「おはようございます、新聞ください」
「おはようー!いつもありがとねー」
ありがとうございました。とお辞儀をして去って行く燕尾服を来た少年にハツヤは手を振った。
受け取ったお金を相棒であるニャースに手渡し、ニャースはそのお金を器用に貯金箱へと入れた。
「ニャー」
*
貯金箱を持ったニャースを連れた新聞配達員と各所ポケモンセンターでは馴染みとなって来たハツヤ。
シンオウ地方のポケモンセンターを転々と移動して毎日の新聞を売る日々。
「あら、ハツヤさん、いらっしゃい」
「毎度どーも」
「ニャースもおはよう」
「ニャー!」
今日はナギサシティのポケモンセンターで新聞を売らせてもらおう。
ポケモンセンターのソファに座って、新聞を買いに来る人をただ待つだけ。客引きなどせずとも客を招くニャースは通る人々に手をこまねいてみせる。
そして、今日も燕尾服を来た少年がやってきた。
「おはようございます、新聞ください」
「おはよーさん、いつもありがとねー」
「ありがとうございます」
お礼を言ってお辞儀をして去って行く燕尾服の少年。
ヒラヒラと手を振って、少年の背が見えなくなったのを確認してから、ハツヤは隣に居るニャースに声を掛けた。
「ニャース…」
「ニャ?」
「あの子さぁ、毎日のように新聞買いに来るよな」
「ニャー」
有難いことじゃないの、とても言うようにニャースは頷いて鳴き声を返す。
真剣な面持ちでニャースを見つめたハツヤは言った。
「お前、分かってないだろ。あの子、毎日のように来るんだぞ!?」
「ニャー」
「昨日はトバリ!今日はナギサだぞ!?」
「ニャー」
「あの子、何処に住んでるんだよってなるだろ!?」
「ニャー」
ううん、と頭を抱えたハツヤ。
まあ、何処に住んでいようと新聞を買いに来てくれる常連客。詮索してもう買いに来てくれないなんてことになるのはごめんだ。
しかし、ハツヤの中であの子は実は幽霊なんじゃ…という気持ちが強くなりつつあった。
「なんか、どっかのお屋敷勤めの子でさ…、毎朝、屋敷の主人の為に新聞を買いに来てるんじゃねぇかな…」
「ニャー」
「屋敷が無くなっても、自分が死んでいることにも気付かず、忠実に毎日毎日、新聞を買いに来てるんじゃないか、って思うんだよ…」
「ニャア」
「というわけで、頑張って移動してキッサキシティまで行くぞ?」
「ニャ!?」
「さすがにキッサキまで行ったら来ねぇだろ!ものは試しだ。頑張って登ろう」
「フニャァァ!」
「あー、だめだめ、怒ってももう決めたもーん」
暖かい格好して頑張って行こう。と決意したハツヤ。
ノモセに移動した際には燕尾服の少年はいつも通り新聞を買いに来ていた。
その次に移動した、ヨスガシティのポケモンセンターでジョーイさんの横に立つ有名人を発見。
「おー、シンヤさんじゃないですかー」
「ああ、ハツヤさん。どうも。ニャースもおはよう」
「ニャー!」
「ズイ以外で見掛けるのって珍しいですねぇ」
「昨日の夜に急患で呼び出されてな、こっちで徹夜だ」
「あらら、お疲れさんです」
「ついでに新聞くれ」
「毎度ですー」
はい、とシンヤがニャースの貯金箱にお金を入れた。チャリンと良い音がしてニャースがご機嫌に鳴き声をあげる。
シンヤとの会話もそこそこにハツヤはいつもの定位置であるソファに腰掛ける。
しかし、待てども待てども、その日、燕尾服の少年は来なかった。
「んー、今日は来ない日かぁ」
毎日のように来るが、来ない日も勿論ある。
このままキッサキまで行って幽霊かどうか確かめるなんて馬鹿な真似はやめようか、どうしようか…。ただ疲労するだけかもしれない。
考え込むハツヤに仕事を終えたらしいシンヤが声を掛ける。
「夕刊もくれ」
「あ、はい」
お金をニャースの貯金箱に入れながらシンヤが首を傾げる。
「どうした?ぼーっとして」
「いやぁ、次にキッサキまで行くか迷ってて…」
「キッサキまで行くなら私のトゲキッス貸してやるぞ?」
「え!良いんですか?」
「ああ、ニャースが可哀想だからな」
「にゃぁん!」
ごろごろと喉を鳴らすニャース。
この人はポケモンにはとことん甘い人だなぁとハツヤはハハハと苦笑いを返した。
「あ、でも、シンヤさん、ズイに帰るんじゃ?」
「大丈夫、移動手段がもう一匹居るから」
「そうですか!じゃあ、お言葉に甘えます」
ポンとボールを投げて出て来たシンヤのトゲキッス。
お世話になりますー!とハツヤが頭を下げれば、トゲキッスもペコリと頭を下げた。
それじゃあ、とシンヤと別れたハツヤはヨスガでの滞在もほどほどに次の日の朝に間に合うよう、キッサキへと向かった。
