本を読んで待っていたらユウキが帰って来た。
「あれ?ツバキは?」
「走って何処かに行った」
「え~…なんでだよ…」
まあ、良いけど。と荷物を置いたユウキに良いのかよ!とコダックがクワー!とか言っていたが無視した。
「この服どう?」
「着れればなn……色キツイな」
「え?今、何でも良いって言いかけてやめた?」
「この赤!青!緑!って原色カラーキツイのなんでだ。お前の服もだけど」
「ハッキリしてる方が分かりやすいでしょ」
「エンジ色とか紺色とか深緑色が良い…」
「文句言うような気がして、ちゃんと白色を多く買って来たよ」
「お前の色の選択肢少ないな…」
目に痛い。
この黄色のズボンは一体どう着こなせというのか…。
「あ、その黄色のパンツはこのパーカーとね」
「なに!?」
「コダックパーカーだよ」
「コダ~!!」
「こんなの着てコダックと歩いてると馬鹿みたいじゃないか」
「いや、結構、居るけど?」
「嘘だろ…?」
着てみて、と急かされて渋々、パーカーを羽織る。
フードがコダックの顔になっている。
「絶対、こんなの着て歩きたくない」
「似合うのに」
「コダ~!」
こんなの着て歩く人間の横も歩きたくないだろうに…。
深く溜息を吐いてもユウキは気にせず買ってきた洋服をたたんでいく。私が着ることはもう決定らしい。
「部屋で寝たい」
「え?ご飯食べようよ」
「私は要らない。色々あり過ぎて疲れたから寝たい」
「危険だから貴方一人で部屋には戻しませんのでご了承下さい」
そんな理由で部屋に入れてくれなかったのか…。
「ポケモンセンターで自殺者出るとか最悪だからね」
「大丈夫だ。誰の迷惑にもならない場所で死ぬくらいのマナーは守れる」
「その考えがマナー違反だって気付いて欲しいよ、ほんと」
「クワ~」
*
ポケモンセンター内のレストランらしき所に連れて来られ、特に空腹でも無いのに目の前に置かれたオムライス。
ユウキが食べたい物を同じように勝手に選ばれた。私に選択肢など無いというのか。
そして、当然のように隣に座ったコダックが餌を手で掴み頬張っていた。無造作に餌入れにザラザラと入れられたであろう、茶色の固形物。
研究所でも同じようなの食べていたような気がする。ポケモンの主食なのだろうか。不味そうだ。
「でもさ、シンヤさんの事を知ってる人が現れてくれると良いけど…、現れない間はどうしたものか、って感じだよね」
「なんだ急に」
「ボクなりに考えてたんだけど。シンヤさん、テレポート出来るポケモンとかそういうのに巻き込まれたんじゃない?だから裸足で知らない場所に居たのかなぁ?って」
「ポケモンってテレポート出来るのか…?凄いな…」
「…そもそも、ポケモンの存在を完全に忘れてるっていうのがなぁ…。困る…」
頭を抱えてしまったユウキ。
私はそんな事より、目の前に出されたオムライスが食べたくなくてどうしようか迷っている。冷めていく一方だ。
コダックに食べるか?と聞いてみたが、要らないと首を横に振られてしまった。
「食べないなら、あたし食べる」
よいしょ、とユウキの横に座ったツバキが私の前からオムライスを持っていった。今は女神に見える。
「がむしゃらにシンジ湖まで走って疲れたわ~」
もぐもぐとオムライスを食べ始めたツバキを見てユウキが眉を寄せる。
「なんで急に走ったのさ…」
「ポケモントレーナーとしての一瞬の迷いがそうさせたの…!でも、あたしもう迷わない!マスターボールでギラティナ捕まえるわ」
「…え?うん…、それは勝手にすれば良いけど…」
何の話?と首を傾げたユウキを無視したツバキはビシとスプーンを私の方に向けて来た。やめろ。
「で、シンヤさんも一緒にギラティナに会いに行かない?」
「行かない」
「早っ!?理由!せめて理由聞いてよ!?」
「……」
「なんで、ギラティナ?」
私の代わりにユウキが聞いた。
それにツバキはうむと頷く。
「ギラティナだったら色んな所が覗けるから何か探すなら一番便利じゃん?シンヤさんも色んな所を見れば思い出す事もあるかもしれないし」
「ああ…、反転世界から表の世界が覗けるんだっけ?ボク、行った事ないからなぁ」
「あたしは行った事あるもん」
「そもそもギラティナが協力してくれるかも微妙なんじゃないの?」
「あたしがギラティナをゲットしてから協力してもらうのよ!」
「天才かよ」
「でしょでしょー!」
というわけで、明日行こう。とツバキが親指を立てて私を見たわけだが…。
「何を言ってるのかさっぱりだ」
「ボクも行って良いの?」
「ツバキちゃんが連れて行ってやんよ~」
………うん。
話を聞いてくれる気は無いらしい。
*
次の日、朝早くから起こされて、よく状況が分からぬまま薄暗い洞窟を歩かされて気が付いたら地面が逆さま場所に居た。
何を言っているのか自分でも分からないが私の視界にある逆さまな地面を逆さま状態でツバキが走って行くのだから、もう…嫌だ…。
「なんだここは!!!」
「うわ!?急に叫ばないでよ!?」
「コダー!」
「地面が逆さまだ!私はもう色々と可笑しくなっている!」
「大丈夫だよ。ここはこういう所なんだから」
あと、シンヤさんは元々可笑しい人だから今更だよ。とユウキに鼻で笑われた。クソガキ…。
この場所だけ重力が一定では無いらしい。歩き回るコダックが上の地面へ、下の地面へ…と移動を繰り返し遊んでいる。
