一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

183 / 221
102

ペラペラとファイルを捲る手を止めて考え込むエイゴ。

ツバキ研究所で研究員として働くようになって、少しずつポケモンという未知の生物に興味を抱いて来ていた。

今、特に気になっているのがアンノーン。

さまざまな形を持つあの生き物は古い遺跡などから発見される古代文字に似た形のポケモン達だ。

アンノーンが居たから、文字として刻まれたのか。

文字として刻まれていたものがポケモンになったのか。

ううーん、と考え込むエイゴの前にコーヒーを置いたツバキはどうしたの?と首を傾げた。

 

「あざーす」

「うん、それで何を悩んでるの?エイゴくんの観察眼からの意見を是非、なんでも聞きたいのですが!」

「アンノーンってポケモンが居たから古代文字があるのか、古代文字があったからアンノーンが誕生したのか、どっちかなーって思ってただけ、大した事じゃないですよ」

 

エイゴの話を聞きながらツバキはズズズとコーヒーを啜った。

 

「そういえば、どっちだろうね」

「考えた事もなかったのかよ!」

「だって、そんな事考え出したらどんなポケモンでもそうじゃん」

「そうですかねェ?」

「そうだよ。だって、ねずみポケモン知ってる?」

「そりゃまあ、コラッタとかピカチュウとか?」

 

エイゴの言葉にうんとツバキが頷いた。

 

「ねずみってなんだろう、って思わない?」

「……」

「形も能力も違うのに、誰かが分類したのよ。ねずみって言葉で。でも、あたしはねずみって生き物を知らないの。

だからね、考えたの、遥か昔はねずみっていう生き物が居て、そのねずみが環境に適応する為に姿を変えていくわけ。そしたら、ねずみって生き物は居なくなって、ねずみから進化して適応していったねずみポケモン達が居るんじゃないかって。

だから、どんなに形と能力が違っても根本的に調べていったらDNAは限りなく近いの」

「……」

「だから、アンノーンも何かだった。シンボルポケモンとして分類されてるけど、シンボルだった何かだった、生き物なのかも分からないけどね。それって古代遺跡として発見されてる遺跡なんかよりもずっとずっと昔の事だと思うのよ」

 

テーブルにカップを置いたツバキはエイゴの向かいの席に座った。

でもね、と言葉を続ける。

 

「シンヤさんだけは何故か知ってたの」

「どういう事ですか…」

「本人は特に気にしてないんだけどね。聞いてごらん?シンヤさんにねずみの絵を描いて下さいって…、あの人の不思議さがよく分かるよ」

 

ニヤリと笑ったツバキを見てエイゴは眉を寄せた。

 

*

 

あんな事を言われては確かめないわけにはいかないだろう。そう思ったエイゴは反転世界へとやって来て、シンヤの前に紙とペンを置いた。

 

「…なんだ?」

「ちょっと誰が一番、絵が上手いか確認中なんですよォ」

「は?」

 

なにそれ、とミロカロスがくすくすと笑った。

 

「あ、ミロちゃんも頼むわ」

 

どうぞ。と渡された紙とペン。

何を描けば?と聞いたシンヤにエイゴは「ねずみ」と言って笑った。

 

「ねずみかー!」

「ねずみ、な…」

 

さらさら、と描かれたイラストにエイゴは眉を寄せる。

どうだ!と見せられたミロカロスのイラストは丸いマリルのイラストだった。

それに比べてシンヤの描いたねずみは見たことのない生き物。

 

「なにそれぇ?」

「ねずみ」

「そんなの見た事ないよ?なんてポケモン?」

「いや、ポケモンじゃなくてねずみだ。チューチューって鳴くやつ」

「ピカチュー?」

「いや、違う」

 

えー?と困った表情のミロカロスと同じく困った表情のシンヤから紙とペンを奪い、エイゴはニコリと笑った。

 

「ご協力どうも」

「ああ」

「うん、ばいば~い」

 

ミロカロスに手を振って、そのまま研究所に戻ったエイゴはツバキとエンペラーの座るテーブルにイラストを叩き付けた。

 

「分かりました」

「おお!何が分かったの?」

「シンヤさんは、最初の人間なんですよ」

「いや、シンヤさんは神だよ!」

「は?」

「はぁ?」

「……」

 

