一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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言えないこと

朝、気分良くモーニングを食べて煙草をふかす。

テラス席に座った俺の横を忙しそうなスーツ姿の男がぞろぞろと通り過ぎていく。

のんびり朝食も食べられないとは安月給は大変だな、と煙を吐きながら思った。

コツコツとヒールの音を立てながらスーツの女が俺の横を通り過ぎる。シュッと俺のテーブルに投げられた真っ黒のカードが一枚。

テーブルの上を滑るカードを指で止めて、通り過ぎた女の背をチラリと見送る。

せっかく気分の良い朝だったのに。

煙草を灰皿に押し付けて、胸ポケットにぶら下がっていたメガネを掛ける。

メガネのフレームの横に付いている極小のスイッチを押せば、カードに文字が浮かび上がる。

 

< リイチ、任務だ >

 

へいへい、とカードを裏返して内容を確認する。

 

< 詳細不明のポケモンレンジャーが試験的に創ったタマゴを持ち去った。すみやかに回収せよ。ポケモンレンジャーが辿ったルートを添付する。失敗は許されない。尚、このカードは確認後処分するように。 >

 

タバコを一本咥えて、ライターを取り出す。

カードに火を点けて灰皿に落としてからタバコにも火を点けて、大きな煙を吐いた。

メガネを外し胸ポケットにぶら下げる。

あーあ、また悪いことしちゃって、悪いことするならするで、もうちょっとまともなガード付けろっつーの。

心の中で思った悪態は煙として吐き出した。

灰皿にタバコを押し付けて、カードの燃えカスをぐしゃぐしゃと押し潰す。

 

「さて、行くかー…」

 

*

 

タマゴを持ち去ったポケモンレンジャーの映像が残されている監視カメラを全てチェックする。

どうやらキャプチャせずに相棒にブラッキーを連れているようだ。それも人の姿になれるポケモン。

ポケモンレンジャー内のデータに潜り込み、レンジャーの情報を確認する。うーん、流石に相棒にしているポケモンの情報までは保存していないか。

監視カメラの映像の解像度を上げて、レンジャーの一人一人の顔写真をチェック。

髪型と頭にバンダナ、何人かには絞れるが、どいつもこいつも同じような顔しやがって。男の顔なんて眺めていても楽しくない。

 

「うーん…」

 

こっちのブラッキーの方を調べるかぁ?と同じように解像度を上げて見る。

普通にイケメンだな、マジで普通にイケメン。

どうしたものか、と頭を抱えれば、マグカップをテーブルに置かれた。

甘い香りに横を見ればパソコンの画面を見つめるロズレイド。

俺がガキの頃から育てたスボミーは立派なロズレイドになって、いつの間にか人の姿になるようになっていた。

ずっとスボミーで居てくれたら可愛かったのになぁ。兄貴が勝手にひかりのいしで進化させてしまったせいな気がする……。

まあ、過去には戻れないのでしょうがない事だな。と思い、テーブルに置かれたマグカップを手に取った。

 

「んー…、ロゼ、お前…これまた、バラティー淹れたろ?」

「ローズヒップティーよ」

「お前と同じ匂いになるから、マジやめてほしい」

「良い香りでしょ、文句言わないで」

 

もうお前の体臭でお腹いっぱいですぅ、と言うと怒ってしびれごなを食らわされるから黙ったまま、バラティーをゴクゴクと飲み干す。

たまには砂糖とミルクたっぷりのカフェオレが飲みたい。紅茶だけというなら甘ったるいミルクティーでも良い。

小さく溜息を吐いてロズレイドに視線をやる。ロズレイドは未だにパソコンの画面を見ていた。

 

「何?こういうイケメンが好きなのか?」

「違うわ。でも、このブラッキーの彼…、レシアの所で見たわよ」

「……え?兄貴のところ?」

「ええ」

 

その情報が確かなら大手柄なんだが!?