上の地面、下の地面って変な言葉だな。
「ほら、シンヤさんもギラティナ探すよ」
「ギラティナってなんだ…」
「なんだって言われるとボクも上手く説明出来ないけど、この反転世界の主だよ。今、この世界にはボク達とギラティナだけだろうから。ボク達以外の存在が居たらギラティナだと思って、すぐ呼んでね」
ボクは向こうを探して来る、とユウキもまたツバキと同じように逆さまの地面を走って行ってしまった…。
コダックも気付いたら何処かに行ってるし…。取り残された私は辺りを見渡す。
遠くの方で「ギラティナー、おーい」とツバキの声が聞こえる。
とりあえず、ツバキが捕まえると言っていたからギラティナという名前のポケモンなんだろう。
野生の生き物に「おーい」と呼びかけて素直にその生き物が出て来るならもうそれは野生では無い気がするのできっと呼びかけても出てこないだろう。
ポケモンだと言うならその辺の木の後ろとか草の茂みに隠れてるんじゃないのか?茂みから飛び出して来るって本に書いていたし…。
ガサガサと茂みを手で払ってみるが生き物の姿は無い。
「……めんどくさいな」
よし、諦めよう。
適当にユウキ達から離れた場所にいれば、真面目に探してると思われるだろう…。
離れてサボることにしよう、とユウキ達とは反対方向へ足を進める。重力が急に逆さまになるので凄く歩き難い。ふわふわする。
少し歩けば、崩れているが家っぽい建物もちらほらとあった。中に入って探索してみても生き物が居る気配は無い。ギラティナとかいうポケモンも居るのか怪しいものだ。
「お」
ぴょん、と飛び乗った地面の先に一軒家を見付けた。他の建物と違ってかなり家らしい形のままだ。十分、住めそうな大きな家。しかも、芝生の庭付きとは良い家だ。
ドアを開けようとしたが鍵が掛かっていて入れなかった。窓も全て閉まっていてカーテンが付いているので中の様子が分からない。
「……?」
そういえば、何故ここだけ鍵が掛かっていて、カーテンまで備え付けてあるんだろう…。
誰か住んでいて今は留守、なのだろうか?
考えてみたが結論で「そんなわけないな」という考えに至ったので、窓を割って押し入る事にした。
拾った岩を窓に投げ付けてガラスを割る。割れた窓の鍵を開けて中へと入れば気分は空き巣犯だ。
よっと、窓枠を飛び越えて家の中に入れば、ホコリが積もったリビングだった。
キッチンもあるがキッチン用具は何一つ無かった。書庫らしき部屋もあるが本棚には本は一冊も無い。
テーブル、椅子、ベッド、棚…、大きな家具だけが置かれたモデルルームのような家。
いつでも住もうと思えばすぐ住めるような家だな、と思った時に不思議な感覚を覚えた。
カラカラと庭へと続く窓を開けて庭を眺める。
リビングから眺める庭の景色はまるで風景画のようだった。
「……」
「オイ!」
「!?」
ぼんやり景色を眺めていたら声を掛けられた。
驚いて視線をやれば背の高い金髪の男が私を睨んでいる。……まさかの、本当に留守中の家だったのだろうか…。いや、人が住んでいる形跡は無かったが…。
「お前、その家から出ろ…!」
「え!?ああ…、す、すまん…」
慌てて庭に出れば男は割れた窓ガラスを見て眉を寄せていた。これはジュンサーさんを呼ばれるのだろうか…。
「テメェ…よくも壊しやがったな…」
「すみませんでした…。誰も住んでいないものだと…」
「……誰も、住んでねぇけど…」
「なんだ。じゃあ良いじゃないか」
「住んでなくてもオレの物であるのに違いはねぇだろ…。何、人の物ぶっ壊してんだ、あぁ?」
「…すみません」
全くの正論だった。そりゃそうだ。
でも、誰も居ないと思って………、あ!
この反転世界に居るのって、私達以外だとギラティナだけだったんじゃないのか?という事はこの金髪の男はギラティナ…?
「何、見てんだゴラァ!」
「すみません…」
どう見てもポケモンじゃないじゃないか!ユウキの嘘吐き!私達以外にも人が居るじゃないか!
「窓ガラス代、弁償します」
ユウキが。と心の中で付け足しておいた。
金髪の男は私を睨み付けてから、フンとそっぽを向いた。
「金なんて要らねぇよ」
「おお…!許してくれるなんて心が広いなぁ!」
「許すとは言ってない」
誤魔化そうとしたけどダメだった…。
とりあえず、窓ガラスの欠片を拾い集めろ。と怒られたので素直に従う事にした。
男が持って来た袋に欠片を入れて、何処から持って来たのかほうきとちりとりを渡されたので床に散らばった欠片も掃いて片付ける。
「片付けました」
「よし、じゃあ、次はこっちな」
「?」
タオルと水の入ったバケツを渡された。
こっちだ、と言う男の後について行けば石碑のようなものがあって、それを磨けという事らしい。
なんだろう、墓とか言うのだろうか…。こわい。
濡らしたタオルで石碑を拭き始めた。
「……」
石碑を拭く私の背後で金髪の男が見張っているので、手を動かすのを止められない。
だが、石碑自体がそんなに汚れているわけじゃない。金髪の男がマメに拭いているのかもしれない。しかし、この石碑…。
「ここに名前を彫るような所があるのに、名前が入ってないんだな」
石碑の中央辺りを指差して後ろを振り向けば金髪の男が眉を寄せて私を見下ろしていた。
*