一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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表に出なかった、もう一人の『シンヤ』のお話。


蒔かぬ種は生えぬ
01


世界は腐っていると、私は思うのだ……。

 

そう思い出したのは高校入学間もない頃か卒業後だったか……。

ああ、卒業後だったと思う。

将来の夢を見出せぬまま高校を卒業した大学には行かなかった、こういうと行けたみたいな言い方をしているが事実、行けたのだからこう言うしかない。

私は頭は良い、教科書に書かれてる事ならお手の物。

ただ、利口に生きてはいなかった様だ。

なんて事ない高卒ながらそれなりの会社に就職してそれなりに生活していた。

 

腐ってると思った。

 

仕事に行く為にスーツを着た、溜息が出る。

休日に部屋の掃除をした、溜息が出る。

空腹を満たす為に料理を作った、我ながら良い出来だと腹を満たし終われば溜息が出る。

空っぽだった、世界は腐ってるなどとほざいたが腐ってるのは私であって世界は移り変わり存在している。

腐ってるのは私、動きながら止まっている、否、止めているのは私自身。

何をするわけでもない、何をしたいと思うわけでもない。

何もしないまま、ただ何か起これば良いのにと願う哀れな男だ。

 

何をすれば満たされる。

仕事で誰よりも優れた成績を出せば満たされたか、満たされなかった。

お金があれば満たされるのか、なら貯めてやるよと貯めに貯めたこの金は何に使えというのか、満たされる事などない。

満たそうと求めてみれば更に空っぽになる気がした。

何が間違ってる、根本的に間違ってる気がする、けれどその間違いを訂正して生きていけるほど私は利口じゃなかった。

 

溜息が出る。

 

周りの人々の目は輝いて見えた、同じ色の目とは思えない輝きを放っている気がした。

鏡に映るのは誰だ、穴が開いた様な真っ黒の目で何を見ている、お前は誰だ。

生きているのか死んでいるのか、否、生きながら死んでいるも同然だ。

私は何なんだ……、私はどうして生きている、何の為に、生まれて来たというのだろうか……。

 

 

世界は腐っていると、私は思う。

こんな私を産み落とした世界は腐ってる。

 

 

*

 

 

生まれて25年になる。

生まれてこの方このような光景を見た事が無ければ、こういう状況に陥った事も無い。

美しい世界だった、私がこう思える日が来るなんて……、やっぱり死んでみるもんだと関心した。

 

昨日の深夜2時。

私は大量の睡眠薬を飲んで眠った。

そして目が覚めると青々と茂った草原の上で眠っていたのだ。

これはもう死んでるだろ、少し想像していたあの世と呼ばれる場所とは少し違うがもうどうでも良い事。

裸足のまま草の上を歩いて小石を踏んだ、あまりの痛さに足の裏を見れば切れて血が出ている。

一度死んでもまだ苦痛を与えるのか。

意外と甘くない世界らしい、しかしだ、そんな痛みもどうでもよくなるほど空が綺麗で私はぼんやりと空を眺める。

 

大きな虹色の鳥が空を横切った。

 

空から虹色に輝く大きな羽が一枚降って来るのが見えて手を伸ばす。

風に吹かれながらもその羽はすんなりと私の手の中に納まった。

太陽の光を受けて輝く羽は何処までも美しい……。

 

私の知らない世界はこんなにも美しかった。

ああ、死んで良かったなぁ……。

 

*

 

飛び去った鳥を見送って、日差しの眩しさに目を細めた。眩しい。暑い。

日陰に行こうと、目に付いた木を目指して歩く。裸足の自分には少々辛かったが草が生い茂っていたので柔らかな草を踏みつけて、とりあえず木を目指して歩いた。

歩いているとガサガサと音を立てて、黄色くて大きなアヒルが私の前に姿を現した。

大きな丸い目で私を見て、頭を押さえて首を傾げたアヒル。それに私も首を傾げてみる。

こんな動物を見たのは初めてだった。頭から三本だけ生えている毛はなんだろう。

 

「コダ?」

「!?」

 

変な声で鳴いた!

黄色いアヒル、否、カモノハシかもしれない。不思議な動物が私に一歩、二歩と近付いて来る。

 

「コダッ!」

 

ぺちん、と足を叩かれた。

なんだその、ダメでしょ!的な雰囲気。そんな風に言われている気がして、おそるおそる、黄色い動物と目を合わせる為にその場にしゃがみ込む。

 

「何だお前は…」

「クワー」

 

お前こそ何だ、とか言われてる気がする。そして、じと目で見られている。ムカつくなコイツ。

再びぺちん、と叩かれたので、腹が立った私もソイツの頭をぺちんと叩き返してやった。

ぺちぺちぺちぺち、と平手打ちを繰り返していると「ちょっと!」と人の声に遮られた。

 

「何やってるんですか!?」

 

何をやっているかと言われると…。

 

「コイツが叩いて来たから、腹が立って叩き返してた」

「はぁ!?」

 

はあ?とか言われても困る。

見た所、10代くらい。ニット帽を被った少年に本気で説教される事になった。

ポケモンに素手で勝負挑むとか馬鹿ですか!とか、ポケモンも持ってないのになんで草むらに居るんですか!とかそもそもなんで裸足だよ!怪我してるじゃん!と逆ギレされた。

手を引っ張られ、目的としていた木の下まで移動させられた。

 

「座って下さい。治療するんで」

「いや、別にこのままで良い。どうせ私は死んだ身だからな」

「うーわー、マジヤバイ人と遭遇しちゃったよ。マジヤベー…」

「死人なんだ、放って置いてくれ」

「死人が喋って、怪我して血流してるわけないでしょ…」

「……」

 

え?私、死んでないのか?

