一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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びゅおおおお、と吹雪く中、山頂に立ったミュウツーが後ろを振り返った。

 

「こんな所に人間が居るわけがない!」

「だからっ、言っただろうがぁああ!」

 

怒るギラティナを無視して、ミュウツーがふむと腕を組み考える。

 

「いや!実は結構な猛者が武者修業的な事で来るのかもな!」

「とりあえず、帰ろ!マジ帰ろうー!」

 

*

 

ポケモンセンターでカタログを手に、席を立ったブラッキーを待つヤマトの前に見知らぬ男が座った。

水色の髪に金色の大きな目。

ヤマトを見てにこりと笑った男にヤマトも疑問を持ちながらも笑みを返す。

 

「ヤマト、暇なら遊びに行こう!」

「え?あの、すみませんけど…どちら様ですかね?」

「我はアグノムだ!」

「アグノムー!?」

 

人に化けて来てやったぞ、と笑うアグノムにヤマトが目を輝かせる。

 

「アグノムも人の姿になれるんだねー!凄いね!」

「長く生きている者ならこれくらい普通だ」

 

へー!ポケモンの神秘だなーと喜ぶヤマトに満足気に笑うアグノム。

目の前に広がる本に小さく首を傾げた。

 

「これは?」

「あ、ドレスのカタログだよ。カズキくん達が結婚式するんだって」

「ほー?我はこれが着たい!」

「ふふっ、アグノムもお嫁さんになりたいの?」

「いや、それは要らんな。誰かに所有されるというのは虫唾が走るしな!」

「あ、そう…」

 

伝説ポケモンらしい意見だ、と思いつつカタログを眺めるアグノムを見てヤマトは小さく微笑んだ。

そこに戻って来たブラッキーが眉を寄せる。

 

「アグノム?お前、なんで居るの?」

「ヤマトを遊びに誘いに来たんだ!」

「はぁ…」

 

そうですか、と溜息を吐いたブラッキーがヤマトの隣に座る。

 

「ねぇ、ツキくん。これもうドレス決まってるなら早めに予約しておかないといけないんじゃないの?日程決まってからだと、すでにレンタル中で~…とか言われる可能性あると思うんだけど」

「あ、そっか…。それもそうだよな」

「こっちの白無垢も借りるんだよね?」

「うん」

「じゃあ、手分けして電話して予約取っておこうか。ミミローくんが帰って来るのもそんな一週間後以上になるような事なんて無いだろうし」

 

サイズも調整してもらわないとだしね~、と言いつつ連絡先とドレスの種類とサイズをメモしていくヤマト。

こういう仕事は早いし頼りになるんだ、とブラッキーが心の中で思っていると向かいの席に座っていたアグノムが言った。

 

「ヤマトは頼りになる出来る男だな!」

「ええ!?な、なに、急に!?褒められるの慣れてないから照れるんだけど…!」

「我は思った事を言っただけー」

「あははっ、ありがとうアグノム」

「……」

 

オレだって思ったのに、と思いながら口をへの字にしたブラッキーにはヤマトもアグノムも気付かない。

 

*

 

数日後、

弟子を連れて帰る故に反転世界を経由出来ないミミローがもうすぐ着くよ、と連絡をして来た時から各々慌ただしい準備に取り掛かった。

 

「手伝いに来たぞ」

「ぁ、主…!?」

「シンヤ様だー!!!」

 

ありがとー!と飛び付こうとしたミカルゲにサマヨールがゲンコツを落とす。

いでぇ!と蹲ったミカルゲが床を転がる。ゴーストタイプ同士のゲンコツは痛いのか…と思いつつシンヤは苦笑いを浮かべた。

 

「主のお手を煩わせるわけにはいきませんので…!」

「そう言うな、人手は多い方が良いだろ?」

「し、しかし…」

 

料理くらい出来る、と厨房へと入って行くシンヤ。

そして、厨房に入って来た予想外の人物にマスターが悲鳴をあげた。

 

「えええええええええ!?!?」

「ご、ご主人様…!?何故ここにいらっしゃるのですか!!」

「手伝いに」

「シンヤさんに手伝って頂くのはさすがに気が引けるのですが…」

「いや、私、暇なんだ、凄く」

 

着替えの準備に忙しい花嫁花婿連中に、一応、紋付き袴を着る事にはなっているものの一緒になって着替えを見ているのも退屈で。

かと言って、ポケモンセンター集合でやって来た連中の受付をするヤマトと一緒になって並んでいれば、話し掛けられてなかなか準備が進まない。むしろ、目立つから邪魔と追い出される始末。

家でゴロゴロするミュウツーに付き合ってゴロゴロしてるのも退屈で。

それならば、とやって来たミチーナのカフェ。

 

