一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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次の日になってもシンヤは帰って来なかった……。

エムリット達を引き連れてツバキちゃんが手当たり次第に探してくると飛び出したものの連絡はない。心配したデンジさんとオーバさんが連絡をくれたけど良い返事は返してあげられなかった。

探索に出ているイツキさんに連絡をするべきか……。でも、まだ一日しか経ってない。まだ一日だ。今日にでもひょっこり帰って来るかもしれない。

イツキさんやカナコさん、カズキくんにノリコちゃんに知らせるのはまだやめよう……。

大丈夫、大丈夫だと自分に言い聞かせて小さく溜息を吐いた。

反転世界に行けば家の前に座り込むポケモン達。シンヤが帰って来るのを今か今かと待っている……。

 

「ミミロップ、ポケモンセンターに行かなくて良いの?」

「ミス連発してジョーイさんに怒られた……」

「そっか」

 

仕事も手に付かない。

不安で不安でたまらない、今にも泣き出しそうな、みんなの表情を見ていると僕まで泣きそうになる。

静まり返る空気に耐え切れずまたミロカロスが泣きだした。もうずっと泣きっぱなしで目が赤く腫れているがミロカロスはまたボロボロと涙を流す。

 

「俺様のせいで、俺様が……」

 

役立たずだから、うるさくしたからと言いながら泣き始めてしまった。それを見てミミロップがミロカロスを睨みつける。

 

「泣くな!!泣いてシンヤが帰って来るならワタシだって泣き喚いてんだよ!!!」

「ぅぐ……、」

 

ミロカロスがごしごしと目元を擦った。

ああ、そんなにしたら目が……、と思っているとチルットがタオルを持ってミロカロスの傍に行った。

 

「タオル、温めてきました、使って下さい」

「あり、がと……」

「あまり擦ると眼球が傷付いてしまいますので……」

 

コクン、と頷いたミロカロスを見てチルットが小さく笑みを浮かべる。

こういう時、僕は何もしてあげられない。

大丈夫だよ、だなんて無責任な言葉を掛けてあげるわけにはいかないし、頭を撫でてあげてもどうとなるわけでもない。

座り込むみんなを見て溜息を吐く……。研究所に戻ろう……、ツバキちゃん達から電話があるかもしれないし……。

 

「ヤマト、戻るのか?」

「うん」

「自分も手伝いに一緒に戻ろうか……?」

「ううん、良いよ。ここに居て」

「……分かった」

 

頷いたサマヨールを見てから僕は反転世界を後にした。

研究所に戻れば心配したようにユキワラシが僕を見上げた。大丈夫だよ、と笑ってみたけどちゃんと笑えてたかどうか分からない。

 

「シンヤは何をやってるんだろうね」

「ユキィ……」

「きっと何か理由があるんだよ。シンヤはみんなを置いて出て行ったりしないもん……」

「ユキー」

「みんな、心配してるのにね」

 

*

 

真っ白な雪原を眺めてみる。

吐いた溜息は真っ白で、ふわりと瞬く間に消えてしまった。

ああ、まるで真っ白な肌をした彼のようだと……。

 

「ルカリオ、気合いを入れて探すんだ」

「ガゥ……」

 

無茶ぶりだ、と言わんばかりに鳴いたルカリオ。それでも探さずにはいられない。

キッサキシティ、ここで私は彼と出会った。

彼の第一印象はハッキリ言ってあまり良いものではなかった。

冷たい印象を思わせる口調に、態度が関わりたくない部類の人間であると思わせた。それでもシンヤに興味を持ったのは彼の波動……。

他の誰とも違う、何処までも異質……、そして気高くもあり誰よりも儚く不安定なもの、それは今にも消えてしまいそうな波動……。

人間であることを疑いたくなる異質さに興味本位で声を掛けたが、話しかけてもシンヤは何処か他人と壁を作る気難しい人間だった……。でも、子供のように無知で純粋な人間でもある。

一言で表せば、不思議。

シンヤのことはさっぱりと分からない。どういった人間なのかも分からないが不思議と、惹かれるのだ……。

 

「ゲンに会えて私はツイてるな、雪道を歩かずにすむ」

 

その言葉に不思議と嬉しくて笑みが零れた。

 

「何だ、ゲンか。何処にでも居るなお前」

 

