一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

184 / 221
★、さようならの印


103★

 

「うーむ、今日も居ない…」

「だから、居ねぇって…」

 

じゃんけんに今日は敗北したらしいギラティナがミュウツーの背を見つめて溜息を吐いた。

その頃…、

 

*

 

「あー…しんどい」

「マジ、ここ山頂まで行けんのかよ…」

「ははは、寒くなって来たねー…」

 

ぶえっくしょい!とくしゃみをしたヤマトに汚いとブラッキーが怒る。

それにごめんごめん、と軽く謝りながらヤマトは地図を広げた。

 

「えーっと…、トレーナーさんから報告あった地点は何処だろ…」

「そんなもん見るより聞いた方が早ぇ!ちょっとそこのヌオー!この辺で最近騒ぎがあったとこって何処!」

 

被害が無いか確認に来たんだけどー、とヌオーと話すブラッキーを見て相変わらず頼もしい…とヤマトは目を細めた。

シロガネ山、先日、密猟者らしき者達がここに居るらしいファイヤーを狙いにきたらしく、洞窟内などが一部崩れた状態になっており危険ではないかとトレーナーから報告を受け、ちょうど近くに居たポケモンレンジャーであるヤマトにミッションが命じられた。

生息するポケモンに被害が無いか、災害の引き金になるようなダメージを山が受けていないか、のチェックだ。

まあ、連絡して確認したシンヤが全くの無反応だった時点で暴れられた事で甚大な被害があったなんて事はないだろうけど、と思いつつヤマトは鼻を啜る。

 

「向こうの方だってよ」

「あ、ほんと?」

 

見に行って、ぶえっくしょい!と再びくしゃみをしたヤマトにブラッキーはタオルを叩き付けた。

 

*

 

多少、崩れた所はあってもそこまで問題は無さそうだ。室内のようになった洞窟の中を見渡せば、ハガネールは居たがファイヤーの姿は無かった。無事に逃げられたのかな、と思いながらヤマトは鼻を啜る。

山頂には雪が降り積もっているらしく。ファイヤーの居ないここはすでに寒い。

ああ、寒い。これはもう帰って温かいココアでも飲みたい。と鼻を啜った時。弱々しい声が聞こえた。

気のせいだと思わなかったのはポケモンへの愛の賜物であろう。

 

「…ィ…」

「…ヨーギラス、かな…?何処に居るの…?」

「…ギィ…」

 

何処からか聞こえる野生のヨーギラスの声にヤマトは風の音に紛れて聞こえてくる声を探そうと耳を澄ませる。

微かな鳴き声を頼りに探し当てた場所は崖から足を滑らせたのか、途中の岩場に座り込むヨーギラスの姿。

上がれなくなっちゃったのか、とヤマトは苦笑いを浮かべて近くの岩にフックを引っ掛けた。

 

「助けに行くからそこで待っててねー」

「…ヨギィ…」

 

ああ、だいぶ弱ってるな。とヤマトは少し急いでロープを滑らせて崖を下る。

とん、と岩場に足を下ろしヨーギラスを抱えた。

 

「やっぱり重っ…!あ、でも、キミ、少し小さいね」

「ヨギィ…?」

「よしよし。もう大丈夫だよ」

 

まだ幼いらしいヨーギラスの体を撫でたヤマト。

さて何とかして上がろうかと、上を見上げた時にちょうどブラッキーが崖下を覗き込んでいた。

 

「どしたの?」

「あ、この子、ここに落ちちゃってたみたいなんだ」

「まだガキだなソイツ」

「だねー。この子、ロープに括りつけるから先に引っ張ってくれる?」

「おっけーい」

 

しゅるしゅる、と上へ引っ張られて行くヨーギラスにヤマトは大丈夫だよーと声を掛け笑顔を向ける。

結構、重ーい、と声を漏らしながらもヨーギラスを引き上げたブラッキーは今度はヤマトを引き上げる為、ロープを下に投げようと立ち上がる。

 

「よし、ロープ投げるぞー」

「うん」

 

さあ、投げよう。

その動作をしようとした瞬間、ボゴォッと大きな音にヤマトとブラッキーは体を揺らす。

 

「え!?」

「ツキくん!すぐに伏せて!!!」

 

ヤマトの言葉にブラッキーは慌ててその場に伏せる。

―――ボゴゴゴゴゴ!!!

