チルット探しに没頭しているとヤマトがユキワラシとヨーギラスを引き連れてやって来た。ちなみにヨーギラスはヤマトに懐いてはいるが野生のヨーギラス。
元気になってからはよく研究所に遊びに来るらしい。
「見つかった?」
「……ように見えるのか?」
「ははは」
乾いた笑みを浮かべたヤマトに一度ポケモンセンターに行った方が良いと言われ小さく頷いた。
随分と粘ったが結局見つからない。付き合ってくれたハクリューも疲れきっているので休ませてやらなければ。
ポケモンセンターへと、ヤマトと並んで歩いていると人の姿のミミロップが必死の形相で私に向かって走って来る。
「シンヤーーッ!!」
まだチルットはゲットしてないから怒られるような事はしてない!
「助けてぇえええ!!」
「……は?」
「どうしたの?」
飛びついて来たミミロップが私の背に隠れた。
横でヤマトが「あ」と小さく声を漏らす、ミミロップを追いかけていたらしい小さなポケモンを見て思わず私も「あ」と声を漏らした。
「お前、前に怪我の治療をしたラルトスじゃないか」
「可愛いねぇー」
「ラルゥ」
ラルトスを抱き上げたヤマトにミミロップが「どっかに捨てて来て!」と叫ぶ。
「どうしたんだ?」
「そのラルトスが!!ワタシに弟子入りしたいって!」
「……医療を覚えたいって事か?」
私がラルトスに視線をやればヤマトに抱きかかえられたラルトスがコクリと頷いて鳴いた。
ミミロップが自分を治療してくれたのを見て自分もそうなりたいと思ったなら良い事じゃないか。ポケモンがポケモンの治療を出来るようになるのは良いぞ。私の仕事が減るから。
「弟子にしてやれば良いだろ」
「えぇえええ!?」
「僕も良いと思うよ!ミミロップも教える立場になった方が勉強になると思うし」
「えぇぇ……」
「ポケモンセンターで勉強すれば良い。ミミロップの仕事を見て細かい事はラッキーにでも聞けば良いだろ」
「野生ポケモンをポケモンセンターなんかで働かせられるわけないだろ!!」
「シンヤ、ゲットしてあげたら?」
はい、とラルトスを差し出されたのでラルトスに視線をやる。
ミミロップが慌てているがラルトスはまっすぐに私を見つめ返しコクンと頷いた。
カバンからモンスターボールを取り出してラルトスの額にコツンと押し付ける。ミミロップが悲鳴をあげたがラルトスはボールにおさまった。
「ジョーイさん、きっと喜ぶよ」
「手駒が増えたわ、ってか?」
「ちょ、それ黒ッ!!」
「いやぁああああ!!なんでゲットしちゃうんだよぉおお!!」
うるさいミミロップを無視してポケモンセンターへと向かう。
途中からミミロップが泣いていたが何をそんなに嫌がってるのか……、ラルトスが仕事を出来るようになればミミロップ自身の仕事も減って楽になるだろうに。
ポケモンセンターに着いてジョーイにラルトスの事を言えばジョーイは笑顔で言った。
「下僕が増えたわね!」
想像よりもっと酷い事言った。
「ちょ、ジョーイさん!?」
「冗談に決まってるじゃないですか」
「ですよねー、ビックリしたー」
アハハと照れたようにヤマトは笑ったが私は冗談を言っているようには聞こえなかった。
絶対にあの女は本気で言った。
「ミミロップ、先輩として色々と教えてあげてね」
「ミミィ……」
凄く乗り気ではないミミロップの隣でラルトスが嬉しそうに体を揺らした。
ラルトスぐらい賢くて素直そうなチルットが欲しい。
*
回復の終わったハクリューの頭を撫でてやる。
さて、もう一頑張りするかと思っているとミミロップが眉を寄せてこちらを見ている。
ポケモンの姿なのでいまいち分かり難いが変な顔で見られている……。
「何だ」
辺りをキョロキョロと見渡したミミロップが人の姿になる。
第一声は「ソイツ誰」だった。
「ツバキがバトルでミロカロスの力が借りたいそうでな。暫くの間このハクリューとミロカロスを交換したんだ」
「あの馬鹿にも妥協って言葉があったのか……」
関心したようにミミロップが頷いた。
相変わらずコイツはミロカロスを馬鹿にするな……。
「お前はさっさとラルトスに簡単な仕事から教えてやれ」
「う……」
「ラルー!」
ミミロップを見上げたラルトスが元気に返事をした。それを見てミミロップが嫌な顔をする。
溜息を吐いたミミロップは渋々といった様子で小さく頷いた。
「頑張れよ」
「うん……って、シンヤは何処行くの?」
「……その辺」
「?」
ハクリューをボールに戻してさっさとポケモンセンターから出る。若干、ミミロップの疑っているような視線が痛かったがここで邪魔をされてなるものか……。
