「いらっしゃい……ま、せ…?」
「なんで疑問形だ?」
「ぎもんけいって何!?」
カフェへとやって来たシンヤとミロカロス。
出迎えたミカルゲがシンヤの姿を見て驚きで固まる。
「疑問形、わからないのか?」
「わからない」
「今、私がわからないのか?と聞いたのが疑問形というものだ。相手に何故?と問いかける疑問の言葉の形を疑問形と言う」
「…俺様は疑問形を使ってますか?」
「使ってる使ってる」
なるほど~と横で納得しているミロカロスにシンヤは頷き返す。
そのままカウンターの席に座ったシンヤとミロカロスをキョトンとミカルゲは見つめた。
「コーヒーとミックスジュース」
「あー、おれまだコーヒー淹れられないから、先輩戻るの待ってもらって良いですか~?」
「良いぞ。ミックスジュースはこっちに頼む」
「俺様ー!」
はい!と手をあげたミロカロスにミカルゲが頷く。
ミックスジュースを用意しつつミカルゲはチラリと二人の様子を見る。
片方は以前に出会った不思議な良い人間、もう片方は人の姿をしたミロカロス…。ここのお客だったのか…とミカルゲは心の中で呟いた。
「ここのミックスジュース美味しいから好きー」
「良かったな」
「ちょっと酸っぱいとこが良い」
「そうか」
「飲む?」
「要らん」
要らんかー、と呟きミックスジュースを啜るミロカロス。
変な奴、とミカルゲがミロカロスを眺めているとサマヨールが店に戻って来た。店内にシンヤの姿を見つけて慌てて駆け寄って来る。
「主…!申し訳ございません…っ、お待たせしてしまって…」
「ああ、大丈夫だ、おかえり」
「ただいま戻りました…」
「主!?え!?え!?ヨル先輩!この人がシンヤ様!?」
驚くミカルゲに「ああ、そうだが…?」と返事をしつつ首を傾げるサマヨール。
ん?と首を傾げたシンヤを見てミカルゲは瞬きを繰り返す。
「あんたが、シンヤ様だったんだ…」
「?」
おれが消滅するその時までコーヒーを淹れ続ける特別な人。あの時の、この人が…、おれを永遠に必要としてくれる人…。
ぽ、と頬を染めたミカルゲが恥ずかしそうにシンヤに向かってお辞儀をした。
「お、おれ…!ミカです!シンヤ様に美味しいコーヒーをずっと淹れられるようにがんばりますっ…!」
「…主、今は自分共々修行中の身ですが、ミカには消滅の時が来るまで店を維持してもらおうと思っています。主の為のコーヒーメーカーとでも思ってください」
「……コーヒーメーカーってその事か!」
「なんで頬っぺた赤くした。シンヤがカッコイイからか。カッコイイから赤くなったのか」
本気でうちのコーヒーメーカーもマスターの所に修行に出そうかと思ってた。と呟くシンヤにサマヨールは笑みを浮かべる。
「シンヤの事、好きになったらぶっ飛ばすからな!」
「え゙!?そんなこと言われても!おれ、もうシンヤ様のことかなり好きだけど!?」
「はぁああ!?俺様のだからなぁああ!!」
「ヨル、私にコーヒー」
「はい。すぐにご用意します…」
怒るミロカロスを宥めながら。シンヤはミカルゲに小さく笑みを向ける。
「よろしく頼むぞ、ミカ」
「はいっ!」
「頬っぺた赤くするな!!」
*
ツキさんがー、と何故かブラッキーとの出会いを語るミカルゲの話をシンヤはうんうんと頷いて聞く。おそらく、右から左ではあるがミカルゲは楽しそうだ。
シンヤの横でもぐもぐとお菓子を食べていたミロカロスが店の扉へと視線をやった。
「ただいまー!あ、シンヤさん、いらっしゃーい!」
「マスター…おかえりなさいませ…」
出掛けていたマスターとピジョットが帰って来た。買い物をしていたのか荷物を抱えたピジョットの後ろからひょこっと顔を出したスーツの男が目を輝かせる。
「ふおおおおお!?!?本物のシンヤさんだぁあああ!!!」
