一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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手詰まりも手詰まり。

何の手掛かりもないまま、僕達は途方にくれた……。

手当たり次第に電話を掛けてみたものの、みんな首を横に振り。聞き込みに行ったエーフィ、ブラッキー、サマヨールも肩を落として帰って来た。

全てのポケモンセンターに連絡を取ってみたがシンヤはポケモンセンターに寄っていないのか足取りは全く掴めなかった。

まるで、消えてしまったみたいだ……。

そのうちひょっこりと帰って来ますよ、とジョーイさんは笑ったがみんな溜息を零すだけ。

反転世界に戻ってみればギラティナがぐったりと地面に倒れこんでいた。どうやら探しまわった結果、目を回して気分が悪くなったらしい。

 

「シンヤさんのバカァアア!!」

 

苛立ちのあまりツバキちゃんが反転世界の彼方に叫んだが、シンヤからの返事が返ってくるはずもなかった……。

 

ポロリ、とミロカロスが涙を零すとミミロップがミロカロスの頭を叩いた。

鬱陶しいから泣くな!と怒鳴ったミミロップの目にもうっすら涙が浮かんでいる。。

気持ちポケモンのラルトスが自身の体を抱きしめて震えている。寒いのだろうかと抱きあげればラルトスの体はとても冷たかった。

周りのみんなの気持ちを反映するように……。ラルトスは小さな体を更に小さくして震えていた。

 

寂しい、悲しい……。そんな気持ちはラルトスにとってとても冷たいのかもしれない。

 

大きな溜息を吐きながらミミロップがその場にしゃがみ込んで俯いた。僕の腕の中に居たラルトスが腕から飛び降りてミミロップの傍に擦り寄る。

またミミロップが溜息を吐く。

 

「何処に行っちまったんだよっ……、シンヤ……」

 

今にも泣きそうな声がミミロップの口から漏れた、その言葉に誰も返事を返せない。

 

「ワタシ達の事、要らなくなったのか……?一緒に居るのが嫌になったのか……?」

 

ミミロップの言葉に、顔を歪めてミロカロスがボロボロと涙を流す。

みんなが顔を伏せた……。

 

「言ってくれなきゃ分かんねぇよ……、理由を言えよ!!何で勝手に居なくなった!!要らなくなったならハッキリ言えば良いのに!!一緒に居たくないならそう言えば良い!!ボール手放してワタシ達を捨てて行けよ!!」

「ミミロップ……」

「全部置いて行きやがって!!ここに繋ぎ止められたままじゃワタシ達は待つ事しか出来ない!!理由を言って捨てて行ってくれたら……」

 

どんなに拒絶されても、どんなに蔑まれようとも意地でも後を追ってやるのに!!!

何で……、人間はゲット出来ねぇのかな……、そうミミロップがポツリと最後に呟いてラルトスをぬいぐるみのように抱きしめた。

 

シンヤ……、今、何処に居るの?

 

 

*

 

 

「嫌だ」

「ダメ」

「嫌なものは嫌だ」

「ダメなものはダメ」

 

相手の目を睨みつけて言葉を交わせどもラチがあかない。

しつこいくらい言葉を曲げない相手に私の苛立ちは募るばかりだった。それをまるで他人事のように眺める男にも腹が立つ。

 

「元の世界に帰りましょう」

「い・や・だ」

「まだ生きてるのに勿体ないだろ!」

「自分でも分からないが凄く帰りたくない!」

 

しつこいな!とソイツは私に言ったが私もソイツにお前もな!と言葉を返してやる。

ソイツ……、パルキアはもの凄くしつこかった。この同じような内容の会話をどれだけ続けたか私にはもう分からない。

傍に座ってこのやり取りを眺めるディアルガも飽きないのだろうか、甚だ疑問だ。何で止めない、むしろ止めてくれ。

 

何でこうなったのか……。パルキアを睨みつけながら当初を思い出してみる。とりあえず最悪だった。

ミロカロスがヤマトの家で反省すると言って家を出て行ったのを見送った後、一人部屋に籠った。

チルットには悪いと思ったが食欲もなく、黙々と仕事を片付ける事に専念した……。さすがに私も勝手な所があったしミロカロスに対して邪険に扱っていた所もあった……。

文句一つ言わず仕事をこなしてくれるポケモン達に労いの言葉をかけた事はなかったし、休みの日でもポケモン達の為に過ごそうと思った事などなかった。

ギラティナの力を借りておきながらギラティナに対して何か私からしてやるといった事もなかったし、ギラティナを怒らせたのはミロカロスではなく私自身……。

今回ばかりは申し訳ない。どう考えても非は私にあって悪いのは私だった。そして私に何が出来るのか何をしてやれるのかと考えれば、私には仕事を全て片付けて一日を全て慕って傍にいてくれるポケモン達に費やす事だけだと思った……。

それで満足してくれるかはどうか分からないが。

どうすれば良いのかよく分からないから、と行動しなかったポケモンを可愛がるという行為を私もしなければと……、日々のヤマトの行動を思い出してみて思ったのだ。

 

黙々と仕事を片付けていればチルットから「おやすみなさいませ」と声を掛けれ、私も「おやすみ」と返した。もうそんな時間かと思いながら仕事を進め、仕事が終わった時間はとっくに日付も変わっていた。

少し眠ろう、そう思って椅子から立ち上がった。寝巻に着替えようとクローゼットを開ければフワリと出掛ける時に持って行くカバンが浮いた。

突然の事にその場で固まれば浮遊感を感じた。これはマズイと思ったが一瞬で視界は真っ黒になる。

そして目を開ければ何もない真っ白な空間、私の周りをアンノーンがくるくると飛び交っている……、そのアンノーンが飛びまわる中、二人の男が私を見て笑った…。

 

