一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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< カミサマ、どうかお力を… >

「「…」」

「…(もぐもぐ)」

 

絶賛、ミアレ観光中。

ミアレガレットを頬張りつつアルセウスは足元で頭を垂れるフラエッテ。

チラリとアルセウスの反応を伺うディアルガとパルキア。

もぐもぐ、ごくん、とガレットを飲みこんだアルセウスはフラエッテに視線を落とす。

 

「哀れな姿とは思うが、貴様の魂は数多の魂の集まり、自業自得ではなかろうか」

< …… >

「私はお前を救う気は微塵も無い」

< …… >

 

頭を下げたまま、涙を一つ、地面に落したフラエッテにアルセウスは言葉を続ける。

 

「だが、この世界の神は別に居る。私の今のこの姿はこの世界の本当の神の姿ぞ。奴は甘い、ポケモンには特にな」

< …… >

 

ニヤと笑った顔を見上げたフラエッテは唯一の希望を求めて、アルセウスに再び頭を下げてから飛び去った。

人間のエゴで再びこの世に呼び戻された小さなポケモン。

アレの時を止める事が出来るのはディアルガ。

アレを望む地に送る事が出来るのはパルキア。

その望みを聞き入れるかどうかは神のみぞしること…。

 

「このガレットは美味だな」

「「うん」」

 

*

 

ギラティナが鏡の中に潜り込み、反転世界からプラターヌ研究所までの道をせっせと繋げている頃、シンヤは通話画面の向こうで泣くミロカロスを宥めていた。

 

<「なんで、そんな所に居るんだよぉ…!」>

「好きで居るんじゃないぞ、本当に、ギラティナが道繋げたらすぐ帰るから!な!」

<「俺様、またコーヒー淹れたのに!」>

「帰ったら飲むから」

<「ほんとに…?」>

「ああ、本当だ。ちゃんと帰るから良い子で待ってろ」

<「……わかった、俺様、良い子で待ってる…」>

 

ぐすぐす、と泣くミロカロスにシンヤはひらひらと頭を撫でるように手を振った。

それに気付いたのかミロカロスがへらりと涙目のまま笑った。

 

<「早くね!」>

「ああ、ギラティナの頑張り次第だから、早く帰れたらギラティナにもコーヒー淹れてやってくれ」

<「わかった!」>

 

笑うミロカロスが手を振ったので、手を振り返して電話を切る。

さてと、とシンヤが席から立てば窓の外に一輪の花がふよふよと動いている。

変な形の花だな、と思いつつ窓を開ければ窓枠に座る小さなポケモン。

 

「…………確か、フラエッテとかいう」

< …カミサマ >

「え?」

< カミサマ、…どうかお力を… >

「え゙!?」

 

*

 

3000年前…、

自分は一人の優しい人間に愛されていました。

しかし、戦争が起こり、そこで自分は死んでしまいました。

自分が死んだ事に深く悲しんだ人間は、自分を蘇生させるキカイを創りました。

自分は今一度、この世に蘇りました。

 

でも、

深い悲しみから癒えぬ、強い怒りを覚えた人間は、自分を傷付けた世界に復讐する為にキカイを最終兵器に変えて、破壊の神となり全てを滅ぼし戦争を終わらせました。

戦争は終わりました。しかし、自分は知ってしまったのです。

自分が蘇った兵器の力が、沢山のポケモンの命を奪って蘇った永遠の命だという事を。

かつて自分を愛してくれた優しい人間は居ませんでした。自分は人間のもとを離れました。

 

人間は、自身の創った最終兵器の副作用で寿命が延びてしまっていました。

それでも自分は人間のもとには戻りませんでした。かつての愛する心を持った優しい人間に戻ってくれるのをずっと待ちました。

人間は3000年間、自分を探し彷徨い歩いていました。とても悲しかった。でも、自分は人間のもとへは戻りませんでした。

 

そして、

一人のトレーナーが人間…彼に思い出させてくれたのです。

彼は過去の自身と決別し、本来のポケモンを愛する心を取り戻してくれた。

ずっと信じていた、自分を愛してくれた優しい彼に戻ってくれた時、自分…私も彼のもとへ戻りました。

 

< とても、嬉しかった… >

「……」

< 私の存在はとても罪深く。決して許される事は無いでしょう。それでも、願ってしまうのです >

「…」

< もう一度、優しい愛する彼のもとへ… >

 

どうか、お力を…と深く頭を下げたフラエッテ。

そんなフラエッテを見下ろしてシンヤはどうにも言葉が出て来なかった。

一瞬でも、

自分がそのキカイを創れれば…と思ってしまったから。

愚かな事だ、こんなにも生き返らせられたフラエッテが苦しんでいるのに、一瞬でも脳裏に過るなんて…。

 