寒い雪空の移動はなかなかツライものがあったが、この雪山を歩いていたかと思うと寒さなんて吹き飛んだ。
シンヤ様、トゲキッス様様である。
キッサキシティに着いてジョーイさんに挨拶する。
「あら!ハツヤさんとニャース!凄く久しぶりね!」
「なかなか来難いんですもん、ここー」
「ふふふ、そうよね」
はい、と言いながらジョーイがニャースの貯金箱にお金を入れた。
ハツヤから新聞を受け取って、ジョーイが嬉しそうに笑う。
「やっぱり新聞屋さんから直接買う方が嬉しいわね」
「ありがとうございます」
「ペリッパーが運んで来るだけなのって結構寂しいのよ?」
「ハハハ!オレの新聞も毎晩ペリッパーが運んで来てくれてるの手渡しで売ってるだけなんですけどね」
「同じ物でもなんか違うのよ!気持ち的に!ニャースの貯金箱にお金も入れられるしね!」
みんな、喜ぶわ。とジョーイが笑う。
ハツヤが定位置のソファに座れば、ハツヤの存在に気付いた住人が嬉しそうに新聞を買いに来た。
ニャースの頭を撫でて帰る住人を見て、やっぱり大変でも新聞配達って楽しいなぁとハツヤはしみじみと思った。
そして、住人の中に紛れて燕尾服の少年が来た。厚着をしている住人達とは違い、いつもと同じ燕尾服の少年。
傍で待機していたトゲキッスの羽にハツヤはそそそと擦り寄った。
「おはようございます、新聞ください」
「はぁい、いつもありがとうー」
「ありがとうございます。それじゃ、お疲れ様ですー」
珍しく手を振って帰って行った燕尾服の少年。
え?オレに言ったの?視線は隣だったような?とハツヤはトゲキッスへ視線を向ける。
トゲキッスは小さく首を傾げた。
「トゲキッスさん、お知り合いですか…」
トゲキッスはニコリと笑うだけ。
「お知り合いなら是非、教えて欲しいんですけど…。あの子、生きてる子ですかね?」
「???」
キョトンとした顔をするトゲキッスにハツヤは真剣な顔で言った。
「あの子、シンオウのどの街に行っても、毎日のように新聞買いに来るんですよ!幽霊ですよね!?あの子!」
トゲキッスは大きく首を横に振った。
「えぇー…、嘘ぉー…」
疑いの目でトゲキッスを見るハツヤをニャースが止めた。
「ニャーニャ」
「ニャースまでオレを馬鹿にして!絶対におかしいもん!人間が出来る芸当じゃねぇもん!」
「キッスゥ…」
「ニャゥ…」
まあ、人間じゃないしねぇ。と言った所でハツヤには伝わらなかった。
次の日、
ミオまでトゲキッスに送ってもらったハツヤはポケモンセンターの前でトゲキッスと別れて、定位置であるソファへと座った。
そして、やって来た燕尾服の少年。
「おはようございます、新聞ください」
「はい、どうぞー」
新聞を渡し、お金を受け取ると同時にハツヤは少年の手を握ってみたが手袋をしていたので体温は感じられなかった。
「…え?あの…?」
「少年…キミに……、いや、やっぱり止めておく。また買いに来てね」
「え?あ、はい。また来ます」
ありがとうございます。とお辞儀をして去って行った少年。
人間ではないと思う。そう思うのだけど確認したらもう新聞を買いに来てくれないとも思う。ハツヤは好奇心と収入を天秤にかけた結果。
常連客って大事だよね。という考えに至ったので確認するのは止めておく事にした。
「毎日のように買いに来てくれるんだもんな。人間じゃなくったって問題ねぇな」
「ニャー」
【 招き猫と新聞屋 】
新聞を買っていつも通り、反転世界に戻って来たチルタリスをトゲキッスとギラティナが待っていた。
「…?どうしたんですか?」
「チル、ハツヤさんに何か言われた…?」
「いえ別に?また買いに来てねって言われたくらいです」
「良かったー!なんでか分かんねぇけどセーフ!!」
「ハツヤさんが深く詮索しない人で良かった…!」
「え?どういうことですか?」
「チルはね…、毎日のように色んなポケモンセンターで新聞を買ってたんだよ…」
「……ズイの、ポケモンセンターじゃなくてですか?」
「いや、ごめん。オレ、新聞屋の顔とニャースを確認して繋げてたんだわ…」
「え!?ということは、チルは毎朝色んなポケモンセンターに現れる異様な人になってたということですか…!?」
「「そう」」
「そんなの絶対に怖いじゃないですかー!!」
「まあ、あの新聞屋なら大丈夫みたいだし。良いじゃん!」
「えー!!!ギラティナ様ぁー!!」
「マジすまん!」
話し合いの結果、
これからも買いに行くことにした。
「おはようございますー、新聞ください」
「おはよー、いつもありがとねー」
「ニャー」
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