轟音と共に冷たい雪が体に痛い程にぶつかり体が雪に押し流される。

密猟者が暴れたから、が理由ではない。自然の災害。脆くなった崖が崩れ起きた雪崩だった。

 

*

 

うわ、体中いってぇ。

雪を押し退けて体を起こしたブラッキーは咄嗟に抱えたヨーギラスに声を掛ける。

 

「大丈夫か?」

「ヨギ…」

 

一面、真っ白。山頂の雪が落ちて来たんだろう。

ロープを投げるはずが結局、自分も崖下に流されたらしい。

ポケモンの自分がこんなに痛いんじゃ、人間のヤマトなんかもっと痛いんじゃないのか。と辺りを見渡してみてもヤマトの姿は無い。

 

「…ヤマト…?おーい!ヤマトー!!!」

 

返事が無い。

雪に埋もれてしまっているのかと慌てて辺りの雪をかき分ける。

 

「ヤマト!ヤマトォ!」

 

ブラッキーと同じように小さなヨーギラスも辺りの雪を小さな手でかき分ける。

どうした、どうした?と集まってきた野生のポケモンにブラッキーは辺りから人間を探してくれと声を掛ける。

それに野生ポケモン達も頷き、雪をかき分け岩を退けてとヤマトの姿を探す。

 

「ヤマト…ッ!!ヤマト!!返事しろ!ヤマトー!!!」

 

返事は無い。

息を切らせ、手を真っ赤にして雪を掘ってもヤマトは出て来ない。

 

「ヤマト…っ、ヤマト…っ」

 

えぐえぐ、と泣きながら雪をかき分けるブラッキーを野生のゴルバットが呼ぶ。

居たぞ!とその声にブラッキーは慌てて走る。

走って走って、ゴルバットが居る場所に辿り着いた時、ブラッキーはその場で膝を付いた。

 

「ヤマトッ!!!!ヤマト!!!しっかりしろ!ヤマト!!!!!」

 

雪崩の衝撃で崩れた崖に下半身を下敷きにされ、か細く呼吸をするヤマト。

上は到底退けられそうにない岩でも下は雪。なんとか下を掘って体を抜ければ、とブラッキーはヤマトの体の下の雪をかく。

 

「ツキ、くん…っ、」

「待ってろ!今、助けるから!」

「今…、この辺、脆くなってるから…。急いでポケモン達、避難、させて…、」

「今は自分のこと考えろよ…っ!」

「ツキくん…、良いから、早く…」

「大丈夫だから…!!!すぐだから!!!」

「ツキ、くん…」

「うるさい!!!」

「ツキ…っ!!!」

 

ヤマトがブラッキーの腕を掴む。

嫌だ、とブラッキーが首を横に振る。それにヤマトも小さく首を横に振る。

 

「嫌だ、…ホントに、やだ…。ヤマト、オレ、ヤだよ…っ」

「………」

 

やだやだ、とヤマトの腕を振り払って雪をかく。

ブラッキーが必死にかく雪はもう真っ赤で、掘れば掘るほど真っ赤で、冷たさですでに赤くなっていたブラッキーの手を更に真っ赤にする。

 

「ツキくん…、」

「ぅう…っ、やだ…っ」

「ツキくん…っ」

 

責めるようなヤマトの声にブラッキーはぼろぼろと涙を流しながらも岩混じりの雪をかきわける。

 

「え?オイ、ツキ!」

 

その声はブラッキーにとって唯一の救いだった。

涙で滲む視界にギラティナとミュウツーの姿。山頂に居た二人が崩れた崖下の様子を見に降りて来ていた。

 

「ギラティナ!ヤマトを助けて…!」

「なっ!?…マジ、かよ…」

 

顔を蒼褪めさせたギラティナ、ミュウツーが崖を持ち上げてみようと技を使うがとても持ち上げられるものではない。

 

「ギラ、ティナ…」

「待ってろ!ヤマト!今、考えっから!」

「野生の、ポケモン達を…早く、反転世界に…」

「は!?」

「ギラティナ、早く開け!また降って来るぞ…!!」

 

ゴゴ、と鈍い音を立てて上にある崖が崩れようとしているのをミュウツーがサイコキネシスで食い止める。

だが、あまりにも重いそれを長く食い止める力はミュウツーには無かった。

 

「ま、待てよ…、ヤマトが…っ」

「ギラティナ!」

 

お願い、…と、か細い声で涙を流して呟いたヤマトの言葉にギラティナは震える手で大きな大きな反転世界への道を開いた。

 

「皆の者!すぐに飛び込め!!」

 

ミュウツーの言葉に野生ポケモン達が反転世界へと次々と飛び込んでいく。

崩れて来る崖を食い止めるのももう限界に近い。雪の中で汗だくになるミュウツーがギラティナの名を呼んだ。

 

「…ッ、もう限界だ…!」

 

あまりにもツライ選択。

ひたすらにヤマトの体の下の雪をかくブラッキーの姿を見てギラティナは顔を歪めた。

 

「ツキ…ッ、来い!!」

「嫌だっ!!!離せ!!!離せぇえええッ!!!」

 

*

 

小さく息を吐くヤマトは不思議な感覚だった。

痛みは既に無い。ただ下半身が燃えるように熱いのに、雪に触れている頬や手は冷たいのだ。

暑いのか寒いのか。いや、寒いな。と何故か冷静に考えていた。

 

「…」

 

こんなミスをするなんて、それもツキくんが一緒の時に、結局、僕はカッコ悪い所しか見せられなかったな。

ギラティナとツーくんが来てくれなかったら一匹のポケモンの命を救う事だって出来なかっただろう…。ありがとう二人共…。ありがとうツキくん…。

 

そして、ごめんね。

 

ごめんね、シンヤ。

ツキくんに苦労ばっかりさせちゃって、

ごめんね、ツライ思いばっかりさせちゃって、

ごめんね、おじいちゃん姿を見せてあげられそうにない。

 

「…、」

「ブラァ…」

「……ツキ、くん…?」

「……」

 

なんで?戻ってきたの…?それとも幻覚?

