一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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会うは別れの始め:番外編
許可されたデート券


大きなテーブルの周りに並んだ面々は真剣な面持ちでテーブルの上に置かれた一枚の紙に視線を落としていた。

うーむ、と最初に声を発したヤマトがその紙を手に取ろうとしたが素早くミミロップにその手を叩き落とされた。

 

「痛い!!」

「何、勝手に取ろうとしてんの?ふざけてんの?蹴るよ?」

「…ご、ごめんなさい。裏面とか見た方が良いかなぁと思って……」

 

ヤマトの言葉に確かに、と皆が思った。

テーブルに置かれた一枚の紙。表には『シンヤとクリスマスデート券』と達筆な字で書かれていた。

間違うはずもない、まぎれもないこれはシンヤの字だ。

 

「えっと、僕はデート券とか要らないから裏面を代表で見ようと思うけど…どうですかね!」

「要らないなら、良いよ…」

 

ミミロップが頷いた。

 

「後から欲しいって言うの無しだからな!?ヤマト!!分かってんのか!?」

 

鋭い眼光でヤマトを睨みつけたブラッキー。

絶対に、絶対だぞ!!!と念を押すブラッキーにヤマトはしょんぼりした。

 

「ツキくん…僕とデートしてくれる予定は無いんだね…」

「シンヤが優先なのは当然だろ!!!シンヤだぞ!!!」

「そうですね……」

 

その通りですね、と落ち込みながらヤマトがデート券を手に取り裏面を確認する。

ペラペラの紙一枚。

裏面を見てヤマトが目を見開いた。

 

「なっ……」

「何!?」

「何だった!?」

「な……何も、書いてない……」

「殺すぞテメェ!」

「大袈裟に言わないで下さいまし!!!」

 

ブラッキーがヤマトの胸ぐらを掴んだ。

すみません、と謝りながらヤマトが再びデート券をテーブルに置いた。

 

「さて、これ…どうするよ?」

「一枚しか無いですからね」

「ねぇねぇ、俺様がシンヤの恋人なんだから俺様宛のじゃないの?ねぇ」

「宛名は書いてないからな……ミロ宛とは断言出来ない……」

「なんで!」

「なんでもクソもないですわよ~。皆、平等に権利があるということですわ!!!」

「恋人なのに!!」

「逆に考えてみ?オレらは恋人じゃないから普段はデートが出来ない。だからこその、デート券!!!普段からデート出来るミロにデート券なんて物は不要なんだよ!!つまりお前にこのデート券の所有権利は無い!!」

 

そうだろ!!とブラッキーがバン!とテーブルを叩いた。

しゅん、と落ち込んだヤマトが心の中で「あの子、本気だ……」と更に落ち込んでいた。

 

「酷い!!クリスマスデートなのに!!」

「クリスマスくらいワタシ達に譲って貰わないと不公平だよな~」

「全くその通りですね」

「うううう!!!」

「み、皆さん、喧嘩しないで!!」

「チルはクリスマスのご馳走を用意しないといけないのでご主人様とデートはしません!」

 

キリ!とチルタリスが真剣な顔で言った。

チルタリスの言葉に一瞬の静寂……。

 

「ミミロー……」

「なに」

「お前、クリスマスもポケモンセンターじゃなかったか……?」

「え゙!?いや、クリスマスくらい…や、休むし…」

「はっ!?…ワタクシ、ジョーイさんとデートの約束してましたわ…!!」

「………ジョーイ不在、か…」

「……っ、…っ!!!……くそぅっ!!!!」

 

ワタシはクリスマスは仕事だチクショウ!!!とミミロップが半泣きで叫んだ。

 

「俺も仕事です。育て屋は年中無休なので」

「自分も仕事だ……、クリスマスはカフェも賑わうからな……」

 

フッ、とエーフィが笑った。

 

「ここで普段から何もしてない事が生かされて来ますね!!!」

「オレの時代来たぜ!!」

 

よっしゃー!とガッツポーズのブラッキーを見て。ヤマトは肩を落とした。

キャッキャッと喜ぶ双子を見て、トゲキッスが首を傾げた。

 

「あれ?でも、フィーさん…クリスマスのコンテストがあるって言ってませんでした?」

「………無いことにしました」

「はい!ダメー!約束してる奴はもうダメー!」

「ツキ!!!裏切り者!!」

「クリスマスに予定入れてる奴の方が裏切り者だ!!オレなんて予定ゼロだぞ!!」

「…あの、僕…クリスマス休み取ったんですけど……」

 

