一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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とりあえず、精神状態が不安定ですね。と言われた私は少年に連れられて、育て屋という場所の庭に居る。

ポケモンに囲まれて癒されるべき、精神安定剤は視覚から。とそんな事を言われても見たこと無い生き物だらけで気持ち悪いんだが…。

 

「うわー、ボク、この庭に入ったの初めて!」

「子供みたいな反応だな」

「子供ですから」

 

全然、子供らしくないから言っているのですが?はあ?

芝生に座り込み、少年と向かい合って今後の話を進める。

 

「一番近くの病院で保護してもらえるかどうかジョーイさんが確認してくれるそうだから、今は連絡待ちだね」

「普通に、死にたい。もうめんどくさいから死にたい」

「逃避はダメだよ!ほら、コダックでも見て癒されて!」

「コイツの顔には癒されない…」

「コダー!!」

「痛い!」

 

また叩かれた。

色んなポケモンが居るから見て回ろう、気分転換に、と私の気を紛らわそうとしてくれる少年。

同じ黄色のアヒルを見つけて、溜息が出た。もうこの間抜け面は見飽きた。

 

「ミミロルとか可愛いよ、ほら」

「ミミー!」

「……、私が、可愛いー!とか言って抱きしめたら気持ち悪くないか?」

「まあ、若干」

 

はあ、と溜息を吐いた所で「可愛いー!」という女の子の声。私について来ていたコダックが少女に抱きしめられて「グエー」と聞いた事の無い声をあげていた。滑稽だ。

 

「のん!やめてやれよ!変な声出してるぞ!」

「えー…ごめんねぇ、コダック~」

「クワ…」

 

勘弁してくれよ…、と言わんばかりに落ち込みながらコダックが私の膝の上に座った。おい退け、貴様。

 

「キミ達、おじいさんから許可を貰って入って来たの?」

「うん!お母さんが買い物行くからここで待ってなさいって!」

「のん達、よく遊びに来るのー」

「そうなんだ」

「お兄ちゃん達、誰?トレーナー?」

「あ、うん。ボクはユウキ。ポケモントレーナーだよ」

「俺、カズキ!俺も10歳になったらポケモントレーナーになるぜ!」

「のんはねー、ノリコ!のんも10歳になったら可愛いポケモンいっぱいゲットするのー!」

「じゃあ、ポケモントレーナーになったら勝負しようね!」

「「うん!」」

 

なんだ、ポケモントレーナーって…。会話について行けない。

 

「そっちのお兄ちゃんは?」

「え゙!?えーっと……、」

 

私、名前、覚えていませんが、何か?

焦る少年、名前はユウキという事も今知ったが、ユウキが近づいて来てコソコソと囁いた。

 

「名前、どうする!?」

「なんでもいい」

「じゃあ、選んで。えーっと…ビョウキ、ゼツボウ、シンヤ、ニジ、スイミンヤク、ジサツ。っていうのがボクのイメージ!」

「………じゃあ、ジサツで」

「うん!この人はシンヤお兄さん!ポケモントレーナーじゃないよ!」

 

おい。

 

「そうなんだー」

「コダックはお友達?」

「お友達は、居ません…」

「「悲しい…」」

「コダックはシンヤお兄さんのお友達だよ!悲しくないよ!」

 

大丈夫だよー!と明るく振る舞うユウキ。お前、頑張り屋さんだな。

 

「シンヤお兄さんはポケモンに詳しくないから、教えてあげて?」

「いいぜ!俺、勉強してるからな!任せろ!」

「のんも教えてあげるー、お兄ちゃんこっち来てー」

 

ええー…やだー…、ここに座ってたーい。と思ったもののユウキに笑顔で「行け」と言われた。

なんだアイツ、威圧感凄い。

カズキが餌を貰って来たのか、庭の小さな池に餌を撒くと大きくて赤色のコイが顔を出した。めちゃくちゃこわい。ぶさいく。

 

「なんだコイツ…」

「コイキングだよ」

「コイの王とか、凄いな…」

「進化すると強くなるんだって」

「え?急速に進化するのか?こわいな」

「レベルが上がったら進化するんだよ。こわくないよ」

 

何を言っているのか分からない。

レベルってなんだ。年齢?

