「ダイナ~、おばあちゃんこっちよ~」
「あ~」
「いやいや、おじいちゃんの方おいで~」
「あ~」
コラ!お父さんコラ!と怒るカナコに、だって~と口を尖らせるイツキ。
でれでれかよ、とカズキが苦笑いを浮かべた。
「ダイナ、パパんとこおいで」
「あ~」
よちよち、と歩けるようになった我が息子にカズキが両手を広げる。
ずるい!と祖父母からの声があがった。
よちよち、と進んでくる息子を見守っていると、そういえば、とカナコが手を叩いた。
「ユキコちゃん、もうすぐよね?」
「あー、うん、二人目ね」
「女の子かしら、男の子かしら!」
楽しみね!と喜ぶカナコの声に答えが返って来た。
「女の子だ」
「あ、兄ちゃん」
「あ~ぅ~!」
部屋へと入って来たシンヤの姿を見て、カズキの息子ダイナが目を輝かせて、よちよち歩きがハイスピードになる。
「よお、ダイナ。だいぶ早く歩けるようになったんだな」
「あぃ!」
「いや、今、人生最高記録出たよソイツ…」
つーか、兄ちゃんにだけ返事しやがる。我が息子…!とギリリとカズキが歯を噛み締めた。
カナコとイツキも悔しいのかギリギリと歯を噛み締める。
「急にどうしたの?シンヤが来ると孫を取られるからさっさと帰んなさい!」
「息子になんて酷い事を言うんだ…」
「ダイナ、おばあちゃんの所おいで!」
「……ぅ」
シンヤの足元にしがみついたダイナがそっぽを向いた。拒否である。人生初拒否。
「いや、実はツバキが身籠ったから報告に来たんだ」
「マジか!」
「やだ!エンペラーくん押し倒しちゃったの!?」
「母さん、そんな事聞くのやめなさい…」
カナコの言葉にシンヤがモゴモゴと口籠る。
「まさか、シンヤ…!?」
「私じゃないぞ!?エンペラーだ!」
「じゃあ、なんで目を逸らすのよ」
「兄ちゃん、なんかやったの?」
「……、いや、うん」
まあ、と言い難そうに顔を逸らすシンヤ。
白状なさい…!とカナコに詰め寄られてシンヤが呻りながら言葉を発した。
「頼まれて…、惚れ薬と媚薬、作ってみたら効いたらしくて…っ」
「何やってんの!?」
「なんだそれ、父さんにくれ!」
「おバカ!」
べしん!と叩かれたイツキがぎゃあああ、と悲鳴をあげた。
いやぁ…と目を泳がせるシンヤ。
「ちょっと、頭の中で考えた時に作れるんじゃないかとは常々思ってたんだが…、本当に効くとは…。私、結構、何でも作れそう…」
「若返り薬を作って頂戴、皺消すやつ!」
「母さん!?」
「美容液でも良いわよ!皺消すやつね!」
「必死か!」
皺消すやつな、とシンヤが頷いたのを見てカナコが満足気に笑った。
「ふふん!」
「なんでドヤ顔…」
「しかし、暫く忙しくなりそうだからちょっと待っててくれ母さん…」
「え゙ー!!!」
「いや、お産が…」
「ああ…、そうね、まあ…良いわよ、皺が後々でも消えるなら!」
どんだけ消したいんだよ。とカズキが眉を寄せる。
シンヤ、シンヤ、とイツキがシンヤを呼ぶ。
「何?」
「父さん、ムキムキになるやつ頼むな!」
「…」
実父の発言に黙り込むシンヤ。
イツキの向かいに座っていたカズキが呆れたように言った。
「プロテインでも飲めば…?」
「プロテインはもう毎日飲んでる!」
「じゃあ、もう良いよ!十分だよ!」
嫌だー!まだ探検しに行く元気欲しいー!と喚くイツキ。
まあ、考えとく。と呆れたように返事をしたシンヤにイツキが「そうか!」と目を輝かせた。
「ぁ!ぅ!」
「ん?なんだ、ダイナ。オムツか?」
「え、マジ?」
持って来ていたカバンを手にしたカズキが立ち上がった時、ダイナがシンヤを見上げ両手を広げてみせた。
「ゃ、にちゃ!」
「…え?」
「にちゃ!」
「それ、兄ちゃんって言ってんの?オレの真似?」
どさ、とカズキがカバンを床に落とした。
にちゃ!と繰り返して両手を広げて来るので、シンヤは渋々ダイナを抱き上げる。
「にちゃ~」
「伯父、なんだがな…」
