「ギラティナ、遊びに行こう」
「んー?何処行くんだよ?」
「シロガネ山」
「なんで!?」
驚くギラティナにミュウツーはうむと頷いた。
「なんでも噂では、山頂には最強のポケモントレーナーが居るらしい」
「いや、あそこ、猛吹雪だよ?」
「でも、居るらしいって」
無表情ながらもキラキラとした目で見つめて来るミュウツーにギラティナはひくりと口元を引き攣らせた。
確かめないと気が済まないんだ、と顔に書いてある。
「ちょっと行って、居なかったら帰るからな!」
「うむ」
居なかったら日を改めて行けば良いしな、とミュウツーが心の中で思った事など知る由も無いギラティナがシロガネ山への道を開いた。
*
シンヤがリビングで読書をしているとガチャリと誰かがリビングに入って来た。
今は家に一人。誰かが帰って来たんだな、と特に気にもせずに読書を続けていると入って来た人物はシンヤの背後に立った。
視界が暗転、両目を手で隠されて本が読めなくなった。
「だーれだ!」
「ああ、おかえり、ヤマト」
「え!?若干、声変えたのに!?」
凄いね!と驚きながらお土産らしいものをテーブルに置いたヤマトがシンヤの隣に座った。
シンヤもパタンと本を閉じて、隣に座ったヤマトに視線を向ける。
「ミッションはどうだったんだ?遠出とか言ってただろ?」
「うん、イッシュ地方に行って来たよ。キュレムの調査だったんだけどね」
「キュレムって…アイツか…、アイツはちょっと気まぐれで扱い難そうだったな…」
「うん。そのキュレムとシンヤが出会ってる時に行ったから、留守だったよ!」
ははは、と笑ったヤマトは若干涙目だ。
そうかタイミング悪く『おでまし』させられてた時か、とシンヤは眉を寄せる。
「シンヤ、テレビニュースにちらっと映ってたよ」
「マジか!?」
「マジだよ。手術着でラティオスの上に乗ってたよね?まあ、でも本当にちらっとだったからそんな目立ってないと思うけど」
ああ、もう嫌だなぁ、と頭を抱えたシンヤの肩をポンポンとヤマトが慰めるように叩いた。
「で?なんであれ大集合してたの?」
「ああ、プラターヌの論文のコピーがあるから読んでおけ。全部書いてる。フーパってポケモンの事も」
「何それ、フーパ!?可愛い!?」
「可愛かった」
そっち映せよテレビィイイ!と変な方向に怒りの矛先を向けるヤマト。
その様子をぼんやりと見てから、「で?」とシンヤは続きを促した。
「何が?」
「いや、キュレムが留守だったんだろ?その割には帰りが遅かったな、と思って」
「ああ、観覧車乗ったり、ちょっと観光してました!」
「楽しそうで何よりだ…、それで給料貰えるなんてな…」
「それ言わないでー!」
お土産買って来たからー!と喚くヤマトを見てシンヤが笑う。
ああ、そういえば、と思い出した言葉を続けたシンヤにお土産らしい発泡スチロールの箱から出しながらヤマトが視線を向ける。
「カズキから聞いたか?」
「え?何も聞いてない。何かあって連絡くれてたのかな?イッシュ地方、連絡手段が特殊なんだよねぇ…。ライブキャスターってのがあって、さすが遠い土地なだけあって発展しまくりだったね…」
「それを言うならカロスも凄かったけどな、まあ、遠い地方となると研究所にでも行かない限り連絡は確かに難しいな…」
イッシュだとアララギ博士か。たまにツバキの研究会に行った時とかの話に出てたな…。
「それで?大事な話だったの?」
「いや、そこまでじゃないが、カズキ達の結婚式の日取りがお前次第だったから」
「大事過ぎるよ!?」
「いや、着替えてミチーナのカフェでやるくらいだから大した事じゃない」
「いやいやいや!」
「あ、あと、ノリコが初リボンをゲットしたからお祝いも兼ねるって」
「えええええええ!?ノリコちゃんとうとうゲットしたの!?めちゃくちゃおめでたい事じゃん!!!」
ちょ、電話貸して!と慌てて走って行くヤマトを見送ってからシンヤはテーブルの上に置かれていたお土産を手に取る。
ひんやり冷たいお土産。発泡スチロールの中には氷がぎっしり。
「ヒウン…アイス…。アイス!?」
冷凍庫冷凍庫!とシンヤは箱片手に慌ててキッチンまで走った。
*
「シンヤ~、ただいま~」
「おかえり」
お遣いから帰って来たミロカロスが大きく溜息を吐く。
それに、どうした。とシンヤが問う。
「なんか、ギラティナ居なくて遠回りで帰ってくる事になって疲れた!」
「ミュウツーが遊びに行って来るって言って出て行ったから一緒に行ったんだろ」
「普段の移動が便利だと、体が慣れちゃって困るわぁ~」
「…誰の真似だそれは?」
運転手の愛人が居るサツキの真似、とミロカロスが笑った。
変なドラマを見るのはやめて欲しいなぁとシンヤは心から思った。
「シンヤー、カズキくんと連絡取れたよ!ミミローくんが帰って来次第だって」
「アイツ、今、ジョウトだからな」
「あれ?ヤマト、帰って来たの?」
「あ、うん。ミロちゃん、ただいま~」
「え、うん」
冷たっ!?とショックを受けるヤマトを無視して、ミロカロスが買ってきた物を冷蔵庫にしまう。
「あ!アイス入ってる~!」
「あ、忘れてた!ごめん、シンヤ、冷凍庫入れてくれたんだね」
「ああ」
「食べて良い?」