 

「こっちの茶色の方はコイクイーンか?貧相だが…」

「コイクイーンなんて居ないよ…。あ、でもソイツなんだろ?知らないポケモンだ」

 

え?メスのやつもキングなのか?という疑問よりもカズキは茶色の魚に夢中だ。

魚を勝手に持ち上げて育て屋のおじいさんの所に走って行ってしまった。が、すぐに戻って来た。

 

「ヒンバスって言うんだって!」

「貧相なバス系の魚か。何でも食いそうだな」

「え?バス系…?」

「なんでもない…」

「あ、持つ?」

「え!?」

「大人しいよ」

 

おいおい、まさか私に素手で触れと言うのか。正気か。子供って何でも素手で触るから本当に嫌だ。嫌い。

 

「ヒーン」

「鳴いた!」

「そりゃ、生きてるから…。はい、持って」

「ぬるぬるしてないか!?」

「してるよ!」

「池に返しなさい、すぐに」

「大丈夫だよ!」

「大丈夫じゃない!」

 

ほらほらー、とヒンバスを近付けて来るカズキから後退る。ぬるぬる触りたくない。

 

「魚だから!水の中に戻してあげないと死ぬから!」

「ポケモンだから大丈夫だよ!」

「何を言っている!?」

 

ポケモンってなんだ!

無理やり押し付けられたヒンバスを手に持てば、若干の、ぬめり…!

 

「か、帰れっ!」

 

どぼん、と池に放り投げればヒンバスは顔だけ出してこちらを見ていた。

手から独特な臭いがする…。

 

「クワー」

「あ、コダック、タオル持って来てくれた!すげぇ!頭良い!」

「ありがとう…」

「コダッ」

 

なんでこんな変な生物にお礼を言ってるんだろう、と思いつつタオルを受け取った。

 

*

 

「ジョーイさんから連絡が来た結果、住民票が無いので入院出来ない!と言われました!一時的な仮住民票はまた発行してもらうとして…、警察保護になるかも、って事らしいけどどうする?」

「大丈夫、保護とかしてくれなくても、いつでも死ねる」

「オッケー!そんな事だろうと思ってた!近くのポケモン研究所に行こう!ボクに任せて!」

 

話を聞いてくれない。

行くよ、と言いながら少年が紅白カラーのボールを投げるとその中から大きな鳥が出てきた。

本格的な幻覚が見えだしている。どうしよう。

 

「でかい、ツバメだ…!助けて!」

「え!?大丈夫だよ!オオスバメ!ボクの仲間だから!」

「スバー!」

「でかい!」

「うん、乗って」

 

どうぞ、と背を向けて来たオオスバメとやら。

乗れ。と私の背を押すユウキ。こいつら、頭おかしい。

 

「乗れない!乗れるわけない!乗ってどうする!?」

「空を飛ぶで、近くの研究所まで行くんだよ。早く乗って」

「空を飛ぶで近くの研究所まで!?どういう意味だ!?」

「オオスバメ、の、背中、乗って、空、を、飛ぶ、研究所、に、着く、オーケー?」

「NO!」

 

早く座れよ、と無理やり座らされた。

そして、はい、と何故か渡されたコダックを抱きしめる。

コイツ連れて行くのか!?あれ!?凄いふわふわ!結構、しっかり座れる!すごい!と思っていたら後ろにユウキが座って、私の背後からオオスバメの翼を掴んだ。

 

「オオスバメ、空を飛ぶ」

「スバー!」

「、ああああああ!!!!」

 

*

 

研究所に着いて、ユウキに「うるさい」と怒られた。

そんなの理不尽だ。でかいツバメでも私より小さいツバメの背中に、二人も乗って空を飛んでたんだぞ!?安全装置もパラシュートも何も無しで!!

 

「いつでも死ねるって言ったくせにー」

「なら、いっそ落として欲しかった。生き地獄は嫌だ…」

「ワガママだなぁ、もう…」

「クワー」

 

ぺちんぺちん、とコダックに足を叩かれる。

ユウキに腕を引っ張られてポケモン研究所とやらの建物の中に入る。

 

「イツキさん、こんにちは!すみません、急に連絡しちゃって」

「おお!ユウキくん、いつでも大歓迎だぞ!いらっしゃい!」

 

イツキさんと呼ばれた厳つい男性。

目が合って人の良い笑みを向けられた。

 

「キミが記憶喪失のシンヤだな!俺はイツキ、ポケモンの研究をしている!ユウキくんのお父さんとは研究友達なんだ!なんでも相談してくれ!力になるぞ!」

 

熱い…!否、暑苦しい…!

