一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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カフェのカウンターに座りシンヤはコーヒーを飲む。

ミカルゲの淹れるコーヒーはもうマスターの淹れたコーヒーと同じ、他とは違う特別に美味しいコーヒーになっていた。

 

「ご主人様、今日はクリームブリュレがあるのですが、いかがですか?」

「んー…甘いからなぁ」

「いるいる!」

 

隣に座っていたツバキが手をあげる。

それに返事をしたチルタリス、そして「プリンみたいなの居る人ー」と背後で遊んでいたダイナとダリアに声を掛けた。

 

「「はーい!」」

「ダイナくん、ありがとねー。ダリアの相手してもらっちゃって」

「全然!下の弟と妹達と比べたらダリア、良い子だし、超楽~」

「ダイナ、見て見て、お父さんに本貰ったんだ」

「へー…、文字しか無ぇな。絵本とかは…?」

「絵本?なにそれ、そんなの見ても僕の得にならない」

「お前、何歳?」

「もうすぐ、6歳だけど、それが?」

「…」

 

うちの子、可愛げ無いでしょ?とツバキが眉を寄せた。

本当に言動まで父親そっくりになって来たな、とシンヤも眉を寄せる。

 

「はい、ツバキさん、クリームブリュレです」

「ありがとー」

「ダイナくんとダリアくんも」

「ありがとう!」

「プリンみたいなのってなに?」

 

クリームブリュレって言うんですよー、とチルタリスから説明を受けるダリアはふむふむと頷いていた。

そんな子供たちを眺めてたミカルゲが笑う。

 

「子供の成長ってはやいねぇ~」

「それ、ほんと!もうダリアとか勝手に論文読んでるの!ありえなくない!?」

「いや、それは早すぎって言うか…ツバキ博士のとこが特殊ってやつなんじゃぁ…」

 

カランカラン、と出入り口に扉に付いたベルが鳴った。

シンヤが視線をやれば紙袋を抱えたサマヨール。

 

「ああ…、主、いらしてたのですね…」

「うん」

「ツバキちゃんも居るよ~!っていうか、ヨルくんには一言物申したい!」

「…何でしょう?」

「こんな辺鄙な所に店建ててどうすんのよ!こんな森の中に!誰が来るの!?ギラティナに言わないと来れないってどういう場所!?」

 

そもそもハッキリとした現在地って何処ここ!?とツバキが怒る。

薄暗い鬱蒼と生い茂る木々の中にポツンとあるカフェ。普通の人間が来るにはなかなかハードな道のり、遭難でもして偶然辿りつくくらいだろう。

シンヤも一歩外に出れば、迷って帰って来られなくなりそうな場所。シンヤの家から行き来する手段である出入り口は店内にある鏡。サマヨール達が買い出しに行く為の行き来は近くにある湖が出入り口。

 

「こわくて、外、出れないよねここ」

「私も散歩と思って出歩いたら、迷ってミカに迎えに来てもらった事がある…」

「ご主人、迷ってんじゃん!?」

「良いんですよ…、来店者は主くらいだけで構わないのですから…」

 

わたしが気軽に来難い!と怒るツバキにサマヨールが苦笑いを返す。

まあまあ、とツバキを宥めるミカルゲ。

サマヨールの存在に気付いたダリアがサマヨールに声を掛ける。

 

「ヨルさん、この文字はなんて読むの?ダイナが読めないんだ、役立たずだよね。二歳も年上のくせしてさ」

「おれが、おれが悪いのか…っ」

「ダリアは日に日に…お父さんに似て来るな…」

「ほんと?それなら良かった、お父さんみたいになりたいんだよね」

 

それでこの文字が~…と後ろで会話を続けるダリアの言葉にツバキが頭を抱えた。

 

「マジで嫌だわ…、エンペラーが二人居るみたいなんだもん…。これだから、お母さんはダメなんだよ。とか真顔で言われるのよ!?息子に!!」

「ま、まあ、ダリアの頭脳の高さはお前譲りだろ…良いじゃないか…」

「ぐぅ…、確かに賢くて研究に興味持ってくれるのは嬉しいんだけどぉ…!わたし、本当になんでエンペラーの事、好きになったんだろ…。絶対にエンペラーの子供とか産むつもりなかったはずなんだけど…ほんとにそれが分かんない」

「………」

 

ずずず、とシンヤがコーヒーを啜った。

 