早速、兄貴がやっている花屋へと電話を掛ける。儲けの無いしょぼくれた花屋だと思っていたが、ここ最近は忙しいらしく。そこそこ儲けているらしい。

金の亡者の兄貴がホクホク顔で電話してきたのを思い出して、また腹が立つ。

 

<「お電話ありがとうございます。フラワーショップ・アルノルディーです」>

「あ、レシア?俺、リイチ」

<「リイチ?何か用?」>

「俺の今、調べてる奴をそっちで見掛けた事あるってロゼが言うんだけど」

<「お客さんならいっぱい来るけど」>

「人の姿になるブラッキーって来る?」

<「……言ったら、どうなるの?」>

「あー、大丈夫大丈夫。ほぼ接触せずに用だけ済ませるから。想像してるような事はしない」

<「……本当ね?」>

「俺が嘘吐いた事ある?」

<「………どの口が言ってるの?」>

「ははは、良いから教えろって」

 

暫くの沈黙が続く。

兄貴の所のラフレシアはクソ生意気な毒舌メスポケだが、こうも渋ってる所を見るとどうやらブラッキーとは親しいらしいな。

 

「あんまり素直に言ってくれないなら、花屋のありとあらゆる所にカメラ設置しに行くけど?」

<「…やめて。言うから。人の姿のブラッキーはよくお店を手伝いに来てくれるわ。良い子なの。傷付けたりしないで」>

「だーかーらー、今回は接触しないって」

<「……」>

「そのブラッキーと一緒にポケモンレンジャーも来るか?」

<「いいえ、来ないわ」>

「そうか…、じゃあ、ちょっとそっちにアルバイトに行くから!よろしく!」

<「え……」>

 

ブチ、と一方的に通話を終わらせてパソコンの電源を落とす。

さてさて、今回はまず優しいお花屋さんからやりますか。

 

「ロゼ、お花屋さんごっこしに行こうぜ」

「はぁ…」

 

何故か不満気なロズレイドを連れて俺は兄貴の所へと向かった。

 

*

 

花屋に着けば、小さな花屋にはお客が数人。本当にそこそこ儲けてんだな。と思いつつ店内のバックヤードに向かう。

 

「兄貴ー、手伝いに来たよ」

「リイチー、レシアから聞いてる。アルバイトに来てくれたんだってな!身内だからバイト代は出ないぜ!」

 

バチコーンとウインクと共に何故かポーズを決めるクソ兄貴。

 

「人の姿のブラッキーどれくらいの頻度で来んの」

「ツキくんだろー、関わるのやめた方が良いぜ。シンヤの手持ちだから」

「は?シンヤ?マジ?ポケモンレンジャーと一緒に居たんだけど」

「そんな事知るかよ。手伝いしてくれる子だから、ポケモンレンジャーの手伝いもしてるんじゃねぇの?まあ、シンヤの知り合いであるのは確実だけど」

 

前にシンヤの情報売って金にしようとしたんだけどさー、と聞いてもない事をベラベラと喋りだす兄貴。当然、無視。

とりあえず、ブラッキーが店に来るまで優しい花屋のアルバイトでも演じておこう。

 

「いらっしゃいませー、お客様、そちらのお花プレゼント用でございますか?」

 

ニコニコと愛想を振りまく俺。少し不満気なロズレイドは黙々とラフレシアと花束を作っていた。アイツは毎日毎日、何が不満なのか知らんが。愛想が無い。

 

「おわっ、レシアちゃん!そちらの超絶美人はどちら様ですか!美しすぎてヤバイな!」

「いらっしゃい、ツキくん。この人はロゼ。忙しいから少しお手伝いに来て貰ってるの」

「ロゼちゃん!オレ、ツキー!よろしくね」

「ええ。よろしく」

 

アルバイト3日目。お目当てのブラッキーがとうとう来た。

何やらロズレイドの周りでキャッキャッとハシャいでいるが、ブラッキーが店を出た後を尾行する為にバックヤードに戻りエプロンをゴミ箱に投げ捨てて服を着替える。

 

「兄貴、来たから消えるわ。まあ、ちまちまと花の世話でもして頑張れよ」

「なんかちょっと馬鹿にしてない?結構、儲かってるって言ってんだろ。花屋なめんな」

「あ、兄貴。あのブラッキーにGPS付けて来て」

「あーい」

 

いそいそと店内に出て、ブラッキーに近付く兄貴。

ツキくーん!手伝いに来てくれてありあがとうー!なんて言いながらブラッキーの肩に手を回して鎖骨辺りの服の襟にGPSが付けられた。

見た目は小さなくっつき虫。ただの雑草だし、まあ、構わねぇけど。可能ならうなじ側の方が良かったな。

上下、スポーツウェア。ランニング途中です、な恰好。メガネを掛けてフレームのスイッチを押せばサングラスに早変わり。

サングラスになったメガネのフレームのスイッチを押してGPSが作動している事を確認。

花屋の裏口から外に出て花屋周辺を軽くランニングする。

 

