一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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仮の姿/花屋


花屋さん(仮)

「レシアちゃん、おはよー」

「おはよう、ツキくん」

 

花屋の店員である女性、レシアに声を掛けたブラッキー。

今日も可愛いね、といつものごとくお世辞を振りまく彼にレシアはニコリと笑った。

 

「愛想振りまかれても嬉しくないわ。とりあえず花を買いなさいよ」

「今日もキツイわー」

「胡蝶蘭、入荷してるわ」

「高いよ…」

 

とびきりデカイわよ、と背後にある鉢を男前に親指でビシリと差したレシアにブラッキーは苦笑いを返す。

 

「お金なら持ってるでしょ?」

「オレは持ってないよ」

「なら、ご主人に強請って来なさいよ」

「やだー…」

「稼いでるんだから、部屋に胡蝶蘭くらい飾りなさいよ」

「おめでたい日でもないのに胡蝶蘭って…」

 

困ります…としょんぼりするブラッキーにレシアは詰め寄る。

 

「なに?私の勧める花が買えないっての?」

「……、」

「あ゙?」

「……、、、」

 

縮こまるブラッキーに詰め寄るレシア。

 

「はい、そこまで」

「店長…!」

「邪魔してんじゃないわよ」

「ツキくんをいじめるのはやめなさい。ほんとに…ごめんね、ツキくん、毎度毎度」

「いや、美人に虐められるのも有りなんで」

「じゃあ、胡蝶蘭買いなさいよ」

「それはちょっと…」

「は?買えよ?」

「やめなさーい!」

 

二人の間に入った店長は手をパンパンと叩いた。

 

「はい、仕事しましょー。レシアはプレゼント用のお花をどんどんラッピングしてね」

「ちっ」

「え?今、舌打ちした?」

「してないわ、気のせいでしょ」

 

仕事するわ、と店の奥に行くレシアを見送ったブラッキーと店長。

 

「今日も可愛いですね!」

「ツキくん、ポジティブ過ぎない?」

「女子にやられて嫌な事なんて無くない?」

「いや、あるよ。本当にレシアには困ってるんだから、毎日、毒状態にされる俺の身にもなってよ」

「またまたぁ!そういうのが好きな癖にぃ!」

「好きじゃないよ!!!昔は可愛いナゾノクサだったのに…あの時に戻って欲しい…。素直で毎日笑顔を振りまいてくれてたあの頃に…!」

 

ううう、と本気で泣きだした店長。

慌ててブラッキーが店長の背を擦った。

 

「でも、クサイハナにした時点でこうなるの予想出来たじゃん?」

「出来てないからこうなったんだけど?」

「えぇー」

「うちの子の性格どうにかならないかな?シンヤさんそういうのやってないの?」

「性格変えるまでは流石のシンヤでも無理があるような…」

「カウンセリングとかやってないの?俺の」

「人間のカウンセリングは人間専門の医者に行きなよ…」

「行ってどう言うの?うちのレシアが毒舌で俺は毎日傷付いてますって。手持ちのラフレシアに毒舌吐かれてるってどうやって説明するの?普通は喋らないもんでしょ、ポケモンは!!」

「うーん…そうだよなぁ…」

「なんでうちの子、人の姿になるんだよー!もー!困るよー!!助けて欲しいー!」

「あー…分かった、シンヤに聞いとくから」

「うん、お願いします」

 

にこにこと笑う店長に咲ききった花をどっさり渡されたブラッキー。

花束を抱えて歩いて行くブラッキーの背を見送った店長、ヨイチは小さく息を吐いた。

 

「レシア~!とうとう会える段階まで行くかも~!」

「長かったわね」

 

ラッピングしながら返事を返したラフレシアの声は冷たい。

その反応にヨイチは怒る。

 

「はぁ?そう言うなら最初からレシアがシンヤさんに相談があるんですけどぉ、とか言ってくれたら一発だったじゃん!」

「相談なんて無いもの」

「無くても!シンヤの家に乗り込めれば良いんだよ!!」

「家に呼んでくれるとは限らないわ」

「え?呼ばれない?」

「直接、来るかもしれないじゃない」

「いや、忙しいんだし来て下さいって言われるでしょ?」

「そうかしら」

「そうだよ!」

 

