一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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「シンヤ、オレの相談に乗って下さい…」

「ど、どうした…!?」

 

珍しく落ち込んだ様子のブラッキーに相談を持ち掛けられたシンヤは分かりやすく動揺した。

以前の眠れぬ時間を思い出すから軽めの相談でお願いしたいんだが…!と思いつつドキドキとブラッキーの言葉を待つ。

 

「ヤマトがさ…」

 

やっぱり、ヤマトか…!

 

「アグノムばっかり構うんだ…」

「……そ、…ん?」

 

そうか、と言いそうになった言葉を飲みこんだシンヤは首を傾げた。

 

「マジで!最近知ったんだけど、ヤマトって住んでる家とか借りてる部屋無いよな!」

「ああ…、アイツは無いな…。私と兄弟みたいな感じで育ったくらいだし…」

 

明るい奴だが物心付く前から両親の居ない天涯孤独の身だ。私の記憶にもヤマトの出生、親の存在は無い。ポケモンセンターで寝泊まりしてたり、うちの実家で一緒に過ごしてた記憶があるくらいだ。

10歳になる頃にはポケモンレンジャーになるべく寮生活だったし。ポケモンレンジャーの本部で寝泊まりも出来るとか言ってた。

 

「ユキコが育て屋で働いてるだろ!?」

「うん…」

「じゃあ、アイツ手持ち居ないじゃん!?」

「う、うん…」

「オレを誘う率とアグノム誘う率比べたら、明らかにアグノム率が高すぎるんだよ…!!!」

「アグノムから会いに行ってるんだろ…?ヤマトにアグノムを見付ける能力は無いから…」

 

むうう、と口をへの字にしたブラッキーが眉間に皺を寄せる。

 

「でも、オレには会いに来れると思わない…?思うよな…?」

「そ、そうだな…。出入り自由だからな…」

 

え、これ、私、今、くろいまなざし掛けられてないか…!?

明らかに不機嫌なブラッキーが眉間に皺を寄せたまま、私を睨みつけて来る。いや、見てるだけかもしれないが、目付きが本気でこわい。

 

「ぶっちゃけて良い?」

 

え゙、これ以上!?

 

「…良い?」

「ど、どうぞ…」

「一回しかセックスしてねぇし、キスもオレからだけで、片手の指で数えられるくらいしかしてない…!」

「……、」

 

そんな事ぶっちゃけられてもなぁあああ!!!

なんて答えたら良いのか迷っていたら、ブラッキーの目からぼろぼろと涙が溢れ零れる。

 

「オレのこと、やっぱ、り、好きじゃないって、こと、だよなぁ…?」

「いやいやっ、そんな事は無いだろ!?」

「でもっ、ぜんぜん、誘ってくれない、じゃんっ…!」

「ええ!?それは、お互いに予定もあるし…」

 

うううう、と本格的に泣きだしたブラッキーの肩を慌てて掴む。

 

「わ、わかった!私が聞いてきてやるからっ!泣くな!」

「うううううっ…!」

「な!?」

「ゔん…っ」

 

*

 

なんで人の恋愛事情に首を突っ込むはめに…という気持ちはあれど、可愛い手持ちの為。

ギラティナに特定させたヤマトの居場所に行けば、アグノムを背中に乗せて雑誌を読むヤマト。

 

「……」

< シンヤだ! >

「え!?うわ!ホントだ!?どうしたの急に!?」

 

何かあったの!?と不安げな表情を浮かべるヤマトにとりあえず座れ、と言うと素直に正座した。

 

「今日は大事な話があって来た」

「ぅ、うん…っ」

「ヤマト、お前…、ブラッキーとアグノム、どっちが好きだ」

「ぅ…ん?何?」

 

真剣な表情だったヤマトの顔が間抜け面に変わる。

まあ、気持ちは分かるけど。

 

「ブラッキーとアグノム、どっちが好きだ」

「どっちも好きだよ?」

< 我もヤマト好きー >

「お前、ブラッキー…いや、ツキと恋人同士って自覚はあるのか?」

「い、一応…、至らなくてよく怒られてますが…」

< 怒られてるとかダセェぞヤマトー >

 

アグノムの言葉にすみません…とヤマトがしょんぼりしながら謝った。

一応、自覚はあったらしいヤマトに、否、親友にこんな事を言いたくはないが。っていうか、誰にも言いたくないが…!

