一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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設定:研究員


裏切りの花

母は有能だと言われる博士で、父はその有能な博士の助手で。

将来有望確実、生まれながらに他の子供とは着眼点も違う天才的な少年だと言われ育った。

 

ただ、

 

大人になっていくにつれて気付く。

自分が天才などでは無く、ただの凡人なんだと。

ポケモンの生態を調べさせれば、自分よりも幼馴染達の方が得意だった。

世話をするのも強く育てるのだって、全て幼馴染達の方が上だ。

それは何故か?僕は考えた。

幼馴染達は人間とポケモンのハーフだからではないか。僕はそう考える。

父親は人間で、母親はユキメノコ。人の姿になるポケモン。世間には未だ公表されていないこの事実。

人間とポケモンのハーフは普通の人間より優れているのではないか、と。

非凡な才能。ポケモンの力を全く持っていないわけじゃない。

身近に父親がサーナイト、母親がジョーイ。その血筋故に彼女もジョーイとして働いているが、彼女の髪や目の色はサーナイトと同じ。

そして、ポケモンの言葉も分かるし、エスパーポケモンの血か、簡単なエスパー技を使用出来る。

ただ、この能力は他の者達から見ればただのサイキッカーだ。珍しい能力ではあるが、非凡な”人間”が持っている能力だと周りには認知されるだろう。

 

僕は考える。彼女は本当に”人間”なのかと。

 

幼馴染達は”人間”じゃないから、優秀なブリーダーにトレーナーになっているのではないだろうか……。僕はそう思う。

この現状で、母や父は何故、人の姿になれるポケモンを公表しないだろうか。

人間とポケモンのハーフが生まれた事自体がまさに世紀の大発見なのではないのか?

何故、人の姿になれるポケモンの存在を黙認せねばならないのか。

 

…何故、この世界の中心人物について研究しないのかも……。謎でならない……。

アルセウスと同じ姿を持つ彼の存在。

僕が生まれた頃から変わる事なく、永遠にその姿のままだという不老の存在。

何故、研究しない?何故、彼のもとに集う伝説を調べない?何故、彼は特別なのか。

 

納得が出来ない。

 

+

 

僕を置いて研究会に出掛けてしまった母と父。

僕をいい加減に研究会に参加させろ、と言っているのにあの二人は僕を研究会に参加させない。

まだ早い、と首を横に振る母親。

何が早い?勉強する事が早くて何が悪い?知りたいこの欲求を満たしたい。もっと、早く。

 

いや、そもそも、研究対象が身近に居るのに何故、解明しないのか。

 

ポケモンの生態研究会?そんなもの勝手にやってれば良い。

僕はもっと有意義な研究をしたい。

ミュウからミュウツーが創れたように、あの人から別のポケモンが創れるんじゃないの?アルセウスと同じ姿の彼を研究した方が早いんじゃないの?

 

なんで、駄目なの……?

 

考え込んでいた僕の背後からテーブルにマグカップが置かれた。

驚いて振り返れば、深紅の髪と目の男。綺麗な顔で僕に微笑みかける。

 

「何、難しい顔してんだよ」

「……、はぁ、びっくりさせないで」

「眉間に皺寄ってんぞー」

 

ニヤニヤと笑う男、シキ。

コイツはポケモンだ。母の手持ちだった色違いのミロカロスとメタモンの間にいつの間にか誕生したタマゴから生まれた。正真正銘のポケモン。

周りの環境からか、生まれた時から既に人の姿になれていたという特殊なポケモンでもある。

昔…、僕が小さい頃。

ポケモンだと知らなかった頃は、ただただブサイクな兄ちゃんだと思っていた。いつも小汚い恰好で、僕の面倒を見ると周りをウロチョロしていた。

買い物に行く時も小汚い恰好で僕の手を引いて歩くものだから、恥ずかしくてたまらなかったのを今でも覚えている。

ヒンバスから進化した今では、昔の面影など微塵も無い。綺麗でイケメンな男だ。

 

「なんだよ?オレの顔になんかついてる?」

「……、ぶさいくの面影が貼り付いてるよ」

「はぁー?」

 

こんなにイケメンなのに?と自分の頬をさすりながら窓ガラスに映る自分の顔を見るシキは毎回アホだと思う。このナルシスト野郎め。

そんなアホを眺めた後に、僕は提案してみる。

 

「研究したいからさぁ」

「うん?」

「シンヤさんのまつ毛とかむしって来てくれない?」

「むしるなよ。痛ぇだろ。やめてやれよ」

「ミュウのまつ毛からミュウツーが創れたなら、シンヤさんのまつ毛からもアルセウツーが創れるでしょ?」

「アルセウツー…!!」

 

僕は本気で言ってるのに、何が面白いのかゲラゲラと笑うシキ。その顔面殴って歪めてやろうか。

ひとしきり笑った後、シキがキリリと僕に視線をやった。

 