「料理は得意だぞ、チルに教えたくらいだからな」

「ニャースの手も借りたい所ですけど…、シンヤさんの手は豪華過ぎる…」

 

良いのこれ?とマスターがピジョットに視線をやるものの、材料とレシピが並んでいるのでシンヤはすぐに現状を把握してしまった。

 

「じゃあ、私はこっちの下ごしらえをしていくので仕上げはマスターに任せますよ?」

「さ、さすが有能な男…!承知致しましたっ!」

 

仕事早いわぁ!と感心するマスター。

サクサクと準備は整っていく。

カフェの店内だけでは狭いので外にもテーブルを設置して、飾りを付けて、と準備をすすめていれば早々にやって来たらしいエイゴが友人のヒロキヨを連れて来た。

 

「ちーっす、マスター!」

「あぁ!イケメンくん…!」

「俺達もお手伝いに来ました、飾り付けくらいなら、と思って」

「私の美的センスをなめんなよォ?」

 

助かる…とお礼を言うサマヨールに良いよ良いよと言いつつ、サマヨールのお尻を触るエイゴの頭をヒロキヨが殴る。

 

「すぐにバンだせ、コラ…」

「お前、目付き悪いから睨むと更にえぐいな…」

 

バンは見張りだ、とボールから出されたバンギラスも力仕事は大得意なので手伝う事に。

ミカルゲにも近寄って行こうとしたエイゴを強い力で引きとめ束縛するバンギラスはヒロキヨには都合の良い見張りである。

ヒロキヨの手持ち、クロバットも素早く器用に飾りを作成していく。

 

*

 

テーブルに料理が並び、立食パーティのような形になった頃。ゾロゾロと人が集まって来た。

ドレスに身を包んだジョーイがシンヤに手を振る。

 

「どうかしらー?」

「おおー、馬子にも衣装だな」

「あらー!褒めてないっ!」

「危ない!」

 

ピンヒールで足を踏みつけようとしたジョーイの攻撃をシンヤが避ける。

じりじりと攻防を繰り広げるシンヤとジョーイ。それをサーナイトが止めに入る。

 

「今日くらいは喧嘩は禁止ですのよ?」

「サナ、凄く綺麗だな」

「まあ!ありがとうございますわ!」

「私も褒めなさいよ…」

「うちのサーナイトは美人だが、お前を美人だと思った事は無い」

 

コイツ…ッ!とギリギリと歯を噛み締めるジョーイをサーナイトが宥める。

ドレス、タキシードのユキメノコとカズキがシンヤの前に立てば、シンヤは「おお」と声を漏らす。

 

「立派なもんだな」

「まあ、まだまだ兄ちゃん越えは出来ないけどな~」

「うふふ」

 

父さんと母さんも後からノリコと来るぜ、と笑ったカズキにシンヤは頷いて返す。

ツバキとエンペラーとイロが続いてやって来て、カズキとユキメノコの姿にパチパチと拍手を送る。

 

「凄いねー!あんなに情けなかったカズくんに先を越されるとは!」

「一言余計だバカ」

「ユキコちゃん素敵~」

「ありがとうございます!」

「ツバキも結婚すれば良いんじゃない?」

「あ、良いの!?」

「うん、僕の子供は産んでもらうけど」

 

コイツ、まだ言う…と顔を歪めたツバキにシンヤが苦笑いを浮かべた。

その後も、アグノム、ユクシー、エムリットが来て、アルセウスが来た事でシンヤが双子だと思ったらしいマスターが腰を抜かした。

ゴロゴロしていたミュウツーもディアルガとパルキアと共にやって来て。

ノリコとエーフィが両親であるイツキとカナコを連れて来た。

受付を終えたヤマト、ブラッキー、ミロカロスが合流し。早めに育て屋を閉めて来たトゲキッスと道を繋いでは閉じを繰り返していたギラティナが疲れた様子で到着。

そして、最後に遠路遥々の移動となったミミロップと弟子となったタケシがやって来た。

 

「おー!タケシ!?」

「シンヤさん!お久しぶりです!」

 

弟子ってお前か!と喜ぶシンヤを見てミミロップが嬉しそうに笑った。

 

「えー、では、お集まりの皆様、本日はありがとうございまーす!」

 

緊張した面持ちの慣れないカズキの言葉から始まった言葉に、皆が返事をした。

 

「「「おめでとうー!」」」

 

*

 

えー、本日、オレ、カズキとユキコ。そしてサナさんとジョーイさんの結婚式をこんなにも沢山の方に祝って頂き、本当に嬉しく思います。

ご協力下さった皆様に本当に感謝致します。

あと、オレ達以外に祝って頂きたいのが、オレの双子の妹であるノリコがコーディネーターとして初のリボンを獲得した事であります!