「あ、すみません。この方、私のトレーナーなんです」
「はじめましてぇええええ!!!」
「あ、ああ、はじめまして…」
少し引き気味に挨拶を返すシンヤにピジョットのトレーナーは飛び付く。
「俺、ヒナリって言います!仲良くしてください!好きです!握手して欲しいです!サインください!」
「……、」
「ヒナリさん、落ち着いて下さい」
べたべたするな!とシンヤの横でミロカロスが怒る。
興奮冷めやらぬヒナリをピジョットが冷静にシンヤから引き離した。
「ミカ、シンヤさんと会えて良かったね~」
「はぁい!シンヤ様、超好きですー」
やばい、俺様のライバルが増える…!と顔を歪めたミロカロスを見てサマヨールが笑った。
よいしょ、とシンヤの横に座ったヒナリがシンヤに話掛ける。
「シンヤさん、聞いてくださいよ~」
「ヒナリ、キミって本当に馴れ馴れしい子だね」
「え?」
マスターの言葉にヒナリは首を傾げる。
そんな二人に苦笑いを浮かべたシンヤは「で?」と話の続きを促した。
「何を聞いて欲しいって?」
「あ、そうなんです。俺のリザードンなんですけどね…!俺、上手く背中に乗れなくて~」
「は!?ヒナリさん、また隠れて練習したんですか!?」
「…………こっそり、乗り方教えてください」
「ヒナリさん!?」
「…そうだな、上手く背に乗せてもらうにはお互いの信頼関係も大事だからな、リザードンとちゃんと相談してみたら良いんじゃないか?」
「リザードンもやる気満々で乗せてくれてると思うんですけど、背中の上って不安定で上手く乗ってられないです」
「じゃあ、バランス感覚がただ無いだけかもしれないな」
「俺が悪い…っ!」
そんな気はしてたよ。とマスターが笑った。
「私の背には全く乗ろうとしてくれないのは何故ですか…!」
「え?そりゃお兄さんの背中に乗るなんて恐れ多いし…」
「私もヒナリさんと空を飛びたいのに、ヒナリさんは私を仲間はずれにするんですね…」
「ええ!?そんなことないよ!?ごめんね!お兄さん!お兄さんの背にも乗って良いなら乗りたいよ俺!」
「じゃあ、私とも練習しましょう」
「うん。分かった!」
見守っていたマスターが笑顔でシンヤに言う。
「あそこのリザードンとピジョット、ギスってるんですよ~。ご主人ラブ過ぎて」
「飛行タイプの争いが目に浮かぶ…。あ、でも、練習はやめさせた方が良い」
「そう?勝手にやらせとけば面白いんじゃないのかな~?」
「いや、リザードンの背に乗れない人間がピジョットの背に乗るのは無理だと…」
「……よし。一回、落ちるところを見てから止めに行こう!」
「マスター!?」
案の定、盛大に落ちた。
地面をのたうち回るヒナリに慌ててシンヤが駆け寄る。
「うん、骨は異常無いな。大丈夫」
「すごい痛いです…っ!」
当たり前だろ。とシンヤの言葉にしくしくとヒナリは涙を流す。
「俺、飛行タイプで仕事に行きたいんです…!それで、それでリザードンに協力してもらおうと思って…!」
泣きながら言うヒナリの言葉にシンヤは首を傾げる。
「なんだ。背にこだわってるわけじゃないなら。自分が乗れるくらいの籠を用意してリザードンに持って運んでもらえば良いじゃないか」
「!!!!!」
「リザードンばかりだと疲れるから、ピジョットと交代しながら仕事先まで運んでもらえば良い」
「え、シンヤさん天才過ぎるんですけど…!」
天才!と感激するヒナリに呆れるシンヤ。
早速、買い物だー!と走り出したヒナリを慌ててピジョットが追いかけて行くのを見送った。
「ピジョットとリザードンも大変だな」
「今度、リザードンくんのカウンセリングとかやってあげてください」
マスターの言葉にシンヤは小さく頷いた。
*
カフェに戻り、にこにこと笑みを浮かべながらミカルゲがシンヤにコーヒーを出す。