あー、忙しくなって来た。とヨイチは服の袖を捲った。

 

「盗聴器に隠しカメラ、何処までセッティング出来るかが問題だよなぁ」

「…」

「はぁ~…、何処まで高値で売れるか…!ワクワクするなぁ!」

「そんな事より、花の配達に行きなさいよ」

「え~…?花なんて売ってる場合じゃないよ!準備で忙しいし!」

「花屋なんだから花を売るのが仕事でしょ」

「花を売るより、人気者の情報を売る方が儲かるもーん」

 

いそいそとカメラの準備を始めたヨイチを見てラフレシアは溜息を吐いた。

 

「そうやってお金の事ばっかり考えてるから、ロケット団なんてクソ組織でもクビになるのよ」

「はぁ?クビになってないし、こっちから辞めてやったんだし」

「アンタが組織の内部情報売ったからクビになったんでしょ」

「んー?そうだっけぇ?」

 

ホント、クズだわ。とラフレシアは再び大きな溜息を吐いた。

 

「っていうか、花屋がやりたいなんて言ったのレシアでしょ。俺はやりたくなかったよ、こんな仕事!朝早いし!手荒れるし!花の世話もめんどくさいし!何より儲からないし!」

「……」

「俺、ちょっと部品の買い出し行って来るから。店よろしく!適当にやって、適当に閉めといてね!」

 

ご機嫌に出て行ったヨイチを見送ったラフレシアはまた溜息を吐いた。

手元でぐしゃぐしゃになったラッピングを花ごと握り潰してゴミ箱に叩き付けた。

 

「ヨイチのバカ…」

 

*

 

次の日、

盗聴器も隠しカメラもまだ準備中だと言うのにブラッキーから話を聞いたシンヤが店に来てしまった。

 

「……あれ、シンヤさん、こんにちは…?」

「こんにちは、手持ちのラフレシアの事で相談があるとツキに聞いたんですが」

「あー、はい、えっと、そうなんですけど。こんなに早く、それも来て下さるとは思ってなかったので…」

「…? そんなに多忙な身でも無いですから」

「いやいや、お医者様のお仕事って忙しいでしょう!?」

「他にも優秀な医師がいますから、ご心配なく」

「あー…そうなんですかぁ、じゃあ、えっと、中に、どうぞ?」

「お邪魔します」

 

おいおい、予定と違うぞ!と内心焦るヨイチ。

店番を任されたラフレシアはそんなヨイチを見て小さく溜息を吐いた。

部屋に入って、椅子に座ったシンヤの前に大慌てで淹れた紅茶を置いたヨイチはシンヤの向かいの席に座った。

 

「粗茶ですが…」

「頂きます」

 

どう話を切り出したら良いのか、ここからどうやってシンヤの家へ移動する流れに出来るのかとヨイチは考える。

紅茶を啜り、カップを置いたシンヤがヨイチへと視線を向ける。

 

「それで、ラフレシアの性格について悩んでると聞いたのですが、具体的にはどう困ってますか」

「えっとですねぇ…、どう困ってるかと言うと、まあ、率直に言葉が冷たいです」

「ふむ」

「あと、俺のやること言うことにいちいちキツイです!昔は可愛かったんです!ナゾノクサの時は!まあ、今見たいにベラベラ喋ったりしてなかったんですけど」

「私の考えでは、ポケモンが人の姿になる理由として主人に人の言葉で伝えたい事があるから、というのがあります」

「…はぁ」

「ラフレシアが店長さん、貴方にキツく物を言う事にもラフレシアなりの理由があると考えます」

「理由ですか…」

「ラフレシアが冷たく言わねばならないような事を貴方がしているのでは?」

「……?…いや、そんな事はないと思いますけど」

「そうですか…、店長さんに思い当たることがなければラフレシア本人に聞いてみます。変わって下さい」

「…え?」

「彼女と店番を変わって来て下さい。ラフレシアと話をします」

「………はい…」

 

*

 

ヨイチと店番を変わったラフレシアがシンヤの向かいの席に座った。

シンヤを前にしたラフレシアの表情は暗い。

 

