「あー、ただいまぁっ!!久しぶりぃっ!!」
バーン、と扉を開けて入って来たミミロップがネクタイを緩めてソファへと沈んだ。
向かいのソファに座っていたサマヨールが苦笑いを浮かべる。
「やっと帰って来れた…っ、マジ疲れた。え、何ヶ月経った…?マジ、日付の間隔無いヤバイ…」
「相変わらず…テレビで写真で、と見る度に引き攣っていたがな…」
「あれ、マジ限界だって…!」
ワタシの表情筋、マジ筋肉痛と頬を揉みながらミミロップがソファに座った。
ガチャ、とリビングへと入って来た敬愛すべき主の姿にミミロップが目を輝かせる。
「シンヤー!久しぶりのシンヤだー!」
「ああ、ミミロップ、おかえり。頑張ってて偉いな、引き攣ってる顔がいつも面白いぞ」
「あれ以上、無理なの~」
両手を広げるミミロップにぎゅっとハグをして返すシンヤ。よしよし、と頭を撫でて離れればミミロップがへにゃりと笑った。
「はぁ~、チャージ完了したわ…。これで半年いける」
「安い奴だな、お前は」
「……」
「シンヤの写真だけじゃ物足りなかったの!でも、数分でも帰る時間取れないとかマジ地獄だったよ!トイレの前で出待ちされてるとかさー!ありえなくねぇ!?」
「今日は帰って来て大丈夫だったのか?」
「うん、タケシが優秀でさー!一時間半だけ休憩もらって来た!ほんと、タケシに大感謝…!」
アイツ、女好きなとこが気に障るけど、と付け足してケラケラと笑ったミミロップにシンヤが笑みを返す。
「は~…あ、そういや、ミロは?買い物?」
「いや、昼寝してるよ」
「……」
「マジか。よっしゃ、今だけシンヤを一人占め出来るっ!」
「しょうがない奴だな」
「んー!ワタシの貴重な一時間半!幸せ!」
ぎゅーっとシンヤに抱き付いて、抱きしめ返されて嬉しそうなミミロップ。
「そういえば、ワタシのさー、コメントなんか変な所とか気になる所無かった?大丈夫だったかな?」
「ああ、引き攣った面白い顔以外は特に気にならなかったぞ」
「良いコメントだった…」
「顔どんだけ弄るの!?」
「あれは見る度に笑えるからな」
「ミミローの頑張りは、自分達の励みにもなってる…」
「そ、そっか?」
へへ、と照れたように笑うミミロップ。
普段からそんな顔してれば良いのに、とシンヤに指摘されて、どんな顔か分かんないよ!と口を尖らせて返すミミロップ。
そんな二人のやり取りを見て、サマヨールが苦笑いを浮かべた。
「今度、テスト作る事になっててさー。テスト作ったら、一回、シンヤ見てくれる?」
「ああ、良いぞ」
「なんか難しすぎても簡単すぎても駄目だし、ひっかけとかめちゃくちゃ入れたくなるんだけどタケシがやめて下さい!ってマジで止めるんだよ~。
テストとか、ジョーイさんの作ったテストひっかけ問題だらけ過ぎてマジでどんな問題でも疑った状態で入るからねアレ…」
「それは私も通った道だから、気持ちは分かるぞ…」
「あ、そうだよな。あれ鬼畜過ぎるよね…」
うん、と頷いたシンヤにテスト内容を思い出したのか深い溜息を吐くミミロップ。
あと、ドクター志望にこんな奴が居て、だとか、上手い叱り方が分からないとシンヤにアドバイスを求めるミミロップにシンヤは一つずつ丁寧に答えて行く。
「褒めて伸ばすのとかも考えたんだけど、褒めるとこねぇなって事に気付いてさー」
「はははっ、何かしらあるだろ」
「無いよ~」
「耳の形が良いとか」
「耳!?あ、そういうので言ったら、歯並び良かった!あははっ、よし、歯並びで行こう!」
楽しそうに話すミミロップにサマヨールが時計を確認して、「そろそろ」と止めに入った。
「うげぇ、一時間半、短すぎ…」
「早く戻ってやらないとタケシが泣くぞ」
「はぁい…、って、マジでギリギリだ!いってきます!」
