一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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コトブキシティに着いてポケモンセンターが視界に入ったがミロカロスは元気だし、家にはすぐ帰れるし、、と理由を付けてポケモンセンターを素通りする事にした。

ジョーイに何か言われそうで面倒、が一番の理由なんだが……。

もうすぐ日暮れだがミロカロスがいるからこのままミオシティに直行しても何ら問題無いだろう。コトブキをそのまま出ようとすれば「あー!」と大きな声。

聞こえたには聞こえたがどうでもいいのでそのまま歩けば「待て待て」と切羽詰まる声。誰か呼び止められているんだなぁと思っていれば腕を掴まれた。

 

「待てぃ!」

 

私か。

腕を掴んだ相手に向き直れば何処かで見た顔。少し大き目の腕時計を突き出した男を見て思い出した。

 

「ポケッ……」

「要らん!!」

「くぅうう、なんて強情な!!!我が社のポケッチがそんなに要らないのか!!」

「くどい!」

「持って行きなさい。これはキミの役に立つ物だよ」

「しつこいな。要らん物は要らん」

「持って行ってくれなきゃヤダヤダヤダー!!」

 

いい大人が駄々をこねる姿は見ていて苛立たしいぞ……。

ポケッチを私の手に握らせようと迫る男を制する。余計な荷物は要らん。ゴミになるだけだ!

それに、ここまでしつこく押しつけられると逆に意地になってきた。何が何でも受け取ってやらん。

 

「貰って貰って貰ってー!」

「要らん!」

 

どれぐらいの時間そこでそうしていたか、まあ数十分程度だとは思うがいつの間にか周りに人が集まっていた。

途中から泣き落としにかかった男を睨む様に見下ろしてやる。絶対に受け取らないぞ私は。

 

「シンヤさん!」

「ん?」

 

人混みの中から手を振ったのはツバキだった。

久しぶりです!なんて言いながら来たが電話では頻繁に顔を合わせているような……。

 

「いやぁ、何か面白い事になってるぞってみんなが言ってたから見に来てみれば中心人物がシンヤさんだとは……、何があったんです?」

「この男、ポケッチカンパニーの社長らしいが要らないというのにポケッチを私に押しつけてくるんだ」

「あたしも貰いましたよ?シンヤさんも貰っておけば良いのに」

「要らん!」

 

あらま、と呟いたツバキが男の肩を叩いた。

 

「シンヤさん、要らないそうです」

「貰ってくれなきゃ私は引かん!」

「あー……、じゃあ、シンヤさん。もう受け取っちゃった方が良いですよ。日が沈みます」

「必要無いものを貰ってもな」

「要らなかったら捨てれば良いんですよ」

「……」

 

それは良いのか?

ちらりと男に視線をやる。ポケッチを差し出されたので渋々受け取れば、男は満面の笑みを浮かべ、子供のように目を輝かせた。

受け取ったポケッチを横からツバキが持っていった。どうするんだと目で追えば今しがた受け取ったポケッチはゴミ箱の中に消えた。

 

「ノォオオオ!!」

「さ、シンヤさん!もう日暮れですしポケモンセンター行きましょう!」

「いや、私は……、というかアレは……」

「レッツゴー!」

「……」

 

ツバキに手を引かれつつゴミ箱の前で頭を抱えた社長を見た。さすがに可哀想だな……、捨てると言っても目の前で捨てなくても……。

 

 

ポケモンセンターに入れば「あら」とジョーイに見つかった。まあ、当然見つかるとは思っていたが……。

 

「いらっしゃい、シンヤさん」

「どうも」

「暇ならいつでも手伝いに来て下さいね~」

「……」

 

く、ジョーイの犬になってたまるか……。

手を振ったジョーイから視線を逸らし溜息を吐く。

 

「シンヤさん、ジョーイさんと仲良いんですねぇ」

「ジョーイ公認のポケモンドクターになったからな……、指名手配並みに顔が知れ渡っているらしい」

「ポケモンドクター!?暫く会ってない間に!!」

「野生ポケモン専門医だ。野生ポケモンの治療して来いって放り出された」

「ほぉー」

 

少し考える仕草をしたツバキがぽんと手を叩いた。ひらめいた、の動作で手を叩く人間って本当に居たんだな……。

 

「お医者さんならカウンセリングとかもやってますか?」

「は?カウンセリングは、そうだな……、出来ない事もないが……」

 

