事終わったら食いに行く!」

「真面目に仕事してなかったらお前の分は無しだぞ」

「はぁー!?オレ、超真面目に仕事してるって!な!キッスさん!」

「ふふ、はい!ポケモンの育ちが早いって評判ですもんね!」

「ほー?じゃあ、今度、うちのミロカロスも預かってもらおうか…」

「いや、もう育ちきってて無理っす」

 

*

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