しょんぼりしながら言ったヤマトの言葉にブラッキーが顔を顰める。

 

「あーあー、可哀想に!せっかくヤマトが休み取って来たのになー?」

「全くだ……」

 

ミミロップとサマヨールが煽る。

 

「こんなクリスマス間近になって誘ってくるとか無くね!?」

「いや…休み取れるか分からなかったから…」

「………」

「ごめんね。ツキくんは予定空けてくれてるものだと思ってて……その、レストランの予約入れちゃってるんだけど……」

 

しょぼぼーん、と落ち込んでいくヤマトを見てブラッキーが顔を歪めた。

 

「……、っ、もっと上手に誘ってくれよ!!!バカー!!!」

「ごめんなさいー!!」

「クリスマスはお前の為に空けてやるよ!!クソー!!!」

「ツキくん!!!」

 

ありがとうー!と抱き付こうとしたヤマトをブラッキーは避けた。

 

「ということは、予定が空いてるのは必然的に一人になりましたね……」

「あ!!俺様!!俺様、暇!!」

「主は最初からこうなる事を予想して用意していたのかもしれないな……」

「なんだよ。ただのデートのお誘いかよ」

 

喜んで損した。とミミロップが頬を膨らませた。

わーい!と喜ぶミロカロスの背後でガチャリと扉が開いた。

 

「ただいま」

「シンヤー!!おかえりー!!」

 

ぴょん、と飛びついて来たミロカロスを適当にハイハイとあしらってシンヤはカバンをソファに置いた。

 

「今年中に行かないと行けなかった往診はとりあえず済んだな……、あとは書類をまとめて……」

 

ぶつぶつ、と独り言を呟きながらカバンの中からファイルを取り出したシンヤ。

そんなシンヤにミロカロスが擦り寄る。

 

「ねぇねぇ、シンヤ?」

「なんだ」

「これ、俺様宛でしょ?」

 

にこにこと笑うミロカロス。

は?と顔を歪めたシンヤがミロカロスの持つ紙に視線を落とした。

 

「シンヤとクリスマスデート券?なんだそれは?」

「え!?」

 

羨ましげに眺めていた周りの連中も「え!?」と驚きの声をあげた。

 

「ちょ!ちょい待ち!!これ、シンヤの字だよね?」

「ん~?」

 

ミミロップによく見て!と紙の文字を指差されてシンヤは「ああ」と呟いた。

 

「これはミュウツーの字だな」

「ツー!!!!!!!」

「にゃろう!!!!」

「罠ですわ!!!!!」

 

騙された!!と怒る連中を見てシンヤは心の中で思った。

紙きれ一枚でこんなに騒げるなんて幸せな奴らだと……。

 

「ツーの字はシンヤに似てるんだった!!!ああっ!くそぉ!!」

「何を怒ってるのか知らないが…、私はクリスマスは仕事だぞ…」

「「「!?!?」」」

「何処ぞのクソジョーイがデートするとかでクリスマス休暇を取りやがったからな……」

 

フフフ、と口元に笑みを浮かべつつも静かに怒るシンヤ。

 

「そうだった。ワタシとシンヤで年末乗り越えるんだった……」

「なんだか申し訳ないですわ…」

「俺様とのっ、デートはっ…!!!クリスマスデート!!!」

 

涙目のミロカロスに縋られたシンヤはヘラリと笑った。

 

「このクソ忙しい時期にデートなんてするわけないだろうが。私は、忙しい!」

「うわあああああ!!!」

「年明けてからならデートしてやる」

「やったぁあああああ!!!」

 

幸せぇえええ!!と叫ぶミロカロス。

ガチャリと扉が開いて、部屋へと入って来たミュウツーは「うるさい」と眉を顰めた。

 

「あ!!ツー!!!」

「テーブルにあった紙、知らないか?持って行くの忘れた」

「これ?」

 

ミロカロスに差し出された『シンヤとクリスマスデート券』を見て、ミュウツーは頷いた。

 

「それ」

「なんでこんなの書いたの!!!」

「お前!シンヤの許可無く何作ってんだよボケ!!!」

「…?これはギラティナにあげるクリスマスプレゼントだ」

「はぁ!?」

「年寄りにあげるプレゼントは何が良いかシンヤに聞いたら、肩たたき券とかお手伝い券とかそういうので良いって言うから。そういうのを作ってみた」

 

ミュウツーの言葉にシンヤが「あー…」と小さく言葉を漏らした。

 

「いやいや!年寄りって!!」

 