*

 

「いや、だからァ…、シンヤさんはポケモンが誕生する前の人間なんですよ。まあ、言い方によっては神っちゃ神かもしれないですけど」

「いやいや、シンヤさんはシンオウ生まれのズイ育ちよ。神になった男ですけども」

「いやいやいや、だーかーらー、私はこの世界を誕生させた人って意味で私は言ってるんですけどォ」

「だーかーらー!シンヤさんはこれからの神になったから、知識があるんだと思うのー!生まれは知ってるの!親も居るし!誕生させたって言ったらそうかもしれないけど!昔々から生きてる人じゃないのは確かなの!」

「言ってる意味分かんねェ!」

「エイゴくん頭が固いな!」

 

はぁ!?と喧嘩腰になった二人の間に割って入ったエンペラーは頷いた。

 

「うん、分かるよ。両方あってるんじゃない?」

「いや、意味違ってきますから!」

「そうだよ!シンヤさんはこれからを生きて行く神なのよ!?」

「だから、私達の遥か祖先の神説が一番ですって!」

「シンヤさんはあたしの近所に住む兄ちゃんだったもん!チビだったもん!」

 

バン、とテーブルを叩いたエンペラーにツバキとエイゴがびくりと体を揺らした。

 

「だから、どっちもそうだってば。あの人、今も昔も未来も合わせもった人なんだよ」

「「???」」

「分からないなら良いよ。どうせ、僕らには到底理解出来ない次元に居る人なんだから」

 

ふん、と怒ったまま席を立ったエンペラー。

その様子にツバキが謝りながら追いかける。理由は晩ご飯を作ってもらえなくなるからだ。

シンヤの描いたイラストを睨みつけてエイゴが眉間に皺を寄せる。

 

「はじまりの話…」

 

初めにあったのは

混沌のうねりだけだった

 

全てが混ざり合い

中心に卵が現れた

 

零れ落ちた卵より

最初のものが生まれ出た

最初のものは

 

二つの分身を創った

 

時間が回り始めた

空間が広がり始めた

 

さらに自分の体から

三つの命を生み出した

 

二つの分身が祈ると

「物」と言うものが生まれ

三つの命が祈ると

「心」と言うものが生まれた

 

世界が創り出されたので

最初のものは眠りについた

 

「いや…、あれはでも、アルセウスの事だよな…」

 

あー!わかんねぇ!とエイゴは自身の髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き乱し、テーブルに突っ伏した。

 

「だって、あの人、なんか違うんだもんよォ…、くそっ…」

 

 

*

 

 

気になって気になって、謎を追求し続けた結果。エイゴは世に名を残す博士の称号を得ていた。

褒めてくれる友人に苦笑いを返すエイゴ。

 

「謎は深まるばっかりだけどなァ」

「そうだとしても…お前がこんなに興味を持つなんて、凄くびっくりしてるよ」

 

バンも良い助手してるし、と笑う友人。

 

「なあ、ヒロキヨ。私の仮説なんだけどよォ」

「難しい事は分かんないぞ?」

「まあ聞けって。ポケモンが人の姿で仕事をしてる現状、今はそういうポケモンは少ない。でも、知能の高いポケモン達は最終的にボールに収まる存在である事に疑問を持って行き、人の姿で共存する存在が増えると思うわけ」

「…はぁ…?」

「つまり、未来を予想するとだな。人と同じ姿で共存を選ぶポケモンが多く存在するようになってそれを拒否し退化していくポケモンが現れると思うんだよ」

「……」

「そこに私は『ねずみ』が出来ると思うんだ」

「何を言ってるのかさっぱりわかんない。コラッタが増えるとかそういう話か?」

「違ェよ、ポケモンはポケモンでなくなるんだよ。ポケットに収まらないモンスターになっちゃうってこと」

「ごめん、マジわかんない…」

 

眉を寄せたヒロキヨなど気にせずエイゴは考える。

 

「でも、それだとなんで『ねずみ』ポケモンなんて分類がすでにあるのか不思議なんだよなァ…」

 

不思議な世界だなぁ、と呟くエイゴにお前の頭がファンタジーで不思議だよ。とヒロキヨは呟いた。

 

*

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告