「こんにちはぁ~!可愛いポケモンちゃんに沢山の栄養を!飲めば元気百倍!攻撃力もグングン上がる!魔法のようなスーパードリンク!今ならお買い得!一本15000円!!
どうです?こちらのカフェでも並べてみませんか?ポケモン連れのお客様も大喜び間違いなしですよ~!!」
スーツ姿でニコニコと笑う男。
ドドンとカウンターに置かれた栄養ドリンクの箱。
ええー!すごーい!と目を輝かせるチルタリスの横でサマヨールは冷たい目で男を見ながら言った。
「……ただのタウリンだと思うのだが」
「………ぃや~……」
「おまけに…トバリデパートで購入するものより高くないか」
「……………いや!いやいやいや!勘違いしてますよ!お客さん!これはタウリンではなく!スゥゥパァアードリンク!!デパートで買えちゃうものとはわけが違います!!」
「どう違うのか説明してみせてくれ」
「……えっとぉ……、沢山の栄養が入ってて、飲めば元気百倍になって、攻撃力もグングン上がるんです!」
「……それは、さっき聞いた」
「……」
「……」
カウンターに置かれていた箱を静かにバッグに戻した男はカウンターの席に座った。
そして深く溜息を吐く。
「俺だって知ってるんですよぉ…!!これがただのタウリンなんだろうってことくらい!!」
「……」
「でも、マニュアルにはそう言えって書いてるしぃ!一本15000円でノルマ500本なんですよぉ!?俺だって気付いてますよ!詐欺商売のブラック企業だってことくらい!!
もぉおおお!!!カフェオレ下さい!!」
「あ、はい」
「……」
いそいそとカフェオレの用意をするチルタリス。
カウンターに座った男はまた深く溜息を吐いた。
「入社した時点でもうこれヤバイやつだな、って気付いてはいたんですけど!!何処も就職難じゃないですかぁ!親にも就職出来たよ!って報告した手前、そんなすぐ辞められないしぃ!!
あなた、店長さんですか!?ここは俺を助けると思って10本くらい買ってくれません!?なんとか店に並べてくれませんかね!?」
「自分は店長ではない…」
「あぁぁぁ……ノルマが達成出来ないぃぃぃ…」
頭を抱えて呻る男の前にチルタリスがそっとカフェオレを置いた。
「カフェオレです」
「あ、どうも…」
ずずず、とカフェオレを啜った後に男はまた溜息を吐いた。
「飲むと体力アップ出来るドリンクもあるんですけど!どうですかね!?」
「マックスアップ、だな」
「そうですぅぅぅぅ…そうなんですぅぅ…!!どうあってもそうなんですぅぅうう!」
わんわんとカウンターで泣き崩れる男。
外出していたマスターが戻って来て、ぎょっと目を見開いた。
「え!?お客さんどうしたの!?」
「おかえりなさい、マスター」
「おかえりなさいませー」
「…マスター?え?店長さんですか!?」
男が立ち上がればマスターはこくこくと頷いた。
「店長さぁぁん!!今日、とってもお買い得な商品を持って来たので是非見て下さいー!」
「え?営業?」
「営業です!ですが、下手な商売じゃございません!ご覧下さいこちらの商品!可愛いポケモンちゃんに沢山の栄養を!飲めば元気百倍!攻撃力もグングン上がる!魔法のようなスーパードリンク!今ならお買い得!一本15000円で販売しております!!
どうですか!お店に並べてみませんか!ポケモン連れのお客様も大喜び間違い無しですよ!」
男の言葉に「えぇー!?」とチルタリスが驚いた。
勿論、商品に驚いたわけではない。一言一句さっきと同じセリフだったことに驚いたのだ。
「どうやら…マニュアルは1種類だけらしいな…」
「ひぇ~…」
営業の男にドドンとドリンクを差し出されたマスターは目を丸くする。
「……え?これで、ポケモンの攻撃力が上がるの!?ホントにぃ!?」
「………え?……ええ!勿論!上がります!上がります!飲めば飲む程に上がります!!」
「そんなドリンクがあるなんて凄いなぁ!!えー!どうしようかなぁ!結構、値が張るけど…えー!凄いなコレー!」
キャッキャッとはしゃぐマスター。
おろおろとうろたえるチルタリスにコイツはカモやでぇ、と男がニンマリと笑みを浮かべた。
「マスター…、一度、主に相談されてみてはどうかと…」
「あ!そうだね!こういう栄養的なのはシンヤさんに聞いてからにしよう!」
「え!?ちょ、っと待ってもらえます?」
「なに?」
「こちらの商品!栄養はお墨付きでございますので安心してください!」
「うん、でも、シンヤさんに聞いてから考えるよ」
「……こちらの商品、そのシンヤさんのお墨付きでございます!!」
「えぇー!そうだったのぉ!?凄過ぎぃ!!」
えぇ!?とチルタリスが声をあげる。
小さく溜息を吐いたサマヨールはカウンターから出て、契約書を握りしめる男の肩を押さえた。
「嘘はダメだ……」
「………そこをなんとかぁ…」
「ダメだ」
「栄養的にはシンヤさんも重々承知のお墨付きかとぉぉ…」
「勝手にうちの主の名を使ってもらっては困る」
「今回だけなんとか……」
「ダメだ」
お願いしますお願いしますとプルプル震える男にサマヨールは首を横に振り続ける。
押し問答を繰り返しているとカランカランと扉の開く音。店に入って来たシンヤは眉間に皺を寄せる。
まさか、店に入った途端、うちのサマヨールが男を泣かせているとは思わなかった。
「あ、シンヤさん、いらっしゃーい」
「なにやってるんだ…」
「今この時!俺に救世主現るぅう!!!シンヤさん初めましてぇ!わたくし、本日こちらにとってもお買い得な商品をお持ちしたんでございますー!」
「は?」
「こちらの商品、可愛いポケモンちゃんに沢山の栄養を!飲めば元気百倍!攻撃力もグングン上がる!魔法のようなスーパードリンク!今ならお買い得!一本15000円で販売しております!
いかがですか!こちらのドリンク!どう思いますか!!!」
男に捲し立てられたシンヤは渡されるがまま栄養ドリンクを一本受け取った。
栄養ドリンクに視線を落としてから男へ視線を戻す。
「……つまり、これはタウリンより効果の高い栄養ドリンクということか?」
「………ぇっとぉ…、そうなりますね!!!」
「どれくらい効果の差があるんだ?」
「……倍、くらいですかね?ほぼ、倍くらいです…!」
「倍!?それは凄いな…、それで15000円とは驚いた…」
そんなに凄いの!?とマスターが食い付いた背後で、サマヨールは男の肩を掴む。
ギリギリと指が食い込み男の顔が歪む。
「…っ!?!?」
「本当に、倍、あるんだろうな……」
「倍、くらい、ある、かなぁ…って…」
「主を騙すと言うなら容赦はしないぞ……」
「い゙ーーー!!!!」
男は肩にサマヨールの渾身の握力を食らった。
【 セールスマン 】
「ん?これ、タウリンより飲みやすいな?」
「あ゙!勝手に飲んでるぅぅ!!!」
「飲みやすくなってる上に効果が倍か…、やるな。どこの会社の製品だこれは…?」
「え…」
「名刺くれ」
「…え゙」
「名刺」
後日、効果は倍とまではいかなかったがタウリンより効果が良いドリンクだったのでシンヤのお墨付きを貰った。
「え?この会社、詐欺商売のブラック企業じゃなかったの?まじでー?」
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