一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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「何だよ、結局行くんじゃんか!!」

 

べしべしとテーブルを叩いて怒るミロカロスにうるさいと一言だけ返す。

カバンに荷物を詰めながら溜息を吐けばギラティナが笑った。

 

「ジョーイにしてやられてたな」

「全くだ」

 

旅だ旅だ冒険だと喜ぶトゲチックとブラッキー。二匹を見ているだけでも気が滅入る。

今回は仕方ねぇよと笑うギラティナはさすがについていくとは言わなかった。そこが少し疑問で問いかけてみる。

 

「お前は連れて行けって言わないのか?」

「あー、まあ、野生ポケモンの治療の旅とか面白くねぇし。よく考えたらオレ、こっちからずっと外界見れるからいつでもシンヤには会えるし」

「……そうか、お前が居たら私はいつでも帰ってこれるな」

「いつでも何処でもマイハウスに繋がってるから野宿知らず!!」

 

ケラケラと笑ったギラティナの頭を撫でてやるとギラティナはキョトンとした顔をして瞬きを数回した。

 

「な、何……?」

「いや、お前って実はかなり役に立つ奴なんだなぁと思って」

「今更!?」

 

まあ、ギラティナが居ればまだ出歩けそうにないスイクンの様子もすぐに見に来れるな。

必要な物があったら家に取りに戻れるわけだし……、家が別世界にあるのは予想してた以上に便利だ。

それにしても……。

 

「行きたくない……」

「え!?行くの、行かねぇの!?どっち!?」

 

ミロカロスがまたテーブルを叩いた。

 

「行く以外の選択肢が無くなったんだ……」

「じゃあ、行くの?」

「行きたくないけどな」

「俺様の事は連れて行く?」

「ああ」

 

顔に満面の笑みを浮かべたミロカロスがべったりと私の背にくっついた。邪魔だ鬱陶しいと言っても離れようとしない。

本当に鬱陶しい……。

カバンに荷物を詰め終わりカバンを肩に掛ける。いつでも家に帰って来れるなら荷物は最小限ですむ。応急処置は勿論、最低限の治療を行える道具をカバンに入れた。

あとはポケモンセンター認証の医師免許にジョーイ連中が作ったらしいポケモンドクターを証明するバッチ……。ああ、これは見える所に付けないと駄目なんだったな……。

溜息を吐いて家を出た、気分は憂鬱だ。

 

 

ポケモンセンターの前でジョーイと向き合う。

 

「それじゃ、いってきます」

 

「いってらっしゃい」

 

睨み付けながら皮肉を込めて言ってみたが、今日も輝かしい笑顔なジョーイ。いつか痛い目にあえば良いのにと思いつつジョーイに背を向けた。

 

「兄ちゃん!!」

「カズキ?」

 

駆け付けたらしいカズキが大きく手を振り声を張り上げる。

 

「頑張れー!!!」

「……」

 

嫌だ、とは思ったがこれを言うと後からジョーイに何を言われるのか分かったもんじゃないので片手をあげて返しておく。

 

 

 

この世界に来て、

ポケモン専門とはいえ、自分から命を絶った私が医者になるなんて。

 

睡眠不足にはなるし試験は同じ顔のジョーイだらけに囲まれるしで良い事なんて何もなかったが……、こんな付け焼刃の知識と技術で救える命なんてあるのだろうか……。

居ないよりはマシ、という事なのかもしれないが。

 

「めんどくさいな」

 

*

 

野生ポケモンの治療をして来いと放り出され歩くこと数十分、飛び出してくるのは元気なポケモンばかり。

よくよく考えてみれば。いや、よく考えてみなくても分かる。その辺に治療の必要なポケモンがごろごろと転がっているわけがないのだ。

 

「……」

 

ミオ図書館に行こう。

治療なんて見つけたらで良いだろ、別に治さないとは言ってないんだし。大体、野生と名がついているんだからあまり人間が干渉するものじゃないだろ。野生なんだから放っておいても何も問題ない。

自然治癒出来ない程度、それこそスイクンみたいに人間から故意に受けた傷とかでない限り人間が治してやる必要性なんてほぼ無い。

まあ、育て屋の仕事もないし、ジョーイに呼び出される事もないし。久しぶりにゆっくり出来るんだから図書館で自分の好きな本でも読むとしよう。

いつでも家には帰れるしな。

 

「なあなあ、何処行くんだ?」

「ミオだ」

「またミオー?」

「お前、確かヤマトになみのり覚えさせられてたよな?」

「俺様?うん、ひでんマシン押しつけられた」

「ならお前に乗せてってもらうからな」

「俺様に、乗る……?」

 

人型で隣を歩いていたミロカロスが急に立ち止まった。何だ、と私も止まって振り返ればミロカロスは目を見開いてこちらを凝視している。

 

「……何だ、不満か」

 

