一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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愛するアナタへ

薄っぺらい小さなノートを拾った。

大好きな赤色の小さなノート、パラパラと中を見ると、何も書いていない真っ白なノート。

誰かの落し物だろう、

辺りを見渡しても人は居ない。

ここに置いて行ったら、落とした人が拾いに来るだろうか?

 

「……」

 

薄っぺらい小さなノートだ。

失くしたなら新しいのをまた買えば良い。

貰っちゃおう。と両手で握り締めて鼻歌を奏でながら家に帰った。

 

*

 

自分の字はあまり綺麗ではない。

なら、練習しよう。とノートを広げた。

一行目に『ミロカロス』と自分の名前を書いた。

その書いた自分の名前の下に『こんにちは、ミロカロス』と綺麗な字が浮かび上がった。

 

「!?」

 

辺りを見渡しても誰も居ない。リビングのテーブルの下を覗き込んでも誰も居ない。

ゴーストタイプの仕業かと辺りを手で払ってみる。

 

「……」

 

浮かび上がった綺麗な字の下にミロカロスはそっとペン先を走らせた。

 

『だれ?』

『シンヤ』

「え!?シンヤ!?」

 

え!?シンヤ!?なんで!?とミロカロスはまたリビングを見渡す。誰も居ない。

本当なのか、という疑問を更にノートに書く。

 

『ほんとうにシンヤなの?』

『そうだよ』

 

自分の書いた文字の下に綺麗なシンヤの文字で返事が来る…。

シンヤは今、ポケモンセンターに行ってるはずだから、そこで俺様に返事を書いてくれてるのかもしれない。でも、偽物のシンヤかもしれない。

うーん、とミロカロスがペンを握りしめて考える。

本物なら俺様のことをよく知ってるはずだから、質問してみよう。そう考えたミロカロスがノートにまたペンを走らせる。

 

『おれさまの、すきなくだものはな~んだ?』

『リンゴ』

 

当たった!

それなら、と更にミロカロスは拙い字で文字を書く。

 

『すーぱーで、はたらいてるメタモン。だ~れだ!』

『タモツ』

 

当たった!

これはさすがに自分達をよく知ってないと知らないヤツ!本当にシンヤかも!とミロカロスの顔に笑みが浮かぶ。

 

『シンヤ、いまなにしてるの?』

『コーヒーを飲んでるよ』

『飲、これなに?』

『コーヒーをのんでるよ。(飲んでるよ)』

 

あー。難しい字だな。とミロカロスは頷いた。

 

『だれといっしょ?』

『サマヨール』

 

ヨルかー。だったら許すー。とミロカロスはうんうんとまた頷いた。

 

『おれさまは、いえにひとりぽっちです』

『チルは?』

『いないよ~』

『かいものだな』

 

そうだろうなー、とミロカロスがシンヤの返事に頷いた。

 

『シンヤ、はやくかえってきて』

 

そうミロカロスが書けば、さっきまですぐに浮かび上がった文字が出て来ない。

あれ?シンヤ?と首を傾げたミロカロスがノートをぺんぺんと叩く。

 

『もうちょっとまってて』

 

あ、返事来た。

シンヤからの返事にミロカロスはうんうんと頷いた。

 

『わかった!まってる!』

『いいこ、だな』

「えへへ!俺様、良い子!」

 

『だろ~』とご機嫌に返事を書いてミロカロスが笑う。

『いいこ、いいこ』と返って来た返事に頭を撫でられているような気分になり上機嫌なミロカロス。

次は何を書こうかな、と思った所で買い物に行っていたチルタリスが帰って来たらしい。

 

「ただいま戻りました~」

「あ、チルー!おかえりー!」

「ミロさんだけですか?」

「うん」

 

スーパー、キャベツ安かったんですよ!とご機嫌なチルタリスにミロカロスが相槌を返す。

 

「あ、今なー。シンヤと文字で会話してたんだ!」

「文字で?」

 

これ!と見せた赤色の小さなノートを見てチルタリスが首を傾げた。

 

「ここに書いたらシンヤが返事くれるんだ!」

「へ~、交換日記とかいうやつですかね!」

「なんだそれ?」

「お互いに交互に日記を書き合うやつです!チルもあまり詳しくないですが!」

「日記とかじゃないよ。すぐ返事書いてくれるもん」

「えー…?どうやってですか?」

 

ここに書くだけ、とシンヤの文字の下にミロカロスが文字を書く。

 