あれ?と思っていると、少年が勝手に私の足の治療を始めてしまう。消毒液なのか、やけにピリピリと染みて、生きている事を実感してしまう。

 

「なんで…、死んでないんだ…」

 

私の言葉に少年が眉を寄せていた。

そして、何故かついて来て、私の隣に居る黄色いアヒルが私をぺちんと叩いた。

 

「コイツ、なんなんだ!さっきからムカつくな!」

「野生のコダックでしょ…」

「野生のコダックってなんだ!?」

「え?コダック知らないの?図鑑見る?」

「ず、図鑑?」

 

これ、と出された赤色の機械。

 

「コダック、あひるポケモン。不思議な能力を持てあまし、いつも頭痛に悩まされている。たまに不思議な力を使う」

「なんだ、あひるポケモンって。アヒルはアヒルだろ?」

「いや、そんな事言われてもボクが分類したわけじゃないし…」

「そもそも、ポケモンってなんだ」

「………は?」

「クワー」

 

*

 

10代の少年に何を暴露しているのかとも思ったが、ポケモンという生き物を知らない事から自分が自殺をした経緯まで説明してみる。

ポカンとしていた少年は開いたままの口から「バカじゃない?」と呆れた言葉を発した。

 

ほっとけ。

 

「えーっと、じゃあ、纏めると…お兄さんの住んでた場所にはポケモンは居なくて、お兄さんは25歳で人生に絶望して深夜の二時に睡眠薬を沢山飲んで眠ったから死んだ、と」

「まあ、簡単に纏めるとそうだな」

「子供相手によくそんな事言えたね」

「ムカつくガキだな」

 

ふむ、と考え込む少年。

傍に居たコダックにまたぺちんと足を叩かれた。コイツ、いつまで居るんだ…。

 

「ボクが知る限り、ポケモンが居ない場所なんて無い」

「ふーん」

「だから、ボクが予想するにはお兄さんは重度の精神病とかじゃないかな?被害妄想が激しいよね。自分が何の為に生まれて来たとか、そもそも疑問に思う事って無くない?周りと比べたってどうしようもないしさ」

「私の悩みを一喝してくれるとは、凄いな」

「つまり、欲求不満なんでしょ?何かに熱中出来る様な事も無くて、他の人達が夢中になって頑張れる何かが自分には無いから、自分って何の為にここに居るのか7なぁ、ってなったわけだよ。きっと」

「え、お前、凄いな。同意出来ない気持ちはあれど、凄いなお前」

 

まあ、ボクも色々と旅して経験積んでますから、と上から言われた事には若干イラッとしたものの説得力がある言葉だったことには違いない。

 

「それで、お兄さんは夢遊病でもあるの?裸足でうろついちゃうくらいだし、この辺の人だよね?」

「いや、知らん。ここは何処だ?」

「ここはズイタウンだよ」

「ずいたうん?」

「………、お兄さん、名前は?」

「名前?……………私の名前、なんて言うんだ」

「この辺、病院ってポケモンセンターくらいしか無いよ!?」

「ポ、ポケモンセンターってなんだ!?」

「本格的にヤバイじゃん!」

「ど、どうしよう!自分が誰か分からない!とりあえず、もう一回死んでおけば良いか!?」

「落ち着いてっ!」

「クワー!」

 

*

 

少年とコダックに押さえ付けられて、我に変える。

自分が誰か分からないと人間って混乱するものなんだな、と当たり前だが初めて知った。

足に包帯を巻いて貰ったので、歩くたびに突き刺さる痛みは和らぎ、とりあえず、と少年に連れられてポケモンセンターへとやって来た。

 

「ボクのポケモン預けて来るついでにお兄さんの事をジョーイさんに相談してみるから、座って待ってて」

「色々分からないけど、分かった」

 

ポケモンセンターとやらは一応、病院らしい。

ソファに腰掛ければ隣にコダックが座った。コイツ、なんでまだ居るんだろう…。

 

「お前、なんで一緒に来たんだ」

「クワー」

「…」

「コダッ!」

 

私の事が心配で心配でたまらないらしい。

特別に傍に居てあげるんだからね!なんて言われても反応に困る。帰れ。顔がムカつく。

 

「お兄さん、お待たせ。この辺に住んでる人なら顔を見たら分かるかも、ってジョーイさんが言うから来てもらったよ」

「こんにちは!」

「…こんにちは」

 

戻って来た少年が連れて来たピンク色の髪の女性、ジョーイさんとやら。看護師的な人なのだろうか。

ふーむ、と私の顔を見てからジョーイさんは頷いた。

 

「こんなイケメンはズイタウンには居ません!」

 

びし、と親指を立てて言い切ったジョーイさんに少年の顔が明らかに引き攣っていた。

 

「うーん…、でも怪我の具合からそんな長距離を歩いた形跡は無かったから、絶対にこの辺りのはずなんだけど…」

 

分析力凄いな。

 

「でも、本当にこんな若くてカッコイイ人がズイタウンに住んでたら知らないわけないもの」

「そうですよねぇ…、無駄に顔整ってるから絶対に誰か見た事あるはずなんだよなぁ」

 

無駄にってなんだ。無駄に、って。

うーん、と考え込む二人に提案を出してみる。

 

「とりあえず、もう一回、死んでみるから。その後に生きてたら考えてくれ」

「早急に保護してくれる所を紹介して下さい!」

「ええ、すぐに連絡するわ!」

 

 

なんでだ。

 

*

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