「この前、サナさん達が結婚式したってどうして言ってくれなかったんですかー!」
キャベツ両手にそんな事を言われた私は小さく頷いた。
「身重のモモにはツライだろ?」
「ゔ」
もう大きくなって来たな、と言えばリンは照れたように笑った。
いわゆる、授かり婚であったモモのお腹はもう随分と大きくなっている。遠出をするのはなかなか大変だろう、とあえて誘わなかった。
「あれ?そういえば、シンヤさん、お一人で買い物って珍しいですね?」
「そうだろ!実は目当てはお前だ!」
びしり、と自分の胸に指を突き刺されたリンがビクリと体を揺らす。
「私がちょくちょく、モモの様子を見に行ってるのは知ってるだろ?」
「はい」
「実は私は助産師の資格を取ったんだ!免許有りだ!」
「はぁ!?シンヤさん、何でもやり過ぎじゃないですかそれ!?」
実はこっそり産科に通うモモに付き添って勉強していた私。我ながらとても真面目だ。
そして、本題はこの自慢じゃない。
「モモのお産に立ち会い、赤ん坊を取り上げさせて欲しい」
「マジですか!!」
マジです。
というか、助産師の資格を取るのは簡単じゃなかった。どんなに医療知識も看護知識もあれど、助産師はそもそも女性にしか取れない資格。いや、男性で助産行為は医師免許があれば可能ではあるが個人では出来ない。必ず女性の助産師が一緒でないと駄目らしい。
取れるってなったら簡単だったけど、取れるに至るまでの説得に苦労した…。本当に…。
ポケモンの出産というものがそもそも解明されていない状態で、ポケモンが人間の姿になって赤ん坊を産むかもしれないから助産師の資格が欲しいなんて説明が出来なかった。
ポケモン研究に努める博士達からの評価に各地方のジョーイ達の評価、そして、緊急時に立ち会う可能性とその場で出来る対応力を各地方のジュンサー達が高く評価してくれた結果、総じてシンヤという人間が有名であり、この男は例外ではあるが認めても良いのでは?と国から許可を得るまでが大変だった。
ありとあらゆる根回しをしてやった。顔広くて良かったと思ったのなんて初めてだ。
そういうわけで、練習じゃないけど本番に立ち会いたい私は夫であるリンに相談を持ち掛けたわけだ。
「えー…、いや、おれはシンヤさんに我が子を一番に抱いてもらえるっていうのはめちゃくちゃ光栄では、あると思うんですけど…。
その、お産ってやっぱり女性が、あの姿で色々と男性に見られると恥ずかしいとこもありますし、モモが良いって言うなら…」
「モモからはもう許可は貰ってるんだ。何故か凄く喜ばれた。助産師としてまだ初心者なのに…」
「あ、モモが良いなら全然オッケーです。むしろ大歓迎です!」
あっさり許可貰えた…。
助産行為をする際に立ち会うのがサナとミミローとツーで、全員オスで、自宅出産になるのは構わないか、と聞けば。自宅出産、めちゃくちゃ嬉しいです!とまで言われた。
楽勝か、お前は。
「いやぁ!凄い嬉しいですよ!あ、生まれて来た子にシンヤって名前付けて良いですかね!?」
「それは嫌だな…」
世界滅亡まで名乗るから気まずい。
「なら、名付け親になって下さいよ!」
「じゃあ、イチゴで」
「早っ!?え!?決めるの早くないですか!?」
「リンをリンゴと仮定して、そのリンとモモの子供だから、イチゴ」
えぇー!?男か女かもまだ分からないのに!と文句を言うリン。
じゃあ、自分で考えなさい。と言えば口を尖らせていた。
「イチゴって女の子の名前じゃないですか…、…あれ、でも発音変えたら、男の子でもいけるか…ケイゴとかユウゴなんて奴も居るし…」
あれ、いけるな!?と何故かキャベツ両手にブツブツ言っているリン。
「とりあえず、買い物にも来たから、キャベツくれ。その二つ」
「あ、まいど」
*
「今日は、ロールキャベツ~♪」
ちょっとご機嫌だったのでご機嫌に歌を歌っていたら通り掛かりのジュンサーさんにめちゃくちゃ笑われた。
「シンヤさんが歌ってるとか…っ!」
酷い。私だって、歌ぐらい歌う。
