一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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家に一人。

手持ちではあるがポケモン達は各々の仕事に出ていて私は一人でいる事が多い。

それは別に構わないのだが、ふと視線を書類から外せば部屋の床一面に広がる本やら書類やらファイル……。

仕事に没頭しているとついつい片付ける事を忘れてこの有様。片付けようかと思えば時間が時間なだけに後回しにしていまい、またこの散らかった部屋で仕事をする事に……。

トゲキッスが片付けてはくれるのだがアイツは大雑把に片付けて自分が何処に何を片付けたのかちゃんと記憶していない。

片付けた場所を記憶してくれるであろうエーフィに頼んではみるが嫌な顔をされた。まあ、そういう反応はされるとは思っていたけど……。

 

「……」

 

いい加減になんとかしないと駄目だ。

私は綺麗好きとまでは言わないが、さすがにこの山積みにされた本やらを見ると頭が痛くなる。

しかし、私には休みが無ければ時間も無い。

どうするか……、一つだけ、一つだけ良い方法を思い付いてはいる。しかしこれはもの凄く反対されそうな方法だ。

寝る間も惜しんで片付けるか、いや、またどうせ散らかる。やっぱりあの方法しかないのか……。

 

*

 

ジョーイに頼まれて育て屋のポケモンの様子を見に来た私はじじ様、ばば様とのんびり茶を啜る。

ぼんやりと庭に視線をやれば預けられたポケモン達に囲まれるトゲキッスとミロカロスが見えた……、平和だ……。

ずず、と茶を啜れば育て屋に客が来たらしい。ばば様がカウンターへと移動した。

 

「シンヤさんに会いに来ましたー」

 

面倒な客だった。

湯のみをテーブルに置いてカウンターへと行けばツバキが片手をあげてニッコリと笑う。

どうせジョーイに育て屋に居ますよーなんて言われて来たんだろう。

ツバキに連れられて育て屋の外に出ればコホンとツバキが小さく咳払いをして私の方をチラリと見た。何か面倒事に巻き込まれそうな予感……。

庭の柵にもたれかかりながらツバキに視線をやる。

 

「シンヤさん、実はお願いがありまして……」

「……」

 

嫌だなー、と思いつつ小さく頷く。

 

「あたしのハクリューとシンヤさんのミロカロス、交換してくれません?」

「は?」

「ハクリューはシンヤさんがゲットしたミニリュウなんですけどね。バトルタワーに挑みたいので強いポケモンをね……。あの、ミロカロス強いし、一応、ミロカロスの親はあたしになってるからー……、少しの間で良いんですけどー……」

「私は別に構わないが…」

「マジすか!!」

 

やった!と喜んだツバキはぴょんぴょんとその場で飛び跳ねる。私の話を最後まで聞いてほしいな……。

まあ、元々、ミロカロスは一度ヒンバスの時に私が逃がして。野生に戻った後でツバキがゲットしているので親はツバキ。

それは確かなのだが、はたしてあのミロカロスが親といえどツバキの言う事を聞くかどうか……。

 

「じゃあ、早速!!」

「その前に、ミロカロス本人の説得をしてもらわないと困る」

「え……」

「私は良いぞ。全く構わない。でも、ミロカロスの奴が良いと言うか分からないからな」

「えー……」

 

そんな顔をされても私からミロカロスにツバキのハクリューとお前を交換する事になったからなんて言えば、俺様は要らなくなったんだーなんて泣き叫ばれるに決まっている。

もう大体、性格は理解して来たからな。

 

「どうしてもミロカロスの力が借りたいとミロカロスを自分で説得してくれ」

「シンヤさんも一緒に言って下さいよ!」

「嫌だ」

 

頬を膨らませたツバキが恨めしげに私を睨む。

でも、私は絶対に嫌だ。面倒な事になるのが目に浮かぶ。

 

「分かりましたよー、説得して来ます!」

「ん」

 

育て屋の中に入って行ったツバキが庭に出てきた。ミロカロスを連れて庭の隅に移動したツバキを目で追う。

遠いので声は聞こえないが人の姿になったミロカロスと向き合うツバキの姿が見える。

もの凄い勢いで首を横に振るミロカロスの姿が見えるが……、私は手伝わないぞ……。

 

「絶対に嫌ー!!!」

 

大声で叫んだらしいミロカロスの声が聞こえた。

 

「ずっとなんて言ってないでしょー!!暫くの間だけ協力して欲しいんだってばー!!」

「シンヤと一緒に居るー!!」

「そのシンヤさんと今一緒に居れるのは誰のおかげか言ってみろコラァアア!!」

「うわぁあああ!!ツバキのバカヤロォオオ!!!」

 

ポケモンの姿に戻ったミロカロスを連れてツバキが戻って来た。

その顔は満面の笑み…。

 

「説得成功です!」

 

弱みを使って脅していたような気もするが、まあ、良いだろう。

 

「ミ、ミロォォ……」

「よしよし、頑張ってバトルして来いよ」

 

泣いていたミロカロスの頭を撫でてやればミロカロスは泣きやんで尻尾を揺らした。

それじゃ、と言ってツバキがボールを私に手渡した。

 

「ハクリューのボールです」

「ああ」

 

ミロカロスのボールをツバキに渡せばツバキはニッコリと笑ってミロカロスの体を撫でた。

 

「ミロカロス、頑張ってバトルしようね!」

「……」

 

嫌そうな視線をツバキに送りながらもミロカロスは頷いた。

まあ、バトルで活躍出来る奴だしな。私といるよりツバキと居た方が力を活かせると思うのだがミロカロスが怒るので言わないでおこう……。

 

