一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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「シンヤ……」

 

誰かにぎゅっと手を握られている気がした。

 

 

 

 

「シンヤさーんッ!!」

「ぐあっ、耳がっ!!」

「耳が!じゃないです!全くもう野生ポケモンの治療に行ったと思えばミオに入り浸って!」

 

現在、ズイタウン。

ミオのジョーイが喋ったのかミオ図書館に入り浸っている事がバレて急遽呼び戻された。ズイのジョーイに説教をくらっている間に私はどうやら眠ってしまっていたらしい。

耳元で大声を出され耳が痛い。キーンとまだ耳鳴りしてるんだが……。

 

「やる気はあるんですか!やる気は!」

 

無いに決まってるだろ。

溜息を吐けば笑顔のジョーイの額に青筋が……。

 

「……」

「……」

 

笑顔のジョーイと顔を向き合わせ無言の数分。目線も逸らさず無言の戦いがあった、のだと言っておく。

暫くそうしているとポケモンセンターに入って来たヤマトが「やあ、どうも」と声を発した。ジョーイがヤマトに「こんにちは」と挨拶するがジョーイの視線はまだ私。

 

「シンヤ、ちょっと良い?帰って来て早々に悪いんだけどさ」

「ああ、良いぞ」

「良いと言いつつ、何故こっちを見ない」

「今、バトル中だ」

「え?」

 

ジョーイの瞳の中に私が映っている。

なんだかもう先に目を逸らした方が負けな気がするんだ。負けられない。

 

「いや、ジョーイさんと見つめあってる場合じゃないからね。早く!」

 

腕を引かれてポケモンセンターを出るがギリギリまで笑顔のジョーイから視線を外さなかった。

これは負けじゃない、引き分けだ。

 

 

ヤマトに連れられ研究所に。

そこには暫く見ていなかったイツキさんの姿があった。確か遠方の知り合いである博士に頼まれて探索に出掛けた……、とカナコさんが言っていた。

 

「イツキさ……、じゃなくて、お父さん、おかえり」

「おー!シンヤー!ただいまー!!」

 

抱きついて来たイツキさんに軽く抵抗しつつ研究所内の書類を漁るヤマトに視線をやる。

呼ばれたものの呼ばれた理由をまだ聞いていない。

 

「ヤマト」

「うん、じゃあ、行こう」

 

目当ての書類らしいものを持ったヤマトが外に出る。

あちこちに連れまわされて少し腹が立つがイツキさんから離れるには丁度良い、イツキさんを押し退けてヤマトの後に続く。

 

「今日晩御飯一緒に食べるんだからなー!早く帰って来るんだぞー!」

 

声を張り上げるイツキさんに頷いて研究所を出た。

外に出れば反転世界に飛び込むヤマトの姿、結局そっちに行くのかと思いつつ私も反転世界へと入る。

 

「なんなんだ?行ったり来たり」

「ふふふふふ」

 

不気味だ。

 

「実はね、スイクンが言うには反転世界にあのエンテイとライコウが来るんだって!」

「私、必要ないだろ」

「何言ってんの!家主でしょうが!」

「ああ、貸す」

「ちょーい!生で見よう!一緒に興奮しよう!!あのエンテイとライコウだよ!?」

 

もの凄くどうでもいいんだが……。

しかし、エンテイとライコウが来るという事はスイクンの見舞いか何かだろうか……、スイクンの奴はもう随分と回復してるし。

最近じゃ反転世界内を走って軽い運動もしてるくらいだからな、復帰祝いとか……。

 

「あぁぁあああああ!!!」

 

横でヤマトが声をあげた。家の方を指差すヤマトの視線を辿れば家の前に大きな二体のポケモン。茶色と黄色……。

 

「な、生だ……」

 

お前、珍しいポケモン結構見慣れて来たのに今更な反応だな。

家へと近づけばライコウがこちらを見てバチバチと電光を発した。威嚇しているらしいライコウを見てヤマトが私の背に隠れたが鬱陶しかったので突き飛ばしてやった。

 

「狭い家じゃないがさすがにスイクンも含めてデカイの三匹はキツイな。ギラティナみたいに人型になって中に入ったらどうだ?」

「「……」」

 

エンテイとライコウが顔を見合わせた。

納得したのか譲歩したのか知らないが大きな獣の姿だった二体はポケモンの面影を残す二人の男になった。

 

「貴殿がここの家主か」

「ああ、シンヤだ」

 

小さく頷いたエンテイ。ヤマトが「どうぞ!」と言って家のドアを開けた。

キョロキョロと辺りを見渡したライコウが眉間に皺を寄せながら家の中に入るエンテイの後に続いて家へと入った。

落ち着いたエンテイとは違ってライコウの方は落ち着かず私やヤマトから一定の距離をとっている。

私が部屋の扉を開ければ人型で居たらしいスイクンがこちらに視線をやった。

「あ」と声を漏らしたスイクンにライコウが飛び掛かる。

 

