結果、問答無用であった。
「行けー、ミミロルー!」
お馴染の紅白カラーのボールからミミロルとかいうウサギが出て来た。
さあ、来い!とファインティングポーズのミミロル。勇ましい。
チラリと足元を見ればコダックと視線が合う。
「じゃあ…、お前、行くか?」
「コダ!」
行くらしい。
よっしゃー!と走ってミミロルに向かい合うように立ったコダック。
私は一体、何をすれば良いのだろうか。
「ミミロル、とびはねる!」
「ミミー!」
「……」
空高く飛び跳ねたミミロルがコダック目掛けて飛び掛かって来る。見事に蹴りとばされる形になったコダックを見て、あーあーと思った。
転がったコダックが恨みがましくこちらを見ている。なんだこの野郎。
「シンヤさんってば、何やってんの!指示出さないと!」
指示ってなんだ。
「………、コダック、」
「コダ!」
「頑張れ」
「クワ~…」
凄くガッカリされた視線を貰ったが、しょうがねぇなぁと言わんばかりに背を向けられた。
何故か逞しい背中…。
コダックが突然、耳触りな音を発したので慌てて耳を塞ぐ。ミミロルも耳を押さえて嫌がる仕草をした。
「いやなおと、とは!やるな!ミミロル!ピヨピヨパンチで反撃よ!」
「ミミー!」
「コダー!」
コダックに向かって行くミミロル。そのミミロルにコダックは波紋の様な水を口から吐き出してミミロルに直撃させた。
くらくら、と目を回すミミロルは自分の長い耳で自分自身を殴りつけて始める。
「ミミロルー!混乱しないでー!」
「クワー!」
目を回すミミロルに、とどめと言わんばかりにガリガリガリ!とひっかき傷を付けて行くコダック。アイツ、酷いな。
ミミロルが目を回したままその場に倒れて、ツバキが膝を付いて嗚咽を漏らす。
「野生に…っ、野生に負けた…!」
「コダー!」
どうだー!とこっちを振り返って自慢気のコダックに凄い凄いと意味を込めて拍手をしておいた。どうでもいい。
もう一戦しよう!とツバキが何か幽霊みたいな骸骨みたいな変な生物を出して、コダックが戦っていたが見ているのに飽きたので部屋に戻ろうと思う。
「ヨマヨマ~」
「あ~ん!ヨマワルー!そっちに行っちゃ駄目だってばー!」
「クワ~?」
*
部屋は何処ですか、とジョーイさんに聞けばウフフと笑って誤魔化された。教えろ。
でかいピンク色の生物が横を通ってびっくりしたら更に笑われてしまった…。なんか…、ウーパールーパーみたいだった…。
「ユウキくんから事情は聞いてますから」
「はぁ…」
「私の目の届く範囲で本でも読んでのんびりして居て下さい」
はい、どうぞ。とどっさり分厚い本をテーブルに置かれた。
え~…と思いつつもニコニコと笑みを絶やさないジョーイさんに負けて重たい本を受け取った。渋々、ポケモンセンターのカウンター近くにあるソファに座り、テーブルに本を置いた。
とりあえず、この世界に居る不思議生物について見てみようと、図鑑のページを捲ってみる。
子供向けらしい図鑑は、可愛らしい絵に名前が書かれている。
NO.001…フシギダネ。たねポケモン、くさ・どくタイプ。
その次のNO.002がフシギソウ。たねポケモン。くさ・どくタイプ…。
描かれている絵が、背中の多分、種っぽいのがツボミになっている…!NO.003のフシギバナに至っては、咲いてる!!
もう、フシギソウから既に種じゃない!それにこのフシギダネというポケモンを見つけた奴はこの生き物を見て、相当、不思議な種を背負っているなぁと思って名前を付けたんだろう…。単純かっ!!