 

「ぎゃぁああ!一緒にされると恥ずかしいんですけどぉお!」

 

やめてー!まだ一個なのー!と喚くノリコが皆に笑われる。

ドレスを来た三人の花嫁、タキシードを来た花婿が一人と変わった光景ではあるが、良い記念だな、とシンヤは心の中でひっそりと思った。

 

「シンヤに続いて、カズキまでこんなに可愛いお嫁さんを…っ、お母さんは嬉しくて嬉しくて…っ」

「さすが俺の息子達、美人に目が無いなぁ!」

 

あっはっはっ!と笑った父の肩を母が「もう!」なんて照れながらバシーンと大きな音を立てて叩いた。

 

「皆様、ご覧下さいまし!今回は花嫁三人ですので、ブーケも三つありますわよ!」

「私達、男連中に関係あんのかァ?」

「確かに…」

 

エイゴとヒロキヨの言葉に、クロバットとバンギラスが目を逸らしていた。

あれは狙っているな、と思いつつ、とりあえず投げてから乾杯するらしい。ので私は一歩二歩三歩と後ろへ後ろへと下がる。

ブーケを取ったら何があるんだ、とそわそわするミュウツーを止めるギラティナ。

ツバキとイロとノリコの気合いがハンパなくこわいので、怪我をしないように後ろへ後ろへ…。

 

「投げますわよー!」

 

くるり、と後ろを向いた花嫁達。

一番後ろまで下がって来た私の傍にミロカロスが立った。

 

「ん?なんだ、取りに行かないのか?」

「うんっ、俺様はもうシンヤのお嫁さんだから!」

「…ああ、そうだったな」

 

天高く投げられたブーケに手を伸ばす中に、私と同じ顔の奴が居て凄く嫌だった。

 

*

 

「とったぞー」

「ツー!テメェ!なんで取っちまうんだよ!馬鹿野郎がぁ!」

「ふふふ、私も取ってみせましたよ」

「フィーさん、それをのんに!是非、のんに譲って下さい!!」

「エイゴー!オレもとったー!」

「お前、デカイから有利だったなァ…。つか、要るかそれ?」

 

ミュウツー、エーフィ、バンギラスの手に渡ったブーケ。見事に撃沈した女子が落ち込んでいる。

譲ってやれよ。というか、バンギラス以外、能力使ってないだろうな…?

 

「あー…、まあ、色々と騒ぎたいのは分かるけど、とりあえず、乾杯しようぜ!兄ちゃん、乾杯たのむわ!」

「えー…」

 

一番後ろでのんびりしていた私に白羽の矢が立った。酷い。

しかし、可愛い弟の頼み。断るわけにはいかないので、渋々と皆の前に立つ。

 

「えーっと、…何にも考えて無かったな…」

「お兄ちゃんしっかり!」

「んー、そうだな。今日という日は私にとって特別な記憶の一つとして生涯刻まれる事になった。カズキ、ユキコ、サナ、ジョーイ。本当におめでとう。

ついでにノリコも、グランドフェスティバルに行って私の生涯に良い思い出を刻ませてくれるように願ってる。

皆、ありがとう。

今日という素晴らしい日に、乾杯!」

「「「乾杯!!」」」

 

のんにだけプレッシャーを与えて来た。と泣くノリコ。

そして、私にそっくりなアルセウスの存在に気付いたエイゴが驚いているのが見えた。

 

「良い日だ…」

 

飲んだシャンパンはなかなか美味しかった。

 

*

 

ミミロップに弟子入りしたタケシと改めて挨拶をする。90度のお辞儀をしてくれたタケシの頭を上げさせて視線を合わせる。

 

「まさか、タケシがポケモンドクターを目指すなんてな」

「それには自分も驚いています。トップブリーダーを目指して来たつもりでしたが、きっとシンヤさんと出会えた事もあっての巡り合わせではないかと思っています」

「私の存在が少しでも影響になってくれたなら嬉しい事だな。ミミローは厳しいぞ、頑張れよ」

「はい!頑張ります!」

 

タケシは良いドクターになるだろうなぁ、と思うとつい頬が緩む。

 

「あ、そういえば、この前、カロス地方でサトシに会ったぞ。あんまり会話出来なかったんだけどな」

「ああ!サトシも頑張っていますからね!今度こそ、ポケモンマスターになれるのではないでしょうか!」

「そうか…ポケモンマスターな…。優勝でもしたら、約束通り一度はバトルしてやらないとな…」

「ははは!コテンパンに負けるサトシが目に浮かびます!」

 

*

 

わいわい、と賑わっている所で、お腹が膨れてしまう前に!とサーナイトがパンと手を叩いた。

 

「お色直しの時間ですわ!」

 