「ちょっと待って…っ、パパママですら、まだなんだけど…!」
「ばあばもまだよ…っ!」
「じいじもだ!!」
「「「くっそぅ!!!」」」
本気でそんな悔しがられても困る。とシンヤは深く溜息を吐いた。
「まあ、ほら、ダイナはユキコの子だから。私が極端にポケモンに懐かれやすいせいだろ」
「特にポケモンの能力出てねぇけど…」
「いずれ、急にユキワラシになるかもしれない」
「それ、こわい」
「ダイナ、ばあば!ばあばって言って?」
「にちゃ!」
「ぐぅううううう!!!」
なんか、すまん。
*
ああ、出産ラッシュか~。と
ダイナをしがみ付かせたまま歩くシンヤ。横で落ちない!?それ落ちない!?とカズキがそわそわしている。
「ダイナ、重いからパパの所に行ってくれないか」
「ゃ!」
「嫌か~、でも、私は抱っこしてやらんからな…落ちても知らんぞ」
「にちゃ!」
首にしがみ付くダイナを放置してさっさと歩くシンヤ。
なんでパパ拒否だよ!と隣で歩くカズキが怒っていた。
「ユキコ、調子はどうだ?」
「はい、大丈夫ですよ。まだ陣痛も来てないですし」
っていうか、ダイナは何でぶら下がってるの?とユキコはあわわと体を震わせた。
ユキコと一緒に居たモモもまたユキコと同じように大きなお腹を撫でて笑った。
「ダイナくん、シンヤさんのこと好きね」
「いっちゃんもすきだよ~?シンヤさん!すき!」
「ありがとう、イチゴ。だが、私はお前のことなんて嫌いだ!」
「がびーん!」
「嘘だ」
「わーい!」
なにその遊び。とカズキが苦笑いを浮かべる。
「つか、ユキコ!聞いてくれよ!」
「そうなんだ、実はツバキが身籠ったんだ」
「「ええ~!!」」
「違う!それもだけど、ダイナがパパママより先に、兄ちゃんの事呼んだの!」
「え、そうなんですか!?」
「ほら、ダイナ、兄ちゃんって言ってみ」
「にちゃ!」
「ほらなぁ!!」
「ダイナ…凄い!歩くのもお喋りもこんなに早く出来るなんて…!」
嬉しいのかよ!とカズキのツッコミが入る。
賢いですね~と褒められてダイナは嬉しそうに笑った。
*
イチゴに高い高いをしていたシンヤに気付いた少年が近づいてくる。
「あ!シンヤさん、おっすおっす!」
「シキ、お前、髪の毛ボサボサだぞ」
「むぞうさへあーってやつ」
ぶちゃいくだなー、おまえはーと頬を引っ張ってやればシキは嬉しそうに笑った。
「おおきくなったらイケメンだぜ!」
「うん、知ってる」
「うっわ!シキくん、成長早っ!」
もうダイナよりすっかり大きいシキを見てカズキが目を見開いた。
人間とポケモンのハーフもなかなかに成長が早いが、純粋なポケモンが一番早い。
イロとタモツの息子のシキはヒンバスなので、当然、残念なくらい、どう手入れしても気付いたらぐちゃぐちゃのみすぼらしい姿になってしまうらしい。種族って残酷だな。
「とりあえず、だ。」
「「「?」」」
「ユキコとモモはどっちか気合いで予定日ずらしてくれ」
「気合いで…!」
「頑張ります」
「無茶言うなよ!?」
「無茶くらい言うだろ!予定日被るとか、お前らタイミング一緒過ぎるだろ!なんだ!?クリスマスか!クリスマスだろ!」
「やめて下さい、お兄様…!」
お許しを、とカズキが土下座をしたので見逃してやることにする。
まあ、最悪、同時でもミュウツーに頑張らせよう。そうしよう。
それで、また二ヶ月もしたら、ジョーイだろ。その後はノリコ、その次はツバキか…。
「お盛んな事だなぁ!」
「兄ちゃん、オレ、まだまだ子供作るから宜しく」
「マジか!いつタマゴで出て来るかとドキドキするこっちの身にもなってくれ!!」
「タマゴ、まだイメトレしてたんだ!?」
するに決まってるだろうが!と怒る兄を見てカズキが笑う。
ドキドキしてる兄には悪いが、子供は目一杯、出来る限り増やしてやろうとたくらんでいるカズキは、兄には一生ドキドキし続けて貰おうと思っている。
天涯孤独の身になどしてやるものかと、密かに笑った。
*