「シンヤさんを悪用するとママンとパパンに怒られるぜ?」

「だから、なに?研究会にも行かせてくれないクソ親なんて知らないね。僕は僕だけの有意義な研究をしたいんだよ。協力してよ」

「えー…、まあ、協力してと言われるとしないわけにはいかないけど、シンヤさんはなぁ…」

「僕とシンヤさん、どっちが好き?」

「ええええええ……!!!困るぅ……」

 

意外にも困られた。幼い頃から面倒見てるだけあって僕にもシンヤさんに負けないほど情があるらしい。

うーん、と悩んだ後にシキは頷いた。

 

「分かったよ。シンヤさんのまつ毛、むしりに行くか」

「早く行ってきて」

「え!?オレ一人で!?」

「だって、僕、怒られたくないもん」

「オレだけ怒られるの!?」

「当然でしょ」

「当然なの!?」

 

その後も一人で行きたくない、とごねるシキ。

仕方ないので僕が折れることにした。

シンヤさんなんて僕が生まれた瞬間から面倒見てくれてるんだから、まつ毛むしった所で怒りはしないだろう。それだけ、僕に情を持ってくれてるはず。

基本的に優しいし。

 

「よし、むしりに行こう」

「絶対にブチ切れられると思うけどなー」

「可愛い僕にそんなに怒ったりしないよ、多分」

「いや…まあ、うん…シンヤさんはな…」

 

 

+ + +

 

 

反転世界へとやって来て、庭でお茶会をしていたシンヤさんの前に立つ。

 

「まつ毛、頂戴!!!」

「……えぇ…」

 

手の平を出して言った僕にシンヤさんが情けない声を漏らした。

シンヤさんの向かいでマフィンをむさぼっていたギラティナが立ち上がりブチ切れてくる。

 

「ダリアァアア!!!変な事企んでんじゃねぇええ!!!」

 

やっぱり、ブチ切れたと、シキが溜息を吐く。

怒るのはこっちだったか。

 

「ミュウからミュウツーが創れたように、僕もシンヤさんからアルセウツーを創るから。頂戴」

「「アルセウツー…!!」」

 

シンヤさんの横でミュウツーがコーヒーを噴き出して、白い服を茶色に汚していたがどうでも良い。

 

「僕の研究に協力してよ」

「私のまつ毛から、アルセウツーとやらを創るのは無理だから諦めなさい…」

「でも、何かしらは創れるでしょ!?」

「無理に決まってんだろ!!」

 

馬鹿か!とギラティナに罵られる。

それをなだめるシキ。大きな溜息を吐いてからシキがシンヤさんに向かい合う。

 

「シンヤさん、ダリアは言ったらもう聞かねぇから、まつ毛の一本や二本、あげて?」

「えー…。まつ毛をわざわざ抜けと?髪の毛じゃダメなのか?」

「髪の毛でも良いよ!あと血液と唾液と精液もくれるなら、全部頂戴!!」

「お前ええええええええ!!!!」

 

飛び掛かって来たギラティナをシキが止める。

 

「……髪の毛だけで、良いか?」

「まあ、良いよ」

 

小さく溜息を吐いた後、シンヤさんはぷつぷつと髪の毛を3本ほど抜いてくれた。

それを受け取ってハンカチに包みポケットにしまう。

 

「これで、新しいポケモンを創れる」

「うん、無理だけどな」

 

呆れたようにシンヤさんに言われたが、僕は納得しない。

怒るギラティナに中指を立ててやれば、ギラティナは更に怒って暴れていたが、シキが頑張って抑えていた。

 

「じゃあ、帰る」

「お茶でも飲んでいけばどうだ?」

「また今度ね」

「ギラティナさん、マジでごめんなー…」

「お前ら二度と来るな!!」

 

ギラティナの怒声を背に、僕達は研究所へと戻った。

 

+

 

そして、数時間。

僕はシンヤさんの髪の毛を調べ尽くしたが、ただの普通の人間の髪の毛だった。

 

「……どういうことなの」

「いや、最初から分かってたろ?」

「分かってないよ!なんで!?普通の人間なわけないでしょ!?」

「ディアルガさんに時を止められてるだけで、普通の人間だって……」

「普通の人間は時を止められて半永久的に生きるなんて出来ないから!!!」

 

はぁ、すぐ怒る。とシキに目の前で大きな溜息を吐かれた。

納得がいかない!ムカツク!机の上に並べてあった物を全て両手で机の下に流し落とす。

盛大に響く音にシキが顔を歪めた。

 

「もぉぉ…、ダリア…」

「納得いかない!!!」

 

ダンダンと強く机を叩いた所で母親が部屋へと入って来た。走って入って来た所を見る限り、音にびっくりして来たんだろう。

部屋に入って来るなり、怒りの表情へと変わる。

 