 

「愛を確かめ合う行為はした方が良いぞ…」

「………え゙!?」

「こんな事、私に言わせるな!!!」

「きゅ、急に何!?」

「ツキに泣き付かれたんだ…っ」

「…………ご、ごめん…」

 

シンヤが深く溜息を吐けば、ヤマトは気まずそうに視線を逸らした。

 

「で、でもさ…」

「なんだ」

「僕、そういう気持ちが分からなくて…」

「……」

< ヤマト… >

「ツキくんの事は好きだけど、やっぱり同性同士で…そのツキくん側に負担が多くなっちゃうものだし。そもそも、仕事してポケモンと触れ合って、大切な人に囲まれてる今が凄く幸せで、

そういう行為は繁殖するのに必要不可欠であるとは思ってるから気になる女の子とか居た時は想像とか勿論してたんだけど、今の僕は、特にしたいとか思わないんだよ、ね…」

< …… >

「……」

 

これって、変、かな?と眉を下げて首を傾げたヤマト。

思わずアグノムと顔を見合わせてしまった…。

 

< 我は繁殖出来ない個体だけど、する、ぞ? >

 

アグノム、お前ぶっちゃけたな!?凄いなコイツ!!

 

「え…そうなの?なんで?」

< なんで!? >

 

え、なんでって…?とアグノムからの視線に私は小さく首を横に振る。そんな事、振られても困る…!

 

「そもそも、アグノムは誰とするの?」

 

お前もよく聞いたな!?そんなこと!?

コテンと首を傾げながら純粋な目でアグノムを見つめるヤマト。見つめられたアグノムは大きな目を泳がせながら、言うべきかどうか悩んでいる様子。

 

< それはヤマトが、本気で知りたいのか…? >

「……うーん、いや、別に本気で知りたいわけじゃないかな」

 

私が気になるだろうがっ!!!そこは聞けよ!!!

伝説のポケモンだぞ!!と心の中で怒鳴るシンヤの気持ちなんて知る由も無いヤマトは、変な事聞いてごめんね、と笑った。

 

< まあ、でも、すると気持ち良いからしたい時はするって事だ!我も長く生きる一個体だからな! >

「え?気持ち良いって、それは男側の感想?女側の感想?」

< ……… >

 

ガンガン行くな…!!!

知りたいけど、知りたくない!と頭を抱えるシンヤを余所にアグノムは小さな口を大きく開いた。

 

< 女側だ! >

「思い切り過ぎだぁあああ!!!」

< だって、ヤマトが聞くから! >

「じゃあ、相手は誰だ…!」

< シンヤには言わない…っ >

 

くっそ!コイツ!くっそぅ!!

今日、気になって眠れない可能性が出てきた。と怒りに震えるシンヤ。

怒りに震えるシンヤを余所に、そうなんだ…気持ち良いものなんだ…とヤマトは小さく頷いた。

 

< まあ、下手な奴にやられる程、不快なものは無いけどな >

「ぅわ…自信無くなった…、僕、もう無理だ…」

「なんで最後で心折った!?」

< 我は嘘は吐かない! >

 

えっへん、と胸を張ったアグノムを睨み付けるシンヤ。

どうすれば…と迷うヤマトは「あ」と思い付いた様に言った。

 

「シンヤは上手?」

「…なっ!?バカかお前は!!」

「いや、アグノムは女側でもシンヤは男側でしょ?参考にしたいし…。他に誰に聞けば良いの?」

 

次はお前の番だ。と言わんばかりにアグノムに視線を送られてシンヤは頭を抱える。

 

「わ、私は……、」

 

*

 

シンヤに変な事を感情のままに相談してしまいました。と懺悔のようにトゲキッスに経緯を報告したブラッキーにトゲキッスはどうしたものかと辺りを見渡した。

庭にはギラティナとミュウツーが居るけど、これって二人に相談しても良いものなのか…と慌てるトゲキッスを見て、ブラッキーがごめんなと呟いた。

 

「こんな事、言うことじゃないのは分かってるんだけどさ…。

シンヤにあんな事言って困らせちゃったの黙ってられなくて…でも、シンヤを困らせた事で責められるのが怖くて…一番、怒らなさそうなキッスに言っちまった…」

 

さすがのキッスでも怒るよな。と落ち込むブラッキーにトゲキッスは首を横に振る。

 