手伝いのロズレイドが居る為か人手が足りてると判断したのだろう。一時間程の滞在でブラッキーは花屋を出た。

サングラスに映るGPSの発信先が移動するのをランニングしながら追う。

ブラッキーを追って行けば、ポケモンセンター内に入って行く。ポケモンセンターなら後を追いやすい。そのまま後に続いてポケモンセンターに入った。

ブラッキーは受付を素通りして、ポケモンセンターに備え付きのソファの方へと向かう。

 

「こんにちは。回復ですか?」

「こんにちはー。いえ、ランニング途中でお手洗いをお借りしたくて…すみません」

「そうなんですね。お疲れ様です。どうぞお使い下さい。休憩もしていって下さいね」

「ありがとうございます」

 

受付のジョーイと会話を交わした後、ブラッキーの後を追う。

ソファで休憩でもするなら、俺も近くに座って休憩でもしようか。と思ったがブラッキーは真っ直ぐポケモンセンターに備え付きの姿見に向かっていき。鏡の中に入ってしまった。

おっとぉ…、これはやっかいなポケモンが関わってるぞぉ。

鏡に比較的近いソファに座り、鏡に背を向けた状態で考える。

深く溜息を吐いた。

こういう異常現象の時は大体、伝説のポケモンが絡んでるんだよなぁ。俺がブラッキーの後を追って鏡の中に入るのは不可能だろう。

さてさて、どうしたものか。と思っていれば、背後で人の気配。チラリと確認すれば、白衣を身に纏った男が鏡から出てきたようだ。

受付へ向かった男の動向を見守る。

 

「ジョーイさーん。ツバキ博士がポケモンセンター受け取りにした荷物届いてます?」

「あら、エイゴくん。荷物届いてるわよ。珍しいわね、ポケモンセンター受け取りにするなんて」

「なんかエンペラー先輩にバレたくない物らしいです」

「うふふ。中身がこわいわね」

「女性向けの大人の玩具だったらどうします?」

「あらー、なら是非、使用感を聞いてきてね」

「あー、ジョーイさんマジ強いわァ。退散しまーす」

「お疲れ様」

 

ヒラヒラと手を振ってジョーイと別れたエイゴという男。

白衣姿。ツバキ博士、エンペラー先輩。鏡を通り抜けられる人間……。

ツバキ研究所の研究員見習いという所だろう。

これは使えそうだ。

再び鏡の中へ入って行ったエイゴという男を見送ってから、俺は受付のジョーイさんにお礼を言ってポケモンセンターを出た。

 

花屋に戻って服を再び着替え、花に水やりをしていたロズレイドに声を掛ける。

 

「ロゼ、行くぞ」

「…ええ」

 

ロズレイドを連れて、ツバキ研究所へと向かう。

どうやらあの鏡は特定の場所に繋がるようになっているらしい。すでに研究所に居たエイゴという男を確認し、ロズレイドに指示を出す。

 

「ロゼ、あの男、上手く連れ出せ。ああいうイケメンは好きだろ?」

「全く好みじゃないわ」

 

フン、とそっぽを向いてからポケモンの姿に戻り、研究所へと入って行くロズレイド。

エイゴという男の前で慌てたように動き、外へと引っ張りだす事に成功したロズレイドはエイゴを連れて研究所から離れていく。その後を静かに追った。

 

「ロゼェ!」

「えー?マジなに?こっち?仲間でも怪我した感じ?」

 

ここ、ここ、と草の茂みを指し示すロズレイドに誘導されてエイゴは茂みを掻き分け覗き込んだ。

そのエイゴの背後からロズレイドはねむりごなをかける。

流石、俺のロズレイド。タマゴから孵った時から使えたねむりごなはいつだって万能だ。

ぼす、と草の茂みに埋まって眠った男を引っ張り上げて地面に横たわせる。

 

カバンから毎度お役立ちのメタモンマスクを取り出す。

このメタモンマスクは相手の顔に押し付ければその顔に変身する優れもの。顔全体をメタモンマスクで覆い被せて、エイゴの顔と髪型になったそれを被る。

エイゴから白衣を拝借して、ロズレイドにエイゴの見張りを頼んで研究所へ、エイゴとして戻った。

 

「ねえ、それ何買ったの…」

「なーいーしょー!」

 