読むのが馬鹿らしくなってきたが、せっかくだからコダックも見てやろうと、ページを捲った。
ああ、あった。と見てみれば、ユウキの図鑑で見た通り、あひるポケモンでみずタイプらしい。まあ、アヒルだしな。と思って次のページを見ると同じあひるポケモン。多分、これが進化というやつなのだろう。
色まで変わるとか面影は何処に消えてしまうのか…。ゴルダックの絵に衝撃が走る。あの間抜け面が何故、これになるのか…。
「あ、シンヤさん居た居た!もう!勝手に消えないでよ!びっくりするでしょー!」
「コダー!!」
「……」
怒るツバキとコダック。
黄色のコダックを見て、思わず声に出た。
「お前、黄色のままの方が可愛いな…」
「クワッ!?」
「え?ゴルダック、カッコイイよ?」
「青色の衝撃が凄い…」
これ、と図鑑を見せれば。ツバキは苦笑いを浮かべた。
「じゃあ、あたしが拾った変わらずの石。コダックに持たせとくね」
「は?」
「コダックのままがシンヤさんは好きなんだってさ~、良かったね~」
「クワ~」
好きと言った覚えはない。
*
ユウキが戻って来るまで部屋に入れないので、仕方なくツバキとジョーイさんから借りた本を読み続ける。
ポケモンの道具の種類、とかいう本で紅白カラーのボールを発見した。モンスターボールと言うらしい。
「これの中にどうやってポケモンが入ってるんだ」
「どれ?」
「この赤と白のモンスターボールとか言うのだ」
「ボールをポケモンに当てれば勝手に入るよ!」
「だから、どうやって入ってるか聞いているんだ」
「知らないよ!」
「知りもしないものをよく使えるな!」
「うるせっ!それにボールなんていっぱい種類あるんだよー!」
ほれ!とツバキはカバンからカラフルなボールを広げて見せた。真ん中のボタンを押すと野球ボールサイズ程に大きくなるらしい。理解不能だ。
「せっかくだからコダック捕まえてみなよ」
「いや、要らん」
即答かよ!と怒るツバキを無視して、モンスターボールを開けて中を見てみる。もの凄く複雑だった…。これ、分解するのも難しそうだぞ…。ここの文明発達し過ぎだろ…。
パッと見た所でもネジで留めてるとかそういう次元じゃない。なにこれ、普通に凄い。
「モンスターボールより、スーパーボールの方が捕獲率が上がるよ。それでスーパーボールよりハイパーボールの方がもっと捕獲率が上がるの」
「じゃあ、ハイパーボールだけで良くないか…」
「高いから。性能良いだけにお値段も良いから」
なるほど。
値段と品質で種類を造り販売するのか。
でも、このモンスターボールだけでも私の居た世界だととんでもない価値のあるものだろう。
「あ、でも、ハイパーボールはぶっちゃけあんまり使わないよ。高いし。あたしはポケモン研究に協力して色んなポケモン捕まえてナナカマド博士に送ってるんだけど。基本、クイックボールだね」
これ、と青に黄色のクロスマークが入ったボールを置かれた。
「ハイパーボールは1200円だけど、クイックボールは1000円で出会い頭のポケモンに速攻で投げると捕獲率が4倍とかになったかな~?ハイパーボールより捕獲率高いのよ」
「な、何故?」
「知らな~い」
何故、使ってる本人が知らないのか不明だがツバキは更にボールを指差して説明を続ける。
「これはネストボールでレベルが低いポケモンを捕まえるなら絶対にこれ。レベル15くらいまでならネストボールを投げる方が良いかな~と使った感覚で思う」
「レベルが低いとか、どうやって見るんだ…」
「レベル?正確なのだと図鑑で見れるよ。まあ、大体はポケモンを見れば分かるけど」
そんな馬鹿な…!見て分かるだと…!?
「人間で言うとパッと見で年齢はこれくらいかな~って感じじゃない?見慣れれば分かって来るよ~」
「…なるほど」
「あと~、あたし的に一番オススメがダークボール!このちょっと見た目こわいやつ。夜8時以降にポケモンの捕獲率が上がるの~!めっちゃ良いよ~!夜にバンバン捕獲出来るからね!」
「…なんで、夜8時以降に捕獲率が上がるんだ…」
「知らな~い」
謎が深まる一方だ…!
「これは、もうめちゃくちゃレア!珍しいの!捕獲率100%このボールからは逃れる事は出来ない、マスターボール!ここぞという時の為にずっと持ってるの…!伝説ポケモン捕まえるぜ…!」
「捕獲率100%があるなら、全部それで良いだろ…」
「非売品なの!売ってないの!」
紫色のボールを手にニヤけるツバキ。気持ち悪い。
「このボールに捕まるともう自分の意思で逃げられなくなるなんて、地獄だな…。この中が快適な空間なのかは分からないが、捕まったら自分を捕まえた人間の指示に従って生きなきゃいけないなんて…」
「え゙……、そういう風に言われると何とも言えない…。結構、仲良くやってますけども…」
「捕獲率なんてものがある時点でポケモンは逃げたい意思を示しているのに、人間はどんどん捕獲率を上げてポケモンを縛り付けていく。
マスターボールが一般的に販売されないのは、ボールを作った人間が捕獲率100%に到達して思ったのかもな…。抵抗させる選択を完全に奪うのはどうかなのか、と…」
私がポケモンだったら嫌だなぁ、と呟いた所で目の前に座っていたツバキがテーブルに突っ伏した。
「マスターボール使い難いぃいいい!!!そんな事言われると使い難いわぁあああ!!!」
だって、逃げ回る伝説ポケモン捕まえようとしてるんだものぉおおお!!!と叫びながらポケモンセンターから走って出て行ってしまった。
「私、何か変な事を言っただろうか…?」
「クワ~」
隣に座っていたコダックに問えば、さあね。と何とも言えない表情と共に返された。
「でも、考えようによっては就職みたいなものだよな。指示に従って行動しなければいけないが、怪我をすれば病院に連れて来て貰って食事を与えて貰って…。沢山のポケモン達の中から選ばれたと思えば嬉しいものなのかもしれない」
人間がポケモンを選ぶように、ポケモンにも人間を選ぶ選択は必要だよな。とコダックに言えば、うむうむと頷かれた。
*