ポケモンセンターの出入り口まで行くので途中まで道が一緒らしいジュンサーさんが自転車から降りて私の横に並んで歩く。
「でも、なんかシンヤさん、本当に明るくなりましたよね~」
「そうか?」
「昔はもっと近寄りがたい雰囲気がありましたけど、今はこんなに身近に感じます。空気みたいな!」
「存在が無いと言われてる気がした…凄く…」
「良い意味!良い意味で!」
空気みたいとか言われて、良い意味で取る奴が何処に居るんだ…。
本当に良い意味でー!と焦るジュンサーさんにはいはいと頷いておく。
「最近はあんまり雑誌とかに取り上げられるのも減って来ましたし、ニュースにも話題の人って出るの減って来ましたし、あー、こんな人も近所に住んでたっけなーって感じがします!」
「いや、やっぱり貶しに来てるよな?悪意しか感じないんだが…」
「良い意味で!それだけ身近に感じてるって事!今まではもう遠い遠い高みの存在で、話し掛けるのもおこがましい…!って感じだったので」
「ふーん…」
「怒ってます!?」
焦るジュンサーさんに怒ってないと言って笑えば、そういう所!と指摘された。
「笑い方が優しくなりましたね!」
「そうか?」
「昔のシンヤさんは高みに居て輝いてて本当に凄くて憧れてましたけど、今のシンヤさんの方が私はずっと好きですよ!」
「そうか」
そうしてだんだんと身近に感じてもらって、だんだんと忘れられていけば良いな。と思った。
何処を歩いても声を掛けられなくなるくらいに…。
「そういえば、シンヤさん、なんで片目赤いんですか?」
「寝不足で充血が酷くてな」
「あらら…冗談も言えるようになったんですね…」
まあ、良いですよ。と笑ってジュンサーさんとは別れた。
ああ…キャベツ重いなぁと思いつつポケモンセンターへの道を歩いて行けば、視界の端に綿毛。
メリープ?モココ?ワタッコ?
覗き込めば、見たことのない奴だった…。
「エル~…」
「腹減った?お前、何処から来たんだ?」
あっちの方、と小さい手で指差した先は空しか見えない。
お腹空いたな~と寝そべるソイツを触ってみたら、もっふもふだった。すばらしいモコモコ。
なんか何処かの地方図鑑で見た気がするけど、特に興味が無くてしっかり見てなかったなぁと思いながらも常備のポケモンフードとおやつを与える。
「エルー!」
やたら可愛いな、コイツ。と眺めていれば満腹になったのかお礼に綿をくれた。
要らん。と思ったが、種付きの綿だったので育てば良い綿素材になるのかもしれない。クッションとか良いかもしれない。
目の前でぴょんぴょんと飛び跳ねるモコモコのソイツは自然の風でふわりと飛んで遠くへと飛んで行ってしまった。
ああやって、遠くから来たのだろうか…。
可愛かったなぁと見送ってから、再びキャベツの入った袋を持って歩く。
余生はアイツみたいに気ままに色んな地方へ行くのも良いかもしれない。
何処へ行っても、家は反転世界、ギラティナが迎えに来てくれるのだから…。
「あ、しまった。普通にアイツに種族名聞けば良かった…」
………、まあ、良いか。
どうせ、時間はいくらでもあるんだから。
*
「ただいま」と帰って来たシンヤはキャベツを二個も持って帰って来た。
今日の晩ご飯に使うのか、と聞けばロールキャベツだと返される。
「ああ、ミロにお土産だ」
「なになに!?」
「綿」
「…」
なんだこれ。と思わず言いそうになったけどシンヤからのお土産だから何も言わない。
「そこに種が付いてるだろ?」
「ん?あ、ホントだ!」
「庭にでも植えておいてくれ」
「おお~!分かった!任せて!」
俺様がちゃんと育てる!と言えば、シンヤは嬉しそうに笑った。
どんな事でもシンヤにお願いされるって嬉しい、だって、とっても必要とされてる気がするから。
「じゃあ、植えるのは後でも良いから。とりあえず…」
「とりあえず?」
「ロールするぞ…!」
「巻き巻きな…!」
ロールキャベツの巻き巻きはなかなかめんどくさい。
でも、その分、凄く美味しいから俺様は大好きだ。
*