一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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眉を寄せた金髪の男が腕を組みながら、小さく頷く。

 

「まあ…それはオレも思ってたけど…、その石がなんなのかよく分からねぇからな…」

「なんなのかよく分からないものを何故、拭かせる…!」

「知るか!分からなくても大事かもしれない気がするから、大事にしてんだよ!」

「意味が分からん」

「オレも分からねぇ」

 

溜息を吐いた男。

いや、溜息を吐きたいのはこっちだ。

 

「もしかして、お前、記憶が無いのか?」

「は?」

「大事かもしれない気がするけど、全く分からない物なんだろ?この石碑」

「まあ…」

「記憶喪失だな」

「いや…でも、オレは生まれた時からの記憶はちゃんとあるけどな…」

 

生まれた時からの記憶があるって凄過ぎないか?

 

「記憶が一部だけ知らずの内に欠ける、なんて事があるもんなのかよ?」

「いや、知らん。私は記憶喪失者らしいから」

「お前が記憶喪失なのかよ!!!」

「ポケモン、って生き物が居るって知ってるか…?小さなボールの中に捕まえられる生き物なんだぞ…」

「知ってるに決まってんだろうが!」

 

お前、やべぇな。と金髪の男に憐れむような目で見られた。

私にとってポケモンという生き物が居る時点でこの世界の方が可笑しい気がするのだがな…。そんなにポケモンって当たり前の生き物なのか…。

 

「でも、お前…オレと何処かで会ったこと、無いか…?」

「なっ…ナンパか…?」

「違ぇ!…なんか、なんとなくだけど、知ってるような知らねぇような…」

 

うーん、と考え込む金髪の男。

 

「私はお前と会って微塵も何も思わなかったが…」

「気のせい、かもな…うん、オレに人間の知り合いが居るわけないし…」

「……」

 

…え?人間の知り合い…?

どういう意味だろう、と呆ける私を無視して金髪の男はバケツを持ち上げて歩いて行ってしまう。

石碑を拭いた私にお礼くらい言え、と思ったが私が窓ガラスを割ったんだったな…。

慌てて男の後を追えば、男はチラリと私を振り返った。

 

「お前、あの女と一緒に来たんだろ…。さっさとここから出て行けよな」

「あの女…?ツバキと知り合いなのか?」

「知り合いじゃねぇ」

「???」

 

家の前まで戻って来て、男が向こうだと指を差した。

 

「この道を真っ直ぐ下って行け。あの女に家と石を見た事は言うなよ」

「…何故、言ってはダメなんだ?」

「ダメなもんはダメだから」

「???」

「あと、ギラティナは留守で居ねぇから」

「それは伝えても良いのか?」

「良いぞ。伝えてさっさと帰れ」

「分かった…」

 

じゃあな、と片手を振った男。

それに手を小さく振り返して不安定な道を真っ直ぐ下る。

途中で振り返ると…、さっきまであった家が消えてしまっていた。

変な場所だな。と思いつつ真っ直ぐ進むとツバキ達と合流する事が出来た。

 

「あ!シンヤさん!ギラティナ居た?」

「ギラティナは留守だって」

「……誰が言ったの?」

「なんか金髪の男が居て、言ってた」

「……」

 

他に人が居たんだ!と驚くユウキに頷いて返す。

ツバキは私の目の前で深い溜息を吐いた。

 

「また…捕まえる事が出来なかった…」

「今度、居る時にまた来れば良いじゃないか」

「ギラティナが留守なんて事、あるはずないから!」

 

でも、留守だって言ってたし…。

もしかして、騙されたのだろうか…。

 

「あーあ…、あたしが入れない所にまた引き籠っちゃったんだろうなぁ…。また、リベンジするかぁ…」

 

ボールを投げる事さえさせてくれないんだよなぁ、とブツブツ文句を言うツバキ。

ユウキに視線をやれば、苦笑いを返された。

 

「なんなんだ?」

「さあ?ボク、ギラティナの事全然知らないから」

「クワ~」

 

*

 

結局、ギラティナを捕まえられなかったので私の事について調べる事も出来なかったらしい。

ポケモンセンターに戻って来て、ツバキとユウキが顔写真付きの張り紙を作って情報を求めよう、と会話をしているのを放って置いて、私は部屋を出た。

後ろを付いて来たコダックを連れて、ポケモンセンターのソファに座る。

 

「良い天気だな…」

「コダー」

 

ソファに座って暫くぼーっとしていると隣でコダックが寝息を立てて眠っていた。

私も少し寝よう、と腕を組み、目を瞑った。

 

 

ザワザワ、と耳触りな騒音。

車のクラクション、笑い声、怒鳴り声…。

 

『元気にやってる?

今年のお正月こそ帰って来て、顔見せてよね』

 

犬の写真の絵ハガキ…。

 

 

『シンヤー!シンヤ、シンヤ、シンヤ!あの取引先嫌い!どうにかしてきてくれ!』

 

スーツ、書類、

沢山の名前……。

パソコンのキーボードの音が…、うるさい。

 

『シンヤ先輩ー!すみません!書類が間に合いません!』

『シンヤくん、先方に連絡頼む!キミの名前出せば一発だから!』

『シンヤさーん!休憩、私達と一緒に行きましょうよ~』

 

うるさい。うるさい。うるさい。

何でも私に言うな。私の名前を呼ぶな。自分でどうにかしろ。

それ以上…、私に、

 

「近付くなッ…!!!」

「グワッ!?」

 

隣でコダックがソファから落ちた。

バクバクと音を立てる胸を押さえて、深く息を吐く。

とても、嫌な夢を見た…。

受付に居たジョーイさんが私の傍に駆け寄って来て、私の肩に手を置いた。

ゾワゾワする…。

 

「シンヤさん、大丈夫!?」

「……大丈夫、です…」

 

返事をしつつ、ジョーイさんの手を、肩から退けた。

触られると気持ち悪い。人と目が合うのも気持ち悪い。

 

「変な、夢を見て…」

「大丈夫よ…。何か飲む?それとも横になりたい?」

「……外に、出ても良いですか」

「良いわよ。一緒に行くわ」

「いえ…、少し一人になりたい、です…」

「ダメよ、アナタの顔…真っ蒼だもの。一人になんて出来ないわ」

「お願いします…、人が気持ち悪くて…」

「……」

 

ジョーイさんから少し距離を取る。

心配してくれてる気持ちは有難い事ではあるが、今は気持ち悪くて仕方が無い。今すぐ、離れたい。会話を続けるのも嫌だ。

立ち上がってポケモンセンターの外に出る。

 

「離れた所に行かないでね!絶対に近くに居てね!」

「……」

 

 

ああ…、

 

う る さ い 。

 

 

*

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