何やらバチバチと喧嘩をしているツバキ博士と男。おそらくエンペラー先輩なんだろう。

その二人を無視して研究所内にあった鏡の前に立つ。

そっと、手を鏡に当てれば手はずぶ、と鏡に埋まった。

そのまま鏡を通り抜ければ、そこは天地が逆転した世界だった。

この様子から見て、ここはギラティナの支配する反転世界で間違いないだろう。

 

「あれ?エイゴ、お前まだ何か用だったのか?」

 

一般人より体格の大きい金髪の男に声を掛けられた。おそらく大型のポケモンだろう。もしかするとコイツがギラティナかもしれない。

 

「いやー、ツバキ博士に荷物届けたんだけどォ、もう一個あるとか言われちゃってー」

「ふーん」

 

もう一回行ってきまーす、とにこやかに言えば金髪の男は納得したらしく、頷いた。

まあ、どの道がポケモンセンターに行くかは知らないが、とりあえず、どう見ても人が住んでいるであろう家が見えるのでそこへ向かう。

玄関から入って、リビングを覗けば人の姿のブラッキーと水色の髪の男がソファに座って談笑中。

見渡す限り、タマゴは無い。

静かに2階へと上がれば、一室に洗濯物をたたんでいる途中の体格のいい男。白髪に赤と青のメッシュ…。ポケモンかなぁ?

でも、俺の勘が言っているコイツは絶対に良い奴。都合が良さそうだ、と。

 

「あれ?エイゴさん、どうしたんです?」

「なんかァ、ツバキ博士にタマゴがどうとか言われたんですけどォ、こっちにあります?」

「ああ!ヤマトさんとツキさんが持って帰って来たタマゴですね!シンヤが調べる為に部屋に持って行ってますよ」

「あ、マジ?シンヤさん、居る?」

「今はミロさんと出掛けてますよ」

「ツバキ博士にタマゴの写真撮って来てって言われたんで、シンヤさんが留守でも写真だけ撮って良い感じですかねェ?」

「でも、ツバキ博士がなんでタマゴの事を知ってるんですか?」

「あ、ヤマトさん、うち来たんで」

「そうなんですね!良いと思いますよ!」

「一人で部屋入るのアレなんで、一緒に来てくれる?」

「はい、良いですよ」

 

カバンからカメラを取り出して、ニコニコと笑う白髪メッシュの男の後を歩く。

コイツ、クッソちょろい。純粋系のポケモンなんだろうなぁ。

 

「エイゴさん、今日は大きな荷物持ってますね」

「だろォ?お遣いの物も入ってんのよ」

 

あはは、と白髪メッシュの男を談笑しつつ、シンヤの部屋へと到着。

ドアを開けてくれた白髪メッシュの男、「ありがとォー」と気だるげにお礼を言って部屋へと入る。

大きな本棚にびっしり本が詰まっている。シンヤは勤勉だなぁ。

机の上には孵卵器に入ったタマゴ。

任務内容と共に添付されていたタマゴの柄と間違いない。

パシャパシャ、とタマゴの写真を撮る。

 

「うーん…」

「どうしました?」

「孵卵器越しだと、ちょっとボヤける…。ちょっと出して良い?」

「あ、そうなんですね。大丈夫だと思います」

 

孵卵器の蓋を開けてタマゴを取り出す。

 

「持ってるから写真撮ってー」

「分かりましたー」

 

白髪メッシュの男は素直にカメラを受け取って写真を撮ろうとしてくれる。なんて良い子なんだ。

 

「あれ?押せない」

「ちょっとそれ古いから引っ掛かるんだよなァ、爪でカリカリしたら戻るから」

「分かりました」

 

うーん、と唸りながらカメラに夢中な白髪メッシュの男。

俺は静かにカバンから同じ柄に染色したタマゴを取り出して、入れ替えた。染色したタマゴは育て屋でパクッて来た普通のタマゴ。

 

「どう?」

「あ、押せそうです!」

「撮って撮ってー」

「はい!」

 

パシャパシャ、と数回撮影して貰い。俺は染色したタマゴを孵卵器に戻した。

 

「じゃあ、帰りまーす」

「はい、お疲れ様です」

 

ヒラヒラと手を振って普通に玄関から外に出た。

そして、ツバキ研究所へと戻る為に最初に通って来た場所に戻る。

 

「エイゴ、お前、ポケモンセンター行ってねぇじゃん。どうした?」

 

あ、通ったか通ってないのか分かるのか。

 