「アルセウスには会ったのか…?」

< はい…、『私はお前を救う気は微塵も無い』と仰られました。

ですが、その後にこうも仰いました。『だが、この世界の神は別に居る。私の今のこの姿はこの世界の本当の神の姿ぞ。奴は甘い、ポケモンには特にな』と >

「…アイツ……」

< カミサマ、私は貴方様の優しさに付け込もうとやって来た愚か者です。ですが、お許し下さい。どうぞ…ご慈悲を… >

 

ポロポロと涙を流すフラエッテを見て、ダメだ帰れ、一生罪を背負って生きろ、なんて言える人間が何処に居るというのか。

 

「分かった。ディアルガとパルキアに私から言う。大丈夫だ」

 

苦笑いを浮かべたシンヤが床に跪くフラエッテを手の平で救い上げる。

 

< カミサマ…っ >

「その神様っていうのはやめてくれ…、シンヤだ。そう呼んで欲しい」

< シンヤサマ… >

 

*

 

研究所で読書に勤しんでいたミュウツーにアルセウス達を連れて来てくれと頼んだシンヤはテーブルの上にちょこんと座るフラエッテを見下ろす。

 

「3000年か…」

< … >

「お前の主人は3000年も一人で生きていたんだな…」

< …はい >

 

しょんぼりした様子のフラエッテを見て、シンヤはフラエッテの持つ花をつつく。

 

「…別に責めてないからな?それはお前も同じなんだから」

< … >

「ただ、少しでも…話をしてみたかったな。と思ったんだ」

< …? >

「3000年も生きた人間と」

 

会ってみたかった、と窓の外を見つめたシンヤをフラエッテは見上げた。

せめてどんな人間だったか教えてくれ、と言えばフラエッテは嬉しそうに語ってくれた。

 

「身長、3mは越えてるとか冗談だろ?お前が小さいからそう見えるだけじゃないのか?」

< 本当ですっ! >

 

*

 

昔々 今からずっと昔

オトコとポケモンがいた

とても愛していた

 

戦争が起きた

オトコの愛したポケモンも戦争に使われた

 

数年がたった

小さな箱を渡された

オトコは生き返らせたかった どうしてもどうしても

 

オトコは命を与えるキカイを造った

愛したポケモンを取り戻した

オトコはあまりにも悲しんだため怒りが治まらなかった

愛しているポケモンをキズつけた世界が許せなかった

 

キカイを最強の最終兵器にした

オトコは破壊の神となった

神により戦争は閉じられた

 

永遠の命を与えられたポケモンは知っていたのだろう

命のエネルギーは多くのポケモンを犠牲としていたことを

生き返ったポケモンはオトコのもとを去った

 

*

 

3000年の時をえて、

オトコは一人のトレーナーと出会う

トレーナーとの戦いの中で、

オトコはトレーナーと共に戦うポケモンの姿を見た

ポケモンを心から愛するトレーナーの姿を見た

オトコは悲しみに囚われていた過去の自分と決別しポケモンを愛する心を取り戻した

 

オトコが愛したポケモンがオトコのもとへ戻って来た

愛する心を取り戻してくれると信じ、見守り続けていた

3000年という長い時をえて、

大勢の人に見届けられ再会を果たした

オトコの心には悲しみも憎しみも消えた

 

大勢の人に見送られ、

その場を去ったオトコは

大きな手の平の上で微笑む愛するポケモンに微笑みを返し

塵となって消えた

オトコを保ち続けた悲しみも憎しみも消えてしまっては、オトコは形を保つことは出来なかった

 

+

 

アルセウスの話では男の寿命は確かに極端に延びたものの彷徨い歩く内に寿命を終えていたとのこと。

だが、悲しみと憎しみという魂だけが男の形を保ち彷徨い歩き続けたのだという。

まるで最初の私みたいだな、と呟けばパルキアは苦笑いを浮かべていた。

男が本来の寿命を終えたであろう場所、

ホウエン地方、ルネシティ…。

かつての記憶では無かったはずの大木。

つぎはぎだらけの記憶で皆の記憶に残る事だろう。

カロス地方からやって来た、巨大な男から贈られし木。

 

「確かに3m越えだな…」

 

生きる時を止め、望む地へと送られたフラエッテ。

せめて、同じ場所で眠れるようにと、

一輪の花をアルセウスが残した。

 

 

「おやすみなさい、カロスの王」

 

*

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