「いやいや、どっかで胸きゅんする事とかあったんじゃないですかねぇ~」

「えぇ~?」

「エンペラーさん、男前ですしー」

「男前とかシンヤさんで見慣れてるわたしがそれくらいで落ちるわけがない。わたし、ジョシューさんみたいな優しい人が好きだったはずなのに…おかしい…」

 

もう結婚して6年になるけど、永遠の謎。とツバキが頭を抱えた。

これ以上、考えられるのはこわい。とシンヤは話題を変える。

 

「そういえば、もうすぐユキコの予定日だぞ」

「あ、そうなの?カズくんとこ、これで何人目…」

「6人目だな」

「ユキコちゃん、頑張るねぇ…。わたし、もういい…」

「うちに預けて行くからもう家が保育所みたいになってる…」

「あはは、うちのも預かって」

「…」

 

はぁ、とシンヤが深い溜息を吐いた。

カップを磨きながら「それでぇ?」とミカルゲが問う。

 

「カズキくんの所は何人産むんですかぁ?」

「いや、男女男女女、って来てるから、次が男だったらもう三人ずつで丁度良いかなぁとか言ってたけどな…」

「え?女だったら、四人ずつにするのかな?」

「…」

「シンヤ様、大変ですね~」

 

むぅ、とシンヤが口を閉ざした時、背後からサマヨールに呼ばれる。

 

「主…、助けて下さい…」

「シンヤさん!僕はそもそも伝説のポケモンなんて存在しないと思うんだ。目撃例が少ないと伝説になるの?神話とか昔から語り継がれてるだけでそもそも本当に存在するかもあやしいし」

 

キリリ、と真剣な目でそう言った我が子にツバキが何言ってんだコイツ、という視線を送った。

 

「伝説と呼ばれてるポケモンは存在するぞ。目撃例が少ないのも理由かもしれないが、伝説と呼ばれる個体は数が少ない、当然、一匹しか存在しないやつもいる」

「本当に?見たことあるの?」

「ああ、ダリアはどの伝説のポケモンを見たいんだ?」

「ほんとに!?見たいのだと僕は、そうだなぁ…、やっぱりアルセウスかな!」

「…お前、この前、私にそっくりの男に会わなかったか?」

「会ったよ?アルさん。シンヤさんの双子の兄か弟でしょ」

「あれがアルセウスだ」

「何、言ってんの?」

 

はぁ?と顔を歪めたダリア。そういう顔が父親そっくりで思わずシンヤは苦笑いを返す。

横からベシンとダイナがダリアの頭を叩く。

 

「シンヤ兄ちゃんになんだその言い方!」

「今の僕、悪くないよ。シンヤさんがバカな事言うから悪いんでしょ」

「シンヤ兄ちゃんは嘘吐かねぇ!」

「僕は見たものしか信じない主義なんだ」

「じゃあ、今度、アルが来たら本当の姿を見させてやる」

「……、本当にアルさんがアルセウスだって言うの?子供騙しなんて通用しないんだからね!」

 

我が子、可愛くねぇ!とツバキが怒っていた。

納得しないダリアに「じゃあ」と言葉を続ける。

 

「ギラティナは知ってるか?」

「知ってるよ」

「ギラティナは何処に居るかは?」

「世界の裏側、反転世界って呼ばれる場所に居るって本に書いてた」

 

スプーンをくわえたダイナがにまにまと笑う。

 

「じゃあ、一つの疑問をあげようか。私達はここに来る前、ズイのポケモンセンターに居たな?」

「うん」

「何処を通ってここに来た?」

「鏡…?え、でも、ここってポケモンセンターの隣にある建物でしょ?」

 

あれ、でも、外の景色が…。と混乱するダリア。

すでに反転世界で兄弟で遊ぶ事になれているダイナがケラケラと笑った。

 

「ダリアもそろそろ遊びにおいで」

「?」

「ギラティナさん、悪戯するとめっちゃ怒るから気を付けなきゃなんだからなー」

「ギラティナさん?」

 

混乱するダリアを見てツバキが笑った。

 

「我が子が驚愕する無様な姿を写真に撮らねば!」

 

お前、5歳児いじめるなよ…。

 

*

 

「名前はヨハンに決めたぜ、兄ちゃん!」

 

そうですか、と疲れたシンヤはソファに寝転がった。

座布団の上に寝かされた男の子、ヨハンを兄弟達が覗き込む。

 

