「やあ」
「おお、ダリア。なんか用か?」
育て屋で働くダイナに白衣を身に纏ったダリアが声を掛ける。
「うちの研究所で預かってるヒコザルが暴れるから説得してくれない?」
「そんな事でわざわざ来たのかよ!?それぐらい自分でやれよ!!」
「僕じゃ無理だったんだもん。シンヤさんの所にも行ったんだけど、出掛けてるみたいで居なかったんだよね」
「はぁ~?全く…ちょっと待ってろ」
親父ー、お袋ー、ちょっと研究所行って来るわー。と受付に座る両親に声を掛けたダイナ。
それに母親が頷いた。
研究所への道を歩きながら、そういえば、とダイナが続ける。
「シンヤ兄ちゃん、出掛けててもギラティナさんは居たんじゃないの?」
「居たけど、あの人が協力してくれるわけないでしょ…」
「まあ…。あ、ツーさんは?」
「めんどくさい!って言われたよ」
「おれだって、めんどくさいんですけど…」
「ダイナ以外に誰が説得してくれるのさ!」
ぷんぷん!と怒るダリア。
うーん、と眉を寄せたダイナが考える。
「あ、ジョーイさんとかは?」
「仕事中のジョーイさんを呼び出すとか迷惑過ぎるでしょ」
「おれも仕事中だったんだけどなー!」
「僕だって忙しいんだよ?キミの妹と弟がバンバン、ポケモン送って来るからね!」
「…ああ、」
「僕だって研究会とか行きたいのに!母さんと父さんは僕に世話押し付けて自分達だけで行っちゃうし!いい加減、引退してポケモンの世話してろっての!」
そんな怒りをぶつけられてもなぁ、とダイナは口元を引き攣らせる。
むしろ、若い僕が行くべきでしょ!?と同意を求められたダイナはそうですねと頷いた。
「っていうか、シンヤさん、何処行ったのさ!ほんとに!」
「たまに健康診断に行くって言ってたぜ?」
「はぁ!?あの人に健康診断とか要らないでしょ!?ジジイにならないんだから!」
「いや、シンヤ兄ちゃんのじゃなくて、ポケモンのだよ」
「その辺にポケモンドクターなんていっぱい居るのに…!」
「お前、お袋さんからとか聞いてないの?」
「何が?」
「あー…言ったら怒りそうだから言いたくねぇなぁ…」
言わないのも怒るけど良い?とダイナを睨みつけるダリア。
あうー、と変な声を漏らして顔を歪めたダイナは白状する。
「レジ系とか人前に出ない伝説連中の様子を見に行くんだって…」
「何で僕も連れて行ってくれないの!!!」
畜生、あのクソ親共!!言えよ!!とブチ切れるダリア。
こういう爆発する所、ツバキ博士そっくりだよなぁと思いつつダイナは苦笑いを浮かべた。
キレてるダリアの背を押して、研究所へと入れば、キレてるヒコザル。
「ゥキャー!!!」
「叫びたいのはこっちだよ!!!」
「キャゥ!?」
ダリア博士、もう叫んでます。
ダイナは心の中でそっとツッコミを入れた。
「ヒコザル、どうしたんだよ?」
「ウキー!キキッ!」
「ああ…、ダリア。お前、出すポケモンフード間違ってるってさ」
「はぁ?父さんにここのって言われたの出したよ?」
ポケモンフード入れとなっている棚の引き出しを開けたダリア。
これ、と出したポケモンフードを見てダイナが眉を寄せる。
「水ポケ用だ…」
「くっそ!また母さん、テキトーな所に戻したな!!マジクソ親!!」
「いや、お前も見分けられるようになれよ」
はい、飯だぞー。とダイナがヒコザルにポケモンフードを渡す。
大人しく満足気に食べだしたヒコザルを見て、ダリアが眉間に皺を寄せた。
「見た目一緒なんだもん!」
「香りが違うんだよ」
「そんなのいちいち嗅いでられない。形、違うの作ってよ。ポケモンブリーダーでしょ」
「はぁ!?そこで何でおれに無茶言うんだよ!」
種類別に調合するのも大変なのに更に形までとか作ってられるか!と怒るダイナ。
むぅ、と口を尖らせて腕を組んだダリアが何か良い案が無いかと思考を巡らせる。
「あ。質、落としたら全ポケ共通のあるけど?」
「今更、それ食べるポケモン居るの…?」
「あれ、あんまり美味くないからなぁ…」
*
ふぅ、と小さく息を吐いたトゲキッスに気付いたシンヤがトゲキッスの背をさする。
「大丈夫か?」
「あ、はい!まだ大丈夫です」
えへへ、と笑ったトゲキッスにシンヤは苦笑いを返す。
レジギガスの検診を終えたシンヤがカバンを肩に担ぐ。
「ちゃんと食事、取らないとダメだぞ」
「うん…ごめんなさい…」
落ち込んだ様子のレジギガスの頭をぐしゃぐしゃと撫でたシンヤ。
痛い程に気持ちが分かるからこその行動だった。
レジギガスは色々な所に出向き、色々なポケモンを見て回った。
時にはポケモンを悪用する悪い人間とも戦いポケモン達を守った。
