ポケモンレンジャー基地にやってきた少女の姿に周りは息を飲んだ。
まさに可憐な美少女な彼女の姿に見惚れるばかり。
受付までやって来た少女はニコリと笑った。
「ヤマトさん、いらっしゃいますか?」
ヤマト指名だと!?ヤマト!?なんでだ!と周りで待機していたレンジャー達の心の声。
受付嬢が内線でヤマトへと繋ぐ。暫くして、ヤマトが慌てて走って来た。
「すみません!お待たせして!」
「いえ!全然!こちらこそ、急にお伺いしてすみません…」
「いえいえ、それこそ全然です!何か困りごとですか?」
「はい。ヤマトさんに依頼したくて」
「何でもどうぞ!」
にこやかに笑うヤマトに少女は笑みを返した。
以前、
迷子になったルリリを探して欲しいと依頼をしてきた少女、イズ。
ヤマトとブラッキーの捜索で無事、ルリリは保護された。
そして今回、再度依頼があるとヤマトを指名してきた。その依頼内容は…。
「はぁ~?ルリリのブラッシングの仕方を教えて欲しい?」
「そうなんだよー」
ブラッキーが眉を寄せる。
「そんなもん、蒸しタオルで拭くだけで十分だろ」
「いや、シンヤに聞いてきたら柔らかいブラシで撫でるくらいでも良いって」
「どっちにしろ大した内容じゃねぇ!」
「でも、そういう依頼だし…」
「その辺の育て屋でもブリーダーにでも口頭で聞けば済む話を、な・ん・で!レンジャーに依頼してくるんだよ!!」
「え~…、そんなに怒ること…?」
「!」
ヤマトの言葉にブラッキーは口を閉ざした。
確かにどんな内容であっても仕事は仕事。
でも、ブラッキーは納得出来なかった。わざわざヤマトを名指しで指名して家に呼ぶなんてやましい理由が無いわけがない。
絶対に、確実に、ヤマトを狙ってる!
「オレ、今日はポケモンの姿に戻らないからな…」
「え?うん」
二人きりになどさせてたまるものか、とブラッキーは眉間にぐっと皺を寄せた。
*
依頼者、イズの家に着いて、ヤマトがインターホンを鳴らした。
すぐにバタバタと走って来る音が聞こえて勢いよく玄関の扉が開いた。
「あ!ヤマトさん、ツキさん!!いらっしゃいませ!」
「こんにちはー、ご依頼ありがとうございますー」
「こちらこそ、わざわざ来て下さってありがとうございます!!どうぞどうぞ!あがって下さい!」
イズがニコニコと笑顔でヤマトとブラッキーを迎えた。
その様子にブラッキーは小さく首を傾げる。
想像してた反応と違ったな、と…。
リビングに案内されて、早速、ヤマトはシンヤから借りてきたブラシを取り出す。
「えっと、まずはブラシの説明なんだけど」
「はいっ」
「ブラシの毛は極細で柔らかいものが良いんだって」
「なるほど」
「ブラッシングは撫でるようにすること」
「はい!」
「でも、そもそもルリリはブラッシングはあまりしなくて良いらしいよ。蒸しタオルで軽く拭いてあげるだけでも十分、清潔を保てるからね」
「分かりました」
とりあえず、実際にやってみようか。とヤマトがイズにブラシを手渡そうとした。
が、それをイズは止める。
「実際にお手本を先に見せてもらって良いですか?」
「お手本??」
え?ただ、ブラシで撫でるだけなのに…?と思いつつもヤマトは笑顔で頷いた。
「じゃあ、ルリリ、ブラッシングするよー?」
「ルリリリリリ!!」
「えー!?なんでー!!」
ヤマトが手を伸ばした途端、転げまわり触られるのを拒否するルリリ。
慌ててブラッキーがルリリを両手で鷲掴みにする。
「掴んだっ!!」
「ダメだよ!無理やりはやめてあげて!」
「ルリリリリリー!!」
「コイツ、めちゃくちゃ嫌がってる!」
「え!?じゃあ、イズさん、ちょっと宥めてあげてくれるかな?」
「分かりました!うちの子がすみません…」
すみませんすみません、と謝りながらブラッキーからルリリを受け取ったイズ。
「もぅ、ルリリ、良い子にしなきゃダメでしょ?」
と声を掛けながら、
そっとルリリに顔を寄せたイズはヤマトとブラッキーに聞こえない程の小さな声でルリリに囁いた。
「ルリリ、グッジョブ、その調子…」
大人しくなったルリリが再びヤマトの前に座らされた。
ちょこんと大人しく座っているルリリに「じゃあ」と再びヤマトが手を伸ばす。
「ルリリリリリ!!!!」
「なんでーっ!?」
転がりながらヤマトにタックルしてくるルリリ。
慌ててブラッキーが再びルリリを捕まえようと飛び掛かる。
「お前!落ち付けって!!!」
「ルリリリリリリー!!」
「コイツ、全然、話聞いてないぞ!?」
「え!?どうしよう!?ブラッシングはやめとく!?」
もうブラッシングを諦めることを提案したヤマトをイズが静止する。