皆様、少々お待ちを!と笑ったサーナイトにシンヤが引き摺られるように連れて行かれる。

それを見送ったエーフィがニコリとブラッキーに声を掛けた。

 

「ツキ、どうぞ」

「え?」

「少しズルをしてしまいましたが、どうしても欲しくて」

 

差し出されたブーケにブラッキーが眉を寄せる。

なんでオレに?という視線を向けられたエーフィは目を細めて笑った。

 

「大事な片割れに幸せになって欲しいからです。あ、ちゃんとこれ、ユキコの投げたブーケですからね」

 

ご利益ありそうでしょう?と笑い、無理やりブーケをブラッキーに押し付ける。

 

「オレにはこんなの似合わない…」

「それを決めるのはツキじゃないですから」

 

カラフルなブーケから"オレンジ色のバラ"を一輪引き抜いたエーフィはブラッキーの耳の上に乗せて髪に飾る。

似合いますよ。そう言って笑ったエーフィはアグノム達に囲まれているヤマトに向かって、ブラッキーの背を押した。

わあ!という表情をしたヤマトと恥ずかしそうに俯くブラッキーを見てエーフィは小さな声で呟く。

 

「いつか、ヤマトからは赤色を貰って下さいね…」

 

 

*

 

 

お色直し後のお披露目。

白無垢姿のユキコ、サナ、ジョーイ、そしてミロの姿に大きな拍手が贈られる。

オレは?と若干、涙目のカズキをユキコが慰めた。

そして、大本命、紋付き袴のシンヤが登場した瞬間に沸き起こる大歓声。

 

「……」

 

え、なにこれ。と無表情で立ち尽くすシンヤに白無垢姿のミロカロスまでもがパチパチと拍手をして目を輝かせる。

 

「シンヤ、カッコイイ!」

「そ、そうか?ありがとう…、ミロも綺麗だぞ」

「ありがとう~」

 

てへへ、と笑うミロカロスに微笑み返すシンヤ。

マスターのシャッターを押す指が止まらない。

一応、和装ならば、とカズキが酒瓶をシンヤに手渡す。

そして、手を合わせて一言。

 

「みんな!合掌!」

「「「……」」」

 

手を合わせて目を瞑った皆を見渡してシンヤは眉を寄せる。

え?どういうこと?状態である。

 

「よし、これでお神酒な」

「オイ」

「一応、アル様、最初に一口お願いします」

「うむ!」

 

あれ、シンヤさんが二人!?とタケシの驚きの声も聞こえたがそこはもう気にしないで欲しい。

アルセウスが一口飲んだ酒が盃へと注がれる。

和装なら一応な、と笑ったカズキから杯を受け取ったミロカロスが首を傾げる。

新郎新婦、そして、両親であるイツキとカナコにも手渡されたお神酒。

 

「三口で飲むやつな」

 

とカズキに言われたミロカロスは笑顔で頷いた。

いや、やめておいた方が良いのでは?と思いつつも儀式は儀式。特に口には出さずに揃って杯に口を付けた。

 

「ぅっ、げぇええ!!!」

 

不味い!と杯を叩き付けたミロカロス。

カズキが「おおおおい!!!」と声を張り上げる。

 

「こんなの飲めるかー!」

「えええええ!?お神酒くらい頑張って飲めよ!オレだって嫌いなのに!酒!」

 

はいはい、残ったお神酒はみんなで飲みましょうね~とサーナイトが皆に注いで回る。

 

「ご利益ありますわよ~」

「なんで、シンヤさんに拝んだのかがよく分からなかったんだけど…」

「おいおい、ヒロキヨちゃんよォ…。シンヤさんマジ神、超リスペクト!って事だろ」

「そんなんで良いのか!?っていうか、シンヤさん双子じゃなかった!?」

「カズキも双子だぜ?」

「あ、双子が生まれやすい家系なのか」

 

しーらね、とお神酒を飲みほしたエイゴ。

 

「あー、長生き出来そー」

「そういうものじゃなくない?」

 

知らねぇ、で通して特に何も語らないエイゴの肩を揺するヒロキヨ。

勘の鋭いエイゴは聞かずとも何となく察しているのかもしれない。

そして、リザードンの持つ籠に乗って運ばれてきたヒナリが「ギリギリセーフ」とその場で泣き崩れた。

 

「シンヤさんの紋付き袴が拝めただけで、もう死んでも良い…!ありがとう、神様…!残業無くてマジ良かった…!」

「良かったね~、リザードンくん、ぜぇぜぇ言ってるけど」

「限界を超えさせました」

「可哀想に…」

「シンヤさぁぁあん!!マジ素敵ぃいいい!!!」

「あ、ありがとう…」

 

*

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