「怒らないですよ。それにシンヤだって、…確かに、内容には困惑したかもしれないですけど、ツキさんの為にヤマトさんの所に行ってくれたんでしょう?」

 

小さく頷いたブラッキーの背をトゲキッスが優しく撫でる。

 

「大丈夫です、大丈夫」

「…っ、」

「誰もツキさんを責めたりなんかしませんから」

 

泣くのを我慢しているブラッキーを抱きしめて、優しく背を撫でる。

大丈夫、大丈夫…、優しい声で囁かれてブラッキーの目からは涙が零れ落ちた。

 

「それにね…、俺はちゃんと恋とかはした事がないですけど、俺は種族的に相手の気持ちが分かるので、ヤマトさんの気持ちも分かりますよ…」

「…どんな、気持ち?」

「とっても幸せです。大切な人達がたくさん居て、毎日とっても幸せなんです。

ツキさんの傍にいる時も、離れている時もヤマトさんはいっぱいツキさんの事を考えてます。ちょっと的外れでツキさんを怒らせてしょんぼりしてる事が多いですけど…。

ヤマトさんはとーっても優しい人でしょう?

だから、いっぱい考えちゃうんだと思います。だって、男の子同士じゃないですか。どうしたら気持ちが伝わるのかな、ってお互いが想いあっててすれ違ってるだけです。

今日まで…どんなに的外れだったとしても、ヤマトさんが、ツキさんの事を考えてくれなかった事がありましたか?」

 

トゲキッスの言葉にブラッキーの頭の中、心の中でじわじわと広がっていくなにか…。

真っ黒で臆病で優しさに甘えた悪い自分を抱きしめて笑いかけてくれたヤマトはずっと優しかった。

あの罪深い夜を過ごした次の日、いつも通りに会いに来てくれたあの朝、あの時は気付かなかった言葉はきっとシンヤの事じゃなかった…。

 

「待ってても良い?」

「え、ああ、うん」

「じゃあ、待ってるよ」

 

ずっとずっと、優しかった。

シンヤが大好きで忘れられないオレを、

ずっとずっとずっと、待っててくれてた…。

 

 

「無かったよ…ッ!!一度だって…!!」

 

 

寂しさや辛さを代わりにして埋めようとしてたオレは一度だって…。

 

一度だって…!

 

 

ヤマトにっ、好き、って言えてない…っ!!

 

 

 

*

 

「わ、私は……、上手、ではないと思う…。

実際、ミロが…その、気持ち良いだとかは分からないし…。

なんで、するのかって言われると…自分勝手な独占欲みたいなものなのかもしれない…。

今、この時しか触れていられないんだな。と思うと色々としたくなるんだ…、って、

あああ!なんでこんな事を言わされなきゃいけないんだ!

好きで愛してるなら、もうあれだ!

声とか表情とか独り占めしたくなるだろ!それ!

下手とか上手とかは知らん!こっちもいっぱいいっぱいになるからな!してる時は可愛いです!以上!」

 

うわあああ、と自己嫌悪に襲われているシンヤを見てヤマトが笑う。

 

「そうだよね、そういうものだよね」

「…?あ、ああ」

 

そうなんだよ、同性同士なんて結局、自分勝手な独占欲。

そこに何も生まれて来る事もなくて、ただただお互いを求め合うだけ。

だからこそ、したいと思わないのかな。

いや、したいけど、勇気が出ないって言うのが本当の気持ちかな。

相手の考えてる事が分からないんだ。

何をして欲しいとか、全然、察してあげられないんだ。

 

でも、唯一、ハッキリ察してしまった。

ツキくんは「シンヤが一番大好き」だって…。

愛を確かめ合う行為を求めてる、って本当なのかな。と疑う自分が居て。

今のこの状態が幸せで大切でたまらないのに、

言われるがまま、誘われるがまま、自分の本能のままに腕に閉じ込めてしまった時に、

次も、

僕の名前を呼んでくれなかったら?

 

あの夜の体温と、

歪められたあの表情と、

切なく、艶やかに、喘ぎ囁かれた名前の響き…、

 

二度目を聞いてしまうのが、

怖くてたまらない…。

 

掴まれる手も、

見つめる瞳も、

触れた唇さえも、

僕はいつまでも代わりなのでは、と。

だって、

確かな言葉は貰えてないんだから…。

 

 

「……」

< ヤマトー? >

「どうした?」

「ううん、ごめんね。

なんでもないよ、ありがとう」

 

*

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