一目惚れした15年前。
10歳にしてエンターテイナー!
するどい指示で次々と相手のポケモンを倒していき頂点に立った少年にハートを打ち抜かれた。
相手は一回りも下の子供だったから、勿論、恋をしたとかじゃない。恋愛したいとかそういう願望はなかった。
ただ応援したい!この子の成長を見守りたい一心!
次にコーディネーターに転身した彼。
一気に大スターになった事でにわかファンが続出した。
大ファンですー!なんて言ってサインを求める連中にうんざりした。私はもっと前からファンですけど?それにサインなんて彼に煩わしい思いをさせるなんてファンとしてどうなの?
憤りしか感じなかった。
群がる自称ファン共を牽制して、ボディガードの様に彼へ近づけさせないように頑張ってた時期もあった。
そして、煌びやかな舞台から降りた彼はブリーダーになった。
自称ファン共は蜘蛛の子を散らすように消えていったが、私は彼を追い掛け続けた。
目立つ事なんてしない!
影からこっそり見守るだけ、ポケモンに愛情を注ぐ彼を見て癒された。
彼はバトル、コンテストと戦いの中で培ったポケモンを育てる力を活かす仕事に就いたんだな、と心から思った。
もう転身はしないだろう、と思っていたが彼は私の想像を遥かに超えてきた。流石だった!
ポケモンドクターになった彼は変わったと思う。忙しそうにはしていたけど、だんだんと穏やかになっていったと、見ていて思った。
そして、彼の周りに親しげな人達が増えていった。
ファンなんて名乗る存在じゃない。彼が必要とし、彼を必要とする人達が、彼を支えているのだと分かった。
そこに、私が居ないことも分かっていた。
私はただ見守るだけ。
所有している家になかなか帰って来なくて、現在の家が何処か分かってないけど、実家のあるズイの近くには住んでいるっぽい彼。
度々、実家に帰って両親に会っている彼はとても親孝行な人だと思う。
今日もズイのポケモンセンターに彼は居た。
「今日もすごく忙しそう…」
「お前ー!!!」
彼を見守っていると大きな声で怒鳴られた。
彼と親しくしていて、彼を遠くから見守る私を尽く見付けては怒りにくる、この子!
「ミロちゃん!静かにして!今、忙しいの!」
「またシンヤのこと見に来ただろ!!覗くな!変態か!」
「見に来てるけど何!?覗いてないし!見守ってるだけだし!!変態という名の紳士だし!!」
「はぁああ!?!?」
「静かに!気付かれちゃう!!」
「気付かれて怒られろ!!シンヤは俺様のだからダメだって言ってるだろ!?」
「そんな!そんな!私の物だけにしたいなんて言ってないじゃない!ただ見守ってるだけじゃない!…でも、別れたら良いのになー!」
「別れないぃいい!!」
「嘘嘘!お似合いだと思ってるから!3センチくらい!」
「3センチくらいってなんだ!!」
この子はミロちゃん。
彼の恋人。顔はとても可愛いと思う。性格はかなりアレだけど。自分のこと俺様とか言っちゃう痛い系だし。
でも、実際に彼の本当に本当の恋人で、彼がミロちゃんをとても大切に思っているのを知っている。ずっと見守って来た私だから言える。
彼はミロちゃん以外なんて眼中に無いくらい、この子の事をちゃんと愛してる。
彼の左目が赤くなった理由をミロちゃんから聞いた。詳しくはさすがに教えてくれなかったけど、彼の目が事故で無くなってしまったから自分の目をあげたのだと言う。
ミロちゃんの彼への愛も本物だと思う。私だって捧げられるなら左目でも右目でも捧げたけど。
なんて考えていたら彼が行動しだした。
この時間にカバンを肩に掛けてポケモンセンターを出て来た…ということは…。
「これからランチだわ!」
「え!?俺様もご飯食べる!!」
「待って!一緒にランチに行くなら後で何処のお店でどのメニューを頼んで食べたのか報告して!!」
「嫌」
「お願い!後で同じお店で同じメニューを頼んで同じ味を味わいたいから!お願い!」
「気持ち悪い!嫌だ!」
「報告してくれないなら、付いて行って遠くから見てるわよ!?」
「それも凄い嫌だ!」
「報告する、見守られる、どっちか選んで!!」
「ううう!」
さあ!どっち!とミロちゃんと真剣に話し合いをしていたら背後を取られた。
慌てて振り返れば、彼が居た!