「主人について何か悩みがあるな?」

「……ええ」

「お前が話せる範囲で良い、話してみろ」

「…ヨイチはお金儲けが好きなの」

「……だからなんだ?」

「お金が稼げるなら何だってやるのよ、それが悪いことだとしても」

「……」

「今まで職を転々としてきた、でも、どれも給料が安いと他の事でお金を稼ごうとする。お金が一度に沢山貰える仕事なんて大体悪いことばかり、でも、懲りないの。お金が沢山欲しいから」

 

手癖の悪い旦那を持った女房だな、とシンヤは心の中で思った。

 

「昔は良かった。お金儲けなんて考えてなかった頃は、私に毎日水をかけてくれて一緒に遊んでくれてた。綺麗な花が咲くようにって毎日…」

「…」

「私、ヨイチを花屋にしたいの。昔みたいに綺麗な花が咲くようにって私に水をかけてくれたみたいに…愛情を込めて、花を育てて欲しい」

「……」

「悪いことでお金を稼ぐことばかり考えてほしくないの…」

「なるほど、分かった」

 

うん、と頷いたシンヤをラフレシアは目を丸くして見つめた。

 

「出来るの…?」

「つまり、花屋で金が儲かれば良いってことだろう?」

「え?」

「悪い事で金を稼がないように、ラフレシアの希望通り花を愛情込めて育てて金を稼ぐ男にすれば良いわけだ」

「……そう、ね、確かに、そうだわ。でも、こんな小さな花屋は儲からないのよ…」

「じゃあ、とりあえず、店で一番目立ってた大きい胡蝶蘭を売ってくれ」

「あれ、買ってくれるの?」

「最近、近くのスーパーが改装して綺麗になったから贈ろうと思う」

「……根本的な解決にはならないけど、あの胡蝶蘭、ヨイチが綺麗だったからって仕入れて来たから、買って貰えるなら嬉しいわ」

「大丈夫だ、解決する」

 

ニコリと笑ったシンヤにラフレシアは首を傾げた。

店で一番値が張るとは言え、胡蝶蘭がひとつ売れただけで解決になどなるわけがない。

疑いの目でシンヤを見つめるラフレシアにシンヤは苦笑いを浮かべた。

 

「私はこれでも名が売れてる方でな」

「それは知ってるけど…」

 

ラフレシアの中で疑問が残ったまま、シンヤは大きな胡蝶蘭を購入し、新装開店祝いとして名前入りでスーパーへと贈った。

 

後日、

 

「シンヤさんがお花買ったのここだって聞いたの!」

 

同じお店で同じ花を買うわ!と大きな胡蝶蘭を買いたいと熱狂的なファンらしい女性がやって来たのを初めに、

「スーパーでシンヤさんの名前入りのお花を見た」という客が増え始めた。

 

「ヨイチ、結婚式のお花の注文が入ったわ。ブーケも作って欲しいって」

「えー!?またぁ!?待って待って!マジで間に合わない!供花の予約も入ってるし、開店祝いのお花もまだ3件予約が入ってるし…!」

「じゃあ、私がブーケを作るから、急いでお花の仕入れだけ行って来て」

「分かった!」

 

エプロンを脱ぎ捨ててテーブルに叩き付けたヨイチは店を飛び出して行こうとした、が客に呼び止められる。

 

「すみませーん」

「あ、はーい!いらっしゃいませ~!」

「あの、友達の誕生日プレゼントにしたいんですけど、初心者でも育てやすい花ってどれですか?」

「そうですねぇ、育てやすいのだとマーガレットがオススメですよ!色も沢山ありますし」

 

熱心に花の説明をしているヨイチを横目で見ながらブラッキーが店へと入って来た。

ラフレシアと目が合うとヒラヒラと手を振る。

 

「忙しいみたいだから手伝いにきたよ~」

「あら、助かるわ」

「店長なんか楽しそうじゃん」

「そうでしょ?あの人、花好きだから」

 

嬉しそうに笑ったラフレシアにブラッキーは笑みを返した。

 

 

【 花屋(仮) 】

 

 

「いやぁ、花屋って儲かるんだなぁ!忙しくて参っちゃうよほんと!」

「そうね」

「まあ、儲かってる内は花屋を続けても良いかなぁー」

「そうね」

 

ずっと続けば良いと思うわ。

 

.

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