一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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シンヤの事が書かれた雑誌を広げてミミロップは考える。

そしてその考え込むミミロップにサーナイトが首を傾げながら声を掛けた。

 

「ミミローさん、どうしたんですの?」

「んー…」

「なんですの?」

「ワタシの医者としての腕ってどう思う?」

「へ?それは勿論、素晴らしいと思いますけど…」

「そっか…」

 

どうしちゃったのかしら?と首を傾げるサーナイト。

ミミロップは眉間に皺を寄せて雑誌の記事を睨みつけた。

 

*

 

カフェで修業中のサマヨールのもとにミミロップがやって来たのは夜も深い時間。

ミカルゲの練習に付き合っていたサマヨールはミミロップの訪問に首を傾げた。

 

「ミミロー…?」

「ミミローさん、ちーっす」

「ミカ、ちょっとヨル借りて良い?」

「え?じゃあ、おれ、休憩してきまーす」

 

一時間したら戻りまーす、と明るく店を出たミカルゲ。

 

「コーヒー、淹れるか…?」

「うん」

 

カウンターに座ったミミロップにサマヨールがコーヒーを淹れる。

席に座って、少し考えたミミロップが話を切り出した。

 

「あのさ、ワタシ…らしくないとは思うんだけどさ…」

「…?」

「弟子、とろうかと思うんだ」

「弟子…というと医者として育てたい奴でも居たのか?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど。ワタシ、もうシンヤに教わる事も無くなってポケモンセンターの仕事任せてもらってるけどさ。やっぱり、どうしてもシンヤの役に立ちたいんだよな…」

「……」

「悔しい話、ワタシはシンヤにとってミロみたいに傍に居るだけで良いって思える存在じゃない。勿論、シンヤはそんなことないって言うだろうけど。ワタシが納得出来ない。シンヤの負担を少しでも減らそうと思って仕事してるだけじゃ、満足出来ないんだよ。

ワタシはもっと、…もっとシンヤの役に立ちたい…」

 

コトン、とミミロップの前にコーヒーが置かれた。

黙って聞いていたサマヨールは小さく頷く。

 

「気持ちは分かる…。だが、そんなに思いつめた顔をしていては…、主は悲しむぞ…?」

「それも分かってる。でも、ワタシは…ワタシにしか出来ない事でシンヤの役に立ちたい…!」

「…それが、弟子…か?」

「…シンヤに育ててもらった、この力だけがワタシがシンヤの役に立てる全て。

ワタシは…シンヤになる…」

「…?」

 

これ、とテーブルに雑誌を置いたミミロップ。広げられた雑誌のページに乗った記事にサマヨールは視線を落とした。

シンヤの話題で溢れるそのページ。

 

「シンヤの時間はもう止まってるんだ。だから、これ以上、世間の目に追われ続けるわけにはいかない。時が経てば経つほど、いずれ気付かれてシンヤは追い詰められる。時間の止まった特別な存在だって…。

だから…、だから、ワタシがシンヤになる。ワタシが、どの記事にも祭り上げられる存在になる…!」

「!!」

 

人間も目立つ事も大嫌いなミミロップの発言にサマヨールは驚いて固まった。

真剣な目で自分を見つめてくるミミロップの意思が本物なのだと分かるから、尚更。

 

「だから、弟子をとる…。人間の医者志望の奴とか、とりあえず、何処にでも行って自分を売り込もうと思う…」

「一番、不得意なことじゃないか…。ミミロー、お前にはもっともツライ人生の選択になる…」

「シンヤが苦しむよりずっと良い…!ワタシも自分がそういうの絶対に得意じゃないって分かってるんだけど、どう考えてもこれしか無いんだ!

ワタシが自信を持って売り込めるのはこのスキルしかない!ポケモンも人間も診れる医者として活躍出来るのはシンヤか、ワタシだけ!

媚びて媚びて媚びて!世間に伸し上がって、シンヤを忘れさせる存在になるしかない!!」

「…ミミロー…」

「…だからさ…まず、何から始めたら良いかな…?」

「………とりあえず、愛想笑いの練習から、だろうな…」

「………」

「………」

 

早くも挫けそう。とテーブルに突っ伏したミミロップにサマヨールは苦笑いを浮かべた。

サマヨールにはミミロップの気持ちが痛いほどに分かる。

サマヨールがシンヤに居場所を残してあげたいと思うのと同じように、ミミローもまたシンヤの人生の安穏を望んでいる。

生き続けるのなら、少しでも幸せに生きていて欲しい。

 

「さすがに、ジム制覇とかコンテスト制覇とかは無理だけど…医者一本ならワタシでもなんとか…」

「ツバキ博士に話題に出してもらえば良いんじゃないか…?」

「あ、なんかもう胃が痛い」

「……やめておくか…?」

「やめない…」

 

*

 

