「ミカ、後は頼む…」
そう告げられたミカルゲの目からは涙が零れ落ちた。
貴方までいく必要は無いでしょう?
貴方はまだまだここに居られるでしょう?
ポロポロ、と涙を零すミカルゲに「すまないな…」と苦笑いを浮かべてみせた。
ゴーストタイプに終わりなどあるのか、と聞かれれば、終わりは無い。
すでに命を終わらせた存在ゆえに、
終わることは無いが自らの力で消える事は出来る。
同じ場所に行けるだろうか、と。
ミミロップとの約束なんだ、と。
笑う彼を引き留める術はミカルゲには無かった。
「おれは、約束を守り続けます…ツキさんに怒られちゃいますから」
「そうだな…」
なかなか出来の良い、コーヒーメーカーになったでしょう?と笑えば
十分過ぎる出来だと、返された。
「頑張ってる事を、伝えると、約束しよう…」
「ありがとう、ございました…っ」
*
変わらぬ主人のもとへとやって来たサマヨール。
ゴーストタイプゆえにサマヨールの姿にも変化は無い。
ベッドの傍らに座る主人がサマヨールを見つめた。
「ミミロップと…約束しておりました…」
「そうか…」
「共にゆきます」
「ああ」
傍に居たトゲキッスが片手で口元をおおい、嗚咽を飲み込んだ。
座る主人の足元に跪き、主人の手を取る。
「永久に忠誠を誓います」
手の甲に落とした唇、
主人の目から零れた涙を見てサマヨールは嬉しそうに目を細めて笑った。
*
いつだって貴方は自分の一番だった。
自分は最後の最後まで貴方の役に立てただろうか、
貴方の望む場所を残せただろうか、
出来るならば、永遠に共にありたいけれど、
それではあまりにも不平等。
最後の最後まで役に立った、彼に、
怒られてしまうから、
自分も貴方に別れを告げよう。
向こうで貴方を待つ者達と共に、
永遠に待ち続けますゆえ、
どうぞ、平穏に…。
「サマヨール」
「はい…」
「美味しいコーヒーをありがとう」
勿体無いお言葉、
感謝と涙と笑顔を頂けた自分は、
最後まで幸せでした。
*
「美味しいコーヒー淹れましょう~、アナタのた~めに淹れましょう~♪
大好き、大好き、アナタ色~♪
素敵なアナタのた~め~に~、美味しいコーヒー淹れてます~♪」
*
変わらないミカさん、
変わらないヨルさん、
変わらないご主人様、
そして、変わっていく自分。
幼い見た目のわりにキッスさんより年上だった自分。
変わらない姿のキッスさんが優しく頭を撫でてくれた。
お料理が出来なくなって、
お掃除も出来なくなって、
立っている事も出来なくなった時に、
涙が出ました。
怖いわけではありませんでした。
だって、向こうに待って居る人達がいます。
自分もそれに続くだけ、
ただ、こうも何も出来なくなると情けなくて…。
ご主人様がたくさんお料理を教えてくれました。
ご主人様が細かいお掃除の仕方を教えてくれました。
ご主人様がチルを必要としてくれた事、
とっても嬉しかったです。
ああ、でも、少し心配です。
ご主人様は、
もう時が止まってるからって、
お食事をサボります。
コーヒーだけしか飲まない日もあります。
眠らずに本を読む時もあります。
気付かぬ内に本を何冊も何冊も重ねて置いといてしまうんです。
チルが寝転ぶベッドの横にご主人様が居てくれていました。
ご主人様、ご主人様、
「…ゥ…」
もう人間の言葉は出ませんでした。人の姿にもなれません。
ご主人様、ご主人様、
チルと約束して下さい。チルの一生のお願いです。
お食事はサボらない下さい。
コーヒーだけですませない下さい。
ちゃんと睡眠を取って下さい。
お片付けも忘れずにして下さい。
チルの一生のお願いです。
「…チルゥ…」
ねえ、ご主人様、約束ですよ?
「ああ、約束するよ」
良かった。
チルはとっても安心しました。
だって、ご主人様は言った事はちゃんと守ってくれるから…。
皆さんのところへ、チルも…。
*
「チル…、共にゆこう…」
「ヨルさん…!」
「皆、待ってる…」
「はいっ!」
*