「オオイ!!何やってんの!?なんで、こんなにしたの!?物にあたるの止めなさいっていつも言ってるでしょ!?」

「誰かさんが研究会に連れて行ってくれないから!!」

「そうやってすぐムキになるアンタにはまだ早いって言ってんでしょ!こんなに散らかして!片付けなさい!!もう子供じゃないんだから!」

「怒らせてるのはそっちでしょ!」

「こっちのセリフじゃボケェ!!」

 

片付けなさい!と怒る母親にシキが頭を下げて謝りつつ、床に落ちた本を拾っていく。

それを無視して、シンヤさんのDNAの結果を母親に突き付ける。

 

「ねえ!なんでシンヤさん、普通の人間の結果しか出ないの!?」

「は?……はぁ!?なんでDNA調べてんの!?」

「髪の毛貰って来た」

「何やっとんじゃ!!やめんか!!!」

 

僕からDNAの結果の書かれた紙をひったくった母親はその紙をびりびりに細かくちぎって投げ捨てた。

 

「シンヤさんを調べるのはダメって言ってるでしょ!?なんで言うこと聞けないの!!」

「なんでダメなの!」

「なんでもクソも無いわ!!シンヤさんの気持ちを考えなさい!あの人は普通じゃなくても普通の人なの!普通の人を研究対象にして良いわけないでしょ!?」

「普通じゃないんだから、調べたって良いはずでしょ」

「普通なの!普通の人間なの!」

「普通じゃない!」

「普通じゃないけど、普通なの!」

 

何が普通!?何処か普通!!

 

「なんで調べちゃいけない事ばっかりなの!?ポケモンが人の姿になれるのは何で公表しちゃいけないの!?なんでポケモンと人間のハーフを調べちゃいけないの!?」

「常識的に考えなさいよ…。空気読めない子だな、ほんとに…」

 

育て方間違ったわ、と母親に大きな溜息を吐かれた。

ああ、ムカツク。常識的に考えても研究しない方がおかしいんじゃないの?僕のこの好奇心が間違ってるとでも?

 

「もういい、出てく」

「はー?家出?はいはい、勝手にしなさいよ」

「二度と戻らないから!」

「シンヤさんを調べるのはダメだからね!」

「うるさい!」

 

自室に戻り荷物をかき集めて研究所を出ればシキに慌てて止められた。

 

「ダリア!待てって!」

「もう出てく。考え方が根本的に違う、僕は僕なりの研究をする」

「落ち着けって、な?お前はムキになり過ぎなんだよ。冷静になろうぜ?」

「僕が間違ってるって言うの?」

「…うーん、間違ってるっていうか…、別にそこに触れなくて良いじゃん?って所をな…調べようとするからさ…」

「なんで触れないの」

「なんでって…!それは…、ほら、シンヤさんでもさ、人の姿になれるポケモンとか、ハーフのダイナとかもさ!研究対象にして調べるって、なんていうか失礼っていうか、気が引ける感じしない?」

「しないね」

「えー……、いや、オレは別に調べてもらっても良いけど、ダイナとかはさぁ、普通の人間として暮らしてるわけだし、な?」

「普通じゃない方が良いと思うけど」

「えー……」

「普通じゃない方が良いよ!だって、僕はこんなに普通なのに!羨ましすぎる!!生まれながらに特別なのになんで公表しないのか理解出来ないね!」

 

僕の言葉にシキは驚いた顔をした後、黙り込んだ。

もうこれ以上、話をしたって無駄だろう。僕は、普通じゃない、研究員になりたいんだよ。

研究所を背に歩き出した僕をシキは追いかけて来たけど、僕は何を言ったってもう帰らないから!

 

+

 

「…え?ダリアが悪の組織の研究員になった?」

 

育て屋に掛かって来た電話の画面の向こうで困った顔をするシキを見てダイナは眉を顰める。

 

「それで?何の目的で?…はぁ?普通じゃない研究者に?…はぁ、自分が普通過ぎるから?…はぁ…?」

 

あたふたと説明するシキを画面越しに見つめて、ダイナは何度目か分からない溜息を吐いた。

 

「いや、そもそも、アイツの何処が普通なの?」

 

首を横に振り、分からないー!と悲鳴を上げるシキにダイナはまた溜息を吐いた。

 

「もう、ダリアの事は見捨てて帰って来ればいいじゃん。ほっとけよ。……はぁ…、ああ、うん…、いや、…うん、まあ、じゃあ、好きにすれば?うん」

 

あのおバカな所が可愛くて愛してるんだもん!と泣き喚くシキにダイナはうんうんと頷いた後にニコリと笑った。

 

 

 

『裏切りの花』

 

 

 

「付き合ってらんねー、仕事忙しいから切るわ!正月くらいは帰って来いって伝えといて!じゃ!」

 

 

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