「何やってるんだ…」
「シンヤくん!!どうしてここが分かったの!?」
「大声で騒いでてよく言えるな、そんな言葉」
「うわーん!シンヤー!苛められたー!」
「良かったな」
「良くない!!」
ぷんぷん!と怒るミロちゃんの頭を彼…シンヤくんが撫でた。ああ、羨ましい!今だけミロちゃんの前髪辺りになりたい!
「昼ご飯食べに行くぞ」
「何処に行くか、言っちゃ駄目だからな!」
「なんでだ」
「コイツ!同じ店で同じ味を食べようとしてる!」
「………別に良いだろ、それは」
「そうよ!悪いことじゃないわ!気持ち的には害悪かもしれないけど!その行動自体は問題無いはずよ!」
「気持ち的に害悪なのか……」
「ミロちゃんが感じる気持ち的にってこと!私の心は純粋な愛の気持ちでいっぱいよ!」
「はいはい」
「お前、帰れ!」
ガルル!と呻るミロちゃん。
相当、ご立腹の様子。このまま会話を続けていたらシンヤくんがどんどん空腹になってしまう。
ここは大人の私が身を引くのが大事……。
「分かったわ、今日は帰るから」
「早く帰れ」
「ええ、さようなら」
シンヤくんとミロちゃんに背を向けて去る私。
引き際も大事なの。嫌がられる事をし続けるのはファン失格だものね。
そっと、木の影に隠れてチラリと二人の様子を覗いた。
「見えてる!!」
「私は木の幹です」
「帰れ、ばばあ!」
「ばばあって言わないで!ちょっとお姉さんなだけ!」
「はいはい、もうお腹空いて来たから行くぞ」
「アイツ…!」
「ムツさんも一緒にどうぞ」
「え!良いの!?本当に!?」
「お前、いつも結局邪魔しに来るよな!!」
「ミロ。ムツさんに何言っても無駄だからな?この人、無敵だから」
「無敵ばばあ!」
「ばばあって言わないで!ちょっとお姉さん!」
【 熱狂的ファン 】
「シンヤくんが食べようとしている物と同じ物を同じタイミングで食べる!はい!今、これ、シンヤくんの口の中と同じ味!」
「俺様も今、同じの食べたー!しかも、俺様の方が早く食べたから、シンヤの口の中の味と一緒なのはこっちの味ー!」
「凄い次元で会話するのやめろ」
「あ!この味付けはシンヤくん好みの薄味!良い店認定!」
「シンヤはこっちのが好きだから!こっちのやつ!」
「違いますー!シンヤくんはこの料理の方が好きですー」
「どっちも好きだぞ」
「きゃっ!好きとか言われちゃった!」
「言われたの俺様だし!」
「料理に言ったんだが?」
「この味付け、家で練習しよーっと!今度、シンヤくんにお弁当でも差し入れしちゃおうかなー」
「え!ダメ!持って来たら俺様が食べる!!」
「ダメダメ!良いでしょ!お弁当の差し入れぐらいさせてくれても!」
「弁当に変なもの入れる気だろ!」
「やましいもの入れませんー!愛情しか入れませんー!」
「……」
「シンヤくんの好きな和え物入れて―、あと出し巻き卵とー」
「甘いやつにしろ!シンヤの嫌いな甘い卵焼きにしろ!」
「……」
二人が仲良過ぎて、シンヤがぼっちになるのは毎度のことだった。
「私、もう食べたから先帰る…」
「「え!?!?」」
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