どれくらいの時が過ぎただろう。
世界の時間に置き去りにされたカミサマは、世界の裏側でひっそりと生き続けていた。
そして、ふらりと世界を見て回った。
世界が憎しみと怒りであふれ争いが起こった時、アルセウスが人々の前に降り立った。
悲しみに涙を流す人々のもとに、目を開くユクシーが現れた。
*
生きる事に苦しみ深い深い森の奥に迷い込んだ人間はそこで小さなカフェに辿り着くという。
歌いながらコーヒーを淹れる男。
出されたコーヒーの美味しさに人間は涙を零す。
美味しいコーヒーを淹れた男は言う。
「喜ぶ事、楽しむ事、当たり前の生活、それが幸せ。
そうすれば、カミサマの祝福がある」と笑った。
人間はいつの間にか森の外に立っていた。
*
世界の時間に置き去りにされたカミサマは世界の発展を眺めた。
発展すればする程に、ポケモン達は人々の前から姿を消してゆく。ポケモンである必要が無くなってゆくのだ。
ポケモン達は人の姿になり、言葉を交わし、人間と共に生きてゆく。
世界に人だけとなった頃、人々はポケモンという生き物の存在を忘れた。
技術の発展した世界で争いが起きる。
怒り憎しみ争う人々の前にアルセウスが降り立ったが、人々はアルセウスの存在を畏怖とした。
自分達と違う形、不思議な力。
突き刺さった刃にアルセウスが倒れた時、カミサマも倒れた。
世界は喜びも楽しさも、優しささえも失ってしまった。
言葉で暴力で傷付けあう世界。
沢山の刃がアルセウスを襲う、世界が歪む、カミサマの時間が消えた時。
繋ぎ合わされていた世界が弾けて消えた。
*
消えた世界の裏側で王は涙を流した。
消えてしまった、全て、こんな幸せの欠片も無い醜い世界など望んでいなかった。
消えた世界の空間が歪み荒れ狂う中、
裏側に取り残された王は世界などどうでも良かった、
ただカミサマを取り戻したかった。
王はカミサマを世界に置いた。
混沌のうねりの中、全てをカミサマに注いだ。
一つのタマゴが世界に現れた。
タマゴから世界に最初の者が生まれ出た。
最初の者は二つの分身を創った
時間が回り始めた
空間が広がり始めた
更に自分の身体から三つの命を生み出した、
二つの分身が祈ると
物というものが生まれた
三つの命が祈ると心というものが生まれた
世界が創りだされたので
最初の者は眠りに付いた。
世界の裏側の王は嘆き、怒り狂った。
こんなものは望んでいなかった自分の望んだものはこれではないと暴れ、世界を破壊しようとしたので、皆に世界から追い出されてしまった。
世界の裏側の王は全ての記憶を消され、
静かに世界の様子を眺めた…。
*
自分は何かを守りたかった気がする。
自分の大切な何かがここにあった気がする。
でも、誰も知らない。誰も覚えていない。
*
世界は腐っていると、私は思うのだ……。
そう思い出したのは高校入学間もない頃か卒業後だったか……。
ああ、卒業後だったと思う。
将来の夢を見出せぬまま高校を卒業した大学には行かなかった、こういうと行けたみたいな言い方をしているが事実、行けたのだからこう言うしかない。
私は頭は良い、教科書に書かれてる事ならお手の物。
ただ、利口に生きてはいなかった様だ。
なんて事ない高卒ながらそれなりの会社に就職してそれなりに生活していた。
腐ってると思った。
仕事に行く為にスーツを着た、溜息が出る。
休日に部屋の掃除をした、溜息が出る。
空腹を満たす為に料理を作った、我ながら良い出来だと腹を満たし終われば溜息が出る。
空っぽだった、世界は腐ってるなどとほざいたが腐ってるのは私であって世界は移り変わり存在している。
腐ってるのは私、動きながら止まっている、否、止めているのは私自身。
何をするわけでもない、何をしたいと思うわけでもない。
何もしないまま、ただ何か起これば良いのにと願う哀れな男だ。
何をすれば満たされる。
仕事で誰よりも優れた成績を出せば満たされたか、満たされなかった。
お金があれば満たされるのか、なら貯めてやるよと貯めに貯めたこの金は何に使えというのか、満たされる事などない。
満たそうと求めてみれば更に空っぽになる気がした。
何が間違ってる、根本的に間違ってる気がする、けれどその間違いを訂正して生きていけるほど私は利口じゃなかった。
溜息が出る。
周りの人々の目は輝いて見えた、同じ色の目とは思えない輝きを放っている気がした。
鏡に映るのは誰だ、穴が開いた様な真っ黒の目で何を見ている、お前は誰だ。
生きているのか死んでいるのか、否、生きながら死んでいるも同然だ。
私は何なんだ……、私はどうして生きている、何の為に、生まれて来たというのだろうか……。
世界は腐っていると、私は思う。
こんな私を産み落とした世界は腐ってる。
***
生まれて25年になる。
生まれてこの方このような光景を見た事が無ければ、こういう状況に陥った事も無い。
美しい世界だった、私がこう思える日が来るなんて……、やっぱり死んでみるもんだと関心した。
昨日の深夜2時。
私は大量の睡眠薬を飲んで眠った。
そして目が覚めると青々と茂った草原の上で眠っていたのだ。
これはもう死んでるだろ、少し想像していたあの世と呼ばれる場所とは少し違うがもうどうでも良い事。
裸足のまま草の上を歩いて小石を踏んだ、あまりの痛さに足の裏を見れば切れて血が出ている。
一度死んでもまだ苦痛を与えるのか。
意外と甘くない世界らしい、しかしだ、そんな痛みもどうでもよくなるほど空が綺麗で私はぼんやりと空を眺める。
大きな虹色の鳥が空を横切った。
空から虹色に輝く大きな羽が一枚降って来るのが見えて手を伸ばす。
風に吹かれながらもその羽はすんなりと私の手の中に納まった。
太陽の光を受けて輝く羽は何処までも美しい……。
私の知らない世界はこんなにも美しかった。
ああ、死んで良かったなぁ……。
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