私だと気付いた時にシンヤの波動が穏やかになった時は胸が弾んだ。

もっと親しくなりたい、もっとシンヤのことを知りたいと……、そう思った……。不思議だな、男が男に惹かれるなんて……。

 

「実は今朝からシンヤの行方が分からなくなってしまって……」

 

取り乱すなんて私らしくない。

まだまだ修行不足だ……。

神経を研ぎ澄ましてみてもシンヤの波動が何処にも感じられない。その事実に泣きそうになる……。

 

「ルカリオ、探すんだ」

「……」

「探してくれ……」

 

居ないわけない。絶対に居る……。見つからないのは修行が足りないからだ。そうに決まってる。

 

「ルカリオ」

「ガウ」

 

神経を研ぎ澄ませ、異質な彼の波動が感じられなくなるなんて有り得て良いはずがない。

 

「ガゥッ!?」

「!!!」

 

*

 

雪を踏んだ。ザクザクと音を立てて歩いた。

まさか、キッサキシティに放り出されるなんて……。私はもうパルキアが大嫌いだ。見物してたディアルガも嫌いだ。

 

「寒い……」

 

私は戻りたくない、ここに居たい。パルキアとの言い争いに決着はつかず……、やっと腰をあげたディアルガが私とパルキアを止めた。

時間を与えられたのだ……、心を落ち着ける時間を…。それは結局帰らなければいけないのだと言われたも同然で、私は首を横に振ったが苛立ったパルキアに無理やり放り出された。

迎えに行くから、そう言ったパルキアに心の中で来るなと答えた。

帰りたく、ない……。

なんで帰りたくないんだろう、なんで私は死のうとしたんだろう、なんで私はここに居たいとこだわるのだろう……。

"あそこ"は嫌だ。嫌だから戻りたくない。

でも、戻るくらいなら死んでやる、今すぐ殺せ。とは、言えなかった……。

 

「死にたく、ない……」

 

生きたい……、生きていたい……。

ここで、脳裏に浮かんでくる連中と一緒に……生きたい……。

でも戻らないとダメなのか……。あそこに、あそこは……、なんでそんなに嫌なんだ……?

分からない、何も分からない、覚えてない、何も覚えてない……、思い出したくない……、何も思い出したくない、忘れたままでいたい。

 

「寒い……」

 

フードを被って歩くが寒いせいで眠気が襲ってくる。ポケモンセンターまで行かなければここで凍死してしまう……。

今度会ったらパルキアをぶん殴ってやる、と思ったが。もう二度と会いたくなかった。

 

 

「シンヤッ!!」

 

 

青い影……、ゲンが走り寄って来た。

そういえば会うのは久しぶりかもしれない、電話もしていなかったし……。

 

「ゲン……、相変わらず何処にでも居るな」

「だからっ、それはこっちのセリフ!!!」

 

勢いよくゲンが飛びついて来たせいで私は雪の上に倒れこむ。寒い、冷たい、重たい……、三拍子揃って最悪だ。

立ち上がったゲンが「ごめん」と謝って体を起してくれた。そして私を見て嬉しそうに笑った。

 

「良かった、見つかって……!」

「は?」

「昨日から行方が分からなくなったって……、本当に、心配させないでくれ……」

 

丸一日も経ってるのか……?

ディアルガも大嫌いだ!時間の調整くらい出来るくせに!!アイツらはもう二体まとめて大嫌いだ!!

 

「シンヤ、何処に行ってたんだ?」

「私も分からん」

「分からないって……」

 

眉間に皺を寄せたゲンは納得がいかない様子だった。

でも、本当に何処に行ってたのか分からないのだから説明のしようがない。それに、私が元の世界に戻るとか戻らないとか……、話す様ような事でもないし……。

 

「とりあえず、家に送って行くよ。手持ち居ないんだろ?」

「助かる…」

「ズイタウンだったよな」

「ああ、ゲンに会えてツイてる……って前にもこんな事言ったな」

 

困ったように笑ったゲンに私は笑みを返した。

そしたらゲンは驚いたように目を見開いて、顔を赤くした。

 

「シンヤ、最初に会った頃と随分変わったよ」

「そう、か?」

「笑ったの初めて見た」

「……」

 

そういえば、

いつの間にかちゃんと笑えるようになってる……。

 

「さあ、帰ろう」

「ああ」

 

私の手を取ったゲンが嬉しそうに笑った。

……なんで、手を握る。

 

*

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