「おれが淹れてみました~!」
先輩のを見よう見真似で!と笑うミカルゲ。
マスターとサマヨールが苦笑いを浮かべる。
「召し上がって召し上がって♪」
「じゃあ、いただきます」
おいしい?と隣でミロカロスがシンヤに聞きながら首を傾げた。
「……うん、見よう見真似と言っていたわりに、うん、まあ、………うん」
そっとカップを置いたシンヤが眉を寄せる。
「……飲める、って言ってやりたいけど、これはちょっと飲めない。本当にすまん、ミカ。許せ。もう飲めないこれ」
「お前ぇええ!!シンヤに何飲ませてんだコラァアアア!!!」
「あれぇ!?ちゃんと豆ゴリゴリしたのになぁ…?」
「ミカ……主には飲めるものだけお出ししろ……っ!」
「あれぇ…?」
シンヤの飲みかけコーヒーをコクリと飲んだマスターが横で盛大に咽る。
「げほっ!!ごほっごほっ!!ぅう、ぉえ……、げほげほっ!!」
カップを置いたマスターが親指を立てる。
「…うん。今日、徹夜ね!」
「は~い!」
これは骨が折れるねぇ、と口だけで笑みを浮かべたマスターは遠くを見つめた。
シンヤの横に座っていたミロカロスがガタンと立ち上がる。
「お前より俺様の方が上手に淹れられる!」
「なんですと!?」
貸せ!とカップをぶんどったミロカロス。
コーヒーメーカーは何処。と聞いたミロカロスにミカルゲが驚愕の表情を浮かべる。
「いや…、これで豆挽くみたいっすよ…?」
「俺様の知ってる奴と違う……」
「どーゆーの?」
「フタ開けてー、スプーンで豆入れてー、フタしてー、水入れたやつセットしてー、スイッチをピッ!」
「なにそれスゴイ!」
うちのコーヒーメーカー。豆から挽けるやつだからな。
「全自動は便利だけどね。うちの手挽きのコーヒーの味には敵わないよ!この洗練された挽き加減!豆の粗さだって豆ごとに調節するプロ技術を見よ!!」
マスターが嬉々として豆を挽いているのをミロカロスとミカルゲが目を輝かせて見つめる。
「ちなみにこの豆を挽く道具は、ミルと言います」
「「おお!!」」
「俺様、ミロ!」
「おれ、ミカ!」
「この子はミルでーす!」
「「うおおおー!!」」
ハシャぐ三人を眺めていたサマヨールがボソリと呟いた。
「……、何が楽しいのだろうか…」
シンヤは小さく頷いた。
*
シンヤがカフェでのんびりしている頃、ミミロップはツバキとフレンドリィショップへとやって来ていた。
「ここー、ここの店員さんから相談があるって手紙来てたのよ!なんでも自分のポケモンから暴力を受けてるみたいで」
「ポケモンがトレーナーに暴力って新しいパターンだな、それ」
「DVよDV!どめすてぃっく!」
「なんかツバキと会話してたら脳ミソが疲れる」
「どゆこと!?」
すみませーん、とショップへ入って行ったミミロップをツバキが追いかける。
今回、有名な医者として名を上げる第一歩としてツバキの所に度々寄せられるポケモン相談を解決して行こうという話になった。
ツバキに都合良く使われている感は否めないが、自分から売り込むのが苦手なミミロップには向こうから勝手にやってきた相談を解決していく方が楽だと思ったわけだ。
しかし、その第一歩がまさかのトレーナーがポケモンから暴力を受けてるって…。立場逆転過ぎるだろ、と思いつつもミミロップはカウンターに立つ店員へと視線をやった。
「どうも!ツバキです!お手紙くれたリョウスケさんはいらっしゃいますか!」
「ツ、ツバキ博士!俺です!俺がリョウスケです…!来て下さったんですね…!」
うああ、と泣き崩れツバキに縋り付いたリョウスケ。
落ち着いて!落ち着いて!と声を荒げるツバキが一番慌てているのを無視して、ミミロップはリョウスケの肩を叩いた。