「スイクン!!テメェ、何ヘマしてんだ!!ズタボロにされた揚句に人間の世話になんてなりやがって!!」

「油断したのは認める、でも、シンヤは良い人間だ。私はとても感謝している……」

「人間は信用出来ねぇ!!今だってテメェはまだここに閉じ込められてんじゃねぇのかよ!?」

 

失敬な。私に監禁趣味なんてないぞ。

ライコウの言葉を聞きつつ棚からポケモンフードを取り出した。

これは粉末の薬が入ったスイクン用のフードだ。栄養不足を補う事も必要だったのでわざわざ配合した。

そろそろスイクンが出て行くと言うなら一応ある分だけでもポケモンフードを持って行ってもらおう。スイクン用だから置いといても誰も食べないし……。

 

「シンヤはそんな事しないよ!!」

 

今の今まで黙っていたヤマトがライコウに言い返した。

何でポケモン同士の会話に口を挟むのかあの馬鹿は……、放っておけばいいものを状況を悪くしたヤマトはバチバチと放電するライコウに睨みつけられて部屋の隅まで逃げた。

 

「ヤマトの言う通りだ……。シンヤは私を閉じ込めてなんていない、私は今も自由だ」

「すっかり人間に手懐けられちまってるのだけは、よぉーく分かったぜ」

「手懐ける?私がシンヤを慕っているのは認めるが、シンヤは私を利用したりなんてしない」

「まだしてねぇだけだ!!今に捕獲されて力を利用される!!」

「シンヤは他の人間とは違う……、無理やり捕まえようとなんてしない。それに、シンヤが私の力を必要とするなら捕獲なんてされずとも力は貸す」

「人間の手駒になるってのかテメェ!!!」

「違う!」

 

言い争う二人を見てヤマトが情けない顔をしながらオロオロしている。

何やら私の話で盛り上がっているのでどうにも止めにくい。ここで私が入ればライコウに噛みつかれそうだ。

傍で二人の様子を見ているエンテイに近づいて声をかけてみた。

 

「止めるに止めれないのだが、お前たちはスイクンを引き取りに来たんだろう?」

「……そうだ」

「まあ、もうほぼ回復してるからな連れて行っても大丈夫だろう。ただ激しい戦闘はまだ避けた方が良いな」

「お前は何故、スイクンを……。私たちを捕まえようとしない……」

「……捕まえて何になるんだ?」

 

キョトンとした顔をするエンテイ。

私は何か変な事を言っただろうか?捕獲する事になんの意味がある?スイクンを捕まえても家にずっと居るポケモンが増えるだけだと思うのは私だけか。

捕まえてなくても増える一方なのに捕まえて何になる。ボールに押し込めて大事にカバンの中にでも入れておけというのか。

 

「私たちは人間でいう珍しいと称される存在のはずだ、捕まえて損はしないだろう」

「得もしないだろ」

「私たちの基礎となる力は普通のポケモン達より遥かに上だ」

「強いポケモンだとしても、別に私は強さを求めているわけでもないし」

「……」

「……」

 

お前は、変な人間だ。エンテイはそう言って私から視線を逸らした。

何だ連れて歩いて自慢でもしろというのか、悪目立ちするのはごめんだぞ。

それとも珍しいポケモンはとりあえず捕まえてコレクションにでもするのが基本なのか?私は収集するという行為があまり好きじゃないんだよな……、最終的に邪魔になるし……。

今まで集めた物というと……、本くらいじゃないか?いや、最近は木の実を集めてるな、集めた傍から使うからほとんど手元には無いんだが……。

 

「んなもん、消してやらぁ!!!」

 

私が考え込んでいる間に話が進んだらしい。

エンテイが私に向かって放電して来た。話の内容はさっぱり分からないが最終的に私を消すという結論になったのは理解出来た。

雷の皇帝であるライコウの電撃をくらったらさすがに死ぬかもな……。

 

死……、

 

「シンヤ……」

 

 

 

 

「……ヤマト?」

 

そうだ、今のはヤマトの声だった。

ライコウの放電を近くにあったテーブルで防ぎつつそう思った。

苦しそうな、寂しそうな声で私の名前を呼んだのはヤマトだった……。

 

「シンヤ、それカッコ良すぎー!!!」

「当たったら痛いじゃすまないだろ」

「でも、普通出来ないよソレ」

「テーブルは買い直しだな…」

 

黒こげになったテーブルを元の場所に戻して未だにバチバチと放電するライコウに視線をやる。

ライコウが更に攻撃しようとして来たので身構えると私とライコウの前にエンテイが立ちふさがる。

 