『チルがかえってきたよ』

『よかったな』

「ほらな!」

「ええ!?凄いですね!?どうなってるんですか!?」

「わかんないけど、シンヤは今、ヨルと一緒に居てコーヒー飲んでるって!」

 

え~?と首を傾げながらノートをつんつんと触ったチルタリス。

チルも書けば?とミロカロスにペンを渡されて、おそるおそる、シンヤの文字の下にチルタリスも文字を書き込む。

 

『ただいま戻りました、ご主人様。キャベツがお安かったのでお得なお買い物が出来ましたよ』

 

その字、難しいな。と呟いたミロカロスが眉を寄せた。

 

『おかえり、チルタリス。キャベツの使い道が決まってないならお好み焼きにしてくれ』

『お好み焼きですね!かしこまりました!』

『楽しみだ』

「それ、なんて読む?」

「お好み焼きですよ~!」

「あー、あの熱いヤツな!」

 

美味しいよな!と笑ったミロカロスにチルタリスがそうですね!と微笑み返す。

 

「でも、ご主人様、どうやってこのノートに文字を書いているんでしょうか…?」

「もう一個、ノートを持ってるからだろ?」

「え?そういう物ですかね?」

「不思議ノートだ!凄いな!」

 

凄いですけど…、と納得しかねるチルタリスが苦笑いを浮かべた。

ただいまー、とまた誰か帰って来た。

リビングへ入って来たブラッキーとエーフィ。二人にチルタリスが「おかえりなさいませ」と小さく頭を下げる。

 

「なんか欲しいって言ってたのあった?」

「それがさー…売り切れ!」

「書店、3件も廻ったんですけど…。残念です」

「何が欲しかったんですか?」

「過去のトップコーディネーターが紹介されるっていう雑誌!シンヤがコーディネーターやってた時の写真とか載るから探しに行ったんだけど…はぁ~…」

「皆、考える事は同じでしたねぇ…」

 

がっくりと揃えて肩を落としたブラッキーとエーフィ。

どんまい、とミロカロスがブラッキーの肩を叩いた。

 

「シンヤは?まだ帰って来てねぇの?」

「うん。今、ヨルと一緒に居て、コーヒー飲んでるって」

「へー…でも、ヨルはツバキの所だろ?」

「そうですね、確か手が足りないと喚かれたとかでシンヤさんがツバキの所に送ってましたね」

「あれ?シンヤ、ポケモンセンターでちょっと仕事してくるって言ってたのに?」

「なら、ポケモンセンターにツバキ博士も一緒にいらっしゃるんじゃないですかね!」

 

そうかな?とミロカロスがノートを広げた。

なにそれ?とブラッキーが首を傾げる。

 

『シンヤ、いまどこ?』

 

え?何書いてんの?とブラッキーがノートを覗き込むとミロカロスが書いた文字の下に綺麗な文字で返事が書かれる。

 

『カフェ』

「あれ~?シンヤ、カフェに居るって!」

「え!?なにそれ!?すげぇんだけど!?」

「どうなってるんですか!?」

 

新しい機械ですか?とエーフィがノートを手に持ってみるが、ペラペラの紙のノート。特に不思議な所は無い。

奇怪な…、とエーフィが眉を寄せた。

 

「書いたらシンヤが返事くれるんだ!」

「それ…、本当にシンヤか?」

「怪しいですよね…」

「ご主人様、今日はお好み焼きが良いってお返事下さったんですが…ご主人様じゃなければお好み焼きは止めた方が良いのですか…!?」

 

え。お好み焼きはオレも食いたい。とブラッキーがキリリと真面目な顔で返事をする。

 

「俺様も最初怪しいから本当にシンヤかクイズ出したらちゃんと合ってたもん!」

「どういうクイズです?」

「俺様の好きな果物とー。スーパーで働いてるメタモンだーれだ!って」

 

なるほど、とエーフィが頷いた。

 

「果物はともかく、メタモンの名前当てたの?タモツって?」

「うん」

「じゃあ、シンヤっぽいよなぁ…。さすがにメタモンをピンポイントでタモツって答えられる奴は限られて来るし」

「スーパーの関係者なら知ってても可笑しくないのでは?ミロがリンゴをよく買うという事も知っているでしょうし」

「あー…」

 

あり得る。とブラッキーが腕を組んで眉を寄せた。

じゃあ、どうする?とミロカロスが首を傾げたのでエーフィがテーブルに置いてあったペンを握った。

 

「身内ネタで行きましょう!」

「どんなの?」

 