というか…、記憶喪失…?私は名前以外の記憶は……、あれ?

仕事とか何をしていたのか、あまり思い出せない…。

 

「シンヤさん!シンヤさんってば!」

「っ、な、なんだ!?」

「ぼんやりしない!」

「すまん…」

「ははは!まあ、色々と混乱する事もあるだろうからな!裸足で歩いてたっていうくらいだから、手荷物はあまり期待出来そうにないが何か持ち物で手掛かりがあったりしないか?」

 

手荷物…。

睡眠薬を飲んで寝た私はスウェットパンツにシャツ一枚…。育て屋で貰った靴…。

 

「あ、ポケットに拾った羽が入ってた」

「それは!?」

「虹色の羽だ!」

「記憶が無くなる前の持ち物なのか!?」

「いや、気付いたら草原に立ってて空を見上げたら大きな虹色の鳥が飛んで行ったんだ。その時に落ちて来た」

「ボクと会う前にホウオウを見たって事!?うわー…逃したぁ…!」

 

凄い!これは凄い!とハシャぐイツキさんに差し上げますと羽を押し付ける。

 

「い、良いのか!?」

「私には不要な物なので…」

「虹色の羽が手に入るなんて…!なんて素晴らしい日なんだ…!」

 

嬉しいー!と喜ぶイツキさん。

足元に居たコダックがぺちぺちと私の足を叩いた。見下ろせば、腹をさすりながら私を見上げている。

 

「ユウキ…コダックが腹減ったって」

「この時間だと裏庭でうちの研究員がポケモン達にフードを与えてるから、一緒に食べてくれば良いぞ!」

「クワー!」

 

行こうぜ!とコダックにズボンを引っ張られて歩き出す。

 

「ボクはちょっと父に連絡してくるから、先に行ってて」

「ああ」

 

と、返事をした所で私は何をしているのだろう、と疑問に思った。

研究所の裏庭へと行けば白衣を来た男が小さいポケモンに群がられている。ピンクやら青やら紫やらとカラフルだなぁ…。そこに黄色のコダックが突っ込んで行った。

 

「うわ!?…あれ?キミ、何処の子?」

「野生の子」

「え?…どちら様…?」

「どちら様なんだろう…」

「え?」

 

首を傾げた白衣の男に首を傾げて返す。

私は一体、誰なのだろうか。全く記憶に無い。

 

「あ!もしかして、ユウキくんから連絡があった人かな!記憶喪失の人を連れて来るって言ってた!」

「多分、それ」

「うわー、大変だぁ…。僕はここの研究員のヤマトだよ。よろしく」

「よろしくは、別にしなくても良いです…」

「暗い!あああ、でも何も覚えてないって暗く考えちゃうよね…!きっと大丈夫だよ!としか言ってあげられないんだけど…。力にはなるから!何でも言って何でも聞いて!記憶を取り戻せるかもしれないし!」

 

え…、めちゃくちゃ良い奴だな、コイツ。

隣にどうぞ、と勧められたのでヤマトの横に座る。目の前では何やら不思議生物達が餌を頬張っている。

コダック、他所者の癖によく食うな…。

 

「ポケモンっていう存在も分からないんだって?」

「そう」

「そっかー…、あ、でもこのコダックは手持ちの子なんじゃないの?野生の子って言ってたけど、野生の子は一緒に行動とかしないし…」

「いや、勝手について来てるだけだ」

「僕が想像するにこのコダックはきっとキミの記憶を取り戻すきっかけになるかもしれないよ!」

「想像だろ…」

「うん。想像」

「……」

「そういえば、名前はなんて呼べば良いの?」

「ユウキはシンヤと呼んでる」

「シンヤ?なんで?名前を書いた持ち物とかあったの?」

「いや、深夜二時に自殺した記憶しか無くて…」

「え゙…急に展開が変わって来たぁ~…」

 

うろたえるヤマト。

なんか良い奴なのに変な事言ってごめんな、という気持ちに流石になった。

 

「これは、なんていうポケモンだ」

「え?ああ、ププリンだよ」

「ププリン…、こっちは?」

「その子はルリリ」

「へぇ…、コダックなんかより全然可愛いな」

 

ぶにょん、とププリンに指を突き刺してみた所で呟きが聞こえたらしいコダックが大きく口を開けた。

 

「コパーッ!!!!」

 

餌がいっぱい飛んでる汚い。

 

*

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