「どけっ、エンテイ!!」

「お前が人間を信用出来ない気持ちも分からなくはない、だが、ここでお前がシンヤを傷付ける理由なんてないはずだ。違うか?」

「……」

「スイクンが傷つき怒り苦しむなら私は協力しよう。しかし、スイクンはそれを望んでいない。自分を救ってくれた人間に感謝していると言っているんだ、その人間を私たちが傷付ける事は許されない」

 

ライコウが大きく溜息を吐いて放電を抑えた。

まだ納得は出来ていないようだが、エンテイの言葉は受け入れる事にしたのだろう。

 

「スイクン、お前もそろそろここを離れろ。ライコウが大人しい内にな」

「……」

 

チラリとこちらに視線をやったスイクンがエンエイに視線を戻して小さく頷いた。

私の方に向き直ったエンテイが小さく頭を下げる。

 

「では」

「ああ」

 

ライコウを一括してからエンテイが部屋から出た。それに続いてライコウが部屋を出るが最後まで忌々しげに私を睨みつけて出て行った。

そしてスイクンがゆっくりと立ち上がる。

 

「……シンヤ」

「薬を調合してあるポケモンフードだ三日分はある。三日後以降にまだ調子が悪ければいつでも来い」

 

ポケモンフードを受け取ったスイクンが口元に笑みを浮かべて頷いた。

外傷は治っても臓器の機能が麻痺により低下しているのはまだ完全に治ったわけじゃないからな……。

まだ弱っているのは事実だが、エンテイが何かと気にかけてくれるだろう。ライコウの態度から見てもスイクンを心配していたし。

 

「うぅ……、スイクン、元気でね……。いつでも遊びに来てね……」

 

ずびずびと顔を汚くしたヤマトが小さく手を振った。子供かお前は。

部屋の扉に手をかけたスイクンが笑った。

 

「また、ね……」

 

*

 

ポケモンセンターに戻って来た私は再びジョーイと睨みあう。とは言っても相手はずっと笑顔だ。

ふぅ、と溜息を吐いて視線を逸らしたのはジョーイの方だった。

 

「こうしていても仕方がありません。仕事をしましょう」

「ガンバレ」

「ア・ナ・タ・も、です!!」

「チッ」

 

ジョーイに腕を無理やり引かれて診察を待つポケモンの所へと連れて行かれる。

ひたすらポケモンの治療をすること数時間……。この子で最後です、と連れて来られたポケモンを前に私は悩む事になった。

 

「お前、何処も怪我してないぞ……」

 

連れて来られたのはヨーギラス。ジョーイが言うには野生なのだが……。

全体を見ても口を開けさせて見ても特に異常は無い。

 

「ラッキー、コイツ何でここに居るんだ?誰が連れて来た」

「ラキラッキー」

 

ラッキー情報。トバリまで出掛けていた住民が道中に倒れているヨーギラスを見つけ声をかけても反応が無くとりあえずポケモンセンターに連れて来たらしい。

 

「寝てたんじゃないのか?」

「ラッキー」

「ふむ、元気が無いのは事実か……、まあ、見た限り元気は無いな。落ち込んでいるというかなんというか……」

 

抱き上げてみようとヨーギラスの両脇を掴んだが持ち上がらない。

 

「ッ!?……コイツ、小さい癖に重いぞ」

「ラッキィ」

「72キロ!?」

 

私と差ほど変わらないじゃないか……。

この小さい体に何が詰まっているんだ……、恐ろしい……。

 

「くっ」

「ラッキラッキ!」

「ぉ、応援はいらん……!」

 

気合いで持ち上げてやった。

特重の漬物石を抱きかかえてる気分だ。まあ、漬物石を持った事は無いが……。

赤ん坊サイズなのに体重は大人一人分。

 

「抱きかかえて観察なんて出来ないな……」

 

とりあえず、元気が無いだけなら様子見。

他のポケモンと外で遊ばせて元気になれば野生に帰してやれば良いだろう。

ラッキーにヨーギラスの診察カルテを渡してヨーギラスを抱きかかえたまま外に出る。すると丁度ポケモンセンターに来たらしいヤマトが手を振って走って来た。

 

「シンヤー!!!トゲチックがトゲキッスに進化したよー!!」

「ふぅん」

 

反応薄っ、と何故かショックを受けたヤマトはすぐに私の抱きかかえているヨーギラスを見て目を輝かせた。

 

「可愛いー!僕にも抱っこさせて!」

「……ん」

 

両手を出したヤマトにヨーギラスを渡せばヤマトは重力に従って地面に這いつくばった。

 

「ははは」

「しまった……、ヨーギラスは小さいけどめちゃくちゃ重たいんだった……」

 

必死になってヨーギラスを持ち上げようと奮闘するヤマト。

数分後、汗だくになって私に言った。

 

「……シンヤ、力持ちだね」

 

まあな。

 

*


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