広げたノートにエーフィがペンを走らせる。

 

『問題です。シンヤさんのお父様の相棒のポケモンは?』

「おお!これ良いな!」

 

エーフィの問題にすぐに答えが返って来る。

 

『ピジョット』

「当たったけど!」

「やっぱりシンヤだ~」

「まだ、とっておきがあります!」

『続いての問題です。シンヤさんが確認出来る潜在意識の中に居る者は誰でしょう?また何人でしょうか?』

 

これは、シンヤさんか私達でないと分かりませんよ!とエーフィがどうだ!と言わんばかりにペンを握りしめた。

少し考えているのか、返事はすぐ来なかった。

 

「悩んでますね!」

「これ、偽物だったら、マジで何を言ってるんだ状態だもんなぁ…」

「あ、返事来た!」

『ポケモントレーナー、ポケモンコーディネーター、ポケモンブリーダー、ポケモンドクターのシンヤ。四人』

 

これはもうシンヤさん確定です!とエーフィが頭を抱えた。

 

「そもそも、この文字はシンヤさんの字ですしね…」

「あー…だよなぁ」

 

じゃあ、今日はやっぱりお好み焼きですね!とチルタリスが笑った。

このノートが何なのか、シンヤに聞こうぜ。とブラッキーがノートに文字を書き込む。

 

『シンヤ、このノートって何?』

『拾ったから知らん』

「なんて?」

「んー?拾ったから知らないってさ」

「シンヤも拾ったのかー!俺様も拾ったー!」

「落し物で何遊んでるんですか…」

「あ、あと、何でカフェに居るのかも聞いちゃえば良いんだよな」

『なんで、カフェに居るの?』

『コーヒーが飲みたくなったから』

 

そりゃそうだ。と当たり前の返事にブラッキーは眉を下げる。

 

「お仕事が終わったなら帰って来て!って書いて!」

「えー?分かった」

『仕事が終わったなら帰って来てって、ミロが言ってるよ』

『もうちょっと』

「もうちょっとだって」

「のんびりコーヒー飲み過ぎだ!全く!」

 

ぷんぷん、と怒るミロカロスにブラッキーが苦笑いを浮かべる。

早く帰って来て欲しいなーとミロカロスが文句を口に出した所でリビングの扉が開く。

 

「え!?」

「ん?なんだ?」

「シンヤだ!おかえり!」

「ああ、ただいま」

 

わー!帰って来たー!とシンヤに飛びつくミロカロス。

ノートを手に、あれ?今さっき返事来た所なのに。とブラッキーが浮かび上がった文字とシンヤを交互に見る。

 

「シンヤ、なんでカフェ行ったー?俺様も行きたかったのにー」

「カフェ?カフェには行ってないぞ。ポケモンセンターでちょっと仕事してくるって言っただろ?」

「へ?」

 

呼ばれたからちょっと手伝いに行っただけだ。と付け足してシンヤがソファに座った。

 

「ご主人様、今日、お好み焼きが良いとお返事下さいました、よね?」

「お好み焼き?」

 

首を傾げたシンヤを見てチルタリスがうろたえる。

ブラッキーがそっとテーブルにノートを置いて。ページを開いた。

 

「これ…」

「……?私の字だな…」

「オレ達が書き込んだらシンヤがすぐに返事くれてたんだけど…知らない?」

「は?知らん」

 

偽物だったー!と衝撃を受けるミロカロス。

最初のページからシンヤがペラペラと目を通していく。

ミロカロスの文字の下に返事を書き込む字は確かに自分の字。怪しんだのかシンヤへ問題を投げかけ答えを書いているシンヤの文字。

でも、自分はこんな事を書いた覚えはない。

 

「なんだこれは?」

「俺様が拾ったノート…。シンヤって文字が言ったのに偽物のシンヤだった!酷い!」

 

シンヤも書いてみれば?とブラッキーにペンを渡されて、シンヤはノートに文字を書く。

返事をくれていた文字と同じ字で。

 

『私なのか?』

『そうだ』

 

間抜けな質問にすぐに返事が浮かび上がって、シンヤはぎょっとした。自分の字で返事が来た!気持ち悪い!