「「いってらっしゃい…」」
慌てて白衣を片手に家を出て行ったミミロップを見送ったシンヤとサマヨール。
「大変そうだったなぁ」と言って笑ったシンヤにサマヨールは「そうですね…」と言葉を返した。
*
マジ、ギリギリ~!と慌てて走るミミロップをギラティナが呼び止める。
「ミミロー!」
「あ、ギラティナ!お久!話したいけど、悪ぃっ!時間ギリギリなんだ!また時間空いたら来るから!」
反転世界の外へと出て行ってしまったミミロップの背を見送ったギラティナはその場にストンと再び腰を下ろす。
忙しそうだったな…、とのミュウツーの言葉にギラティナは小さく頷いた。
*
「美味しいコーヒー淹れましょう~、アナタのた~めに淹れましょう~♪
大好き、大好き、アナタ色~♪
素敵なアナタのた~め~に~、美味しいコーヒー淹れてます~♪」
「なんですか、その歌は?」
「美味しいコーヒーの歌、これ歌うと美味しく淹れれちゃう、魔法の歌なんですよぉ~」
はぁ?と眉を寄せたピジョットにコーヒーを差し出したミカルゲ。
こくり、と飲んだコーヒーの味は確かにマスターの味とほぼ変わらぬ美味しさ。思わず目を見開けばミカルゲがニヒヒと笑った。
「魔法の歌でしょ?」
「こほんっ、歌はともかく、結構なお手前です」
驚いたらしいピジョットが誤魔化すように数回咳払いをした。
そんな二人のやり取りを見ていたチルタリスが目を細めて笑う。
「じゃあ、次は美味しいお菓子ですね」
「うん、甘くて美味しい、チョコの奴が良いな~」
「良いですね、チョコレート」
ふふふ、と何故か楽しげに笑う二人をピジョットは気味が悪いと眉を寄せて見つめた。
「あ、でも、今日はアップルパイにしませんか?」
「お~!アップルパイ!教えて教えて~」
「良いですよ、では、まず…」
*
はぁ~、とトゲキッスが深く溜息を吐いた。
ポケモンフードを貰っていた池のコイキングがパチクリと瞬きしてトゲキッスを見つめる。
「あ!ごめんね、はい、どうぞ」
パクパクとご飯を食べるコイキングを眺めて、また小さくトゲキッスは溜息を吐いた。
そんなトゲキッスにカズキが声を掛ける。
「今日、もう上がる?」
「ぁ、いえ…、大丈夫です…」
「そっか…」
元気の無いトゲキッスを見て、カズキも小さく息を吐く。
「キッスさんは笑っててよ」
「……」
「キッスさんの笑った顔、好きだぜ」
「…シンヤもそう言ってくれた事があります」
目を瞑って笑う癖のあるトゲキッスの笑顔にカズキも笑顔を返す。
そうですよね…とポツリと呟いたトゲキッスが立ち上がり、ニコリと笑った。
「俺が一番、笑顔で居ないとですよね!」
「…うん」
「俺は祝福ポケモンなんだから」
よし、今日も頑張って遊びます!と預けられているポケモン達のもとへと走って行ったトゲキッス。
その背を見送って、カズキは小さく溜息を吐いた。
*
「大丈夫」
そう小さな声で呟いたミロカロスにシンヤは小さく頷き返す。
細くなった手を握り締めて幾日か過ぎ、
人の姿からポケモンの姿に戻り、数週間。
シンヤはその今も美しく輝くウロコを撫でる。
「ミロ、お前、一番年長だったもんな」
「…」
「ん?ああ、仕事なら気にするな。平気だよ」
「…」
「まだ寝たくないのか?」
「…」
「お前はワガママばっかりだな…」
「…」
「わかったわかった。ちゃんと眠るまで撫でてやるから」
「…」
よしよし、とシンヤがミロカロスの首元を撫でればミロカロスはゆっくりと大きな目を閉じた。
閉じられたミロカロスの目元にシンヤは額を寄せて笑う。
「ミロ」
「…」
「必ず迎えに行くから、待ってろ」
「……ミぃ…」
うん。
俺様、良い子にちゃんと待ってるよ。
「…ミロ、」
「 」
「……っ、…」
ゆっくりで、良いからね
*