まあ、ポケモンの言葉は大体分かるからな……。でもカウンセリング専門じゃないから良い答えは返せないような……。

辺りをキョロキョロと見回したツバキが口元に手をあてて小さな声で言う。

 

「実はですね、大きい声じゃ言えないんですけど……」

「?」

「あたし、伝説なんて言われるポケモンの友達がいまして……。その子の様子を見てあげてくれませんかね。あ、勿論、内緒ですよ!」

「なんで内緒なんだ?」

「なんでって珍しいポケモンの事を大っぴらに言えるわけないじゃないですか。一生に一度見れるか見れないかのポケモンですよ!」

「……」

 

家に帰ればギラティナにスイクン、毎日のようにユクシーとアグノムが来てるんだけどな……。まあ、言わないでおこう。

分かった、と小さく頷けばツバキは「じゃあ、明日早朝に」と言って部屋に行ってしまった。

 

「……早朝?」

 

結局、ポケモンセンターに泊まる事になった私は部屋でごろごろして本を読み。

ああ、もう日付が変わってしまった。早く寝なければと思いながらトゲチックに寝坊しないように朝起こしてくれと頼んで寝た。

 

「シンヤさん!急患入ったんで手伝って下さい!!」

「……今、何時だ」

「もう朝の3時です」

「まだ夜中だそれは」

「寝ないで!シンヤさん!!人手が足りないんですってば!!」

 

*

 

「おはよう、シンヤさん。早いですね」

「……」

 

カルテの整理をしていたらツバキがやって来た。早いもなにもない……。ほとんど寝てないんだ……。まあ、ジョーイも寝てないから文句を言うにも言えないが……。

 

「さ、行きましょう!」

「何処に」

「シンジ湖です」

 

腕を引かれ歩きだしたが、シンジ湖に居るのは確か感情の神と称されるエムリット。

居るのは聞いたが実際にはまだ会った事が無かったな……。

ポケモンセンターから出ればツバキがカバンから折りたたみの自転車を取り出した。慣れた手付きで自転車を組み立て終わったツバキと視線が合う。

 

「はい、乗って下さい」

「後ろに?」

「イエース」

「私が後ろに乗ると重いと思うぞ」

「大丈夫です、シンヤさん細いし」

「失礼な……」

「あ、細マッチョですか?」

「馬鹿にしてるなお前」

 

首を横に振ったツバキを軽く睨んでから自転車の後輪にある金具に足をかける。

ツバキの肩に手を置いて自転車に乗った。座れないのが難点だが立ってた方がこけた時に逃げやすいから良いとしよう。

 

「ん、しょ……。じゃあ、行きます、よー!」

「……」

「く……っ」

「……」

「ふぬぅううう!!」

「代わろうか?」

「……お、お願いします」

 

自転車から降りてツバキと場所を変わる。

ツバキが後ろに乗って肩に手を置いた所で私は自転車をこぎだした。自転車、久しぶりに乗ったな……。

 

「あたしは風よぉお!風になるのよぉおお!!」

 

恥ずかしいからやめてくれ。

シンジ湖に向かって自転車をこぐ。勿論、ツバキの道案内で。

途中、声を掛けて来たトレーナーを無視して進む。しつこく追いかけて来たが撒いた。

そして飛び出て来た野生ポケモンをはねた。

 

「……」

「シンヤさん……、なんて事を……」

「悪気は無かった」

「何のポケモンか分からなかったけど、バイーンって飛んでいったよね」

「……拾って行くべきか?」

「見捨てる気ですか、アンタそれでも医者か」

「チッ」

「舌打ちしなーい!!」

 

自転車から降りてポケモンが飛んで行ったであろう茂みを探すと目を回して気絶するポケモンを発見。

尻尾を掴んで持ち上げた。

 

「伸びてる」

「犯人はシンヤさんだー!!ってオタチじゃーん!!可愛いっ、あたしに頂戴!!」

「ん」

 

見た限り気を失ってるだけで特に外傷は無かったオタチをツバキに渡す。ツバキはオタチをゲットした。

 

「良いのかそれ不意打ちだぞ」

「良いの良いの。可愛がるから」

「ノーマルタイプが欲しかったのか?」

「うん、ミミロル居なくなっちゃったし。可愛いノーマルが欲しかったの。トゲピーもぶっちゃけ欲しかった」

「ふぅん」

 