「それじゃ、シンヤさん!あたしはクロツグさんとのバトルに行って参ります!!」

「ああ」

「レベルでゴリ押しリベンジよぉお!アハハハハハハ!!」

 

ミロカロスをボールに戻して走って行ったツバキに手を振った。

誰だ、クロツグって……。

 

*

 

ミロカロスとハクリューを暫くの間交換したので私の手持ちにはハクリューが居る。

ボールから出してやればミニリュウの時と変わらず懐っこい奴だった。

 

「リュ~」

「ミロカロスより随分と小さいんだな」

 

目は相変わらずデカイ。と思いつつ背を撫でてやる。

そして、今……。私の手元にはハクリューだけ……。

他の連中は仕事に行っているし、あの方法を実行するには今しか無いんじゃないだろうか……。

ミロカロスが帰って来た時、他の連中が仕事から戻った時が面倒だが……、実行出来るのは今しかない……。

とりあえず、ヤマトに相談しに行こう。

 

「ハクリュー可愛いよぉおお!!」

「リュゥウ!」

 

ハクリューと戯れるヤマトの首根っこを引っ掴む。

研究所には来たものの私そっちのけでハクリューに飛びつきやがった。

 

「まあ、聞け」

「な、なに……。首が痛い」

「実はな」

「あ、っていうか!何でハクリュー居んの!?どうしたのこのハクリュー!!」

 

ぶん殴ってやりたいな。

一発ぶん殴ってツバキと交換した一件を説明してやる。頬をさすりながらヤマトがあの時のミニリュウねー、と頷いた。

研究所に居たサマヨール、エーフィ、ブラッキーにも丁度良いので話しておこうと思う。私の壁はミロカロスとミミロップとギラティナだけだ……。

 

「実はな……」

「うん、何?」

「欲しいポケモンが居るんだ……」

「そうなんだー、シンヤが自分から言うなんて珍し……、えぇぇえええええッ!?!?ちょ、ま、え!?欲しいポケモン!?シンヤが!?え、何があった、どうした!!」

「どうしてもゲットしたいと思ってる」

「何が起きたのぉお!?全く今までポケモンに執着無かったじゃんか!!自分からゲットとか絶対にしなかったじゃん!欲しいポケモンとかどんなポケモン!?伝説より珍しいポケモン!?どんなのそれ!!」

「チルット」

「可愛いぃいい!!!」

 

もの凄く綺麗好きなポケモンらしいチルット。

贅沢を言っているのは分かっているが、賢くて部屋の掃除をしてくれるチルットをなんとかゲットしたい。

もっと贅沢を言えば人の姿になってくれれば尚良い。

 

「賢くて掃除好きな奴が欲しいんだ」

「お手伝いさんが、欲しいと……?」

「まあ、そうなるな」

「あのねぇ……、そう簡単に居るわけないでしょ……。賢くて掃除好き、素直にはい分かりましたって言う事聞いてくれるチルットなんて」

「そこは何とか頑張って探す」

「まさかの執着と根気ある決意だね」

 

やっぱり根気を必要とするのか、めんどくさい……。

だが、見つける事が出来れば部屋の掃除を自分でしなくてすむし、気兼ねなく仕事にも専念出来る……。

 

「私は探すぞ!」

「……う、うん」

「ミロカロス達に文句を言われようが絶対にゲットして傍に置く!」

「お、おお……」

「もう夜中に睡眠時間を削って掃除をするのは嫌だ!」

 

人間って追い詰められると人格変わるね、とヤマトが呟いたが私にはそんな事はどうでも良かった。

手持ちをハクリューだけにして私は210番道路を目指す事にする。近いので勿論徒歩だ。

 

*

 

「リュゥ……」

 

自分の行動がいかに無謀であったか気付くのにそう時間は掛らなかった。

チルットは草むらから飛び出して来るが失礼な話、とても賢そうには見えない。話しかけても草むらを飛び回るし攻撃してくるし……、野生ポケモンなので当然と言えば当然なのだが……。

ストライクに追い掛け回され、ゴーリキーに追い掛け回され……、ハクリューと草むらの傍でぐったりと座り込む。

目当てのポケモンと巡り会うのがこうも難しいとは……。

本当に私は今まで何も考えてなかったんだな……、その割には個性的過ぎる連中が周りに居るが……。

よく考えてみると今までのは縁あっての巡りあわせのようなものか……、自分が欲しくてゲットしようと足を運んだ事なんて無かったし……。

こうして目当てのポケモンを探して出会える確立なんて凄く低いのだろう。ツバキだってミニリュウをゲットしようと釣りをしてたのにゲット出来ず、ゲットしたのはミニリュウという名前すら知らない私だった……。

 

「色違いのポケモンなんてもっと確立が低いんだろうな……」

 

ユキワラシもコリンクもよくゲット出来たものだ……。(コリンクは研究所の庭に居る)

溜息を吐いてからゆっくりと立ち上がる。ハクリューも疲れているだろうが、まだまだ付き合ってもらわなければ。

 

「悪いなハクリュー、まだ戦えるか?」

「リュー!」

 

元気よく返事をしてコクコクと頷いたハクリュー。

私は再び草むらへと足を踏み出した。

 

「そこのチルット!歌ってないで話を聞け!」

 

飛んで逃げてしまったチルット。

はたしてアイツで出会ったチルットは何匹目だったか……。

居るには居るんだ、大量に生息はしている……。

 

「心が折れそうだ……」

「リュー……」

 

*


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