その二人はディアルガとパルキアだと名乗った。

 

唖然とする私にパルキアは視線を合わせた後に両手を合わせて「ごめん」と謝った。何故、謝られたのかは分からない。

説明を求めるようにディアルガに視線をやればディアルガは目を瞑って頷いた。

 

「異界の人間であるお前をこの世界に引き込んでしまったのはそのバカだ」

「バカって言うな」

「すぐにでもお前を元の世界に戻す必要があったがこのマヌケがお前の存在を見失ったのだ」

「マヌッ!?」

「それどころか、お前の帰るべき世界も何処なのか分からなくなり俺が時間を遡るハメになった……。全てはこの空間を司るポケモン、バカモノのせいなのだ」

「パルキア!!一文字もあってねぇよ!!」

 

ディアルガにパルキア……、お前達は……。

……お笑い芸人、なのか?

 

*

 

小さな偶然が重なったのだと、パルキアが言った。

世界はこの小さな空間だけではない。

この空間には存在せずとも異なる空間に多種多様の世界が存在している。

それに人間はパラレルワールドという名前を付けた。

違う世界に住む自分の存在が居たとしてもそれは自分でありながら全く別の人生を別世界で歩んでいる全く違う自分。

それこそ、例えるなら人の姿になれないポケモンと人の姿になれるポケモンがいるこの世界の他に……。

人の姿になれないポケモンだけが存在する世界、人の姿のポケモンしか居ない世界もあるという。

 

勿論、ポケモンの居ない世界も……。

 

そんな世界は決して繋がる事はないが、世界の空間は毎日何処かで必ず歪むのだとパルキアは言う。

人々の知らぬ所で空間は歪みそれを安定させるのがパルキアの役目。

その歪みの間に"私"が来てしまった。

人間が空間の狭間に存在するのはありえないらしいが、今の私は自分の居た世界に体を置いて来た存在らしい。

つまり今のここに居る私には体が無いのだ。精神体だとパルキアがいうので私は意識だけこちらの世界に来てしまった事になる。

精神だけの存在の私は空間の歪みを直そうとしたパルキアの力によってこちら……、今私が居るこの世界に引っ張り込まれてしまった……。

 

「と、まあ大まかに事情を説明するとこんな感じだな」

「……」

 

うん、と納得したように頷いたパルキアに何と言葉を返して良いのか私は頷く事も出来ずに黙りこむ。

パルキアの隣に立っていたディアルガが言った。

 

「お前は何かしらのダメージを精神に受け、体と精神が不安定の状態だった。その状態のまま空間の歪みに引き込まれたのだ」

 

思い当たる節はあるか?とディアルガに聞かれ私は小さく頷いた。

私の中で原因は"あれ"しかないと思った……。

 

「私は、自殺をした……」

 

なるほど、とパルキアが頷く。

 

「空間を歪める原因は多々ある。その中に人間の強い逃避本能も一つだとオレは思ってる」

「…」

「だからと言って、逃避したいと思う人間の全員が歪みの狭間に来るわけじゃない。本当にそれは偶然だった。でも、大丈夫。ちゃんとオレが責任を持って送り届ける。引っ張り込んじまったのはオレだしな」

「……私は、死んだんじゃないのか?」

 

パルキアの言い方だとまるで私の居た世界にまだ私の居場所があるような言い方だ。

精神だけの私にはもう戻る体なんて……。

 

「生きてるよ」

「!?」

「精神が無い状態でずっと眠ってる」

「……」

 

生きてる。そう聞いた瞬間、スーッと胸の辺りが冷えたようになったかと思うと締め付けられているような感覚、体中がザワザワする。

ドクドクと心臓の音が聞こえた時、自分がどういう感情を持って今この場に立っているのか分からなくなる。

これは何だ……。

焦り、不安、恐怖、決して良い感情ではない事は確かだった。

 

「自分が自殺をした、というのはハッキリ覚えているんだが……。もう前の世界を覚えていないんだ。自分が誰でどういう風に生きて、何故……、自殺をしたのかも……」

「俺が時間を遡ってお前の世界を探したからだろうな。その時にお前にも影響があったんだろう」

「まあ、元の世界に戻れば記憶も戻るだろ」

 

うんうんとパルキアが頷いた。

でも、私は首を横に振る。

 

「嫌、だ」

「へ?」

「覚えてはいないが凄く嫌だ、元の世界には戻りたくない」

「いや、でも……、精神だけじゃ色々と危ねぇし……、帰りましょ?」

「帰りたくない」

 

まあ、自殺したんだから帰りたくない気持ちもあるだろうな。と言ってディアルガが頷いた。

自分でもよく分からない、それでも嫌で嫌でたまらない。

 

「か、帰ろ?」

「嫌だ!」

「嫌だって言ってもダメだ!!」

「嫌だ!」

「ダメだ!」

「嫌!」

「ダメ!」

 

パルキアとの言い争いはここから始まった。

それから何時間、いや、何十時間、言い争ったのか……。全くこの空間内では変化も何もないので分からないが……。

とりあえず途中でディアルガが座り込んだ事からもの凄く時間は経っているんだろう。

パルキアも諦めない、私も諦めない。

お互いに言葉を曲げなければ一生解決などするわけもなく。

アンノーンが周りを飛び交う中、嫌だダメだの言葉だけが真っ白の空間に響き渡った。

 

「あそこには戻りたくない!」

「戻らないと身体が無いままなんだって!」

 

*


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