「どーも、ポケモンドクターのミミローです。とりあえず、お話詳しく聞かせて頂けますかね」
「は、はい…」
ショップの店番を変わってもらったリョウスケを連れてポケモンセンターの隅の方の席で顔を見合わせて座る。
事情を細かく教えて下さい、というミミローの言葉にリョウスケがポツリポツリと説明を始めた。
俺のポケモンはルカリオです。
ルカリオは元々、俺の手持ちじゃなくて、ポケモントレーナーをして各地を旅してる友人のポケモンでした。
その友人が突然、ルカリオがお前と一緒に居たいみたいだからとポケモン交換を持ち掛けて来たんです。
俺の元々の手持ちはフシギダネで旅立つトレーナー用だった子を縁あって譲り受けて一緒に暮らしてました。
離れ難い気持ちはあったんですが、俺は旅もしないしバトルもしないので、旅立つ予定だったフシギダネも旅に出たいんじゃないかと思って交換を飲みました。
フシギダネも念願の旅が出来るし、俺のところに来てくれるルカリオも俺と一緒に居たいと思って、俺の所に来てくれるんだから、上手く行くと思ってたんです…。
最初はとても良い子でした。仕事の手伝いもしてくれるし、甘えてきてくれてたんですが。
急に癇癪を起したように暴れ出す事が増え始めたんです…。
暴れて部屋をめちゃくちゃにしたり、お客さんのポケモンに突然攻撃をしかけたり、俺に噛みついてきたり……。
それがどんどんと増して来たんです。
泣きながら呻って俺を睨みつけて、首を、絞められた事もあります…。
びっくりするかもしれませんが…!その首を絞められた時にルカリオが人の姿になったのを見たんです!その時の事は朦朧としていてあまり覚えてないんですが、
噛みつかないように口を押さえつけていたら急に人の姿になって飛び掛かって来られて、気が付いたらルカリオはいつもの姿でソファを噛みちぎっていました…。
首は人の手の形で痕が残ってました…。
ポケモンが人の姿になるなんて事、ありえるんですかね…?
人の言葉を喋れるなら何を思ってるのか聞いてやれると思って、尋ねた事もあります…。でも、ルカリオは呻るばかりで、癇癪を起して俺に殴りかかって来る事も増えました…。
どうすれば良いのか、分からないんです…。
うう、と涙を流すリョウスケを見てツバキが顔を悲しげに歪める。
ミミロップはうーん、と頭を押さえた。
「分かりました。ルカリオと話をさせて下さい」
「え…?話、ですか?」
「リョウスケさんの質問に答えるなら、人の姿になれるポケモンは居ます。とだけ答えておきます。ルカリオは何処ですか」
「え?え?ルカリオは、家に居ます…けど…」
「大丈夫、大丈夫!ミミロー先生に任せとけば大丈夫よ!ツバキちゃんお墨付き!」
「は、はぃ…」
*
ガチャ、と家のカギを開けたミミロップはリョウスケの家の中へと足を踏み入れる。
その途端に、殺気がこちらへ向けられるのを感じ眉を寄せた。
「ワタシはポケモンドクターのミミローだ。話をしよう、ルカリオ」
「ぐるるる…っ」
「お前が何を思ってトレーナーに攻撃をしかけるのか聞いても良いか?」
「……」
「答えないなら、こっちから候補出していくから返事して。
1、元々のポケモン交換に不服だった。
2、バトルをしない生活にストレスが溜まっている。
3、トレーナーから嫌な事をされ、訴えたが気付いてもらえない苛立ちがある。
4、トレーナーが嫌いで解放されたい。」
思いつく限りの候補をあげようとしていたミミロップに呻り声と共に攻撃技が飛んでくる。
はどうだん、ミミロップには最悪の技でミミロップは壁に叩きつけられ床に倒れこむ。
「ぐるぁあああああっ!!!」
「ッ!!!」
「ミ、ミミローくん!!!ああああ、カイリュー!止めて、早くルカリオ止めてーーー!!!」
*