一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

188 / 221
107★

忙しい日々に追われ、

なかなか主人のもとに戻れぬ日も続いていた頃、主人の親友が、自身の仲間が共にいってしまっていたのだと知る。

 

そして、最初の頃にとった、一時間半の休憩が、

大嫌いな奴の最後のお別れの日だったと後から告げられた。

 

ああ、いったのか。

 

そして、自分はあんなにも主人に気を遣わせてしまっていたのかと後悔ばかりが押し寄せる。

自分の為に笑い、自分の為にアドバイスをくれたあの日、主人はどんな気持ちだったのだろうか、と想像するだけで吐き気がした。

 

自身の名が広まり、

雑誌に顔が載り、

いくつも賞を貰い、

テレビでも消えぬ顔となった頃、

 

主人の名前は世間から消えていた。

 

願っていた事を実現した。

 

 

実現出来たものの、

主人には会えぬ日々、

会いたかった、

たった数分でも会いたかったが、

もう…、決して、

決して会いに来ないでと

大好きな主人に伝えた。

 

自分が生きている内はまだ、

まだ貴方の記憶が誰かの脳裏によみがえってしまうから

映像として写真として映る自分を見守り続けてくれと告げて、

光の下で笑みを浮かべ続けた。

 

延々と延々と……。

 

美しい、可愛い、と大嫌いな言葉を並べられて、吐き気を抑えながらお礼を言って、笑った。

そして、たくさんの医師をひたすらに育て続けた。

 

もう、ポケモンドクターなんて珍しいものではないでしょう?

トレーナーが、コーディネーターが、ブリーダーが、三人に一人は医術の心得を持っていた。

それだけ広めた、それだけ頑張った。

 

 

小さかった自分の背が更に一回り小さくなった。

皺だらけの手はもうペンも握れない。

どんなに年老いても取材は来た、

光栄です、こんな老いぼれのもとにまだ来て頂けるなんて…、と言って笑う。

 

吐き気がした。

 

 

生きている間は地獄だった。

 

胃がキリキリと痛み続ける日々、

血など何度も吐いては、自分の技術で無理やり治した。

 

ミミロー先生、ミミロー先生。

ミミロー先生、ミミロー先生。

 

たくさんの弟子が会いに来た、お礼を言って笑った。

 

吐き気がする。

 

たくさんの本を残した、たくさんの人にお礼を言って笑ってサインをした。

 

吐き気がする。

 

吐きだしたい、吐きだしたい、全て吐きだしてしまいたい。

 

 

医術の神と崇められた、

年老いて尚、また賞を貰った。

 

もう、自分は死ぬだろう。

自分は医者なのだから死期も悟れる。

 

やっと、やっと…、と思った所で、

手を握られた。

かすむ視界に映るのは記憶と微塵も変わらぬ、大好きな主人の姿。

 

「ミミロップ」

 

そう呼んでくれるのは貴方だけ…。

 

「ありがとう」

 

その言葉だけで救われた。

ワタシは、ワタシは、大好きな主人と違って、こうして救われてしまうのだ、と気付いたら涙が出た。

 

声は出なかった。

 

 

 

ワタシの短い、本当に短い人生、

大好きな貴方の役に立てたのなら、それだけで幸せ…。

 

 

 

貴方の地獄がせめて平穏でありますように、と

 

 

笑った。

 

*

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告