反転世界から外界を覗き込んだギラティナは一人一人の様子を確認する。

育て屋でお客さんを迎えるトゲキッス。

スーパーでバニラアイスを買うかイチゴアイスを買うかで迷っているミロカロス。

ドーナツ屋でヤマトと談笑するブラッキー。

ノリコのコンテスト衣装を選ぶエーフィ。

眉間に皺を寄せてツバキとお茶中のミミロップ。

コーヒーを淹れるサマヨール。

ポケモンセンターで受付をしているサーナイト。

お菓子の作り方をミカルゲに教えるチルタリス。

 

「……」

「ギラティナ、ジェンガしよう」

 

箱を手に声を掛けてきたミュウツーをギラティナは鬱陶しげに睨む。

おもちゃ屋にでも顔を出しに行ったのか、ミュウツーは新しいおもちゃに目を輝かせている子供だ。

 

「あのなぁ。オレは忙しいの」

「そんな変態的な趣味は良いから。ジェンガしよう」

「変態的って言うな!!見守ってんだよ!」

「ジェンガ」

「分かったよ!!!」

 

横で箱を開けたミュウツーに視線をやる。

バラバラと地面に広げられた木のブロック。それをエスパータイプならではの力で一瞬で組み上げられた。

 

「(オレ、勝てねぇじゃん)」

 

そう思いつつも一つのブロックを引き抜いたミュウツーに急かされてギラティナもブロックを引き抜く。

 

「外界を見てて何か面白い事はあったか?」

「いや、別に」

「何を見てたんだ?」

「んー、あいつらを見てただけ」

「私の事も見てたのか?」

「は?見てないけど?」

「そうか、なら何処に行ってたか分からないわけだな」

「いや、おもちゃ屋だろ」

「…見てたな…!?」

「これ見りゃ分かるって!!」

「あ。崩した」

「あ゙ー!!」

 

ギラティナの番で崩れたジェンガ。

不敵に笑ったミュウツーにギラティナはイラッとした。

そして、すぐに一瞬で組み直したミュウツーがまたブロックを一つ引き抜く。

 

「別にいつも見てなくて良いじゃないか」

「見てねぇと何があるかわからねぇだろ」

「見てていつもと違った事があったのか?」

「無いけど。あった時の為に見てんの」

「つまらない毎日だな」

「はぁ!?うるせえよ!!」

「私はそうやって外界を見てるギラティナを見てて、凄くつまらない」

「見んなよ」

「シンヤもアルセウスも見てないのになんでギラティナが見てるんだ」

「はぁ…?」

「いつも見てるのはおかしい」

「趣味だって言ってんだろ」

「そんな変態的な趣味に没頭するのはやめろ」

「変態的って言うなって!!」

「私は退屈だ」

「お前がかよ!」

「そう。私が。だから、この後、ドーナツを食べに行こう」

 

あれ。とブラッキーとヤマトが映る姿を指差したミュウツー。

いや、でも…と渋るギラティナを見てミュウツーはジェンガを崩した。

 

「あ」

「期間限定のドーナツがあるそうだ。ツキが言っていた。それは今だけしか食べれないんだ。だから今行こう」

「でも、オレが外に出たら。もし、なんかあったらどうすんだよ」

「その"なんか"があってもお前に出来ることなんて無い。行こう」

「ムカつくなそれ!!」

 

オレだって頑張ったらなんか出来るかもしれないだろ!と怒るギラティナ。

買い物帰りに通りがかったミロカロスが首を傾げた。

 

「どーしたの?」

「これからドーナツを食べに行くんだ」

「へー。お土産買って来てー。俺様、イチゴな!」

「イチゴアイス食べてイチゴのドーナツも食べるのか」

「ふふん♪俺様、今日はバニラにしたもんね!」

 

シンヤがイチゴー!と笑って歩いて行ったミロカロスを見送ったギラティナは苦笑いを浮かべる。

 

「結局、両方食うのミロじゃん」

「じゃあ、行こう」

「はぁー?オレ、まだ行くとか言ってねぇけど」

「私が決めた」

「決めんな」

「期間限定のドーナツは、芋栗南瓜らしい」

「すぐ行こう」

「ねっとり系」

「絶対に行こう…!」

 

やべぇ、超好き…!と歩き出したギラティナの背をミュウツーは追いかけた。

 

「あ、ツー。今から帰んの?オレ、これからヤマトとドーナツ屋なんだけどさぁ。ツーもギラティナ誘って来いよ!期間限定、ギラティナの好きな芋栗南瓜のねっとり系だから食い付くぜ!あの引き籠もり引っ張り出して来いよー!待ってるからなー!」

「…ツキは良い奴だと思う」

「え?何が?」

 

*

 

「ただいまー!」

「おかえり」

「シンヤにイチゴアイス買って来たー!」

「要らん」

「…バニラは?」

「え?要らん」

「じゃあ、どうする…?」

「両方半分ずつ食べて明日も食べれば良いだろ」

「シンヤは頭良いな~」

「腹壊すなよ」

 

 

*

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