再び自転車をこぎ始めればマサゴタウンが見えて来た。素通りでとツバキが言うから研究所の前を横切る。

 

「そのまま突っ切って左」

「……フタバにえらく近いな」

「そうなの。あたしの小さい時からの友達なんだー」

「エムリットがか?」

「うん。って何で知ってんの!?」

「シンジ湖に居る伝説のポケモンとまで言われれば分かる」

「あ、そっか」

 

シンジ湖に着けばツバキが辺りを見渡した。

エムリットー、と大きな声で呼んでいるがエムリットは現れない。

 

「うーん、シンヤさんが居るからかなぁ……」

「そんな事はないと思うが」

「エームリットやーい」

 

時間が掛りそうだったので地面に腰を下ろす。カバンから木の実を出して細かく砕く作業をし手製のポケモンフード作りに取りかかる。時間のある時にやっておかないとすぐ無くなるからな。

暫くすると小さく溜息を吐いたツバキが横に座ってポケモンフードに手を伸ばした。そのまま口に入れ……。

 

「おい」

「あ、人間が食べても美味い」

「食べるな」

「シンヤさん器用ー、さすがポケモンドクター。ブリーダーにもなれるんじゃない?」

「一応、ブリーダーの資格も持ってる」

「嘘!?」

「育て屋で働きだした時についでにな」

「トレーナーはやらないの?コーディネーターは?」

「めんどくさい」

 

なんだよー、と言ったツバキが草の上に寝転がった。朝早く出て来た事もあって眠たいらしい。

ツバキが本格的に眠りに入ろうとしていた時に小さな声が聞こえた。

 

< ツバキ…… >

「おい、起きろ」

「んん……?なんですか、ちょっとくらい寝かせて下さいよ……」

「呼ばれてる」

「誰に?」

「エムリットだろ、声が酷く弱っている気がする」

「え!?」

 

辺りを見渡したツバキがエムリットの名を呼ぶとエムリットはゆっくりと姿を現した。

現れたエムリットは地面にペタリと座りこむ、どうやら浮いている事も困難な状況らしい。

 

「エムリット、大丈夫?まだ調子悪いの?」

< ツバキ、我はもう駄目かもしれない。もうずっと調子が悪い…… >

「シンヤさーん、エムリットがぁ……」

 

頭を垂れるエムリット、心配したツバキがエムリットの頭を撫でた。

 

「どんな症状だ?」

「あのね、あたしが聞いたのはね。体の中がぎゅ~ってなって、よく眠れないし、食欲も無いんだって」

「ふむ」

「あたしはね、恋煩いだと思うの!!」

「は?」

「あたしもあの人を思うと、こう胸の辺りがぎゅ~ってなって、夜も眠れないし食欲も無くなるもん」

 

別にツバキの事を聞いてるわけじゃないんだが……。

エムリットの頭を軽く突いて視線を上げさせる。

 

「気分は?」

< 悪い…… >

「体の中がぎゅーとなるらしいが、吐き気があるのか?」

< 吐きたくはないけど、吐きそうな感じに気持ち悪い…… >

「どれぐらいその症状が続いてるんだ」

< 5日前くらいからずっと…… >

「分かった、少し腹の音を聞くから喋るなよ」

< …… >

 

エムリットを持ち上げて腹に耳を当てる。聴診器は家に忘れた。今度から持ち歩こうと思う。

腹の音を聞いてからエムリットに口を開けさせる。ライトを当てて奥の方まで確認してツバキに視線をやる。

 

「ど、どう?」

「そうだな、食べ過ぎで胸焼けを起こしている」

「……え?食べ過ぎ?」

「胃が荒れている、胃薬を与えとけば大丈夫だ」

「え、本当にただの食べ過ぎ?」

「ああ、胃が荒れて締め付けられる感じがあるのと気分が悪くてよく眠れず食欲も無いんだろうな」

「な……、なんじゃそりゃぁあああ!!」

 

胃薬を調合してる横でツバキがエムリットの体を大きく揺さぶる。

 

「心配してたのに食べ過ぎって!!!もっと精神的に、本当に恋煩いかと思ってシンヤさん連れてきたのにさぁ!!!」

< ……うぐ >

「食べ過ぎってなんだー!!!」

「ツバキ、本当にそいつ吐くからやめてやれ」

「アホー!!!」

 

 