 

『私がどうやって返事を書いているんだ?』

『私は未来のシンヤだ』

 

未来の自分からだった!と衝撃を受けるシンヤ。

マジかよ!とブラッキーがハシャぎ、エーフィが疑うように眉を寄せた。

 

「未来のシンヤなの?」

「そうらしいぞ」

「未来はどうですか!って聞いて!」

 

そんな事聞くのか、と思いつつ。シンヤはノートに『私の未来はどうですか』と文字を書いた。

 

『コーヒーが美味しいです』

 

良い事だ。とシンヤがうんうんと頷いた。

 

「え?何年後の未来なのか、とかも聞こうぜ!オレ、今何してると思う!?」

「食べ歩きとかしてそうですけど」

「してそうー!めっちゃしてそうー!」

「俺様は?俺様は何してる!?」

「知るか」

 

聞いて聞いて!と急かされてシンヤはノートに文字を書く。

 

『今、そっちは何年?』

『内緒』

「なんて!?この字、なんて!?」

「ないしょ、だってよ!」

「なんで、ないしょにする!?意地悪か!?」

 

何故、隠す必要が?と思いつつシンヤは更にノートに書き込む。

 

『ブラッキーとミロカロスは何をしている?』

『のんびりコーヒーを飲んでいる私を待ってると思う』

 

帰ってやれよ。と現在の自分を棚に上げて、未来の自分に思った。

 

「未来のシンヤ、意地悪だなー」

「確かにー」

「本当にな…」

「いや、シンヤさん、元からこんな感じの人ですけど…」

 

チルタリスが苦笑いを浮かべた。

何、聞く?教えてくれるか分からないけど、何聞いとく?とブラッキーがペンを握った所で、別の文字が浮かび上がって来た。

 

『お好み焼き、食べたい』

「誰の字?これ?」

「…ミュウツー、だと思うが…」

『ツー?』

『そう。お前は誰だ』

『オレ、ブラッキー!』

『元気か?』

『元気だよん』

 

返事を書いた後、ミュウツーからの返事が無い。

あれ?終わり?とブラッキーが首を傾げる。

 

「カフェにツーも居たのか~、ずるいな~」

「サマヨールと一緒って書いてたな」

「ヨルにも何か書いて貰おうぜ!えーっと…」

『ヨルは何してんの?』

 

ブラッキーからの質問に少し間があって、サマヨールから返事が来た。

 

『皿洗いの途中だ』

「あははっ!仕事してるってよ!」

「ヨルの字、細いなー」

「比べてみると文字にも癖が出ますね」

「ツーはシンヤの文字と似てて綺麗だよな」

 

他に何聞いとく?とブラッキーが遊びだした所で、筆圧の強い字が浮かび上がる。

 

『あんまりミライのことをきくな!!』

「これは分かるわ…」

「ギラティナですねぇ…」

「教えろバーカ!って書いてやろう!」

「良いな!書いてやろう!」

 

お前ら、もう遊ぶのやめろ。と吐き捨ててシンヤはもう興味が無くなったらしく新聞を広げていた。

 

『ケチケチすんなよ!教えろバーカ!』

『うるせー!おまえのほうがバーカ!』

「ギラティナの野郎~!しかも、アイツ、漢字書けないっぽいぞこれ!」

「馬鹿ですねぇ」

「俺様も書けないのに…!」

 

くそぅ、と頭を抱えたミロカロス。

もうノートより晩ご飯の用意に頭がいっぱいのチルタリスがシンヤに「お好み焼きで良いですか?」と聞いていた。

 

「何でも良い」

「では、お好み焼きの準備しますね!」

「ああ、手伝うぞ」

「いえ!大丈夫です!」

 

切って混ぜるだけですから!とチルタリスがキッチンへ行くのを見送ってシンヤは新聞を畳んだ。

 

『バーカ!超バーカ!漢字書けないとかバーカ!』

『よめるからいいんだよ!』

『読めるのに何で書けないんだよ!』

『かくすう、おおすぎてキライ』

「マジ、アホだな!」

「一番、長生きなんですから、漢字くらい書けるようになってもらいたいものですねぇ…」

「俺様もそこそこ長生きなのにー!」

 

しかも読めないー!とミロカロスが喚く。

 

「遊んでないでもう片付けてホットプレート出して来い、ブラッキー」

「えぇ~…オレ~?」

「一番食うだろ」

「食いますけども~」

 

何処に片付けてたっけ、ホットプレート…。と考えるブラッキーに。二階の押し入れです。とエーフィが返事をした。

 

「明日の朝、ホットケーキ焼いてもらおうかな~」

「良いですね」

 