ポケモンを愛し保護を目的として旅をする大好きな人と共に。
でも、同じ時間は生きられない。
分かっていた事だった。お別れをすませ、自分の居た地へ戻って来たものの、悲しみは消えなかった。
「レジギガス、ジュンペイがもし、オレと一緒に死んでくれと言ったのなら。私がお前を殺して、同じ所に埋葬してやる」
「…!」
「ジュンペイはなんて言ってた?」
「た、楽しかった…ありがとう、ずっと…元気でな、って…言ってた、よ…っ」
「そうか」
うん、うん、と頷いたレジギガスの頭をシンヤはもう一度撫でる。
「おれ、ずっと元気でいるよ…っ!」
「そうだな、元気なお前にまた会いに来る」
「うんっ…、ありがとう、シンヤ…!」
明るく優しい男だった。
震える声で電話を掛けて来た男と嬉しそうに手を振るレジギガスの顔を今でも覚えている。
「お手紙ありがとうございます!!オレ…、レジギガスと、友達になれました…!」
別れはいつだって、どんなに穏やかだって、寂しいものだ。
そう、もう触れる事も声を聞く事も出来ない。
寂しいなぁ、とシンヤが俯いた時、トゲキッスがそっとシンヤの手を握った。
ニコリと笑ったトゲキッスにシンヤは微笑み返す。
「帰りましょう」
「そうだな」
トゲキッスの背に乗り、空へ飛び立つ。
手を振るレジギガス達に、またな、と再会の言葉を告げて。
*
家へと帰ればギラティナにダリアが来たと教えられた。
なんでもヒコザルが暴れてるから説得して欲しい、という事が理由で。
解決したのか分からないが、一応、様子を見に行こうと研究所へ来てみればダリアとダイナが調合がどうだの形がどうだのと言い争っている。
何をしているんだお前達は。
問題だったっぽい、ヒコザルが大人しく私を見上げていた。
「ダリア、ダイナ…落ち付け…」
「シンヤさん!?」
「シンヤ兄ちゃん!マジ聞いて!ダリアが無茶苦茶なこと言うんだよ!!」
えー…一応、聞くけど。と頷けばダイナが説明する。
「ダリアが種族別のポケモンフードが見分けられないから、形まで種族別に変えろって無理難題を押し付けて来るんだ!おれに!」
「じゃあ、全種共通の作れば良いだけだろ…。私は基本的にポケモンフードは全種共通でおやつだけ種類別にしてた…。まあ、種類別のポケモンフードも食いたいって奴には作ってたけど」
「共通のやつ不味くて食わないじゃん」
「市販のは不味いけど、普通に作れば良いだろ」
「「……」」
普通ってなんだ。
ダリアとダイナの心の声は同じだった。
「シンヤ兄ちゃんの全種共通のポケモンフードってどんなの?」
「ん?これ…、ちょっと残ってる」
カバンから出した筒の箱。
カラン、と音を鳴らして出したフードの一つをダイナが口に運ぶ。
「んん!?」
「ポケモンフード食べるとか引くんだけど」
「美味い!」
「嘘でしょ?」
「いや、マジで。食ってみ!」
えー…、と嫌そうな顔をしつつフードを一つ口に入れたダリア。
もぐもぐ、と咀嚼した所で目を見開く。
「ほんとだ…」
「基本的に人間が食べて不味いものはポケモンも不味い。人間的には薄味だが美味い、っていうのが理想だな」
おやつも。と付け足したシンヤにダイナは目を輝かせる。
「シンヤ兄ちゃん!なんでこのレシピもっと早く教えてくれないの!?」
「え…、聞かれなかったし…」
っていうか、育て屋で使ってるだろ?とシンヤに首を傾げられてダイナは首を横に振った。
「いや、種族別でおれが作ってるよ」
「カズキはレシピ知ってるはずだけどな…、ずっとそれでやってたから」
「はぁ!?」
「あ、お前がブリーダーになったから、お前の勉強になると思って言わなかったのかもな」
「マジかよ!!今までの苦労が!!」
嘆くダイナにシンヤが苦笑いを浮かべる。
「今までの苦労は、無駄になんかなったりしないだろ」
「……た、確かに」
「僕の苦労は無駄になったよ」
うちのクソ親め!と怒るダリア。
怒るダリアにシンヤとダイナが苦笑いを浮かべる。
「ダリアは怒るとツバキによく似てるな」
「嘘っ!?嫌なんだけど!?」
「エンペラーはそんな風に怒鳴ったりしない」
アイツは静かに怒る…。とシンヤは心の中でそっと付け足しておく。
「マジか…、気を付けないと…」
「とりあえず、おれ、全種共通のポケモンフード作ってみるから、あんまりピリピリすんなよな!」
「分かった…。早急に作ってね」
「えー…、シンヤ兄ちゃん…」
「うん…教えるから…」
そんな目で見るな。
もう、シンヤ兄ちゃん超好き!と抱き付いて来たダイナの頭を撫でる。
そういえば、ダイナはずっと兄ちゃんって呼んでくるが。
伯父なんだけどなぁ….。
まあ、良いか。
*