「しかし、6人目ともなると出て来るのが早かったな」

「うふふ、私ももう全然しんどさが無いです。ぽん、と出て来る気分ですもん」

「オレの、オレの反転世界を走り回るガキがまた増えた…」

 

酷い話だ、とギラティナが頭を抱える。

 

「さすがにもう良いよな…?」

「私はまだまだ産んでも良いですけど?」

「カズキ…!避妊具付けてくれ」

「兄にそんな事、真顔で言われると思わなかった…。でも、大丈夫だよ。男三人女三人で丁度良い感じになったしさ」

 

オレ、いまだにガキ共の名前、覚えらんねぇわ。とギラティナが呟いた。

その呟きにダイナが反応する。

 

「お前ら、並べ!…はい!一番、ダイナ、です!」

「え?そういうのするの…?えっと、じゃあ、二番、イブミです」

「三番、スイです」

「四番!キサラだよ~!」

「ごばん、だーしー、です!」

 

そんで、6番、ヨハンです!とダイナがキリッとギラティナに視線をやる。

 

「いや、そんなのやっても無理だからオレは」

「なんでですか!覚えて!真剣に!」

「わたしも覚えてほしいです~、ギラティナさん、覚えて~」

「おれ、一番覚えやすい名前なのになぁ…二文字だし…」

「キサラ、大きくなったらギラティナのお嫁さんになってあげるよ!」

「勘弁して下さい」

「だーしー、も~」

「嫌だわー、本気で嫌なやつだわー」

 

モテモテだな、とミュウツーがニヤニヤと笑った。

 

「顔と名前が一致しねぇ!あと、数多すぎ!お前らのこと、別に好きじゃないし興味無い!以上!」

「「酷い!!」」

 

オレに集るんじゃねぇええ!と囲まれたギラティナが怒る。

ふぇぇん、と泣きだしたヨハンをミュウツーが抱きかかえて、あやす姿は意外にももう見慣れてしまったな、とシンヤは心の中で思った。

 

「しかし、6人も名前考えるの大変だったろ…」

「んー?まあ、ちょっとは悩むけど、そんなに大変じゃなかったかな」

「私は名前を付けるのは苦手だ…」

「ああ、リンさんとモモさんのとこの二人目も名前付けてたもんな!あれは笑った!」

「……ほっとけ…」

「イチゴの次、アンズって…!」

「バラ科の果実で付けてやったんだ…。男だったらウメタロウとかにしてやろうかと思ったら女の子だった」

「うん、それは本当に女の子で良かったよ…」

 

ウメタロウはちょっとな、と表情を曇らせるカズキ。

くすくすとユキコが笑った。

 

「ユキコも名前は一緒に考えたのか?」

「いえ、カズキさんにお任せしました」

「へぇ…、何を思ってああも名前が付けられるものなのか…。あれか、名前辞典とかか?」

「いや、響きと直感で」

「ウソだろ…」

「マジマジ。でも、名前付けるのに絶対に一つだけ決めてた事があったから、さくっと決められたのかも」

「そうなんですか?」

 

うん。と笑顔で頷いたカズキ。

それは初耳です、とユキコが驚く。

 

「決めてた事ってなんだ」

「それは内緒」

「は?」

「あ、ユキコには帰ってから教えるよ」

「楽しみですっ」

「なんで私には教えてくれないんだ!?全員、私が取り上げてやっただろ!教えろ!」

「ダメでーす、兄ちゃんにだけは教えられませーん」

「はぁ!?」

 

気になるじゃないか!と本気で怒る兄を見てカズキが笑った。

 

「じゃあ、オレが死ぬ時に教えるから、ちゃんと看取って」

「ええ~…」

 

縁起悪い~、と顔を歪めるシンヤに笑ったカズキ。

 

「楽しみが出来て良いだろ?」

「楽しくない状況化でそんな事言われてもなぁ…」

「はははっ!」

 

老いていく自分と違って、全く年を取らず変わらない兄へ。

兄が寂しくないように、絶えず続いていってくれるであろう我が子達の名にそっと気持ちを込めた。

 

自分の最後の時に伝えよう、

 

 

 ダイナ

 イブミ

 スイ

 キサラ

 ダーシー

 ヨハン

 

 

兄へ残す我が子達の名に、兄への気持ちを込めて。

 

 

「大好きだよ、兄ちゃん…」

 

 

*

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