首を大きく横に振ったミロカロスが走って来た。

 

「俺様がシンヤに必要とされてるぅうう!!!やっぱり俺様ナンバーワン!!!」

「……」

 

抱きついて来たミロカロスを片手で制する。

 

「乗って乗って!!もうずっと俺様の上に乗ってて!!」

 

鬱陶しい奴だ。

 

 

ヨスガシティを通り過ぎて208番道路から207番道路に抜ける。少し歩けばそこはクロガネシティだ。

テンガン山の麓なだけあって岩ばかりの所。

 

「この辺のポケモン超ザコいよな」

 

お前が強すぎるんだ、お前が。

ヒンバスの時は水タイプの技なんてひとつも使えなかったが、ミロカロスに進化してからはバトルが早い早い。

この辺のポケモンは岩タイプやらが多いのかミロカロスには余裕の相手という事なんだろう。

 

「クロガネ炭鉱博物館……、寄って行くか」

「えぇぇえ……」

「別にボールの中に戻ってても良いんだぞ?」

「行く、行きます、行きたいです」

「……」

 

コイツはボールの中で大人しくしてない奴だな、と思いつつ博物館へと足を運ぶ。

 

「おお、でかい石炭だな」

「こんなの見ても面白くない……」

「石炭が出来るまで……、へえ」

「……」

「見ろ、地域によって石炭も違うらしいぞ。やっぱりその地の環境に変化されるんだな」

「……石炭、もういい」

 

頭痛い、つまらなさ過ぎて死ぬと呟くミロカロスがあまりにもうるさいのでまだ見たかったが博物館から出た。

 

「黒い岩なんて見ても面白くねぇよ……」

「石炭が出来るまでには長い年月がかかってるんだ。貴重な物なんだぞ、見て損はしない」

「見なくても損なんてしねぇよぉぉ……」

 

ホント、コイツ鬱陶しいな。

ミロカロスの頬を抓ってやればミロカロスが顔を歪めた。

 

「もっと面白いとこ行きたい」

「何処だ」

「炭鉱行こうぜ!!」

「目的は」

「岩タイプ狩り的な」

 

うっわー、嫌な奴。

この辺のポケモン、そんなにレベル高くないだろ。弱いものイジメだ。

 

「行きたいなら勝手に行け」

「えー!!!」

 

強い奴と戦いたいー!!バトルしたいー!!と叫びだしたミロカロス。周りの人たちの視線が集まって来た。

逃げ出したい衝動に駆られるなこれは。もう凄くコイツをすぐに野生に返して他人のフリがしたい。

 

「ねえねえ」

「あ?俺様に何か用かコラ」

 

話しかけてきた女性に何故か喧嘩ごしのミロカロス。愛想悪いな、まあ、私も人の事は言えないんだが……。

 

「強い人と戦いたいならジムに行けば良いじゃない、ヒョウタさんは強いわよ!!」

「ヒョウタ?」

「クロガネシティのジムリーダー。貴方だってコテンパンにされちゃうかも」

 

クスクスと笑いながら手を振った女性が去って行った。

ミロカロスの顔には不機嫌さが滲み出ている。嫌な予感だ。

 

「シンヤ……、ヒョウタとバトルしたいんだけど……」

 

言うと思った。

 

 

その後、ジムに殴りこみに行こうとするミロカロスを止めて。ボールに戻してから、わざわざ私が足を運んだ。

何度かジムを見た事はあったがジムでジムリーダーと向き合うのは初めてだ。今度デンジにでも会いに行こう。

 

「挑戦者の方ですね、では勝負です」

 

すまん、挑戦者は私じゃなくて鬱陶しい奴だ。

 

「ミロォオオ!!!」

 

「クロガネシティのジムリーダー。貴方だってコテンパンにされちゃうかも」

 

数分後、ミロカロスがジムリーダーをコテンパンにした。

 

 

「……ふぅ、ボクの完敗です。参りました」

「ミロォ!!」

 

ザマーミロ、とミロカロスが笑っている。

申し訳ない気持ちになりながらヒョウタがくれたバッチを受け取った。ジムリーダーに勝つとバッチが貰えるらしい。別に要らんな……。

 

「コールバッチです。このわざマシン76もどうぞ」

「わざマシン76……、ステルスロックか」

「!」

「ありがたく貰っておく」

「え、ええ。どうぞ」

 

興奮冷めやらぬといった状況のミロカロスの髪だか耳だか手だか分からない所を掴んで引っ張る。まあ、触角的なものだとは思うが……。

 

「ほら、もう満足だろ行くぞ」

「ミロ~」

 

満足したらしいミロカロスを連れてジムを後にした。

 

 

「わざマシンの番号と中身、全部覚えてるのかな……。うーん、只者じゃない感じ……。あ、名前聞くの忘れた!!」

 

 

*


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