「いえ!ここでやめたら、ルリリのしつけによくないと思います!嫌がっても続けるべきかと!」
「ええ!?ストレスになっちゃうよ!?」
「このままじゃ、ルリリの為にもよくないです!お手入れを一生させてくれないままで終わります!」
「た、確かにそうかもしれないけど…」
「ルリリリリリ!!!」
暴れるルリリを捕まえていたブラッキーがルリリに噛みつかれた。
「痛っ!」
「大丈夫!?」
慌ててヤマトがブラッキーの手を取る。
歯型が少し付いているものの血が出ていない事にヤマトはほっと胸を撫で下ろした。
傍で見ていたイズが拳を握りしめた。
「…~~ッ!ルリリ!ダメでしょ!」
「ルリリリリ!!!」
「本当にごめんなさい!」
ペコペコと頭を下げるイズ。
「あー、大丈夫大丈夫」
うーん、とブラシを見つめたヤマトがブラッキーに提案する。
「ブラシがダメだと思う?タオルに変える?」
「…とりあえず、何でもやってみようぜ」
「タオルですね!あります!」
はい、どうぞ!タオルです!とイズがヤマトにタオルを手渡す。
「じゃあ、軽く拭くだけの練習をするね」
「はい!」
ブラッキーに掴まれたままだったルリリ。
タオルを持ったヤマトの手が近付いた途端に再び暴れ出した。
「ルリリリリ!!」
「もしかして、僕がダメなのかな!?」
「タオル貸して!」
ヤマトからタオルを奪い取ったブラッキーがルリリにタオルを被せる。
「はい!今、拭け!」
「ごしごしごしー!痛くないよー!こわくないからねー!」
ブラッキーがルリリを抑えながら、ヤマトがタオルで拭く。
そんな二人を見てイズが「凄いです!」と拍手をした。
「はぁ……、とりあえず、これくらいで良いかな…」
「タオルで拭くのも大変とか……」
「ルリィ…」
ぐったりした二人とルリリ。
悲しげな表情をしながらイズがヤマトに近付いた。
「ヤマトさん…本当にご迷惑をお掛けして、すみませんでした…」
「いや!大丈夫だよ!お手入れを怖がる子はしょうがないもん」
「私一人じゃどうも出来なくて…、でも、ヤマトさんとツキさんお二人のおかげでルリリも少しは慣れてくれたと思います!」
ぐったり横たわっていたルリリを抱き上げてイズがニコリと笑った。
「余計、怖がりそうなくらい押さえ付けたけどな…」
「うん……まあね……。イズさん、もし、今後もルリリが暴れるようだったら言ってね?手伝うから」
「ありがとうございます!」
本当に助かりました!とイズに言われたものの、今日のミッションは失敗だったかもしれない、と落ち込むヤマトの背をブラッキーが優しく叩いた。
「どんまい、こういう日もあるって」
「ありがとう、ツキくん」
「……!!お二人って本当にとっても仲が良いんですね!」
「え?うん、まあね」
ヘラリと笑ったヤマトにイズはニコニコと笑顔を返した。
*
ヤマトとブラッキーが帰った後、イズは各所に隠していたカメラを回収。
そして、うっとりと息を吐いた。
「あの二人!!本当にイイわ~!!もう最高!目の保養!二人が協力して頑張ってる姿とかもうたまらん!!
あ、ルリリ、お疲れっ!」
「ルリィ…」
「ツキさんの手を噛んだ時が超ナイス!ヤマトさん凄い慌ててツキさんの手を握ったんだよ!?あれ、絶対に付き合ってる!!絶対よ!絶対!」
「ルリ…」
「もう次、どうする!?何させる!?あの二人がするんならもう何でも萌えるけど!」
「……」
「あ!ルリリ!めちゃくちゃ高い所に登って下りられなくなるってどう!?そしたら、ヤマトさんかツキさんのどっちかがどっちかを肩車してルリリのこと助けてくれる展開になるかも!」
「ルリ…」
「あー、でも、ヤマトさんが担ぐ方やりそう!ツキさんにそんな力仕事させるイメージないし!ツキさんの太ももに顔を挟まれるヤマトさん…!!!くっそイイ!!!」
たはー!!!と身悶えるイズを見てルリリは項垂れた。
そして、後悔している。
あの時…迷子になんてなるんじゃなかった、と…。
「ルリィ……」
そしたらご主人はただの美少女だったのに…。
【 腐りましたけど何か? 】
帰り道、ブラッキーは腕を組み首を傾げた。
「普通に依頼だったのがおかしい…」
「え?なんで?」
「ヤマト狙いの女だと思ったのに」
「へぁ!?急になに!?あんな可愛い子が僕狙いなわけないでしょ!?」
「………だよなぁ!!いや~…まじで、なんでわざわざヤマトなんか指名したんだろ…もっと優秀なレンジャーに頼めば良いのに。理解出来ねぇ~…」
「……あの…それ、色々と普通に傷付く…」
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