胃薬を飲んだエムリットは数時間後にはすっかり元気になっていた。

 

< シンヤ、腹減った! >

「完治するまでは好き勝手に食事をするんじゃないぞ」

< おう >

 

とりあえずジャム状にしたポケモンフードをスプーンですくってエムリットの口に入れる。

エスパータイプ用のポケモンフードをお湯でふやかした物だが気に入ったらしくエムリットはペロリと食べてしまった。まあ、ユクシーとアグノムも好みの味は違うがこのポケモンフードは気に入ってたからな。

 

「ああ……、心配損……」

「そう言うな、弱っていたのは事実だ」

「でも、食べ過ぎって……」

 

ツバキが大きな溜息を吐く。

元気になったエムリットは上機嫌らしく、ツバキの頭上でくるくると飛び回っている。

 

「シンヤさーん。エムリットって治るまでどうするの?」

「ああ、私の家に置いておくかな……。ラッキーもまだ居るし……」

「え!!ラッキー!?」

「ポケモンセンターのラッキーだからやらんぞ」

「わ、分かってますー。でも、何でポケモンセンターのラッキーが?治療中のポケモンが他にいるの?」

「まあな」

 

ちょろちょろと動き回るエムリットを捕まえて視線を合わせる。

 

「暫くは私の家で大人しくしていてもらうぞ」

< おーぅ >

「家にはユクシーとアグノムも頻繁に来るから退屈はしないだろうしな」

< おー >

「えー!?!?そうなのぉおお!?」

「……ツバキは家に入れないぞ」

「何で!!!」

「反転世界に家があるんだ」

「……マジ?え、ギラティナは?」

「居るぞ」

「シンヤさん何者ー!?」

「……」

 

*

 

せわしなく動き回るエムリットを捕まえて小脇に抱えればツバキが「あ」と声を漏らした。

 

「そうだ、シンヤさんにコレお礼」

「お礼?別に要らんぞ」

「あたしが無理言って来てもらったんだし、受け取っておいて下さいよ」

 

はい、と手渡されたのは眩く光る石だった。

 

「これでトゲチック進化させると良いですよ」

「そうだな、またヤマトに渡しておく」

「あ、自分でやらないんですね」

「めんどくさいからな」

 

ヨルノズクを出したツバキが片手をあげる。

私はこのまま反転世界に一旦戻って、ツバキは再び旅を続けるのだろう。

 

「それでは」

「ああ、またな」

「裏ルートでそっち行きますんで!!」

 

大きく手を降ったツバキがヨルノズクに乗って飛んで行った。

裏ルートって何だ。

 

 

家に帰ればギラティナの様子が少し変だった。

声を掛けようとすれば「あの女が来る、あの女が…」とブツブツと呟いていたので声を掛けるのをやめた。

あの女とはツバキの事なんだろうな、顔見知りだとは知らなかった。

 

< おかえりなさい、シンヤさん >

「ユクシー、来てたのか」

< ええ >

 

小脇に抱えていたエムリットをソファの上に置く。もぐもぐと口を動かしていて慌ててエムリットの口を手でこじ開けた。

 

「お前!ポケットに入ってたポロックを勝手にっ!」

< …… >

 

コイツ……、随分と静かだと思っていれば……、なんて食い意地の張った奴だ。更に胃を悪くしても知らんぞ。

 

「お前には私が決めたメニューの料理しか食べさせないからな」

< もう治った! >

「治ってない!弱ってる胃に急激に物を入れると痛い目をみるぞ」

< 治ったもんは治った!!もっとお菓子よこせっ >

 

このクソ生意気なチビが……と小さく呟けば隣でユクシーが「すみません」と小さな声で謝った。お前たちは同じタマゴから生まれた三つ子のようなものだろ。なんでこんなに精神年齢に差が出るんだ。

真面目なユクシーに寂しがり屋のアグノム、それで生意気なエムリット……。

溜息を吐いてエムリットにポロックケースを手渡した。食えるものなら食ってみろと渡せばエムリットはポロックをザラザラと口の中に流し入れた。味がミックスされている気がするがエムリットは満足気だ。

ユクシーと顔を見合わせれば外から悲鳴が聞こえてきた。ギラティナの声だ。

窓を開けてユクシーと一緒に外の様子を見てみればツバキが居た。本当に来たんだな、と思いつつユクシーと外に出る。

 