混乱するヤマトの頬に自分の頬をすり寄せたブラッキーはヤマトの傍に寄り添うように寝そべる。

温かいその体温にヤマトは我に変える。

 

「ツキくん…っ、逃げてっ…!」

「…」

 

ブラッキーは何も答えない。

ヤマトは何も答えないブラッキーを力無い手で殴りつけ自分から離した。

殴りつけ弾き飛ばされたブラッキーは黙ったまま、またヤマトの傍に寄り添う。

 

「っ…!」

 

もう喋る体力も無かった。呼吸もままならない、なんとか気力を振り絞りブラッキーを振り払ってもブラッキーは傍からは離れてくれなかった。

どうして、と自分を恨めしげに睨むヤマトを見てブラッキーは涙を零す。

 

「ブラァキィ…」

 

言葉は通じない。

ヤマトの腕の間に潜り込んだブラッキーは離れまいとヤマトの服の襟を噛み締めて、震えて涙を流した。

言葉は通じない。

それでも、ヤマトは震えるブラッキーを抱きしめて、出ない声で謝った。

 

 

 

「――――」

 

 

 

*

 

 

反転世界に飛び込んだ所でブラッキーがギラティナの腕に噛み付いた。

咄嗟に手を離してしまったギラティナの腕からブラッキーは逃げ出し、そしてポケモンの姿に戻り、ヤマトの傍へと駆け寄った。

崖崩れを食い止めているミュウツーが玉のような汗を流しながら、ヤマトとブラッキーのやり取りを見守る。

汗ではない何かがミュウツーの目から流れ落ちた。

 

ヤマトがブラッキーを抱きしめたのを見て、

ギラティナは入り口を閉じた…。

 

 

*

 

 

外が賑やかだ、と庭へと出れば沢山の野生ポケモンで溢れている。

何があったのかと近くに居たゴルバットに聞けば、向こうだと羽で指し示される。

呆然と立ち尽くすギラティナ、ボロボロと涙を流すミュウツー。

 

「どう、したんだ…?」

 

シンヤのその言葉にギラティナは頭を抱えて謝った。

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、と…。

 

ギラティナが再度、開けた出入り口の先は真っ白だった。

沢山の野生ポケモン達が雪をかき、岩を退けて、長い時間を掛けてようやく辿り着いた場所では、

もうほぼ凍ってしまっている親友と寄り添うブラッキーの姿。

 

シンヤは言葉も出ず、白い息を吐き、その場で崩れ落ちる。

どうしたら良い、どうしたら、と考えてみても思いつく事は不可能な事ばかり。

どうしようもない、何も出来ない。

オレに、力があれば…と、自身を責めるギラティナは何も悪くない。

 

全てが上手くいくわけじゃない、これが現実だ。

 

全てを受け入れて生きていくとはこういう事なのだとシンヤは痛感した。

どんなに突然であっても、どんな理不尽な理由であっても、どんなに胸が張り裂けそうでも、自分は生きていかなければいけない。

 

「シンヤ…っ、ごめんなっ、オレが…っ」

「シンヤ…」

「ギラティナ、お前は悪くない。ミュウツーもありがとう。

私は、大丈夫だ…」

「でも…っ」

「大丈夫。私が向こうにいった時にヤマトを殴り飛ばす、それだけの事だ」

「…っ」

「……」

 

ごめんね。

 

聞こえないはずのヤマトの声がシンヤには聞こえた。

 

*

 

その後、シンヤにヤマトとブラッキーの事を伝えられたエーフィはその場で立ち尽くし、静かに涙を流す。

そして、震える口から絞り出したように言った。

 

「そう、ですか…」

「……」

 

それ以上の言葉は閉ざされた口からは出なかった。

奥歯を噛み締めて静かに涙を流すエーフィにシンヤは小さく笑みを向ける。

 

「私はだいぶ遅れていくから、先に殴っておいてくれ」

「…ええ、……任せてください」

 

ぽろぽろ、と涙を零しながらエーフィは顔を歪めて笑った。

でも、たとえ向こうで会えたとしてもきっと自分は殴れないだろうなと苦笑いを内心浮かべる。

 

片割れを連れていってしまった憎い彼は、

片割れに一緒にいきたいと思わせた、憎いヒト…。

 

置いていっていたなら、二度、三度と殺してやったのに。

 

 

「…幸せ、なんでしょう?」

 

 

気持ちが痛い程に分かる、

もう一人の自分なのだから、……。

 

 

 

置いて行かないで…、

 

 

一番大好きだから…。

 

*

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告