210番道路に戻って来て、辺りを見渡す。
また草むらを歩いてバトルをしての繰り返しだと効率が悪い。かといって求人広告のようなものを貼って募集するなんてポケモンに通用するわけがない。
人間が相手だったら問題ないんだけどな……。家の場所が場所なだけにポケモンに限られてくる……。
いっそ大量にチルットをゲットしてその中から目当てのチルットを探して残った他のチルットは逃がすとか……。
オレの事はゲットしないとか言っといてー!!、なんてギラティナに怒られそうだな……。
「妥協、か……」
その言葉が脳裏をよぎる。
次に見つけたチルットをゲットして、掃除好きじゃなかったとしても掃除をするように躾けて言う事を聞かせようか、なんて支配欲に満ちた考えを巡らせる。
さすがに可哀想だな。好きな事を真面目にやってくれる奴が欲しいのに好きでも無いことを無理やりやらせるのは可哀想過ぎる。
考えたのは他でもない私だが……。
「リュ~」
「ん?ああ、少しゆっくりしてから探そうな」
草むらの傍に座ってハクリューにポロックをやる。
機嫌良くポロックを頬張るハクリューの頭を撫でてやればハクリューは目を細めて手に擦り寄って来た。
そういえばミロカロスは仕事の時以外は人の姿で居る事が多いからこうやって頭を撫でてやったりはあんまりしないな……。
今日、撫でてやった時に嬉しそうに尻尾を揺らしていたし。今度からなるべく撫でるようにしてやろう。人型でもなるべく……、思い出したら……。
ふぅと小さく息を吐けばハクリューの隣で一緒になってポロックを突くチルットが居た。
いつの間に……、と思いつつ眺めているとポロックを食べ終わったらしいチルットが私の方を見上げてその場でぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「チル!」
ポロックの味が気に入ったらしい。
ハクリューがポロックを食べているのを見上げてから、ハクリューが地面に食べこぼしたポロックを突いて食べ始めた。
ポロックがまだ食べたいのかと思って差し出したが地面に散らばったポロックの欠片をひたすらに食べている。どうにも散らばったポロックの欠片が気になるようだ……。
コイツ……、綺麗好きか!?
とうとう来た!と思いながら交渉へと移る。とりあえずバトルよりも話し合いでこのチルットがどういう性格なのか見極めたい。
「少し、良いか?」
「チル?」
私を見上げたチルットが首を傾げる。
話を聞く気はあるらしい。
「お前、綺麗好きみたいだが掃除は好きか?」
「チルゥ」
肯定と受け取れる返事だと思う。
何を言ってるかは分からないが肯定の返事ではあった。
「掃除が好きなら私と一緒に来てくれないだろうか?傍で掃除をしてくれる綺麗好きなポケモンを探しているんだ」
チルットからの返事はない、考えているのか視線がキョロキョロと動いている。
「勿論、嫌なら構わないぞ……?」
「チィル~……」
考えるようにチルットが体を揺らす。
おっとり、おだやか、いや、のんきな性格……と思って良いかもしれない。様々なポケモンを診て来たのでこうして向き合って性格を探るのは慣れて来た。
ドキドキとしながらチルットからの返事を待っているとチルットが私を見上げて頷いた。
「チルッ!」
「やってくれるか!」
「チルー!」
私がボールを出せばチルットがバッと私から距離をとった。目をキラキラとさせてこちらの様子を見ている。
ぴょんぴょんとその場で飛び跳ねたチルットが目で語る。さあ、バトルだと……。
「しっかり弱らせてからゲットだハクリュー!」
「リュー!!」
しっかり弱らせた後にチルットはヒールボールでゲットした。ジョーイに一個だけ貰っていたのが役に立ったなと思いつつ元気なチルットを頭に乗せてポケモンセンターに戻る。
ラルトスの様子を見ていたヤマトが私を見て顔に笑みを浮かべた。
「ゲットしてるー!」
ゲット出来たのは良いが、これをどう説明するか……。
「出掛ける時に持って良いのは6匹までだからね、気をつけなきゃ駄目だよ」
「6匹も連れて歩く事はほぼ無いがな」
「まあね」
バトルをするわけでもないしね、と笑ったヤマトの隣で小さく頷いた。
さて、まずはこっちを見て、目を見開いたミミロップにどう説明するか。とりあえず飛びついて来たらポケモンセンター内だがぶん殴ろう。
「シンヤ、まずは殴るんじゃなくて話し合いだよ」
「……」
未来予知でも使えるのか……、お前。
*