「あー、ポケモンセンター行こうと思ったんだけど、家の前でツキさんに会ってー、荷物代わりに受け取ってくれてたっぽい。いやァ、通りでさっき行った時、荷物一個だったわけだー」

「……ふーん。お前、ツキの事、ツキさんなんて呼んでたか?」

「え?そんなん気分よ」

「そういうもんなのか…」

 

まあ、いいや。と興味を無くしたらしい金髪の男を通り過ぎてツバキ研究所へと戻る。

あぶねぇあぶねぇ。呼び方とか一人称とか分からない事はやっぱり口に出すもんじゃねぇな。

研究所へと戻れば、エイゴが持ち帰った箱を引っ張り合いながらまだ言い争いを続けている、ツバキ博士とエンペラー先輩。

それを無視して研究所の外へと出る。

ロズレイドの待つ場所へ戻ればエイゴはまだ眠っていた。

 

「一回でも起きた?」

「いいえ、起きてないわ」

「オッケー」

 

メタモンマスクをベリベリと剥がしてカバンに突っ込む。

エイゴに白衣を着せて、メガネを掛ける。顔認識阻害モードに切り替え。眠るエイゴの肩を揺らした。

 

「大丈夫ですか!しっかりして下さい!」

「…んァ?」

 

眠たげに目を覚ましたエイゴが辺りを見渡す。

俺の横にはポケモンの姿のロズレイド。

 

「あれ?そのロズレイド、なんだったんだァ?」

「すみません。何のポケモンか確認出来なかったんですが、俺がしびれごなを食らって動けなくなっていたもので……。手持ちのロズレイドが助けを求めに行ったようなんです!ご迷惑をお掛けして申し訳ない!」

「あー、マジ?じゃあ、私もねむりごな食らったってこと?」

「恐らく、そうだと思います…」

 

私、ダセー…なんてブツブツ言いながら立ち上がったエイゴ。

 

「お怪我は無いですか?」

「ああ、大丈夫」

「ご迷惑をお掛けしました。お怪我が無いようでしたら失礼します」

「あー、はいはい。人の事言えねーけど、気を付けてな」

「ありがとうございました」

 

ペコペコとエイゴにお辞儀をしてからエイゴに背を向けて歩いていく。

顔認識阻害モードを解除。

そのままメガネを掛けたまま、タマゴをポケモンショップの袋に移し替えた。

 

人通りの多い道を歩き、目当ての青い作業服を着た清掃員に声を掛ける。

 

「ナマモノですが、回収して下さい」

「はい、分かりましたー」

 

清掃員はタマゴの入ったポケモンショップの袋をそっとゴミ箱の中に入れて運んで行く。

自販機の傍にあるベンチに座りタバコを一本咥えて火を点けた。

ぷかー、と煙を吐き出して、横に座った人の姿のロズレイドの肩を抱く。

 

「今日、外食でもする?」

「はぁ……、今日も捕まらなかった」

「お前、俺を牢屋にぶち込む事ばっかり考えやがって。頭の足りない兄貴と一緒にすんなよな」

「もう、こんな危険な事はやめましょうよ」

「やなこった」

 

携帯の電源を入れて、口座に入金されたのを確認して俺はにっこりと笑った。

 

「んー、上々。飯行こうぜ?」

「要らないわ。レシアの所に行って来る」

「なんだよ、可愛くねーの」

 

*

 

花屋にやって来たロズレイドを見て、ラフレシアは顔を顰めた。

ポロポロと涙を零すロズレイドをラフレシアは抱きしめる。

 

「泣かないで、ロゼ」

「辛いわ…、あの人は変わってくれない…」

「……」

「誰か、気付いて欲しい…。どんなに上手に化けたって、あの人はいつだってバラの香りがするって事に…」

「……」

「レシアが羨ましい……」

「……」

 

ラフレシアは更にぎゅっとロズレイドを抱きしめた。

タマゴから孵った頃、私達は優しい彼らに愛されていた。

ナゾノクサを愛で、スボミーを大切にし、穏やかな生活を送っていたのに。

 

私達の大好きなご主人様は二人共、悪の道へと向かった。

 

「愛してほしい…っ!」

「……、」

 

 

【 言えないこと 】

 

 

「お、タマゴからペロッパフが生まれた」

 

誰にも気付かれない。

それがお仕事。命がけのお仕事。

 

「は?私が写真撮ったァ?」

「撮ってましたよ、俺もお手伝いしたじゃないですか」

「はぁー?知らねェ」

「えー???」

 

*


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