「ツバキ」

「あ、シンヤさん!ツバキちゃんが破れた世界に馳せ参じましたよっと!」

「どうやって来たんだ?」

「おくりのいずみから、もどりのどうくつを通って」

 

へぇ、と相槌を返しつつユクシーに視線をやれば隠されていた第4の湖があるんですよと教えてくれた。

そして何故かギラティナがツバキから距離をとり、ツバキを睨みつけている。

 

「どうしたギラティナ」

「……」

「そうだよー、どうしちゃったよギラティナくーん」

「よ、寄るな!」

 

ギラティナはツバキの事が嫌いらしい。

眉間に皺を寄せてギラティナは更にツバキを睨みつけた。

 

「そんな事言わないで、はっきんだまあげるからあたしと一緒に行こうよ!!冒険が君を待ってる!!」

「冗談じゃねぇよ!!帰れ!!」

「シンヤさんからも言ってやって。あの子、全くゲットされる気ないんですよ。ポケモンなのに」

「そうなのか?頻繁にゲットしてくれって言われるんだが……」

「……」

「……」

 

ツバキがギラティナに視線をやった。ギラティナが更にツバキから距離をとる。

 

「おぉい!!何でシンヤさんにはゲットされてもよくてあたしは駄目なんだコラ!!」

「何でもだ!!」

「はっきんだまやるっつってんでしょうが!!」

「それだけ置いて帰れ!!」

「くそー!!マスターボールさえあれば!!」

 

そうか、ゲットされたくないというポケモンをゲットするのにマスターボールは活用されるのか。……カズキにやったからなぁ、ツバキにやっても良かったのか。

というか……。

 

「はっきんだまって何だ。発行禁止処分の略称か」

< 違いますよ…… >

「なら何だ?」

< 白(しろ)い金(きん)と書いて白金です >

「……プラチナか」

< ギラティナの力を強化させる物なんですよ >

「へぇ」

 

ぎゃんぎゃんと言い合いをするギラティナとツバキ。そろそろ誰かが仲裁に入らないと面倒な事になりそうだ。

例えばギラティナがポケモンの姿に戻って攻撃してきたり、例えばそれに対抗するべくツバキが手持ちを出してバトルしだしたり……。

 

「もう力ずくで追い出してやらぁあああ!!!」

「バトルなら負けないぞコノヤロー!!」

 

ああ、もう、ほら。

家には療養中のスイクンが居るのに、ついでにエムリットも居るのに。

 

< シンヤさん、このままだとここは戦場と化します >

「ああ、下手すれば荒れ地になるな」

< どうやって止めましょう? >

「そうだな、サマヨールにちょっと頑張ってもらうか」

 

ボールからサマヨールを出してギラティナとツバキを指差した。

 

「全体的に金縛りとか、頑張ってくれ」」

「……」

 

私の無茶に答えてくれたサマヨールの技でギラティナとツバキは見事にその場に蹲ったまま動かなくなった。もがいてる所から意識はあるらしい。

 

< どうします? >

「ああ、ツバキのボールからエンペラーを出して連れて帰ってもらう。これ以上ここにいるとギラティナと本当に暴れるからな」

「うぅ、シンヤさんの馬鹿ぁ……」

「うるさい。エンペラー、さっさと連れて帰ってくれ」

「ボク、何でこんなトレーナーに従ってるんだろ。最初の選択の時にポケモン側にだって選択する権利くれれば良いのに。何で人間が三匹の中から選ぶんだろ、ホント納得いかない」

 

ぐちぐちと文句を言いつつツバキを担いでエンペラーが帰って行った。

地面に横たわるギラティナは大きすぎるので暫く放っておく事にする。ギラティナ本人もツバキさえ居なければ問題ないらしい、大人しく目を瞑って眠る体制に入っていた。

 

< うあぁああああッ >

< !? >

「……」

 

家の中から悲鳴が聞こえた。リビングに行けばソファの上でお腹を押さえ呻くエムリットの姿が……。

 

< お腹痛いぃ……、キリキリするぅ…… >

< また胃ですか? >

「ふん、長い間まともな食事を摂っていなかったのに急激に胃に物を流し込んだせいで胃が悲鳴をあげているだけだ」

< ああ、自業自得ですね >

< ユクシーのアホッ、助けろぉ!!胃薬ー!! >

「暫くすれば治る」

< うぅ、やぁだぁああ…… >

 

勿論、放置した。

 

*


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