「今?夜ご飯の後にみんなで食べてもらおうと思ってたんだけど」
「えー…じゃあ、我慢しよ~」
ミロちゃんは偉いねぇ、とヤマトに褒められたミロカロスは真顔で「当然だろ」と返す。
そのミロカロスにヤマトはしょんぼりと肩を落とす。
「僕、なんでミロちゃんに嫌われてるのかな…?」
「聞いてみれば良いじゃないか」
「ミロちゃん!なんで僕のこと嫌いなの!?」
「なんでって…、シンヤに大事に思われてるのがムカつくしー」
え、シンヤ…!なんて言って頬を染めるヤマトを見てシンヤは眉間に皺を寄せる。
「あと、ツキに意地悪するしー」
「してないよ!?」
「だって、ツキ、よく怒ってるじゃん!悪い事したんだろ!」
「悪い事してるつもりはないけど、怒らせちゃうんだよぉ~…」
「あんまり遊びに来ないのが悪いと俺様は思う!」
「いや、来てるじゃん。まさに」
「遊びに行こうってあんまり誘ってない。シンヤは誘ってくれるのに、ヤマトは全然だ。はぁ~、ダメだな~…」
やれやれ、と首を横に振ったミロカロス。
そんなミロカロスを見てから、眉を下げたヤマトに視線を向けられたシンヤ。
「いや、そんな目で訴えられても知らん」
「僕も色々と考えてるんだよ…」
「「ふーん」」
「ホントだからね!?」
ホントなんだよ~、とシンヤに縋りつく鬱陶しいヤマトをミロカロスが引き剥がす。
「ちなみにシンヤはミロちゃんと何処に行くの?」
「カフェとか本屋とかスーパーとかポケモンセンターとか」
「シンヤが行きたい所だけじゃん!」
「別に良いだろ。行く時に誘ったら行きたいってミロが言うんだから」
「え~…ミロちゃん、それ楽しいの?」
「シンヤと一緒なら何処でも楽しい」
「なんて、良い子…!」
僕の幼馴染は良いお嫁さんを貰ったなぁと涙ぐむヤマトに「それはありがとう」とシンヤがお礼を言う。
「じゃあ、この後に行きたい所あるから誘ってみれば良いのかな?帰って来たら行きたかったんだよね」
「へぇ、何処だ?」
「カズキくんの所の育て屋。ポケモン達を見て癒されたくてさ…!疲れたし…!」
「それはダメだな…」
「ヤマトはダメだな~…」
「なんで!?」
*
ブラッキーはジョーイとサーナイトが仕事してる間に出来ない、ドレスやら結婚式の準備の手伝いをしにポケモンセンターに居るから行ってきなさい。
と、シンヤに送りだされたヤマトはポケモンセンターへとやって来た。
入った所でバッタリ出会ったジョーイにヤマトは頭を下げる。
「この度はおめでとうございます!」
「まあ!ありがとう、ヤマトさん!」
僕も何か手伝おうと思って来ました~、と笑うヤマトにジョーイは「じゃあ」とブラッキーのもとへ案内する。
「んぁ?ヤマトじゃん、おかえり~」
「ただいま~、お土産はシンヤの家に置いて来たからデザートに食べてね」
「まじか!めっちゃ楽しみ!」
ご機嫌に笑うブラッキーにヤマトが微笑み返す。
ブラッキーの目の前のテーブルにはカタログがたくさん広がっていて、これは大変そうだとヤマトはぽりぽりと頬をかいた。
「何か手伝いたいんだけど…、何処から手伝えば良い?」
「え?いいよ、別に。仕事帰りで疲れてるだろ」
「いや、今回は仕事っていう仕事が出来ずに観光して帰って来たようなものだったから…、うん、なんか仕事したいんだけど…」
「はぁ~?どういうことよ?」
「いや、キュレムの調査に行ったんだけど、キュレムがカロス地方に『おでまし』させられてて留守だったんだよ…」
「ああ、シンヤが巻き込まれた奴な」
「とんぼ返りするわけにも行かず、観光して帰って来たの…」
「ふ~ん…良いなぁ、イッシュ観光」
「観覧車からの夜景はなかなか綺麗で良かったよ!」
「へー…」
「ビレッジサンドっていうのが木の実を使ったサンドイッチで美味しかったし♪」
「へー……」
「最初はもうキュレム居ないからどうしようかと思ったけど、結構、ジャッキーと二人でも楽しめて良かったよ」
あ、このカタログってドレス?と聞きながらカタログを開いたヤマト。
口元を引き攣らせつつも、ブラッキーは自身の心を落ち着かせる為に深呼吸をした。
こいつはこういう男なんだ、期待したオレが悪いんだ。と…。
「このチェック入ってるのを注文するんだよね?」
「そうだよ」
「わー、これサナちゃんっぽいね~!絶対に似合うだろうなぁ!」
あ、こっちのチェックはジョーイさんかな。とドレスの見た目で的確に当てていくヤマトにブラッキーは目を丸くする。
「ねぇねぇ、チェック入ってないけど、このフワフワしてるやつさ!」
「フリルな」
「そうそうそれ、フリルのドレス。ツキくんに似合うんじゃない?」
「はぁ!?」
「え?」
「何言ってんだよ、オレは着ねぇよ!」
「え…うん、でも、似合うかなぁと思っただけだよ…?」
なんかまた怒らせてしまった、としょんぼりしたヤマト。
トイレ!と持っていたカタログをテーブルに叩き付けて席を立ったブラッキーの背をヤマトは見送った。
「……」
*
トイレ、と言ったものの行きたくも無いトイレには入れず、受付のカウンターの下に座り込んだブラッキーをサーナイトがチラリと見下ろす。
「お顔、真っ赤にしてどうしたんですの?」
「暑いだけ!」
「適温ですわよ…?」
*