びし、とヤマトからツッコミが入る。

 

「ギラティナは年寄りだ」

「年上って言えよ…」

 

ブラッキーが呆れたように呟いた。

 

「喜びそうだろ?」

「喜ぶかもしれないけどさぁ…そういうのは本人の許可取らないと…」

「じゃあ、許可くれ」

 

これあげるんだ。とミュウツーが真っ直ぐな目でシンヤを見つめた。

シンヤは一瞬動揺した後に小さく頷いた。

 

「ダメって言って!!!」

「今年は忙しくてダメだけど、来年なら暇かもしれない…」

「来年、暇だったら俺様とデートでしょ!?」

「じゃあ、再来年でもいつでも良いだろ…」

「俺様もデート券いっぱい作るぅううう!!!」

 

許可したサインしてくれ。とミュウツーにペンを握らされたシンヤは紙の裏にサインをした。

 

「そういうの通るならワタシだって作るけど!?」

「主……、ここは平等にするべきでは…?」

「いくらでも作ってくれて構わないが、それを使う時は私の気分次第だという事も考えてもらわないとな」

「許可出して使わせないやつだ!!!!」

「鬼ですわ!!」

「気分次第では使用させてやるという券だろう?」

「ずっる!!!」

 

ぎゃーぎゃーと文句を言う後ろで許可を貰ったミュウツーは静かに部屋を出た。

家を離れて大の字で寝転がっているギラティナの傍へ近寄り、その顔をベシンを叩いた。

 

「痛っ!!!」

「クリスマスプレゼント持って来たぞ」

「まだクリスマスじゃねぇよ!!」

「ギラティナが喜ぶクリスマスプレゼントだったらクリスマスは遠い地方に連れて行ってくれるんだろ?」

「はいはい、めちゃくちゃ喜ぶのだったらな」

「プレゼントはこれだ」

 

はい、と手渡された紙きれ。

『シンヤとクリスマスデート券』と書かれた紙きれを見てギラティナは鼻で笑った。

 

「勝手にこんなの作って良いと思ってんのか?」

「許可貰った。サインしてあるぞ」

「は?うえ!?マジだ!!」

「嬉しいだろう」

「これは確かに、嬉しい…っ!!!」

「じゃあ、クリスマスは遠い地方に連れて行ってくれ」

「なんでシンヤとクリスマスデート出来るのにお前と出掛けなきゃなんねぇんだよ!!!詐欺じゃんこれ!!!」

「シンヤはクリスマスは仕事だ」

「もっと詐欺だ!!!」

「いつか使える」

「いつだよ!!!」

「いつか」

 

*

 

カフェの店内がクリスマスで彩られている中、静かに本を読むシンヤ。

鼻歌を歌いながらコーヒーを入れていたミカルゲがベルの鳴った扉へと視線をやった。

 

「あ、ギラティナ様、いらっしゃ~い♪」

「おす」

「今日はカフェオレにしてあげるね~」

「なんでも良いよ」

 

シンヤのテーブルの向かいに座ったギラティナ。

本から視線をあげたシンヤはニヤニヤと笑うギラティナを見て眉を寄せた。

 

「な、なんだ…っ」

「すっげぇ、懐かしい物見つけちゃった!」

「は?」

「これ」

 

テーブルにそっと置かれたボロボロの紙きれ。

黄ばんでて汚い…、と眉を寄せつつもシンヤはその紙に書かれた文字を読んだ。

 

「ああ……、ミュウツーの」

「いやぁ、年末の大掃除してみるもんだな」

「お前、何百年掃除してなかったんだ…?」

「……、それは分からねぇけど…」

 

あはは、と苦笑いを浮かべたギラティナにシンヤも苦笑いを返す。

 

「まあ、出てきたんだし、せっかくなら使おうかなーって」

「なるほど。まあ、良いだろう」

「いやぁ、これを使える日が来るとはなぁ!」

「全く…あの時、適当に許可なんてするんじゃなかったな」

「ハハハ!ひでぇー」

 

 

- 許可されたデート券 -

 

 

「はい、コーヒーのブラックと~、カフェオーレ~♪」

「ありがとう」

「カフェオレ、甘くしてくれた?」

「お砂糖たっぷりデス!」

「さんきゅ~」

「しかし、デートなんて今更だな」

「へ?なんで?」

「お前とは毎日デートしてる気分だ」

「ぶっ!!!」

「お熱いですネ~♪」

「冗談だぞ?」

「やめて!冗談でも照れるから!」

 

*

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