何乗せて食うかなぁ、とすでに次の日の朝ご飯の話題で盛り上がりながらリビングを出て行くブラッキーとエーフィ。

残されたミロカロスがノートを開く。

薄っぺらいノートは無駄に大きな字で書かれた悪口の言い争いによって埋め尽くされつつあった。

 

「もう書けなくなっちゃう…」

「未来の私ももうすぐ晩ご飯だから返事をくれなくなると思うぞ」

「えー…、うーん…」

 

最後に何を書こうかな、と考えたミロカロスは向かいに座るシンヤを見て、笑みを浮かべた。

 

「?」

『おれさまのこと、みらいでも、すき?』

『あいしてるよ』

「ふおおお!シンヤが愛してるよ!って返してくれた!」

「えぇ~…、それ本当に私か?」

「なんだと!?俺様のこと愛してないの!?」

「あー…、愛してる愛してる」

「なんだその言い方は!ちゃんと言って!ちゃんと!」

「言っただろ」

「なんかテキトーに二回言った!」

「愛してる愛してる」

「また言った!」

 

意地悪ー!と怒るミロカロスの背後でノートに文字が浮かび上がる。

 

『遠い未来でまた会おう』

 

パタン、と軽い音を立ててノートは閉じられた。

 

*

 

薄っぺらい小さな赤色のノートを閉じたシンヤは冷めたコーヒーを飲んだ。

 

未来の自分とやり取りをした些細で不思議な日を思い出し、普段なら落ちている物など拾わない自分が立ち止まりノートを持ち帰った。

あの後、あのノートはどうしただろうか、と思い出そうとしても些細な一日に過ぎなくてあまり覚えていなかった。

晩ご飯のお好み焼きでミロカロスがひっくり返すのを失敗して、歪なお好み焼きを食べた記憶はあるのだが…。

 

「自分の記憶では…、ノートの話は聞いても直接見る事は無かったですね…」

「そうだよな。お好み焼きを食べながら話していたのにノートをその場に出していた記憶は無いからな…」

 

消えてしまったのだろうか。とぼんやりと考える。

テーブル席に座っているミュウツーがノートを閉じた今もテーブルに顔を突っ伏して黙り込んでいる。

ブラッキーからの返事が辛かったらしい。自分からあんな事を聞くから。と思った所で自分の目にも薄ら涙が溜まり指で拭った。

 

あの些細な一日は特に何も思わなかったが、未来の自分になってみて、今日は特別な一日だったのだと知る。

仕方のない奴らだな、と思って放って置いた悪口の言い争い。無駄に大きな字で書き殴ってノートを埋めたギラティナの優しさを未来で知る。

薄っぺらいノートはあまりにも分厚く感じたのだ。

聞かれる事、全てに答えられず、どうしようかと悩み、昔の記憶を思い出そうと頑張る自分が居た。

テーブルに突っ伏していたミュウツーが顔を上げた。

向かいに座っていたギラティナを見据えてポツリと呟く。

 

「お好み焼き、食べたい…」

「分かったよ!食いに連れてってやるよ!」

「チルの作ったお好み焼きが良い…」

「文句言うんじゃねぇ!」

 

項垂れるミュウツーを引き摺るようにギラティナが外に連れて行った。

そんな二人を見送って、冷めきったコーヒーを全部飲みほした。

 

「主…、チルの様子は、どうでしょうか…」

「…もう長くないな」

「……そうですか」

 

家でポケモンの姿に戻り、寝たきりとなっているチルタリス。

今はトゲキッスが傍に居るが、コーヒーも飲み終わったし、そろそろ家に帰ってやらないとな。

 

「今日は、普段より寂しく感じます…」

「そうだな」

 

賑やかだったノートと記憶のせいで寂しさが増すな、とシンヤは心の中で思った。

 

「主…今日は共に風呂に入っても良いでしょうか?」

「え?」

「お背中を流させて頂きたく思います…」

「お前がそんな事言うなんて珍しいな、初めてじゃないか?」

「主の記憶に珍しい日を増やしておこうかと…」

「なるほど。それは嬉しいかもしれない」

「今日はお傍で眠ります…」

「……お前も結構、甘えただな」

「自分が甘えられるのは、主だけですから…」

 

くすくす、と笑ったシンヤにサマヨールが笑みを返した。

 

 

【 愛するアナタへ 】

 

 

珍しく存分に甘えたサマヨールは、

その一週間後に眠った綺麗好きなあの子と共にゆく。

 

薄っぺらい小さな赤色のノートをパラパラと捲ったシンヤは小さく息を吐いた。

 

*

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